9月13日、九州のITベンチャー企業が釣り、料理時の魚の臭いを解決するハンドソープ「フィッシュソープ」を発売開始したニュースがネット上で話題となり、翌日の日経新聞にも取り上げられた。
商品企画から実際の発売開始までわずか4か月、未経験の商品開発をどのように進め、今後の事業展開はどう考えているのか?発売元であるウミーベ代表のカズワタベさんに発売翌日にインタビューしました。
■アイデアから製品発売まで4か月。予想を超える反響
―フィッシュソープの発売発表から約1日経って、各方面でかなり話題になっていると思います。
そうですね、ここまで反響が大きいとは思わなかったです。
「魚の臭いにフォーカスしたハンドソープ」というある意味ニッチな製品ですから。
購入したい方が反応してくれたと同時に、釣り人向けウェブメディア・スマホアプリを運営するITベンチャーがハンドソープを発売するというストーリーに興味を持たれた方が多かったなと思っています。
―アイデアから発売まで約4か月掛けたそうですが、製品化のスピード速いですよね。
そうですね、速い方だと思います。(笑)
別に「製品を出すならあそこに頼もう」と人脈があったわけではなく、最初は製造してくれる会社を探し「こういうの作りたいからサンプル下さい」と問い合わせから始めました。
それで、実際届いたサンプルがめちゃくちゃ良かったんです。
僕含め社内スタッフは釣りをやる人が多いですが「これ普通に欲しい」「市販のハンドソープより圧倒的にいいね」って。
―ぬめりや臭いを取るための茶葉エキス、海に流せるよう界面活性剤を極力使わない。こういった成分・製法は初期段階から構想があった?
いや、メーカーの方と議論しながら徐々に固まった感じです。
こちらは1人のユーザーとして「とにかく臭いを落としたい!」と製品コンセプトを明確に伝えて。
それをどう成分や製法で実現するか?は経験豊富なメーカーさんを信頼してとにかく色々な提案をしてもらいました。
―商品を発売するのは会社として初めてですが、これまで培ったWebサービスやアプリ開発の経験・ノウハウで活きたものはありますか?
会社として「釣りのUXを改善する」という点は共通していますし、ユーザーの求めるもの、解決したい事象に対してソリューションを提供するという点、そこにどうWebを通じてマーケティングするか?は今後活かしていきたいですね。
それと、友人であるのぐたく(野口卓也)が以前未経験から化粧品を起ち上げた経緯を横で見ていた経験もあったので、「未経験で人脈が無くてもこうやって一から作れるんだ」という感覚がありました。
あれが無かったら、ハンドソープを作ろうとは思わなかったはずです。。
■重要視したのは「魚の臭いを落とす=フィッシュソープ」のブランド。
―さきほどの逆で「やはり製品を作るのはウェブやアプリと違うな」と感じた点は?
当たり前ですけど「送料掛かるのか」って(笑)
スマホアプリやウェブサービスはユーザーに届ける際、通信料は掛かりますが送料は掛からない。改めてそのことを認識しました。
製造から販売、入金までのサイクル、キャッシュフローへの影響もウェブのビジネスとは全然違いますよね。
配送コストの件も含めて、最初この構図を理解するのに時間が掛かりました。
―ベンチャーで未経験のジャンルに挑む際、最初はクラウドファンディングから始めるというケースも多いですが、そういうのは考えていなかった?
