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(前篇)サッカー ブラジルW杯で世界のトッププレイヤーが履いたスパイクの秘密を分析

text by : 編集部
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(※)この記事は2014年6月10日にastamuse「技術コラム」に掲載された内容を再構成したものです。

 

いまやオリンピックを凌ぐ世界最大級のスポーツイベント、W杯。2014年のブラジルW杯は 6月12日のブラジル対クロアチアでの開幕戦を皮切りに7月13日の決勝まで、1か月もの間世界中の注目がブラジルに集まり興奮と熱気に包まれた。

サッカー(フットボール)の華麗なプレーで目に留まるものとして、色鮮やかなユニフォームやフットウェアが挙げられるが、とりわけスパイクについては、目を楽しませる派手な外観以上に、素材や内部構造などの技術面が、勝負を左右するほど重要な意味を持っている。

例えば、左足の高いテクニックと正確なキックが武器のドイツ代表エジル選手、多彩なパスサッカーで前回王者に輝いたスペイン代表の司令塔のシャビ・エルナンデス選手、その他日本代表の清武選手が着用を予定しているアディダス社の predator instinct HG WCを例に挙げてみよう。このスパイクにはトラップやドリブル、クロスの精度、シュートの威力を最大限発揮するための、スピン力を生み出すラバー、正確なパスを繰り出すのに必要な高いクッション性を得るためインサイドに内蔵されたジェルパッド、足裏でのボールコントロール精度を向上するためアウトソールに搭載されたコントロールフレームパーツでグリップ力を強化、など多彩な技術が取り入れられている。

そこで、ブラジルW杯で着用された世界のトップメーカー各社のフットウェアやスパイクの技術力を、日米欧の知財分析という手法を用いて可視化してみたらどのような結果になるだろうか。本コラムでは、特にW杯に出場するトッププレイヤーが多く着用しているアディダス社(ドイツ)、ナイキ社(米国)、美津濃(※以下、mizuno)社(日本)に着目してみた。

 

日本で強いナイキ社、追いかけるアディダス・mizuno

まず、日本国特許庁に世界中から出願されたフットウェア・スパイク関連特許1441件を母集団として、特許1件1件の強み弱みを統計的に数値化するスコアリングを行い、各社の特許1件ごとの知財力スコアを算出、併せて各特許の有効余命(特許権利の有効期間)も算出した。それらをグラフ化したものが次の図1と図2である。

サッカー1

ナイキ・アディダスの両社が突出する米国

次に、米国特許の分析を見てみよう。先ほどの日本特許と同様に世界中から米国特許商標庁に出願されたフットウェア・スパイク関連技術群2336件を母集団として次の図3、4のデータが得られた。

サッカー2

図3から、ナイキが件数・総合力ともに圧倒的に強く、これをアディダスが追い上げている様子が分かる。mizunoは米国特許件数が非常に少なく、日本では優勢だが、米国では主要プレーヤーとは言えない立ち位置にいることがわかる。

一方、図4を見ると、アディダスがナイキを抑え、高いパフォーマンスを示す。また、総合力では目立たなかったmizunoがナイキよりやや優位に立っている。これはナイキの出願件数が突出して多いため、中にはスコアの低い技術も含み、結果的に粒揃いの技術群とは言えない状況を示唆している。

 

欧州で圧倒的に強いアディダス社

最後に、欧州ではどうだろうか。欧州特許庁に出願された世界中の技術785件について同様の解析を行った結果が図5、6である。

サッカー3

図5から、アディダスの総合力が圧倒的に抜きんでており、出願件数が2倍近いナイキを大きく引き離している。この位置関係は、技術の粒揃い度や将来性に関わる図6でも変わらず、結果的に欧州でのアディダス社の優位性を強く印象付けることになりました。

ただ、一点だけ留意するポイントがある。日本特許や米国特許と比較した場合、欧州特許における権利残存年数平均・同優位技術のみでの権利残存年数平均が、3年未満とかなり短いのだ。

これはアディダスもナイキも、欧州において新しい特許の権利化にあまり注力していない、もしくは戦略的に他の地域に重点を置いている可能性が示唆されていることになる。 技術の将来展望という視点では、優位技術の権利残存年数という数値は非常に大きな意味を持っているのだ。

後編では、各社の持つ技術と強みについて分析していく。

  • (後編)サッカー ブラジルW杯で世界のトッププレイヤーが履いたスパイクの秘密を分析
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