Interview

全国2000名以上の「コーディネーター」との連携で日本の産業構造を変える ―リンカーズ株式会社 加福 秀亙さん

text by : 編集部
photo   : 編集部,リンカーズ

オープンイノベーションの促進および新産業創出のエコシステム構築に取り組む企業に着目し、その事業と目指す世界観をご紹介する「未来を創るオープンイノベーター」特集。

前回の『Creww』に引き続き6回目の今回は、全国2000名以上の「コーディネーター」との連携で、ものづくり系企業のマッチングプラットフォーム『Linkers』を運営するリンカーズ株式会社の加福 秀亙さんにお話を伺いました。


■東北経済連合会との取り組みが転機に


―リンカーズのオープンイノベーション支援は「コーディネーター」という仕組みに特徴があると思いますが、これはどういった経緯で出来た仕組みなのでしょうか?

もともとリンカーズは最初、ビジネスSNSをやろうとしていたんですね。日本では業界の縦割り構造によって情報に流動性がなく、イノベーションが起きにくくなっているのではないか、という仮説のもと、様々な業界に属しているプレイヤーが議論できるような、色々な知見が持ち寄れるような場を作ろうとしたのですが、全然上手くいきませんでした。

 

―ビジネスSNSというと、Linkedinのようなイメージですか?

そうですね。いまでいうとLinkedinとNewspicsを合わせたような、自由に発言できるようなものをイメージしていました。しかし、日本人はSNS上ではなかなかオープンにコミュニケーションを取らないという問題があって、難しかったですね。

その後どうしたかというと、企業そのものにフォーカスしようという方向に切り替えました。中小企業の技術をもっとPRできる場を作ればイノベーションが起きるのではないか、と考えたんですね。

その中で出会ったのが東北経済連合会という団体で、東北の中小企業を盛り上げるアイデアを考えていきましょう、という取り組みを始めたのが最初の事例となりました。

400~500の東北の中小企業を手弁当でまわって、彼らの技術をすべてPRシートに記入して、WEB上に載せるということを行っていました。

2012年後半から2013年頃のことですね。

 

―では震災の翌年からですね

そうですね。やはり当時、東北の中小企業は困っていました。そこを支援できないかということで東北経済連合会と一緒に活動を開始したのですが、やはり思っていたほど上手くはいかなかったですね。

 

―というと?

東北はものづくり系の企業が非常に多く、特に金属加工や精密機械、電機系の企業が多く集まっています。電機系のメーカーの工場が多いので、その周辺にサプライヤーとして集積していたんですね。

ところがその工場がなくなってしまって困っている企業が多く、技術をPRできる場を作って、他の地域の企業と受発注関係を構築したいと考えていました。でも、支援に結びついているかどうか効果計測をしにくく、東北の中小企業に直接的な価値を作れているのか分かりにくいという問題がありました。。また、やはり自分たちのコアとなる技術に関する情報をWEB上で出すことは知財などの関係上、難しいんですね。

WEB上でこういった取り組みを行うことには限界があるなと感じていたのですが、東北を回っている中で地元でいくつかの中小企業をしっかり支援されている方々がいて、そういった方々から東北の優良企業の紹介を受けたり、接点を作っていただいたり、といったことがありました。

その中で、バンダイナムコグループ系列企業の株式会社VIBEから、ダンボールで防音室を作りたいというお話がありまして、こういったものを作れる会社はどこにあるのだろう、ということを相談されました(現在も株式会社VIBEより個人用ダンボール防音室「だんぼっち」として販売中)。

そこで東北経済連合会の中の地元企業に詳しい方々に情報を流したところ、「この会社は実はこういうことをやっている」とか「実はこんな技術がある」といった情報が、かなり集まったんですね。情報を流して1週間ほどで良さそうな企業がだいたいわかってきて、すぐにダンボール防音室の開発が始まってビジネスが進みました。

「コーディネーターって重要なんだ」と、そのとき初めて注目したという感じですね。

 

全国で2000名以上のコーディネーターが『Linkers』を活用して中小企業の支援に取り組んでいる

全国で2000名以上のコーディネーターが『Linkers』を活用して中小企業の支援に取り組んでいる

 


 ■全国2000名以上のコーディネーターと連携


―コーディネーターの方たちは、普段はどういったことをされているのでしょうか?

