全国の保育士の3人に1人がアクセスする保育や子育てに繋がる遊びの情報サイト『HoiClue(ほいくる)』は、今年の夏に向けてサービスの方向性をリニューアルしようとしている。
「便利で参考になる情報提供」ではなく、「こどもの“やってみたい”っておもしろい」を重視したHoiClueが描く未来とは?
保育士としての経験を踏まえ、こども法人キッズカラーを創業した雨宮さんに、今後のサービス像や保育士のスキルが社会に広く還元される社会について、お聞きしました。
■遊びのアイデア情報提供から、子どもの好奇心を探求するサービスへ
――HoiClueを始めとするサービスの概要について教えてください。
HoiClueは、保育士を主な対象とし、保育に関する情報や、子どもと楽しめる遊びのアイディアを掲載しているWebサイトです。実際に子どもと遊んだ様子や作ったものを写真に撮り、投稿して共有できるアプリの運営もしています。
多くの保育士の方にご利用頂いていますが、今後は単に情報を掲載し届けるだけでなく、よりユーザーさんとの接点を大切にしながら、 “子どもや遊びについてさまざまな立場や視点で、研究や探求を楽しめる場として幅を広げていく予定です。
――サービスの幅を広げていくのはなぜですか?
「HoiClueが本当に届けたい価値は何か?」ということについて改めて考えた結果です。
ありがたいことに、今では「よく使っています」「とても便利です」という声を頂く機会が増えてきました。
でも、単に便利なだけでは短期的な目の前の出来事の負担軽減にしかなりません。
いくら負担軽減されても、そこにこどもの姿がなかったら意味がないなと。
これって、私たちがずっとこだわりをもち続けて大切にしてきたことにも関わらず、しっかり発信できていないということに気付いたのです。
――保育士さんにとって便利、で終わらず子どもや遊びを探求するサービス。
はい、そこで改めて私たち自身の根っこにある想いを言語化、可視化しようということで、ロゴをリニューアルし、タグラインを制定しました。
タグラインは、「こどもの“やってみたい”っておもしろい」です。
この「こどものやってみたい」って大抵は、大人から見て「危ないからやめて!」「汚いからやめなさい!」と言いたくなるようなものだったりします。
例えば水たまりでバシャバシャしたり、モノを投げようとしたり、高いところに登ったり。時間や環境に制限のあるなかで過ごしている大人にとっては、受け入れがたいことばかりですよね。
――その子どもの好奇心や衝動を止めない
そうですね、できるだけ尊重したいなと思いますが、もちろん、受け入れられないことも多くあると思います。ただ、その「やりたい!」の気持ちの中に、その子自身の世界観が凝縮されているんですよね。
そしてその「やりたい!」がたくさん詰まった乳幼児期をどう過ごすか?はその後の人生に大きく関わっていきます。
だから、子ども自身の自発的な冒険心や探求心と無理なく共に楽しめることにもう少しフォーカスしたアイデアを、HoiClueを通じて保育士さんと共に探求し共有していきたいと考えています。
■子どものやりたいことを見守りながら、そばにいる大人も余裕を持つためには
――保育士さん向けのサービスであることは変わらず、子どもの姿がより見えるようなイメージが浮かびました。
保育士さん自身「子どもがやりたいことをできる限りやらせてあげたい」「いろんな経験や体験をさせてあげたい」と思っていると思います。しかし自分1人で20人、30人の子どもを見なきゃいけない状況もあるなかで、「高いところに登ってもいいよ」「泥でぐちゃぐちゃになっておもいっきり遊んでいいよ」とは言いづらい葛藤があります。
だからこそ、「できない」ではなく「どうやったら今の環境下で、子どもの「やってみたい!」を無理なく楽しめるか?というアイデアや情報を、今後深めていきたいと思っています。
――その「アイデア」というのは
例えば、子どもが楽しみたい遊びが散らかりそうだったり汚れそうだったとしたら後片付けの大変さを考えてちょっと躊躇したりしますよね。
しかし、ちょっとした工夫で「こうすれば実は後片付けが効率的になるから、散らかしても大丈夫」というようなアイデアがあれば、制限せずに楽しむことができます。
大人の事情で「だめ!」と言ってしまいがちなことを、どうすれば楽しめるか?といった工夫・アイデアを共有しあう。そのアイデアを元に、「じゃあちょっとやってみようか」と子どもとの関わり方が広がるきっかけになる、そんな場していきたいと考えています。
――1人の保育士さんが悶々とアイデアを考えるより、みんなで考えて共有する。
わたしもかつて保育士でしたが、当然子どものことが大好きで頑張りたくて、でも頑張ろうとすると肩に力が入って視野は狭くなり、結果的に余裕がなくなる側面がありました。
ネットも発達したので保育の業務効率や負担軽減する情報、勉強会なども以前よりは増えているのですが、日々の余裕がないので仕事が終わった後にそういった「学びを広げる」アクションの難しさもあるのではないかと思います。
――本当は学びたいけれど、気力と体力的に難しいわけですね。
はい、ひとつの課題だと思います。
自分自身の経験や体験が広ければ、子どもと接する際の発想も拡がるのですが、なかなかそこがうまく作用していない。だからこそ、HoiClueを見た保育士さんが「なるほどそういう考えがあるのか!」と一人では思いつかないアイデアに出会って、視野が広がるきっかけになれば良いなと思っていて、されにそれをみんなでああだこうだと深めていくような場にしたいなと考えています。
子ども自身がやりたいことを実践できて、そばにいる大人も余裕とアイデアをもって子どもと関わる。そういった環境を広げていくイメージです。
■保育士が持つ専門的スキルを広く社会に繋げていく
――保育士の負担は社会問題として取りざたされることも多いですが、雨宮さんからみて何か思うことはありますか。
施策(制度)と、それを受け入れる側の現場でのギャップについては色々と感じることはあります。例えば「キャリアパス制度」ってご存知ですか?
