最先端のIT技術で「電子政府インフラ」を実現しているエストニア。
人口わずか134万人の小国は、いま世界中から注目を浴びる「未来の国家」となっている。
このエストニアの電子政府を支える技術をブロックチェーンと組み合わせ企業間のデータベースを繋げ、個人も含めたアクセス可能な仕組みを構築しているのがPlanetway Corporation
本社アメリカ、東京と福岡の支社、開発は全てエストニア。社員の半数以上がエストニア人。
ユニークなチーム構成で「100年先」の事業を創る同社CEO平尾さんにお話を聞きました。
■エストニアの技術、日本での品質検証、そして世界へ
――Planetway社の主力事業について教えてください。
「PlanetCross」という、各企業のデータを分散型で相互接続し、データの完全性とセキュリティを担保した情報連携基盤と、その必要なデータを手軽に個人の方が参照できる「PlanetID」という仕組みを展開しています。
また今年5月には「PlanetEco(オープンイノベーション事業)」と「PlanetGuardians(グローバルホワイトハッカー育成事業)」も発表し、会社全体で掲げる「for a human centric and secure planet(人が中心で安心して生活できる世界)」に向けてさらに展開していく予定です。
――本社はアメリカ・サンノゼで、役員やアドバイザーにもエストニアの方が多く、CEOの平尾さんは日本人。ユニークなチーム構成ですよね?
たしかに社員の半数以上がエストニア人ですし、開発拠点もエストニア国内のタリン(Tallinn)、タルトゥ(Tartu)にあります。
エストニアで開発したものを日本国内で展開し、「日本で求められる品質」に仕上げつつPoC(Proof of Concept)の検証を行い、その後世界展開するというプロセスで進めています。
ちょうど昨年から取り組んでいた福岡エリアや東京海上さんとの実証実験に区切りがついたので、いよいよグローバルプラットフォーム展開の準備段階という状況です。
――昨年の実証実験で試したことをおしえてください
「待ち時間やたらい回しの無駄をなくそう」というコンセプトで医療機関のデータと保険会社をPlanetCrossで連携し、保険の請求から支払いが1クリックで終わる。というものを検証しました。
手書きの申請も不要で、申請から支払いまで掛かる数か月のタイムラグも圧縮する。
これは毎年膨大なコストを掛けている保険業界のオペレーションコスト削減にもつながりますし、保険会社が病院にある支払い対象者の情報にアクセスするため、手間も軽減されます。
支払い対象者は、アプリで通知された「保険会社にあなたの病院情報・通院履歴の参照を許可しますか?」にYesかNoを選択するだけです。
この「ユーザーが自分の意思で個人情報を誰に出すか?を決められる」部分が、 PlanetCrossの大事な部分で、個人のメリットも創出しながら、保険会社側のオペレーションコストを大幅に削減する事も期待できます。
――実証実験に参加された企業からの評判はどうでしたか?
保険会社さんからの評価は非常に高く、ただAPIで連携しているだけの状態よりも格段に使い勝手がいいと言って頂きました。
モジュールをインストールしている企業間同士なら簡易設定を変えるだけでデータ公開のボリュームをチューニングすることができる「ビヨンドAPI」という仕組みなのですが、実際にうまく稼働していました。
■PlanetEco(オープンイノベーションPF) 企業の利活用、研究
――逆に実証実験で発見した「改善点・課題」があったら教えてください。
「参加する全ての企業にメリットを感じてもらう」部分ですね。
今回の実証実験は、保険会社さんや保険料を受け取る個人のメリットが大きい一方で、病院側のメリットは少なく、デジタル移行することで「損しているのでは?」とすら考える人もいます。
社会に広く使ってもらうための仕組みとして、あらゆる企業を巻き込むために「みんなメリットを感じられる仕組み」が大事だと再認識しました。
そうなると、保険会社と病院を連携した保険料支払いプロセスのデジタル化に限らず、例えば調剤薬局や食品流通も連携した「デジタルヘルスケア全体」というレベルでやるべきですし、そこに参加するのは民間企業だけでなく研究機関もあるでしょう。
個人にとっても「保険料が下りる人だけ受けられるメリット」ではインパクトが小さい。
普通に生活している多くの人がメリットを感じられるレベルで産業を巻き込まないといけない、と感じました。
――それが今回5月に発表された「PlanetEco」の仕組みに繋がる。
はい、デジタルヘルスケア以外にもフィンテックや自動運転など多くの産業から打診を頂いているので、それなら全ての産業にオープンイノベーション型の一つのプラットフォームを提供して、多くの企業・団体に参加してもらおうと考えました。
各企業もアマゾン、マイクロソフト、とデータ基盤が異なるので、その状況でも連携できるように共通基盤を提供し、プラットフォームに依存しない形でオープンイノベーションに取り組んでもらおうと考えています。
――そのプラットフォームの利用料などはどうなるのでしょうか?
一応プラットフォーム利用に対してトランザクションでマネタイズする予定ですが、現時点では一律の価格設定にするつもりはありません。
理由は、先ほどお話した保険会社なら元のコストが1000億円規模になりますが、ネット系ビジネスだとそこまで掛かっていないなど、プラットフォームの価値は業界によって異なります。
保険や医療、金融など大規模な業界以外の企業にも使ってもらうため、例えば業界ごとに価格設定を分けるとか、もしくはアクセスするデータの秘匿性に応じた価格設定などを検討しています。
――データの秘匿性での設定とは?
