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大学発ベンチャーの課題は、創業前後から関わることで解決できると思います。 ー株式会社ジャフコ 橋爪 克弥

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1973年創業、1982年に日本初のベンチャー企業投資ファンドを設立し、日本のベンチャー投資をけん引してきた株式会社ジャフコ。日本最大級のベンチャーキャピタルである同社は、近年の技術トレンドや投資環境の変化をどう捉えているのか?
2017年に起業家同士の交流の場「JAFCO Community for Founders」を立ち上げ、リバーフィールド、マイクロ波化学、クオンタムバイオシステムズなど成長著しい研究開発型ベンチャーの社外取締役を務める産学連携投資グループリーダー橋爪さんに、大学発ベンチャーの現状や「理想的なスタートを切るため」のノウハウについて伺いました。

 


■国の政策と成功事例がリンクした、近年の大学発ベンチャー


―橋爪さんはジャフコの中でも産学連携のベンチャーに関わっていますが、近年の大学発ベンチャーを取り巻く環境に変化は感じますか?

凄く感じます。
僕は2010年のジャフコ入社から一貫して産学連携・大学発ベンチャーを担当するグループにいますが、入社当時は大学側に「大学発ベンチャーなんてうまくいかない」という風潮があったと思います。

今は全然違います。東京大学、京都大学、大阪大学など大学発ベンチャーでよく聞く大学以外も、地方大学含め「うちも大学発ベンチャーの創業支援をやらないと」という機運を感じます。

 

―この数年で何が変わったのでしょうか。事業化の価値がある大学内の研究は昔からあったはずです。

2000年以降に設立し、直近5年間にIPOした国内ベンチャー企業、そのうち時価総額が1,000億円を超えている会社は6社のみです。(2017/6/27時点)。

LINE、アカツキ、コロプラ、ユーグレナ、CYBERDYNE、ペプチドリーム。
6社中3社が研究開発型の大学発ベンチャーです。こうした状況から「大学発ベンチャーは大きな価値を生む」という認識が拡がり、期待されているのだと思います。

もう一つは国の支援です。
2018年を境に18歳の人口が減少に向かい、大学が従来の授業料を収益の核とするだけでは苦しくなる「2018年問題」。

国が掲げる成長戦略の中にも「世界に勝てる大学改革」として、アメリカのスタンフォード大学などをモデルとした「日本の大学も自分でビジネスをやるところから始めよう」と動きが出ています。

以前から議論されていた大学の知財を活用したライセンス収入、ベンチャー企業の株式を大学が保有しキャピタルゲインを得る。
そうした仕組みの本格的な検討と、先ほどの「上場して大きな価値を生む大学発ベンチャーが出現」という状況がリンクし、最近の変化を生み出したと思います。

 

―今年から「JAFCO Community for Founders」という取り組みを始めましたが、これも最近の状況を踏まえたものですか?

そうです。
構想自体は2014年頃からありました。経営者が直面する課題を、コミュニティの交流を通じ解消できる仕組みを作りたいというもの。
採用、マネジメント、資金調達、研究開発型ベンチャーなら更に大学との知財やライセンスの整理といった、起業家ならある程度共通する課題への取り組みです。

ITベンチャーであれば、既に国内にも多くの企業があり、中にはEXIT後に投資家となり後進ベンチャーを育てる起業家も現れ始めましたが、大学発ベンチャーをはじめとする研究開発型ベンチャーでは、まだ成功事例自体が少なく同様の仕組みがありません。

去年シリコンバレーでいくつかベンチャー企業を視察しましたが、正直技術的な面で大きな差は感じませんでした。
一方で人材の厚みやコミュニティによるナレッジ共有の仕組みには、大きな差があると痛感したのです。

例えば、Stanford大学には「StartX」というコミュニティがあり、Stanford大学出身の卒業生がメンターとなって事業プランを徹底的にブラッシュアップし、企業の状況に合わせて個別メンタリングもします。
この仕組みを通じて大学発ベンチャーの成功確率が上がったという話を聞き、僕らもコミュニティ形式で同じことが出来るのでは?と考えました。

 

大学発ベンチャーは2011年以降設立数が復調傾向、米国と比べ研究開発費は約3分の1、特許収入に至っては米国の100分の1という状況。(画像提供:株式会社ジャフコ)

 


■大学発ベンチャーは、起業する「前」が大事。


―コミュニティに参加しているのはどういった方たちですか?

現状は20名程度の参加者限定としており、対象者もジャフコと接点がある方のみとしています。
大人数でのセミナー形式では一方的になり過ぎますので、経営を通じて直面したリアルな話を近い距離間でやりとりすることを狙っています。創業後やジャフコが投資している会社に所属する方もいますが、中には起業前の研究者や学生も参加しています。

 

―なぜ起業前の研究者や学生を対象としているのですか。

一言で言うと「大学発ベンチャーは、創業時点でかなり成功確率が変わる」という仮説です。

これまでジャフコは約130社の大学発ベンチャーに投資してきました、その中には約20社のIPO、数社の事業売却といった成功事例もありますが、一方で多くの失敗も経験してきました。

改めて分析すると、成功しなかった会社には共通要素があると思います。

例えば狙う市場。10億円、20億円の資金が必要なのに、狙っている市場規模が100億円程度しかない。
チーム構成であれば、エンジニア偏重の経営陣で、チームの補完が不十分であった。
さらには技術的な優位性が十分であったか?という点など、パターンが見えてきた。

最初の事業がうまく行かなくても、大胆なピボットができれば巻き返しも可能です。
しかし大学発ベンチャーの場合、研究成果を活かして事業を行う為、後からチームを刷新する、事業プランを大幅に変える、全く異なる市場を狙う、という当初の延長線上にない決断がしづらい事情があります。

