Interview

マルチコプター×固定翼の次世代ドローン構想と、ドローン社会実現に向けて ――Aerial Lab Industries 中村健

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社Aerial Lab Industries

1人乗りホバーバイク、ドローンの導入支援、ブロックチェーンプラットフォーム。
Aerial Lab Industries(エアリアルラボインダストリーズ)の各事業は最先端技術とコンサルティングが融合し多岐に渡る。昨年12月のドローンファンドからの資金調達によって、今後ドローン技術の本格開発に動こうとする同社CTO中村さんに、ドローン社会実現の可能性と課題、そして航空工学を駆使した次世代ドローンの構想について、お聞きしました。

中村健 Aerial Lab Industries 取締役CTO
カリフォルニア工科大学大学院にて航空宇宙工学の研究を行う。在学中からレースチームにてエンジニアとして従事。卒業後、米軍関連の研究施設にてドローンの開発研究スタッフとして活躍。帰国後は、主にロボット工学の分野にてキャリアを積む。2017年3月にAerial Lab Industries 取締役CTOに就任。

■ドローンだけでなく「プロペラを使って浮くもの」の発想で生まれたホバーバイク


――まずは会社のコア事業、技術について教えて下さい

弊社のメイン事業は、ドローンの設計開発と導入を検討している企業向けのコンサルティング事業です。ドローンが何に使えるのか、漠然とドローンを使いたい企業に「具体的にこう使えますよ」というものを示します。

開発においては、そのやりたいことを実際に機体製作まで落とし込んでいきますので、スタート地点から最終的な導入まで全て提供しています。

社内にはドローンだけでなく、ブロックチェーンやAIなどの専門家も複数名いるので、「新しい技術を複数組み合わせて、今までになかった付加価値を作ろう」というのが会社の方向性です。

――その中における「1人乗りのホバーバイク」の位置づけを教えてください。

ホバーバイクは「飛ぶ」にフォーカスしています。
ドローンに特化しつつ、同時に空を飛ぶ他のモノも作れるのでは?とホバーバイクを作りました。

これまでの「地面の上を走る」という制約を無くしたらなにが出来るか?というアプローチです。安全面や安定性、法整備などまだ足りていない要素はありますが、まずは社会に対して「作りました、実際に飛びます」と一石を投じ、そのリアクションを見ながら使い方の可能性を探っている段階です。

――1人乗りホバーバイク「疾風」の今後の改善について教えてください。

まず、フレームやエンジンなど設計が非常に難しいというのがあります。
そして軽量であるほど飛びやすい反面、剛性も落ちてしまう点もどうバランスを取るかが難しい。

ドローンと言えば「無人飛行」「遠隔操作」「カメラでの撮影や工場作業」といった無人化が大きな可能性ですが、同様に「湖の上を渡りたい」というニーズがあるなら「ボートよりもホバーバイクの方が速い」という可能性も存在します。

ホバーバイクもドローンも、乱暴に言えば「どちらもプロペラを使って浮くモノ」
ベースとしての考えは一緒です。ただ有人と無人の差があるので法整備における事情が今後は違ってくるなと感じています。

Aerial Lab Industriesより提供いただいた最新の1人乗りホバーバイク画像
実際に乗り、浮いた状態なのがわかる。


■ドローンと、鳥や飛行機の「翼による揚力」のハイブリッドに挑戦


――Aerial Lab Industriesとして、今後展開する技術的なチャレンジがあれば教えてください。

ドローンといえば、プロペラが複数回転する「マルチコプター」のイメージが強いですよね。
ただ、あの仕組みは発生する動力を全て揚力にするため、とても燃費が悪い。

飛行機や鳥は、動力を全て推進力に使います。
揚力は翼によって勝手に生み出される。

翼はやはりいい仕組みなのではないかと。
元々ぼくは固定翼専門だったので、将来的に固定翼でさらに離着陸ができるドローンが出来たらそれが理想ではないかと考えています。

――マルチコプターと固定翼による揚力のハイブリッドですか?

そうです。今までよりも速く、遠くまで飛べて重い荷物も運べる。
省エネになることで効率よく空を飛ぶ。
これは少しでも航空工学に関わった人なら理解していますが、実際に「このやり方だ!」というものは実現していません。

理由は簡単で、「作るのが非常に難しいから」
翼の形1つを最適化する作業だけで数年かかる。実現したその瞬間に利益を生むものでもないですが、この技術開発を進めていきたいと考えています。

――その固定翼+マルチコプターは実際どれくらいのフェーズまで来ているのでしょうか?

元々アメリカで空軍の仕事をしていた時、実機を何種類か作ったことはあります。
固定翼に動力をつけて、垂直に上昇下降ができるというもの。

全く同じものは権利上難しいですが、似た仕組みが導入できると思います。
当時からその仕事を通じて多くの知見が得られているので、その点は他の会社よりはいい状態で進められていると思います。

――中村さんのイメージで「実際飛ぶところをいつ頃公開したい」というものはありますか。

2019年です。
「とりあえず飛べる」の段階を公開した後も、どんどんブラッシュアップしていきます。
ホバーバイクもまさしく同じフェーズです。とりあえず飛べた、ここからどう削ぎ落としつつ機能を足していくか、というある意味一番難しいところに差し掛かっています。

マルチコプターが従来30分しか飛べない条件で2時間飛べたら固定翼の有用性は証明できるのかなとか。ホバーバイクに比べて人が乗らない分、ブラッシュアップにかかる時間はホバーバイクより短いと考えています。

Aerial「Lab(ラボ)」の名の通り、オフィス内には細かいパーツやドローン、工具などがみられた。 ハードウェアの実装などもその場で試せ、スピード感のある開発が出来そうな社風を感じた。


■ドローン+ブロックチェーン=高いセキュリティの宅配システム


――ブロックチェーンやマイニングの事業があり、宅配システムにフォーカスした知財も公開しています。これは宅配ドローンのシステム基盤がブロックチェーンになる、という解釈であっていますか?