アクセスが困難で、秘匿性の高い、例えば医療における電子カルテデータがありますよね。
こうしたデータは1件単位での価格設定を行い、比較的データ1件あたりの秘匿性が低いものについては価格を10分の1にする、といったことを検討しています。
また同時にデータの元となる「個人」にもメリットを提供できるように準備しています。
提供された個人情報のボリュームに応じて、一定のサービスを無料で受けられるような、ある種の「ベーシックインカム」モデルです。
例えば産業活用のために自分の医療情報を提供した人は、生活において必要最低限の医療サービスを受けやすくする、とかですね。
■日本国内での侵入件数、年間1,261億件
――今回「プラネットガーディアンズ」というホワイトハッカー育成事業も発表されましたが、これはどのような経緯で始めることになったのでしょうか?
2016年の日本国内で、「外部からのパケット侵入件数」がどれくらいあったかご存知ですか?
年間1261億件です。その前の年は500億件、とてつもない規模で増加しています。
そして日本国内におけるサイバーセキュリティ人材は2016年時点で16万人不足と言われていて、2020年には20万人不足すると予測されています。
「これからはサイバーセキュリティが重要な時代」というのは多くの人が感じています。
しかし実際は悪意を持つブラックハッカーが爆発的に増えていて、その脅威から守るホワイトハッカー人材は加速度的に不足しています。
――いわば犯罪者が増え、警察やレスキュー隊は不足し、治安が悪くなっていく状態。
しかも個人レベルではなく、国が組織的にハッカーを支援するケースもあります。
僕らが作ろうとしている情報基盤は何よりも「やりとりされるデータの秘匿性」が重要です。
万が一のことがあった時に守る警察・レスキュー隊を増やさなければいけません。
もちろんホワイトハッカー的に活動している人はいますが、その大半は別に本業を持つ方の善意やボランティアで成り立っていて、このままでは限界です。
ホワイトハッカー育成事業は、うちのエストニア人のCTOが主導してホワイトハッカーを育成し、しっかり報酬を得て社会から憧れられる職業にしていこうという取り組みです。
――そこにCTOだけでなくエストニア政府や識者の協力を仰ぐ
はい、エストニアはかつて2007年に電子政府インフラを作ったあとロシアから攻撃を受けましたが、情報漏洩件数はゼロ、完全に小国が大国に対して防衛に成功しその技術力を証明しました。
育成プログラムには、元NATOのサイバー防衛センターのシニアフェロー、元国際諜報機関のハッカー、国際警察機関のセキュリティトレイナーをしている人たちが参加し、まずは彼らの知見を日本で活かす仕組みを作り、ゆくゆくは世界のスタンダードなものにしていこうと考えています。
――まずは育てて、その人たちを日本国内で活躍させる。
ですが、現状日系企業においてサイバーセキュリティやCISO(最高情報セキュリティ責任者)の地位はあまり高くありません。まずは現状と課題を認知してもらい、「今後はこういう人材の育成や採用が企業にとって重要だ」という問題提起をしていく予定です。
育成プログラムを修了した人にはプラネットガーディアンズとしての認定書も発行します。
元NATO、国際諜報機関、国際警察機関のトップハッカーが推奨したセキュリティのプロ、となれば企業側もその人材を見る目が変わると思うんです。
――ホワイトハッカー育成に協力してほしい、とどうやってエストニアの人たちを誘ったのか教えてください。
純粋にビジョンに共感して頂きました。
データの主権を個人に返して個性や文化そのものの価値を生み出そうとか、資本主義を変革しよう、というビジョンを伝えるとすぐに「面白いね、僕らに何かできる?」って反応して、そこからは「この技術を使ってみよう」とか「エックスロードの技術を応用してみよう」と自然に議論していました。
■100年先の資本主義や経済をデザインする発想
――プラネットウェイのスタッフの働き方というか、社内文化のようなものはありますか?
あまり1つのスタイルにこだわらない点です。
例えば僕はいま日本の顧客が多いので本社よりも東京によくいますし、仕事が進められるならハワイ在住でも構わない。
普段はエンジニアだけどやりたいのならビジネス部分にも参加できるし、そういう自由度が高くてむしろその環境で活躍できるタイプの人が合うと思います。
――毎日オフィスに出社して・・という働き方ではなく。
もちろんそういう人もいますけどね。
ただ「少し違う視点で考えられるかどうか」は求められると思います。
会社として一応「15年かけて時価総額200兆円を目指す」という形にはしていますが、それは目標というより入口でしかなく、「資本主義の問題点とはなにか?」みたいな視点が必要だと思います。
だから、中には人からの評価が賛否両論あるよう人もいますよ。
普通のビジネスの現場では評価が凄く低いのに、別の面で凄く突き抜けているみたいな人。
――アクが強くて突出している。
うちのCTOも「世界的なエンジニアでホワイトハッカー」なので凄そうな経歴ですが、一方で過去には一緒に仕事した人たちから訴訟を起こされたりもしています。
とてつもない人って、どこかバランスが悪かったり欠落している部分があると思います。
だから市場が伸びるかどうかより、「100年先の資本主義や貨幣経済をどうデザイするか」が重要というか。
――「100年先」という視点は、平尾さんがかつて一緒にお仕事されたソフトバンク孫さんからの影響もあるのかな?と思いました。
たしかに「年間200個アイデア出して2個だけ採用」みたいな孫さんの近くでビジネスした経験もありますが、いまアドバイザーとして参画頂いている元ソフトバンク副社長の松本さんからの影響が大きいかもしれないです。
一緒に仕事して、濃い時間を過ごし、最後は会社の清算も経験して、「世界の半導体や太陽光を変える」と言ってたら昨日まで味方だった人が今日から敵になる、といった事を共に経験しました。
松本さんの「何100年続く事業をどう創るか」を考えつつ、トレンドの流れを掴んで最速で「これだ!」と獰猛に食らいつく、この「次の10年じゃない、100年だ」の感覚は、受け継いでいるかもしれません。