会社を創る前の「チーム」と「事業プラン」と「狙うマーケット」が大事ということです。

市場規模も適切な成長市場、そこにフィットした製品が研究を活かしたもので可能、その事業に適切なチームメンバー、最初に展開する製品。これらを事前に精査すれば良いスタートを切れる確率が上げられます。

実はこの仮説に沿った試みが、リバーフィールド社です。
文科省のSTARTプロジェクトで出会い、すぐ会社を創らず約2年の助走期間として、研究開発を進めつつ、事業や資金計画を練り、創業チームの準備を進めました。結果的にリバーフィールドは創業約1年後から売上が立ち始め、創業後2年の間に10億円弱の資金調達を行うなど、良いスタートが切れたと思います。

 

―市場、チーム、プラン。全て完璧でなくても今後改善できそうなら関わるケースもありますか。

あります。
ジャフコの現在の投資方針は、投資先を相当絞っています。2016年度の国内新規投資のうち9割以上がスタートアップ・アーリーステージの投資です。技術は素晴らしいけど「ここだけ方針転換すれば」という会社があれば積極的に関わります。

投資先が増えれば1社に対して中途半端な関わり方になってしまいます。
今は、先ほど挙げた「大学発ベンチャーの成功事例3社」の次が出てくるかどうか大事な時期です。多くの投資先へ関与し1社の成功を待つのではなく、丁寧に関わって4社目5社目の成功ベンチャーを作るためにジャフコに出来ることをやるべきだと考えています。

 

JAFCO Community for Foundersの様子。創業前の研究者や学生も含め、少人数での知見の共有を重視している(画像提供:株式会社ジャフコ)

 


■変化してきたジャフコ、キーワードは「CO-FOUNDER(コ・ファウンダー)」


―話を伺うと、世の中が持つ「ジャフコってこういう企業」のイメージから変化しているようにも感じます。

それは確実にあります。
数年前、社内で「僕らのアイデンティティは?ビジョンは?ミッションは?」を再定義するプロジェクトがあり、僕もそのメンバーでした。

その時決まったアイデンティティが、「CO-FOUNDER(コ・ファウンダー)」です。

経営者と投資家の関係ではなく、共同創業者の気概で取り組む。
事業も戦略も一緒に考え、あらゆる協力を惜しまず、ジャフコのリソースやネットワークを十分に活用し、経営者と一緒に事業を立ち上げる。仕事の関わり方や考え方は、相当変わったと思います。

 

―その変化の中で、意識していることはありますか?

投資家である以上に、事業をどう立ち上げていくかという事業家の目線を意識しています。
また事業を立ち上げ、成長させていく為に必要な資金を考え、資金調達を実現していく点も常に意識しています。シードやシリーズAなど当面のファイナンスを実現させるか?だけでなく、次の資金調達時にどのような投資家や事業会社等に関わってもらうか。その為には、他の投資家から「ジャフコが投資しているから信頼できる」と思ってもらえる存在でなければいけません。

長年ファンドを運用し、海外の投資家と話すと「お前らは40年もやっているのか、長い間パフォーマンスを出していて凄いな」と言われます。

この「継続」により、蓄積された経験値やネットワークはジャフコの強みですから、これを活かし経営者と共に事業を作りあげていきたいと考えています。

 

―橋爪さんが個人的に気になる会社の傾向があれば教えてください。

色々見ていますが、やはり「医療」には注目しています。
大学発ベンチャーは研究成果を活かし、技術的な製品の優位性を有していることが特徴です。セールスやマーケティングを強みとして戦うのでなく、技術的な優位性をアドバンテージにし、事業を拡大していくべきだと考えています。

この考えに基づくと、医療はとてもいい。
「命を落とすか重大な後遺症が残る患者が目の前にいる」という時に、他社に実現できていない「この製品で治療できます」というものがあれば、必ず使ってもらえますよね。
ニーズに合致した製品を作れれば、大手企業と比べてリソースが少ないベンチャー企業でも勝機があると思います。

 

―医療以外で他に注目するジャンルは?

医療以外で挙げるとすればロボットです。
今後、ロボットはあらゆる場面で活用されることが想定されていますが、導入コストは高く、ロボットの導入先は限定されているのが現状です。

例えば、JSTのSTARTプログラムで採択されている立命館大学の先生が進めている研究が、一気にその課題を解決する鍵となりそうなので、いま支援している最中です。

医療に関心があるのは「自分が投資し関わった会社に救われたい」という僕個人の夢もあります。そもそも、ベンチャーキャピタリストとしてのモチベーションは、この仕事を通じ、社会にインパクトを与えたいという想いです。

社会へのインパクトという観点では、人の生死に関わる医療は大きなテーマです。
例えば将来がんになったら、リバーフィールドの手術ロボットによって手術を行い、クオンタムバイオシステムズの遺伝子解析装置を使い分析を行い、脳梗塞の治療はBiomedical Solutionsの技術で助けてもらって・・・と。自分だけでなく、家族や友人など関わってきた人が、僕が発掘し関わった技術で救われるということは、大きなモチベーションです。

医療だけでなく、大学には他にも社会にインパクトを与える技術があると思っており、今後も人生や生活を変える技術を事業化し、投資したいと思っています。

「医療系企業と縁があるからかもしれないですが、いつか体を壊した時、自分の投資したベンチャーの技術で命を救ってもらうのが夢なんです」と語る橋爪さん

 


プロフィール
株式会社ジャフコ
橋爪 克弥 投資部産学連携投資グループリーダー
2010年にジャフコ入社後、大学発ベンチャーや技術系スタートアップへの投資活動に従事。 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科(サイバーインフォマティクス)修了、修士(政策・メディア)。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)

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