13歳からプログラミングを始め、17歳で起業、その後も多くのベンチャー企業を成長に導いた河崎純真さんがGIFTED ACADEMYで取り組むのは、発達障害者のためのプログラミング教育。
ブロックチェーンを用いた独自の経済圏「COMMONS OS」にも取り組む河崎さんにこれからの、「あるべき教育の形」と「それを実現するブロックチェーン技術」について、お話を伺いました。
■発達障害者に必要な教育を突き詰めたら、本質的に良い教育にたどり着いた。
--GIFTED ACADEMYは、大人の発達障害者のためのプログラミングやデザインの教育を提供していますが、それはどういったものなのでしょうか?
私たちの施設は、いわば「本質的に良い教育」を提供する場です。色々な仮説検証を経て発達障害の方に必要なのは特別な教育ではなく「良い教育」そのものだという結論に至りました。
「良い教育」とは何かというと--
・一人一人の才能や理想、人格を尊重する
・個々人の特性に合わせて学べる
・事物、規範、敬意、ネットワークという4つを学ぶ機会がある
--などであると、私たちは考えています。これは当たり前といえば当たり前のもので、オランダやフィンランドなどでは普通に行われています。
--そこで「プログラミングとデザイン」に特化している理由はなんでしょうか?
「10年後に残るもの」を教えたいからです。
プログラミングやデザインは、創造力を活かして0から1を作る仕事。こうしたものが10年後にも残る仕事である、と考えています。
人間が機械より優れていることは何かというと、それは「創造力」と「共感力」です。この2つを活かせる仕事は当分なくならないでしょう。
しかし、タイプにもよりますが発達障害者の中には「共感」が苦手な人もいます。
共感が苦手な人に「共感しろ」と言うのは、目が見えない人に「前を見て歩け」というようなものです。
それならば、創造力を活かして価値のあるモノを創り出せるようになってもらうことで、その創り出したモノを通じ、共感を呼ぶことができると考えました。
またプログラミングができれば、そのデジタルな「言語」を通じて世界中の人と対話できるようになり、人間の脳では到底不可能なレベルで機能するコンピューターの「記憶力」と「演算リソース」も、使えるようになる。これからの時代にはますます重要になるので、身に着けてもらいたいと思っています。
■「信じるものがある国」の教育と、そうではない日本の社会システム。
--プログラミング教育の重要性は日本も国として様々な取り組みを進めようとしていますが、プログラミング教育を提供する立場として思うことはありますか?
国として明日にでも良い社会を実現できるのであれば僕らがGIFTED ACADEMYを続けなくても済みます。
しかし「発達障害の特性に配慮した、理想的なプログラミングやデザイン教育のあり方」の実現に、国が十分な予算を組んで実行するのは難しいと考えています。これはプログラミングに限らず、冒頭で述べた「良い教育」の全般に言えることなのですが。
--先ほど「オランダやフィンランドでは普通に行われている」と言われました。日本で難しいと思う理由は何でしょうか?
まず、オランダやフィンランドという国の大きな要素として「多くの国民に信仰心の自覚があること」です。「良い教育を実現しよう」と改革をするとします、従来の制度が変わるのでマイナス面も出てきます。そういう時に「信じるものを自覚している」というのはとても強い。
そして日本は本来「家父長文化」で、近代になり西洋から資本主義・社会契約的な文化が持ち込まれました。「契約文化」の国じゃないのに社会契約が持ち込まれ、本質的な文化に合わない社会システムが生まれた。まるでワイングラスにお茶を注いでいるような、中身と器が違う状態です。
「辛いことは嫌だ、起きないはずだ、守ってくれるはず」という価値観を個々人が持ってしまえば、辛いことが現実に起きたときに、怒ったり絶望したりする。しかも、全員一緒のタイミングではないから、適切な対応もできなくなるんです。
そこでGIFTED ACADEMYでは、そういった状況から脱却し、独自の経済圏の中で、新しいプログラミングやデザインの教育のあり方を「制度として実装する」イメージで取り組んでいます。
■現代社会は「OSが古い」--そこでブロックチェーンを用いた「COMMONS OS」
--独自の経済圏の中で、というのは河崎さん自身が手掛けるブロックチェーンを用いた「COMMONS OS」のことでしょうか。
そうです。
GIFTED ACADEMYは発達障害を抱える人のために新しいプログラミング・デザイン教育のあり方を実現するプロジェクトですが、先ほど述べたように既存の国がそれを十分支援するのは難しいと思います。
そこで、COMMONS OSで仮想通貨や独自の経済圏を構築する。その上に成り立つ教育制度としてGIFTED ACADEMYを実装するイメージです。
COMMONS OSは「偏りを活かせる社会をつくる」を理念としており、教育以外にも「医療」「福祉」など、社会的共通資本の制度をデザインすることを目指しています。
--社会制度が「OS」で、その上にある教育や医療、福祉が「アプリケーション」
