(※)この記事は2013年10月3日にastamuse「技術コラム」に掲載された内容を再構成したものです。
多くの先進国で少子高齢化が進む中、介護人口増大に伴う社会コストが問題視されており、高齢者の生活の質を高めることにより、要介護状態を予防したり、介護の質を高めたりすることが望まれている。 コンパニオン動物によるアニマル・セラピーも注目されているが、アレルギーや感染症、噛み付きの懸念から導入を躊躇するケースも少なくない。 そこで、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)はアニマル・セラピーに代わる、ロボット・セラピーを提案、動物型ロボットの研究開発とセラピー効果の実証研究を行ってきた。
こうして生まれたのが、タテゴトアザラシの赤ちゃんを模したぬいぐるみロボット「パロ」(PARO)である。 多数のセンサーや人工知能を備え、人の呼びかけに反応し、抱きかかえたり撫でたりすると喜ぶ仕草を示すなど、人間の五感を刺激する感情表現や動物らしい動きを見せる癒し系コミュニケーションロボットだ。
動物型ロボットの多くは髭(ひげ)を備えているが、髭は触角として敏感に接触物を認識するものであり、人がその髭に接触することによるロボット側の反応や動作が、ロボットに対する愛着や癒され感をより際だたせると考えられている。 「パロ」では、主にステンレス製の導電性線材から成る髭が植設され、人間が髭に近づいたり触ったりすると、微弱な電流が流れ、接触認定信号が出力される。 接触認定信号が検出されると、対応アクチュエータもしくは対応アクチュエータのドライバに対して駆動信号が送出され、ロボットの鼻、目、前脚、後脚などが所定の動作をする仕組みになっている。
「パロ」は、 2002年2月には「最もセラピー効果があるロボット(The Most Therapeutic Robot) 」としてギネス世界記録に認定され、2003年版ギネスブックで紹介されている。 米国では、FDA(食品医薬品局)より医療機器として承認されており、多くの医療施設や介護福祉施設などで自閉症や認知症などのセラピーに活用され、高い評価を得ている。 日本でも介護福祉施設や小児病棟での臨床評価が重ねられ、アニマル・セラピーと変わらないセラピー効果が認められているという。高齢者に限らず、メンタル・ケアが必要な人は多い。 本発明が少しでも多くの人の心を癒してくれることを期待したい。