(注)この記事は2013年10月29日にastamuse「技術コラム」に掲載された内容を再構成したものです。
近年、高齢化やスポーツ人口の増加に伴い、関節軟骨を損傷する人が増え続け、今や日本国人口の1割、1200万人がこうした関節軟骨のトラブルを抱え、うち700万人以上が変形性関節炎や関節リューマチなどの要治療者と指摘されている。 重症になると人工骨を打ち込んだり、膝関節の骨を人工関節に置き換える手術を行わねばならない。 定期的な診断により、軟骨変性の有無や進行状況を把握できれば、進行を未然に抑える対策を講じることもできる。
軟骨を診る技術としては、「X線タルボ・ロー干渉画像撮影技術」があり、軟骨組織を骨組織と区別して可視化し、摩耗の有無などは見いだすことが可能となった。 しかし、正常軟骨と損傷を起こした変性軟骨の境界がどこか、変性がどれだけ進行しているかを直接評価するには至らない。これを可能にするには生体軟骨組織を染色し、蛍光やX線などで識別する技術が必要となる。
そこで、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の大橋俊孝准教授らは、生体内の関節軟骨組織を特異的(ある特定のタンパク質が特定の化合物を識別すること)に認識する分子プローブ(生体機能の解明・探索を可能とする、あるいは特定の分子を認識することができる分子の総称)として、アルギニンオリゴマーとリジンオリゴマーを用い、 これに蛍光分子やX線吸収物質を結合した関節軟骨特異的イメージングプローブを作製した。これが「軟骨マーカー」である。
マウスやブタの関節軟骨をサンプルとした実験を経て、今後さらなる分子設計を進め、ヒトの生体内での染色と可視化の実証試験につなげていく模様だ。