Interview

世界中の島を「エコアイランド」にする垂直軸型マグナス式風力発電の可能性 ――株式会社チャレナジー 清水敦史

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社チャレナジー

風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全な電気を供給することを目指した株式会社チャレナジーが挑むのは「プロペラの無い風力発電機」
東日本大震災とそれに伴う原発事故をきっかけに、エンジニアとしてエネルギーシフトを起こす同社代表の清水さんに、世界中の島で活躍が期待される風力発電機と、その先のビジョンについてお話をお聞きしました。


■「日本の気候に合った風力発電」を追求したら、台風時にも発電できるものになった。


――まずは従来の風力発電と、チャレナジーの垂直軸型マグナス式風力発電の違いについて教えてください。

2011年の福島原発事故をきっかけに、「日本の気候にあった風力発電を作ってエネルギーシフトを実現させたい」という想いを追求した結果、垂直軸型マグナス式という世界初の方式にたどり着きました。

特徴が分かりやすいように「台風発電」という言い方をしていますが、別に台風専用というわけではなく、乱流に強く日本の気候にあったものが自然と「台風の際に壊れないものだった」という背景です。

――乱流の多い日本では、従来のプロペラ式風力発電は適さない。

はい、プロペラ式風力発電はヨーロッパが発祥ですが、ヨーロッパは大陸でフラットな地形で、偏西風があり風の向きや強さが比較的安定しています。このような環境だとプロペラ風車は効率がいいし壊れにくい。

しかし日本は島国で山岳地帯も多く地形がデコボコ。
風の向きや強さが変わりやすく、台風も来襲するので、プロペラ風車にとっては効率的に発電しにくい上に壊れやすい、厳しい環境です。

実はプロペラ風車の弱点はプロペラそのものなんです。プロペラ風車は強風では暴走してしまう可能性がありますし、プロペラは薄板形状のため、構造的に折れやすい。

そこで、私たちは「プロペラの無い風力発電を作ろう」という発想を起点に「マグナス効果」を使った風車の開発に取り組んでいます。

マグナス効果って馴染みの無い言葉かもしれませんが、野球のカーブボールやサッカーのフリーキックなど、「ボールに回転を掛けると曲がる」仕組みもマグナス効果です。結構身近な物理現象なんです。

風車のプロペラのかわりに、円筒を取り付け、理髪店の看板のように回転させると、円筒にマグナス効果が発生し、風車全体を回転させることができます。プロペラと違うのは、マグナス効果を使うと理論上はどんな風速でも暴走することなく動かせることです。

なぜかというと、マグナス効果の大きさは、風速と円筒の回転数にそれぞれ比例します。

そこで、風が強いときは円筒の回転数を下げ、風が弱いときは回転数を上げることで、どんな風速でもマグナス効果の大きさを一定にでき、それにより風車も一定の力で回し続けられます。
さらに、円筒の回転を止めれば、マグナス効果が0になるので、風車を確実に止められます。

――マグナス効果を使えば、暴走して壊れることもなく一定の力で回すことができる。

プロペラ風車にもプロペラの角度を変えるピッチ制御等の仕組みがありますが、強風だと制御しきれなくなりますし、ピッチ制御が壊れて暴走してしまうこともあるので強風では止めてしまいます。

例えば、最近はFIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)向けに海外製の小型風車がたくさん輸入されていますが、風速25mを超えると止めてしまうものがほとんどです。

プロペラ風車の事故は日本に限らず、世界中で発生しています。
ただ、風力発電のポテンシャルは太陽光などと比べても高く、自然エネルギーの中では大きな可能性があります。

そこで、私たちはプロペラ風車にとっては厳しい環境での風力発電を実現しようと考えています。


■台風直撃でも稼働した自信と、世界中の島国から寄せられる風力発電ニーズ。


――沖縄の南城市には実証試験用の設備がありますが、そこから得られたものがあれば教えてください。

2016年に沖縄県の南城市に実証試験機を設置しました。
2017年には試験場に3回台風が接近し、そのうち1回は直撃しました。
いずれの台風でも、暴走することなく発電し続けることに成功し、特に直撃時には瞬間風速約33mの暴風の中で設計通りに動いたというのは大きいです。

試験場の近くに設置されている大型プロペラ風車が軒並み停止している横で、実証試験機は通常時と同じように発電し続けたのです。まさに「プロペラの無い風車」の本領発揮です。

――その確証が得られたことで、先日の記者発表での「今後の量産化」に繋がったということでしょうか。

はい、現在の実証試験機は定格出力が1キロワットサイズのものです。
今は量産機の開発を進めていて、2020年までに「10キロワットサイズ」の出荷を開始することを目標にしています。

――日本国外でも、ヨーロッパと気候の違う国や地域がチャレナジーの風力発電に注目すると思うのですが

既に世界中から問い合わせをいただいていますが、特に「島国」が多いですね。
フィリピン、ハワイ、グアム、サイパン、フィジー、ニュージーランド、ミクロネシアなどの太平洋の島国のほか、モーリシャス諸島、カリブ海諸国などから、毎週のように問い合わせを頂いています。