現代社会における既存の教育や福祉などの制度は、数十年も変わっていません。社会課題に対して色々な取り組みがなされていますが、僕の考えは「OS自体がもう古い」というものです。
PCでもスマートフォンでも、OSが古ければ最新のアプリは動かないし、何をやろうとしても不自由になります。COMMONS OSはブロックチェーン技術を活用してこれからの時代に合うOS、経済圏自体を作ろうという取り組みです。
--ブロックチェーンの魅力、可能性をどこに感じているのでしょうか
僕はブロックチェーンを説明する際に--
「馬から車への変化」
「手紙からメールへの変化」
そして「国・銀行からブロックチェーンへの変化」
--と言っています。
ブロックチェーンは従来の中央集権的な「信用」を陳腐化させ、分散化する。
アメリカで大規模なテロや戦争が起きれば米ドルの信用、貨幣価値が一気に下がる。東京で同じことが起きれば日本円が、北京・上海・深圳あたりなら中国元でも同様です。
これが仮想通貨、仮にビットコインであればあらゆる世界の主要都市が攻撃されても、どこかで1台サーバーが稼働していたら価値はそのまま維持されます。分散化することによって信用の概念がこれまでの通貨と大きく異なるわけです。国や銀行が自国の通貨の信用を担保するよりも仕組みとして強い。
COMMONS OSとその上に実装される社会制度(アプリケーション)の構造
イーサリアムのブロックチェーンの上にコアOSとしてCOMMONS OSがある
■海外でも始まっている。2020年には独自の経済圏が回せるレベルにできると思う。
--COMMONS OSは現在どういった状況にあるのでしょうか?
今年の夏に北海道・南富良野町での実証実験を行いました。
Misletoeの孫泰蔵さんが取り組む「Living Anywhere」の活動として、南富良野町で廃校になった小学校を拠点にCOMMONS OSを使った独自通貨を運用し、その数日間に独自の経済圏を構築しました。
ひとつわかったのは、みんな独自通貨を「使いたがる」ということです。
日本円よりも共感経済で成立しているお金のほうが使いたくなるだろう、という仮説が実証されました。
UIや利用シーンなど、細かいところで改善点も見つかりましたし、何よりデータで分析できるので次のアプローチに繋がる仮説検証ができたと実感しています。
--海外でも地域ごとに独自通貨を発行するニュースがありますよね
スペインからの独立を目指しているカタルーニャ自治州では生協組合が発行する「Faircoin」が、イギリスのハル市では地域独自仮想通貨「Hullcoin」がはじまっています。カタルーニャなど、やはり民族性や独自の言語を元々持っている場所では導入しやすいというか、導入して独自の経済圏を構築したほうが「あるべき形」だな、と感じます。
エストニアが電子立国になっている点も、ベネズエラでビットコイン価格が100万円を超えて採掘が活発なのも近い背景を感じます。
それと比べれば、日本は比較的政府が安定していて、信用している人も多いでしょうから国全体として広まるのはもっと先かなと考えています。
--最後に。南富良野で実証実験も進め、海外でも事例が生まれていますが、河崎さんの中でCOMMONS OSで独自の経済圏を作り、その上でGIFTED ACADEMYの「良い教育」を実現できるのは、いつ頃のイメージですか?
2020年にはできると思います。
正直言うと、ほぼできあがっているので。
あと2~3年あれば、独自の社会サイクルを完璧に回せるレベルまで行くな、という実感があります。
COMMONS OSは、別に「日本限定」で展開するつもりはなくて、現時点でもエストニアの開発会社と一緒に進めていますし、必要とされるならモザンビークでもフィリピンでも場所はどこでも構いません。
独自の経済圏を作り、その上で新しい社会制度を作るべき人たちが世界中にいるでしょうから、一緒に取り組んでいきたいですね。
ついさっきもチャットで、カタルーニャで「Faircoin」を運用している人たちと「COMMONS OSの仕組みを使って、ぜひ一緒に取り組めないか」という話をしていました。
河崎純真 Jun Kawasaki GIFTED AGENT株式会社 CEO
1991年生まれ。母親は『ルパン三世 カリオストロの城』などを手がけた著名なイラストレーターであり、アスペルガー症候群であった。自身も発達障害を抱えており「発達障害者が充分に才能を活かすことができない社会」に問題意識を持つ。高校に行く意味を感じず、15歳からエンジニアとして働きはじめ、Tokyo Otaku Modeなど複数のITベンチャー・スタートアップの立ち上げ、事業売却、役員業務などを経験。直近では、Web 3D/VR(仮想現実)ベンチャー、AMATELUS Inc.(米国)にてCOOとして活躍した。離脱後、自身のライフワークであった「発達障害の人が活躍できる社会をつくること」に人生をかけて取り組むことをブログで綴っている。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)