自分の体に必要な栄養素を過不足なく摂取するというのは、簡単なようで実は難しいもの。そもそも何の栄養素がどのくらい必要なのかを多くの人は把握できていません。かといって、やみくもにサプリメントを飲めば栄養素を過剰摂取してしまう可能性も。
こうした栄養管理の課題を解決すべく、世界初の栄養検査サービスを展開しているのが株式会社ユカシカド。尿から栄養状態を細かく知ることができるパーソナル栄養検査サービス『VitaNote(ビタノート)』を手がけており、2018年8月には約2億円の資金調達を達成しています。
「誰もが気軽に栄養検査ができる世界を目指したい」と話すユカシカド代表の美濃部慎也氏。彼らが起こそうとしている“栄養革命”とはどのようなものなのか、お話を伺いました。
食事調査や血液検査では難しかった「栄養の定量評価」を実現
自宅で手軽に栄養検査ができるサービス『VitaNote』。検査キットを取り寄せて、朝一番の尿を採取したらポストに投函。数日後にスマートフォンやPCのマイページから栄養検査の結果を閲覧できるという仕組みです。
たんぱく質、ビタミン7種類、ミネラル6種類の摂取量に加えて、酸化ストレスを測定。結果は栄養バランスの過不足がレーダーチャートで表示され、栄養素ごとにどのくらいの量が不足、あるいは過剰になっているかを数値で教えてくれます。さらには、栄養バランスを改善するためにどんな食事を摂取すればいいかといったアドバイスも。ここまで細かく、かつ正確な栄養検査を実現したのは『VitaNote』が世界初です。
「従来の栄養状態を知るための検査は、大きく分けると食事調査と血液検査の2つがあります。食事調査は食べたものを記録して、栄養成分表と照らし合わせて摂取量を割り出すというもの。これは記憶に頼る部分が大きく、季節や調理法によって食材の栄養素が変わるため、正確な把握が難しい。血液検査は明らかに栄養が足りていない欠乏症の状態を知ることはできますが、病気ではない人の“ちょっと不足している”“取り過ぎている”といった栄養状態を知ることはできませんでした。
これに対して、尿中の代謝物を解析することでどの栄養をどのくらい摂取しているかを細かく把握し、定量評価を可能にしたのが『VitaNote』です。滋賀県立大学との共同研究によって実現した最先端の技術を用いて、専用の検査センターで解析をしています。これに近いサービスは海外でもまだありません」
目に見える改善結果が行動変容を促す
自分の栄養状態を正確に知ることができる『VitaNote』。検査の目的はさまざまですが、なかでも多いのが「原因が分からない体調不良に悩んでいる」という方。そして、高いパフォーマンスを求められるアスリートです。
「なんとなく疲れやすい、だるい。そうした不調を改善する方法を調べているうちに『VitaNote』を知ってくださって、食生活改善のきっかけとしてまずは栄養検査をしてみようという方が多いです。アスリートの場合はもともと栄養に対する意識が一般の方よりも高く、バランスも整っているのですが、より良いパフォーマンスを発揮するために栄養状態を正確に管理する目的で使ってくださっています。
こうした方々は実際に『VitaNote』を使っていただくとすごく感動してくれるんです。自分の栄養状態がはっきりと数値に出て、不足している栄養を摂取することで次回の検査では栄養バランスが改善される。結果が目に見えるため、行動変容を促すことができるのが『VitaNote』のメリットの1つです」
ユカシカドでは栄養検査の結果をもとに、その人に足りていない栄養素を配合したテーラーメードのサプリメント『VitaNote FOR(ビタノート フォー)』も展開しています。自分に必要な栄養素だけを無駄なく適正量摂取することができるので、サプリメント選びに悩んでいる人などに利用されているそうです。
「食」がすべてのベースになる
『VitaNote』をはじめとしたユカシカドの栄養管理のサービスは現在各方面から注目を浴びており、さまざまな企業から提携の話も届いているとのこと。将来的には人々の栄養に対する意識を変え、“栄養革命”を起こす可能性を秘めているユカシカド。そもそも美濃部氏はなぜ「栄養検査」という事業に着目したのでしょうか。
「僕は大学時代にアメフトをやっていまして。最先端のトレーニングを取り入れて、栄養面の指導にも力を入れていたチームだったのですが、栄養管理は経験に依存している部分が大きいと感じていたんです。例えば、たんぱく質は体重1kgあたり2g摂ることをすすめられていたのですが、そもそも体格もトレーニング量も違うのにみんな同じ量で本当にいいのだろうかと、違和感を持っていました」
従来の栄養管理に対する疑問を感じていた美濃部氏は、アメフト部を引退後、大学の先生のすすめもあって途上国を見てまわることに。
「フィリピンのスラム街に行って地元の子どもたちにインタビューをしました。『将来自分の店を持ちたい』『歌手になりたい』と夢を語ってくれる子もいたのですが、周りの大人たちは『そんなの無理だよ』という様子で。その原因が貧困だとしたら、どうしたらその状況を変えられるかと考えたときに、衣食住の中でも一番大事なのは食だと思ったんです。自分の栄養状態を知らない、健康になるために何を食べるべきかを知らない。それらを正しく知ることによって初めて、将来につながるベースができるのではと考えました」
この経験が原点となり、栄養分野での事業設立を志した美濃部氏。将来的な起業を目指して大学卒業後はリクルートへ入社しました。その後、食品事業に携わりたいと考えていたタイミングで、野菜宅配の事業を手がけるオイシックスへ出向することに。その経験を生かして、2013年にユカシカドを設立。『VitaNote』の開発をスタートさせました。
「将来的には、途上国の子どもたちが気軽に栄養検査を受けられるようにしたい」と美濃部氏。そのために必要なのは、日本国内でより多くの人に『VitaNote』を活用してもらうことです。
まずは日本で、誰もが気軽に栄養検査を受けられるようにすることが第一歩です。『栄養検査』という言葉自体がまだまだ世の中に広まっていません。今みなさんが当たり前のように毎年健康診断を受けているように、年に数回は栄養検査を受けて食生活を見直すことが習慣になるようにしていきたいと思っています」
栄養検査のインフラ化を目指す
「栄養検査を社会のインフラとして根づかせたい」と話す美濃部氏。今後は『VitaNote』のサービスを改善していくことに加えて、世の中に正しい情報を伝え、栄養に関するリテラシーを高めていく取り組みも重視していくとのこと。
「メディアや口コミなどで新しい栄養素が話題になると『それだけ摂取すれば健康になる』と思ってしまう方もいますが、一番大事なのはビタミン、ミネラル、タンパク質、脂質といった基礎栄養なんです。基礎栄養をバランス良く摂取するということを、みなさんに改めて見直してほしいと思います。
栄養を管理することで生活の質、仕事やスポーツのパフォーマンスが上がります。僕たちの『VitaNote』がそのきっかけになればいいと思っていますし、『VitaNote』に留まらず、人々の栄養を改善していくための取り組みを今後も行っていきたいと考えています」
近年、健康市場にさまざまな企業が参入し、業界を問わずヘルスケア分野のサービス開発が進められています。栄養の分野でリードするユカシカドの動向に注目していきたいところです。