自動運転や交通管理システムなど、「地上」における移動・輸送は様々な技術革新が進んでいる。
では「空」はどうか?もしドローンが世界中を自動航行し、有益な移動手段になると共に空撮したデータから様々な情報が取得出来たら?
業務用ドローン活用事業を展開し、空の運行管理システムを提供するテラドローン社は「空のインフラを担う存在」に本気でなろうとしている。責任者の関さんにお話を伺いました。
■数多くの実績で蓄積したノウハウを「空の運行管理システム」の構築に活かす
―テラドローンの事業について教えて下さい。
テラドローンはBtoB、業務用のドローン活用サービスです。
土木測量、橋梁や大規模施設の高所点検、洋上・陸上のプラント施設点検にドローンを活用し、今後は物流面にも展開する予定です。
技術面では、将来的に「空のインフラ」を獲るための展開としてUTM(Unmanned Traffic Management)分野に力を入れています。
昨年UTM分野で世界トッププレイヤーであるUnifly社に出資し、共に世界展開を目指しています。
その他、ドローンで撮影した画像を3次元データにするソフトウェアの自社開発や、ドローンの位置情報を特定するGNSS (Global Navigation Satellite System 全球測位衛星システム)の低コスト化にも取り組んでいます。
どれも、将来的に世界中をドローンが飛び回る時代を見越した「空の道づくり」を担うためです。
―テラドローンはテラモーターズ社の新規事業として生まれています。なぜ「ドローン」の事業だったのでしょうか?
大きな理由は2つです。
「世界で勝てる市場」を選んだ、そして「うちの組織カルチャーが活かせる」と考えました。
世界的に見ても、未だ業務用のドローン活用や空の情報において決定的なプレイヤーがいません。
今後を見据えると、ドローン分野は一気に世界展開できるスピード感が重要です、この点において
テラモーターズ社が培った手法や組織の動かし方を活用できると考えました。
―現在「産業別のドローン活用サービス」とUTMやTerra Mapperといった「オンラインサービス」を展開していますが、今後の事業展開はどのようにお考えですか
大きく3つあります。
・サービス
・ソフトウェア
・UTM(運行管理システム)
まずサービス。
これまで土木測量や点検、警備、物流などドローン活用サービスを展開し、多くのパートナーと国内外にサービスを展開しています。
今後は徐々にソフトウェアやUTMの事業割合を増やしていきたいと考えています。
展開してきたサービスやウェブアプリケーションのノウハウを活用し、将来的にはソフトウェアをオープン化していく予定です。
テラドローンがオープン化したソフトウェアを利用し、世界中でドローンが飛べば、僕らはそのデータを蓄積すると共に運行管理システムの提供側として収益を上げる、というイメージです。
■世界のドローン活用状況、i-constructionで世界に先駆ける日本
―既にインドネシアとオーストラリアに支社を設立していますが、今後展開を予定する地域はありますか
米国、中国、欧州は魅力的だと考えています。
理由は、今後の市場拡大です。
現時点では規制などもあり、市場規模は小さいですが今後確実に大きくなります。
今のうちから飛び込むことで、市場が拡大すると共に事業拡大が見込めると考えています。
市場はやはり一番大事な要素だと思います。
良い市場選定と参入タイミングだったとしても、その後必ず成功するかは別ですが、将来的な事業展開において市場・国を選ぶのは非常に重要な意思決定だと思います。
―インドネシアとオーストラリアに支社を作った理由は?
インドネシアはODA案件が多く、いま建築と土木の市場が伸びています。
市場としては未成熟ですが東南アジアは一度伸び始めると勢いがつくので、早い段階で支社を設立しました。
またインドネシアは人口も多く、国土も広い。
広大な土地であればあるほど、ドローンの利活用におけるメリットは大きいというのもあります。
この国土の大きさは、オーストラリアも同様ですね。
―海外も含めたドローン利活用ビジネスの状況を教えてください。
業務用ドローンのサービスは世界各国にありますが、普及具合にはかなり差が出ています。
その中でも日本はかなり進んだ状況にあり、特に土木測量におけるドローンの利活用は世界に先駆けていると思います。
日本はi-Construction(※)に基づき、ドローンの積極的な導入が後押しされています。
利活用も進みおかげでノウハウも蓄積できている状況です。
測量において重要なのは「精度」です。
この「精度をどのように出すか」の技術ノウハウが蓄積されていますので、これをアメリカや欧州など広い地域で展開したいと考えています。
現在はアメリカ、欧州などドローンに対して規制があります、ただ従来の労働集約型で行っていた業務をドローンで自動化・簡略化するという利点は、今後人件費の高い欧州や北米で必ず大きな事業機会が得られると考えています。
※国土交通省が2016年度から導入した新基準、建設分野における生産性向上、魅力ある建設現場を目指す取組み。「ICT技術の全面的活用」「規格の標準化」「施工時期の平準化」を3つの柱とする。
■ドローンの目視外飛行や自動航行が当たり前になる未来を見据えて
―現在実績の多い土木測量や施設点検以外で、ドローンの活用に積極的な業界はありますか?