普段は自治体の職員をされている方もいますし、コンサルをされているような方もいるのですが、多くは日頃から中小企業の支援に関するお仕事をされている方たちです。

中小企業を支援することがそもそも自分たちのビジネス、ミッションなので、我々の仕組みの中に入っていただくことは彼らにとってもベクトルがズレていないんですね。我々の仕組みをひとつのツールとして使っていただいて、それで地元企業を支援しているという感じです。

いまでは全国で2000名以上のコーディネーターが活躍されています。

 

―コーディネーターの方たちはどういった形でマッチングを行われているのでしょうか?

コーディネーターに対してWebプラットフォーム上で情報発信し、彼らから企業を推薦してもらう、という形で可能な限りシステム化しています。

Webプラットフォーム上で行うことで、たとえば九州の企業と首都圏の企業をつなげるといった、地域を超えたマッチングが可能になります。

ただ、それはコーディネーターが普段から地元企業との付き合いがあるからできることだと思います。

 

―マッチングしたあとの、新規事業の実行支援もされているのでしょうか?

そこはあまり関与していません。基本的にはその前段階で、各社の条件に合うような企業をマッチングするために何度も求める技術が合致しているのかと検討を繰り返しています。そこから先は両社間で進めていただく方がスピード性も保たれますし、弊社はマッチングまでのご協力とさせていただいておりますが、何かお困りごとや相談事があれば、その都度お話を伺うといったかたちですね。

 


■「ケイレツ」と「企業城下町」が変わりバリューチェーンが変わる


―加福さん自身はコンサルティングファーム出身でいらっしゃいますが、マッチングにあたるコンサルタントの皆さんも同じようなバックグランドをお持ちなのでしょうか?

コンサル出身者よりメーカー出身の者の方が社内に多いですね。何かしら理系のバックグラウンドを持っている人間も多いと思います。

いま社内でも専門性を高めようということで、業界ごとにメンバーを割り振って、たとえば自動車分野だったらこのメンバーが常に対応する、といったかたちでノウハウを蓄積しています。自動車だったら品質基準など重要なポイントがいくつかありますので、そういった部分を根掘り葉掘りヒアリングすることで、要件をしっかりと固めるようにしています。

 

―日本でオープンインベーションの浸透が遅れた要因として、日本の製造業の多くが「ケイレツ」による垂直統合モデルによって競争優位性を築いてきたという背景がありますが、いまこの「ケイレツ」の現状をどのようにご覧になっていますか?

もういままでの「ケイレツ」がそのまま活かせるビジネスというのは、なくなってきていると思います。

自動車産業はまだ残っていますが、いまは融合領域がどんどん増えてきていて、以前は車だったら車、電機だったら電機と分野が分かれていましたが、いまは車でもIoT、電機でもモビリティのプレイヤーが進出してくるなど、誰が新しいプレイヤーとして進出してくるのかが明確ではない中で、従来の「ケイレツ」だけでは対応できないという現状があります。

電機分野は早い段階から韓国・中国・台湾とコスト競争で戦うにあたって、国内で「ケイレツ」を作っていたのでは勝ち目がないということで、生産を中心として海外に出て行ってしまっていました。

自動車分野はまだ開発を中心に、部品も含めてまだ「ケイレツ」が残っていると思います。でも今まさに自動運転やコネクテッドカーといった新しいトレンドが出てきて、既存の枠組みでは対応しきれなくなってきています。

こういった状況下で、1社だけで対応していては研究開発費がどんどん膨れ上がってしまうんですね。

だからトヨタ自動車株式会社もシリコンバレーに研究所を作ったり、新しいトレンドに応じて新しい技術を引っ張ってくるような流れが出来てきていると思います。

 

―その「ケイレツ」とも密接な関係にあるものとして、「企業城下町」というものが挙げられると思います。こちらの現況はいかがでしょうか?