いわゆるリゾートアイランドですね。
現地住民だけでなく、観光需要で大きな電力需要がありますし、環境問題への関心も高いのです。
また、サイクロンやハリケーンで大きな被害を受けやすい点も、日本と近いですね。

――世界中から打診があるということは、世界的に見てもこうしたアプローチの風力発電が少ないということですかね。

世界中の風力発電に関する技術や特許は調べていて、中には革新的なものもあります。
有名なものだと、「プロペラ風車を空に浮かべる」取り組みなどがあります。

ただこれも、気候特性でいうと台風の来ない欧米に最適な技術だなと感じます。
島国で求められているのは乱流や台風に強い技術で、そういう背景からチャレナジーに注目を頂いているのかなと感じます。

2月に行われた記者発表では資金調達と事業計画を発表した

■島で活用できる「風力」と「海水」の資源を組み合わせ、エコアイランド化する


――再生可能エネルギーの活用や普及の話題では「蓄電技術」についてもよく言及されることがあります、チャレナジーとして何か考えている事はありますか?

風そのものが変動しますから、プロペラ風車でもマグナス風車でも、安定供給のためには「発電した電力をどう貯めるか」を考えていく必要があります。

実証試験機では鉛バッテリーを使っていますが、将来的には発電した電気で海水を電気分解して水素を作ることを構想しています。

日本には燃料電池や水素自動車など、水素を活用する技術はたくさんありますが、一番足りないのは「水素を作る技術」じゃないかと思うんです。

水素を天然ガスなどの化石燃料から作る方法もありますけど、それではCO2排出のポイントを変えているだけで持続可能ではありません。

私たちは今まで、日本はエネルギーを輸入に頼る国だと習ってきましたが、風力発電のポテンシャルは大きく、海の広さも世界6位です。もし日本が風力発電と海水を活用した水素製造技術を確立すれば、水素エネルギーの輸出国になれるかもしれない。

日本がこれから目指すべきなのは、日本の技術と資源を生かして世界中を水素社会化していく「水素立国」じゃないかと思っています。

取材時に見せて頂いたチャレナジーの発電技術に興味のある地域、海水が得られやすく「水素を作る」ビジョンとの相性もいいと感じた。

――日本以外でも先ほどの「風力発電に興味のある島」でも出来そうですね。

その通りです。
島国ではディーゼル発電に頼っているところが多く、ディーゼル発電に使う燃料を輸送しなくてはいけないので発電コストが高い上に、環境汚染が懸念されており、再生可能エネルギーへの転換が求められています。

例えば、ハワイ州は2045年までに100%再生可能エネルギーに転換する目標を掲げています。

島には活用されていない資源が2つあります。1つは「風力」で、もう1つは「海水」です。
ドバイなどの中東ではメガソーラーの建設が進んでいますが、島だと土地が狭いので、太陽光発電だけで賄うのは難しい。

島の環境に適した再生可能エネルギーとして、風力発電のニーズは今後ますます高まると考えています。

チャレナジーは現時点では水素製造の技術は持っていませんが、「海水から水素を作る」技術を持つ企業と組めば、島の風と海水で作った水素でエコアイランド化できると考えています。

――僕も沖縄の離島によく行くのですが、風も吹いているし海水は潤沢だと感じます。

島って海の上にポツンとあるから、吹きさらしの風が吹いていてもったいないですよね。
それに、綺麗な海を環境汚染で汚したくないじゃないですか。
ハワイのように、再生可能エネルギー100%を目指して欲しいです。


■「思いっきり変わったものを作りたい」小学校時代の夢


――マグナス効果のプロペラが無い風車とか、風力発電で水素を作るとか、清水さんの発想ってかなり独創的ですよね。

思い返すと、小学校の卒業文集にこんなこと書いていたんです。
「ぼくは何かを作るのが好きだ、思いっきり変わったものを作るのが夢だ」って。

もちろん「プロペラのない風車」なんて書いていないけど、「みんなが見て驚いたり、笑ったり、感心したりするような物を、たくさん作りたい」って書いていて。
その時点で将来はエンジニアになるって決めていました。

小学校時代の文集。まさにいま取り組む垂直軸型マグナス式風力発電を想起させると感じた。

――みんなが驚いて感心するもの。

最近は、東京タワーやスカイツリーにチャレナジーの風力発電を設置できないかな?と考えています。実は、フランスのエッフェル塔には風車が設置されているんです。
(※参考リンク:The Eiffel Tower now generates its own power with new wind turbines

東京タワーやスカイツリーは夜にライトアップするじゃないですか。
そのライトアップの電力を、チャレナジーの風力発電で賄うことで、日本のエネルギーシフトの象徴にするのも、私の一つの夢です。


清水敦史 株式会社チャレナジー 代表取締役CEO
東京大学大学院修士課程を修了後、株式会社キーエンスにてFA機器の研究開発に従事。東日本大震災をきっかけとして独力で「垂直軸型マグナス風力発電機」を発明。2014年10月に株式会社チャレナジー創業。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)