沢山ありますね。
例えば産業廃棄物処理場での利活用は、現在僕も勉強しているところです。
産業廃棄物処理場は、3か月に一度環境省に「あとどれくらいの面積ゴミを置けるか」の提出義務があります。現在この作業を人が測量していますが、面倒な上に臭いが酷く悪環境の仕事です。
ここで、ドローンから撮影した画像データを3次元化することで提出に必要なデータが作成できると考えています。
このように、自分たちですらまだ気が付いていない活用シーンは他にも多いと思います。
既に「これに使えそうだ」と想像できる場所に一通り広まった段階で、今後は「ドローンの技術がこの水準をクリアすれば活用の許可が出せる」という市場へ展開するフェーズに入ります。
これを一つ一つクリアすることで、まだ業務用ドローンの市場には爆発的な伸びしろがあると思います。
―i-constructionが追い風になった測量業界の話がありましたが、逆にまだ法整備として不足している点はありますか
「目視外飛行」だと思います。
現在の日本では、原則的に「目視内で見える範囲」でしかドローンを飛ばすことが出来ません。
将来、「東京にいながら福岡や北海道のドローンを遠隔制御する」時代になれば一気に世界が変わると思います。テラドローンがUTMの運行管理システムに力を入れる理由も、この「ドローン遠隔制御時代」を見据えているからです。
UTMは、ドローン時代の「管制塔」です。
未来、技術が進化しいつか「UTMで制御された空のタクシー」が実現する日が訪れます。
例えば、多忙なエグゼクティブ層は車に乗らなくなり、ビルからビルへピンポイントでドローンによって移動する未来。
その頃ドローンの目視外飛行や自動航行は当たり前になっているはずです。
現在はドローンの飛行を国が申請ベースで認可しています。
今後申請不要となれば爆発的にドローンが増え、その時に重要基盤となるのは「運行管理システム」です。
―そのお話、テラドローンは将来的に「空のGoogle」を目指している印象を受けました。
そうですね。いわば空の情報屋です。
地上には道路・路線・地図と様々なビジネスがありますが、「空」のビジネスは非常に少ない。
例えば将来Googleが「空の情報を集めたい」となった時にテラドローンがそのパートナーになることもあり得ると思います。
■失敗も含めた過去の経験が、新しい事業に活きる。
―関さんは元々テラモーターズで海外事業推進を担当されていましたが、その経験もテラドローンに活かされていますか?
そうですね。
当事者として僕自身が知見を得ている、失敗を経験しているのは活きていると思います。
元々テラモーターズの創業時から関わり、6年ほど東南アジアやインドの海外展開を担当していました。昨年秋に日本へ戻りテラドローンの責任者を務めています。
そこで培った「顧客のニーズにしっかり応えられれば事業展開の機会を得られる」というビジネスの基本原理、顧客の価値を定義しそこにあったサービスを供給する重要さを知れたのは大きいです。
―その海外展開時に失敗もされているそうですが、その後テラドローンという新規事業を任されました。過去の失敗があったからこそテラドローンで活かされているものも多いですか。
これは大企業の新規事業担当の方などにも通ずると思いますが、「かつて失敗を経験した人」が新規事業を担うメリットは大きいと思います。
失敗を経験し、本当に悔しい思いでそこから多くを学んだ人が新規事業でそれを活かす。
ビジネスで重要なことは、多くのビジネス書にその大半が書いてあります。
書かれていることの大半は、読んで理解できます。
ただ、読んで理解できたかどうかと、過去にしてきた多くの意思決定やトラウマになるほどの経験を経て自分の血肉になった知見は、次に新しい事業へチャレンジする際に決定的に違いが出ると思います。
-社内メンバーも、そうした過去の経験を活かした方が多い?
そうですね、中途で測量や建設業界大手から来た方もいます。
ベンチャー企業とは言え、業務用サービスを提供する立場ですから安全性や高い品質、信頼を得なければいけません。そこに大手企業での経験を活かしている部分はあると思います。
一方で、業務用ドローンは新しい産業です。
この業界一筋20年という人はいませんし、ベンチャー企業ですから大手企業のように役割分担がなく全体を隅から隅まで見なければいけない。
実はここで苦しむ人もいると思います。
ドローン業界自体歴史が浅く、過去の知見だけでどうにかなるものではない。
「志の高さ」と「素直さ」を、過去の自分の経験と融合させられる人がいいと思います。
アンラーニングできるか、経験に固執せず0ベースの思考ができるか。
その為に必要なのは、新しい学びを素直に飲み込めるかどうか。
そして「自分たちは空のインフラを創る」という志の高さだと思います。
プロフィール
テラドローン株式会社
関 鉄平 最高執行責任者
慶応義塾大学経済学部卒。大学4年次からテラモーターズの国内営業担当としてインターン開始。
大学卒業後、2012年7月よりフィリピンの現地事務所に駐在し、アジア開発銀行の支援する10万台EV化プロジェクトの入札獲得、フィリピンでの販売・メンテナンス網構築に従事。その後インド駐在を経て、アジアを中心に各国の事業責任者及びグローバル全体の採用の責任者を経て、2016年秋より現職。
インタビュー 波多野智也(アスタミューゼ株式会社)