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インドの伝統薬物アシュバガンダで神経回路網再構築

text by : 編集部
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(※)この記事は2013年11月12日にastamuse「技術コラム」に掲載された内容を再構成したものです。

 

アルツハイマー病、パーキンソン病などの中枢神経変性疾患の主たる要因は神経細胞死による神経回路網の破綻によるものと考えられている。これら神経変性疾患治療薬の開発をめざし、インド伝統薬物や日本漢方薬物を使用して、神経機能の回復実験に成功した研究者がいる。富山大学和漢医薬学総合研究所・准教授の東田千尋博士である。

東田氏が実験に用いたアシュバガンダ(学名:Withania somnifera)とは、インド・ネパールに自生するナス科の植物で、別名インド人参とも呼ばれる。 インド医学アーユルヴェーダでは、古来より強壮・抗痴呆薬として治療に用いられてきた。 東田氏の研究ではアシュバガンダの根から抽出された18種の化合物のうち、ウィタノシドⅣについて、 アルツハイマー病と脊髄損傷の2種類のモデルマウスを用いた動物実験で有効性が確認された。

アルツハイマー病は記憶の保持が困難となる疾患だが、記憶の実体とは神経細胞間の情報伝達である。ウィタノシドⅣは体内でソミノンという代謝物に変化し、実質的な記憶保持の改善物質になるという。

脊髄損傷に関しては、ウィタノシドⅣ、ソミノンいずれの投与でも、脊髄神経細胞の軸索の伸展に効果があり、脊髄損傷に対しても有効性が見られた。

現在、臨床で用いられている抗認知症薬は、症状の進行を遅らせる効果しかなく、シナプス再生作用が確認されている薬物は存在しない。 ウィタノシドⅣの効果は断薬後も継続することから、一過性ではなく、神経構造が改修されるものと考えられ、治療薬シーズとして非常に画期的である(特許4923233 )。 さらに、特許5044782では、漢方薬の三七人参、黄耆、菖蒲、茯苓の抽出物が、神経変性疾患や脊髄損傷、 筋萎縮性側索硬化症など運動ニューロン障害の改善に有用であることが記述されている。

今後これらのメカニズムを探ることで、伝統医学や伝統薬物の効果および安全性だけでなく、 神経回路網構築の制御を担う重要な分子が何なのかを特定できる可能性もあり、これからの展開から目が離せない。

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