自動車のほうは結構まだ元気ですね。愛知を中心として、サプライヤーの協力関係も健全に残っていると思います。

ただ、東北などになると厳しいですね。かつては東北にも企業城下町があって、携帯電話や家電のサプライヤーが集積していました。ところが大企業の工場自体が撤退といったことがあって、軒並み厳しい状況となり、残された人たちが新しいことを模索したりとか、地元以外の仕事を探したり、というところで頑張っているという状況です。

しかし東北にも実は海外の大手スマートフォンメーカー向けに金型を作っていました、といったような企業があったりと、登記情報だけではわからない情報があって、そういった情報を掘り起こしてマッチングにつなげるお手伝いをしています。

 

―『下町ロケット』じゃないですが、町工場に実は世界レベルの技術がありました、といった事例も多いのでしょうか。

かなりありますね。たとえば、1ミクロン以下のような小さなものまでレーザーでスキャンして、大面積の凹凸を全部見ることができるといったようなものなど、様々な技術が全国にあります。大手メーカーでは対応しきれないような、そういった技術を社員数十名くらいの会社が開発している場合も多々あります。

半導体でも、最近はみんなデジタル回路になってしまって、アナログ回路が減少してきてしまっているんですね。しかしそういったアナログ回路設計の職人技を持つプレイヤーだけが集まった少人数の会社が、大手の半導体メーカーがギブアップしたものを実は設計できる、といったことなどが起こっています。

 

―しかしそういった規模は小さくても高い技術を持つ会社というのは、いつまでも「下請け」でいるしかないのでしょうか?

変化の兆しはありますね。日本の中小企業の問題点は、単一領域に特化しすぎている、たとえば穴を開ける技術だったら穴を開ける技術しかない、といったところにあります。

やはり1社だけではなく、バリューチェーンを揃えることで付加価値を上げようという動きがあって、たとえば京都のゼネラルプロダクション株式会社は、色々な技術を持った中小企業を囲い込んでワンストップサービスとして提供する、という試みを始めています。

色々な領域で経験を持つ企業は多数あって、技術のバリューチェーンであるとか、領域としてのバリューチェーンであるとか、それぞれに可能性があるのではないかと思います。

 


 ■オープンイノベーションの課題は企業トップのコミットとインセンティブ設計


―今回、「未来を創るオープンイノベーター」という特集でお話を伺っていますが、日本におけるオープンイノベーションの課題をどのように捉えていますか?

やはり海外に比べてオープンイノベーションの重要性に気づくのが少し遅かったというのがありますね。2000年頃からすでに、海外では企業のトップがコミットするような状況があり、たとえば新規の研究開発の半分を外部連携で作るとか、数値目標を明確にして取り組んできました。

一方、日本では、どちらかというと現場の技術者レベルで外部とつながるということが多く、点と点のつながりにしかならず大きい仕組みにはならなかった、という流れがありました。

やはり、組織として外部連携に対する意欲やインセンティブを設計していかないと、オープンイノベーションを起こすことは難しいと思います。現場の方が実際に外部連携して失敗したら、その方個人の責任になってしまうのではなくて、それもひとつのラーニングだと理解してもらう必要があります。

しかし日本でもこういった状況を鑑みて、外部連携のための専門組織を作る動きはもういくつかの会社で徐々に進んできています。

リンカーズは地銀や自治体といった機関にSaaS型のサービスを提供することで効率的な仕組みづくりに取り組もうとしている

リンカーズは地銀や自治体といった機関にSaaS型のサービスを提供することで効率的な仕組みづくりに取り組もうとしている

 

―最後にリンカーズの今後の展望をお聞かせください

イノベーションをたくさん起こして日本の産業構造を変えたいというのが我々の大きなビジョンです。

いまの『Linkers』は点と点のマッチングで、それでもイノベーションは起きるのですが、もっと効率化していきたいと思っています。

これまでは内製のシステムで約2000名のコーディネーターに情報展開し、彼らから情報をすくい上げるということをやってきましたが、これを様々な機関に展開しようとしています。我々はシステムベンダーのような形になるということですね。

地銀や自治体といった機関に我々のシステムをSaaS型のサービスとして提供することで、どんどん横展開することが可能になります。

我々のみならず、我々のシステムを使う方々自身が、どんどん点と点をつなげていけるような、そんな効率的な仕組みづくりをしていきたいと思っています。


 

[Profile]
加福 秀亙 リンカーズ株式会社 取締役副社長
東北大学工学部卒業、東京大学大学院 新領域創成科学研究科修了
野村総合研究所で製造業、エネルギー産業を中心に市場/技術調査、事業戦略立案、技術戦略立案、海外展開支援などのコンサルティングに従事したのち、2013年4月にDistty株式会社(現リンカーズ株式会社)に参画。
2017年7月より現職。

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