(注)この記事は2013年9月27日にastamuse「技術コラム」に掲載された内容を再構成したものです。
近年、外科分野において急速に普及している内視鏡手術では、術部の画像が大型モニターに映し出され、執刀医や看護師などスタッフ一同が、同じモニターを見ながら手術を行うのが一般的である。 しかし、モニターに映し出される2D画像から「奥行き」を感じとることは難しいため、立体内視鏡システムが導入されつつある。
立体内視鏡システムでは、内視鏡スコープの先端に据えた2つのCCDステレオカメラ(左目用カメラ+右目用カメラ)が対象物の左目用画像および右目用画像をそれぞれ撮像して画像出力制御部に送信し、ディスプレイに左目用画像と右目用画像を交互に表示する。 一方、手術スタッフは専用の3Dメガネを装着した状態でディスプレイに表示される画像を見る。3Dメガネは左右の視界を交互に遮断する液晶シャッターを備え、左目用画像は左目だけに見え、右目用画像は右目だけに見える 。脳内で左右の画像を合成し、対象物の立体イメージを得る仕組みだ。
しかし、3Dメガネの使用に伴い、眼精疲労や重いメガネを長時間装着することなどによる肉体的・精神的ストレスが生じ、さらに、ディスプレイを側面から見る手術スタッフには、 実際の患部の奥行きと画像から感じられる奥行き感が一致せず、「バーチャルリアリティ酔い」(VR酔い)の原因となっている。外科手術では、長時間にわたる高度な集中力と注意力が要求されるため、こうしたストレス原因を最大限排除しなければならない。
そこで、近年、マルチビューの裸眼立体ディスプレイ装置の研究が進んでいる。たとえば、レンチキュラーレンズアレイ(細長いカマボコが多数並列したような形状の半円筒型凸レンズ群)を用いることによって、裸眼による立体視と多視点(どの位置からも違和感ない立体画像が見える)を同時に実現する技術などが考案されている。
こうした中、中央大学理工学部の鈴木寿教授らは、ステレオカメラによって取得されたステレオ画像の画素毎の奥行値とRGB値を関連付けた3Dデータを生成し、複数の仮想的な視点に対応する複数のステレオ画像をリアルタイムに生成し、これを既存の多視点裸眼立体ディスプレイ装置に表示させることによって、実写映像の多視点裸眼立体視を可能にした。
これはステレオ画像から3D空間を高精度で瞬時に再構成する計算技術を基盤とするもので、再構成した3D空間を奥行方向に増強したのち再レンダリング(数値データや数式などより高位の記述を演算し、画像の画素を生成すること)するなどの3D特有の加工が、入力時の撮影条件とは無関係に可能となる。 ディスプレイの3D表示は、偏光方式、液晶シャッター方式、視差障壁方式、レンチキュラーレンズ方式、ホログラフィック方式、積分写真方式などのいずれでもよく、汎用性が高い。