まさしくその通りです。
社内にブロックチェーン技術に強いメンバーがいる、ドローンの強みもある。個々にやっていても面白くないので。「じゃあ、組み合わせてみよう」というものです。

宅配にフォーカスする理由は、ブロックチェーンの技術特性です。
セキュリティが非常に強く、中央集権サーバが不要、これは宅配との相性が良い。

宅配は「誰が何を送ったのか」「誰がどこに届けたか」「誰が受け取ったか」が重要です。
勝手に飛んできたドローンが家の前に荷物置く、では許されない。

高いセキュリティ、仮にその宅配システムが犯罪に使われても後から追跡しやすいという仕組みがブロックチェーンなら可能です。

さらにドローン同士が情報をやりとりし、ドローンの稼働状況やどの荷物を持っているか?の管理と、その台帳を共有しやすいシステムとして、ブロックチェーンはとても魅力があります。

――日本国内でも宅配業者の負担がニュースになっていますが

そうですね。再配達の手間が大きな問題になっています。
同じものを何度も同じ場所に送るという作業も減らせると思います。

この事業はかなり具体的な形になってきていて、システム構築は完了しました。今年中に何かしら発表するものになると思います。「ブロックチェーンを使った利便性」「ドローンと掛け合わせて出来ること」を理解してもらえるものになる予定です。

2017年12月にAerial Lab Industriesがプレスリリースで発表した出願中の知財一覧。 ホバーバイクやドローンのほか宅配BOX認証、マイニング分散システムなど次の展開を想像させるようなものも出願されている。


■農業、測量、山林調査、監視・・・ドローンが活躍する有望産業


――昨年12月にはドローンファンドからの出資、事業提携も発表されていました。今後ドローンの社会実装や活用について中村さんの興味ある分野を教えてください。

これはAerial Lab Industriesとしての注力分野ではありませんが、精密農業に大きな変化があると思います。人力で動かしていたコンバインやホイールなどを代替していくもの。

例えばGPS座標を入力すると、効率の良いルートで自動収穫するようなもの、生育状況を空から調べる際の低コスト化などです。
こうした、人力で行っていた作業を効率化することで、労働負担を減らし、高品質に、収益性の良い農業が出来ると考えています。

このアプローチは農業に限らず、測量や山に生息する動物、山林の木の分布などの調査にも使えます。開発計画の検討や水脈のある場所の調査などが可能になると思います。

これらに共通するのは「いままで人が実際に行き、観察していたこと」のドローンによる代替です。遠隔操作でその場所に行き、多くの監視カメラ設置なども不要になります。

――一方で、昨年12月に「ドローン社会実現のための技術調査開始」というリリースを出していました。やはり社会実装のためにクリアしなければいけない課題もあると考えていますか?

はい、純粋にドローンが現在街の上空をそんなに飛んでいませんよね。
ルール無視して飛ばす人はいるけど、どこで何が飛んでいるかを誰も把握していないことが一番の問題だと思います。

なぜ飛行機があれだけ安全に空を飛び回れるか、管制システムだと思うんです。
離・着陸の順番を決めて、衝突しないような航路・高度を決める、実際にその運用。
強固なシステム作りが必要とされていると感じます。

一応ドローンにもUTM構想として「JUTM」という楽天をはじめとした企業が推進していますが、全ての個人や企業が使えるものかはわかりませんし、まずはどんな技術が必要で、どういう下地作りが必要なのか?を丁寧に調査している段階です。

アメリカ在住時から長くドローン・飛翔体の開発に携わった中村さん。 お話の端々に「ドローン」の枠組みに囚われない「革新的な飛翔体」へのイマジネーションや意欲を感じた。


■本当の天才なんてほとんどいない。失敗体験をみんなで共有する


――Aerial Lab Industriesのメンバーに向いている人を、ドローンやブロックチェーンなど技術面ではなく表現するとしたらなんですか?

「好奇心」です。
ドローン自体黎明期で、パーツは山のようにあるけど組み合わせ方の最適解もまだわからない。今後のスタンダードとなる“正解”を誰も知らない状態です。

その中でたくさん失敗して、蓄積できるタイプがいいと思います。
失敗しそうだからやらないではなく、どんどん作って失敗して、その失敗をみんなと共有する。

僕も過去に技術的な失敗をたくさんしましたし、山ほど失敗した経験を糧に改善点を見つけてまた挑戦する。この先に大きな成功があると思います。

――同じエンジニアとして「失敗から学ぶときに大事なこと」は何だと思いますか?

自分の失敗を笑い話に転換する人が好きですね。
僕も「こんなことしちゃった」と共有すると「ああ、この人こんな失敗してもCTOやれてるんだ」と思ってもらえますし。

自分が犯した小さな失敗や間違い。これをみんなとシェアしながら「でもその着眼点面白いよね」と軽く笑って、そこで得た知識の蓄積も伝えあう。周囲にも失敗には価値があることを理解してもらおうと努力しています。

――成功した話よりも、そこに行き着くための試行錯誤、失敗をどうしたか。の話

そうですね。
僕もそんなに秀でたタイプではないし、そもそも本当の天才とカテゴライズされるような人はほとんどいません。途中段階も決して無駄じゃないという話はよくメンバーにしますよ。
Aerial Lab Industriesに興味がある人の、色んな失敗やそこからどうリカバリーしたか?の話をすごく聞きたいですね。

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