考えていなかったです。一定のニーズがあるのは分かっていたので、最短で発売したかったんです。クラウドファンディングで先に情報公開して、発売・出荷までの期間が伸びるリスクのほうが高いと考えました。
クラウドファンディングで話題になり沢山の資金を集めていざ市販開始したら売れずに苦戦する製品もたくさんありますよね。結局意味のある数値は販売しなければわからない、なら発売しようと。
最終的に大事なのは「魚の臭いを落とすハンドソープといえば、フィッシュソープ」を定着させること。
初期ロットで製造した分が売れれば赤字も出ないし、単価が安いのでいきなり在庫を数千万円抱えるわけでもない。今このハンドソープを製造するリスクなら会社として取れるという判断でした。
―慎重な仮説検証よりスピード重視でブランドを取りに行った。
製品自体の質に自信があったのと、ニーズが見込めていた点。それに発売時にある程度の反響があるだろうなと予想していたので、スピードを重視しました。
製品そのものへの自信と、実際に釣具店に置かれた際のインパクトというか「どこか浮いていて、良い意味で目立つ」イメージもありました。
あと自社で月間200万PVの釣りメディアがあって、そこでプロモーションできるという点もポジティブでしたね。
―いざ発表したら予想を超える反響があって日経新聞にも取り上げられて、スタートとしてはかなり理想的だった?
確かに初日話題になった事でAmazonでもけっこう売れましたし、反響をみた店舗さんから取扱店舗数を拡げたいという話も頂いて、いい流れだとは感じます。
ただ、ここからが本当の勝負です。
最終的には「釣具店には必ず置いてある」ぐらいにしないといけない。
結局この「リリース初日に話題になってバズる」というのはすぐ落ち着くので、今後も継続的な発信や着実に取扱店を増やす、という事をしていく必要があります。
■釣りの体験性はまだまだ変えられる。今後は垂直展開していく。
―今後の展開、でいうと海外ではD2C(Direct to Consumer)というビジネスモデルの流れにあります。こうした無店舗型ECという方向性も視野に入れています?
それは考えています。
フィッシュソープは店舗に卸しているので、純粋なD2Cモデルではないですけど、1度使って気に入ってくれた方は、その後オンライン経由でリピート購入してくれるだろうなと考えています。
―話題になったことで、色んな企業から組みましょうっていう話が来ていると思います。過去の経験から最近よくある「大企業とベンチャーのコラボ」について思うことあります?
とにかく意思決定や議論を進める、その足並みを揃えるのが本当に難しいです。
おそらく「どういう社内ポジションの方が担当するか?」でかなり変わる印象があります。
例えば社長直下の新規事業開発の方で、その人も直接社長に承認を取るだけ、であれば多分なんとかなる、逆に2人とか3人社内で確認が必要、となってきたらベンチャーと大企業は足並みを揃わせにくい。
正直、僕らも色々なお話を頂きましたけど、あまり具体化したことはないですね。
―逆に言えば釣り市場への参入を考えていて、社長自らもしくは社長直属の人から連絡もらえれば前向きだと。
いやもう本当にそれですね。
こちらは代表である僕自身が打ち合わせに参加してその場で考え、話によっては5分で決断できます。それを「一旦会社に持ち帰る」と言われて2週間掛かる、となるとどうしても共同で何かを進めるのは大変ですからね。
―今回フィッシュソープで明確になったのは、「釣り」というテーマでウェブやアプリに限らず消費財をリリースした。他社と組むか自前でやるかはともかく垂直展開を進めるということですよね
そうですね、連携できるところとは連携して、他がやらないならうちがやるつもりです。
まだまだ改善できるところはたくさんありますし、そこまでやらないと会社も大きくならないので(笑)
釣り業界って、プロダクトは高品質なんです。
リールとか、工業製品は本当に素晴らしくて世界でもトップクラス。
ただ、全体的にサービスの品質があまり高くない。
品質が高くないというより、「変わっていない」んです。
これは釣り以外の趣味・レジャーのジャンルと比べてもそう感じます。
今回はハンドソープと言う製品でしたが、今後もWeb・オンラインに限定せず釣りのUX・体験性を改善していく事業を展開していくつもりです。
カズワタベ(渡部一紀)/ウミーべ株式会社 代表取締役CEO
1986年4月長野県松本市生まれ。音楽大学卒業後、クラブジャズバンドの活動を経て2011年にGrow株式会社を創業。その後独立し、福岡に移住。フリーランスとして1年半ほどウェブ、デザインに関わる制作、ディレクション、コンサルティング業務を行い、2014年8月にウミーベ株式会社を設立。代表取締役CEOに就任。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)