(※)この記事は2013年10月25日にastamuse「技術コラム」に掲載された内容を再構成したものです。
3Dプリンターによる医学・医療用人体モデル製作技術への応用というと、これまでは主に実物大・等身大の造形技術であった。今回は1mm以下のマイクロ(μm)スケール、あるいはナノ(nm)スケールの造形技術として、マイクロマシン(MEMS:Micro Electro Machanical System)の3D光造形技術を紹介する。
従来、マイクロマシンの作製には、半導体集積回路の製造プロセス(リソグラフィ工程など)が主として用いられてきたが、 横浜国立大学大学院工学研究院の丸尾昭二・準教授は、レーザー光を用いてマイクロ・ナノスケールの複雑な立体構造を自在に構築できる「3次元マイクロ・ナノ光造形法」を独自に開発し、従来技術では実現困難な新原理マイクロマシンの開発を行っている。
3次元マイクロ・ナノ光造形法は、レーザー照射によって液体から固体に変化する「光硬化性樹脂」を用いて任意の3次元微小構造を形成する技術であり、3Dプリンター技術の微細化と捉えることができる。 レーザー光の集光点や2光子吸収を正確に制御することにより、複雑な3次元微小構造体を製造することができる。応用例として、レーザー光によって駆動する大きさ10μmほどのマイクロタービンやナノピンセット、さらにはそれらをマイクロ流路に内蔵させたマイクロ化学分析チップ(光駆動ラボオンチップ)などの研究・開発を行っている。 なお、光駆動とは、従来の数Wではなく数mW程度の低出力レーザー光の圧力(光圧、輻射圧)だけでナノ構造体を動かすことをいう。
また、光造形で作成した樹脂モデルを鋳型として、様々なセラミックス微粒子を充填して任意のセラミックス微細構造を作製する「光造形モールディング技術」の開発も行っている。この技術にバイオセラミックスを適用させ、再生医療において、骨や歯などの硬組織を構築させる3次元スキャフォールド(足場)を作製している。
さらに、バクテリアや細胞などを動力として用いたバイオマイクロマシンの研究も行っている。たとえば1匹のバクテリアにマイクロプロペラを回させたり、圧電セラミックスをマイクロ造形した、心臓の鼓動によって発電する振動発電デバイスなどのエナジーハーベスティング(環境中に存在するエネルギーを電力に変換すること)素子を開発するなどしており、今後の進展から目が離せない。