昨年、HoiClue通じてキャリアパス制度についてアンケートをしてみたところ、想像以上に関心を持っている保育士さんがたくさんいました。しかし、「知っているけどよくわからない」など、実際に自分たちと結びつけて考えるのが難しかったり、現場に反映するのが難しい、という実情が見えてきました。
昨年3月には保育所保育指針が改訂されましたが、これも何がどう変わったのか、実はわたし自身細かく理解するのが難しかったり、勉強する時間が持てなかったりしたんですよね。こういった部分でも、HoiClueがうまく間に入ってわかりやすく伝わるよう咀嚼したり、多くの保育士さんと一緒にどう現場に反映していくかを考えていくような場作りもしていきたいと考えています。
――国や制度以外の、例えば民間企業さんとの取り組みはいかがですか?
「保育士さんの専門性を外部と連携して価値を高める」という点で、色々な可能性があると考えています。
以前、チームラボさんがプロデュースされた「未来の遊園地」とご一緒させて頂いた事がありました。HoiClueを利用する保育士さんの遠足ツアーという形で、おもいっきり遊びながら色々な体験をさせてもらったんです。
この時、保育士さん側からは、イベントの運営時における子どもが遊ぶうえでの危険なポイントや、注意を払った方がいいポイントなどを共有させていただく、ということをしました。
――保育士さんの専門性を、保育現場の外で価値提供する。
はい、毎日たくさんの子どもたちと関わり、その成長を間近で感じている保育士さんの専門スキルは、「子育て」ともまた異なるものです。
保護者とは違う観点で「子どもが何を考えているか、次にどういう動きをするか」を予測したり、予測に応じて環境設定をできるこの専門性は「子ども」が関連するあらゆる場所と連携して役立てることができるでしょうし、保育士さん自身が自分の価値を認識し、発揮することにも繋がるのだと考えています。
■「子どものために我慢」ではなく、一緒に楽しむ社会
――今後サービスを進化させた先で、どういった未来を創りたいと考えていますか?
「子どもの“やってみたい”を共に楽しめる社会」が広がっている未来ですね。
待機児童問題や、保育士さん不足など、いまは大人の事情のしわ寄せが子どもに行ってしまっている部分が多いと思います、この部分に、キッズカラーなりの考え方で向き合いながら、何より子どもたち一人ひとりがありのままのびのびと生きて、それぞれの色で溢れるような社会を作るのがキッズカラーの役割だと考えています。
――子どもも大人も一緒に楽しむ
子どものためだから我慢、ではなくお互い自然で無理がない状態が理想だなと思います。
そのために、子どもの「やってみたい」を無理なく楽しめるアイデアや、「やってみたい」の裏に隠された子どもたちの発達について知れる環境を作る。
子どもの「やりたい」の裏には、発達の仕組みもちゃんと関わっていますので。
――発達の仕組みですか?
子どもが力いっぱいバンバン!と物をテーブルに叩きつけていたら、見ていて危なっかしいですよね。
でも、実はそれは成長過程でそのうち徐々に力加減がわかってきて、いつの間にかスムーズに物をテーブルに置くようになります。
それを知っていたら、本当はやらせてあげる工夫ができたのに、知らないと止めてしまうことってたくさんあると思うんです。
そういったことも、HoiClueをとおして共有していきたいと思っています。
――自然と子どものやりたいことをやらせてあげている、コミュニケーションが上手な大人もいるなと思うのですが、そういった方がもつ「秘訣」はなんだと思いますか?
「自分も昔はそうだったな」という感覚を持てるかどうかでは無いでしょうか。
大人は全員、子どもの頃を経験しています。危ないからダメと言われても、高いところにのぼりたくなる気持ちが実はわかる。
ダメと言われればやりたくなる気持ちもわかる。
子どもと接していて、ああ自分も小さい頃こうだったと記憶が蘇ると、自然と子どもとの距離がちょっと近くなる。
結果的に子どもの「やりたい」を叶えられなかったとしても、やりたかった気持ちに共感できたら、「じゃあ今度やってみよう」とか、「別のものに変えてやってみよう」とか、代替案を提案したり、少し寄り添うことはできると思います。
――HoiClueがそこに繋がる
はい、だからそんな時の代替案やアイデアだったり、「大人もおもわず一緒にやってみたくなるあそび」のタネも、HoiClueで共有していきたい思います。
そして、サービス上で展開するだけでなく、保育の知識や経験、専門的ノウハウを社会に繋げる役割を、担っていきたいと考えています。
雨宮みなみ(あめみやみなみ) こども法人キッズカラー 代表取締役CEO。
中学時代から保育士を志望し、20歳から認可保育園などで6年間勤務。2010年、保育士経験を生かして保育士支援、子育て支援事業を行うこども法人キッズカラーを設立。保育や子育てに繋がる“遊び”情報サイト『HoiClue♪(ほいくる)』の運営を行う。2014年に第一子を出産。保育士資格、幼稚園教諭二種免許、社会福祉主事任用資格所持。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)