共に会社を大きくしてきた取締役の杉山様、取締役技術部長の秋山様と(向かって左・右)
内閣府の推進するSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の一つに「次世代海洋資源調査技術」が含まれているように、海洋国である日本の海に対する関心は、近年改めて向上してきているように思われます。
そうした日本の海洋産業を「後進国」と警鐘を鳴らし、業界の再編を推進している企業があります。微生物分析・海洋調査・輸入技術商社・計測機器開発メーカー等、海洋に関する事業会社8社のグループ会社がシナジーを生み出すために横串を刺している持ち株会社、タキオニッシュホールディングス株式会社代表の鈴木さんにお話を伺いました。
経営者として海洋産業の再編統合に挑戦したい、と思ったのがキッカケ
前にいた会社は金属加工の会社だったのですが、海洋事業もやっていました。本社が静岡県の清水にあったものですから、清水港もあれば駿河湾もある。ですから何かしら海に恩返しをしたいというオーナーの意向もあってのことでした。
ただし、海洋産業にかかわる会社は多くが零細企業で、どこも経営に苦労していることは肌で感じていました。経営者として上場を経験し、ある程度の規模に出来たと感じて次のステージを模索していた時に、「みんな苦労しているのだとすれば、再編統合すれば市場がつくれるのでは」という仮説をもとに海洋産業に本気で入ってみるか、と思ったのが今の会社のキッカケでした。最初はCFO1名、CTO1名、それから私の3人でMBOをやった会社1つから立ち上げました。
創業当初からグループ企業の一つである日本海洋株式会社の特殊潜水服など
「垂直統合型」のM&Aでグループとしてのシナジーを生み出す
海洋産業っていうのは本当にマーケットが小さいんですよ。陸上の産業と比べたら10分の1もないくらいだと思います。当然、大手も海洋産業に参入していますが、多くが「水平分業型」でした。例えば運輸をやっている大手企業なら「運輸の海洋部門だ」とか、そんな考え方です。それはマーケットサイズが大きければ効果を発揮すると思うのですが、海洋産業はそうではないと私は思っていました。初めからM&Aの方法を「垂直統合型」と考えて対象の企業を選定していきました。
私は、日本は「海洋産業後進国」だと思っています。魚を獲ることは上手ですが、こと海洋資源に関しては欧米の先進国に大きく後れを取っていると思っています。だから海外から学ぶしかないわけで、海外から良い商品を持ってきて国内に普及させようと。それで輸入商社を持ちました(日本海洋株式会社)。学んだ分を実現するためにメーカー機能を持っていないと、ということでメーカー機能も持ちました(株式会社ソニック)。このメーカーで開発した商品や、輸入した商品が使えるかどうかを評価できるフィールドを持つ必要を感じて企業を組み入れ(海洋エンジニアリング株式会社。旧:芙蓉海洋開発株式会社)、調査できる企業もグループに入れました(沿岸海洋調査株式会社)。また、メーカー機能を実現するには様々な技術が必要なので、必要な無線技術を持つ会社も傘下に収めています(日生技研株式会社)。
こうして規模を大きくしていくと優秀な人を採用することも出来るし、開発投資をすることもできます。関連会社も全くのド素人ではなく、海の計測なんかもわかっているグループ会社なので相乗効果も出しやすい。投資をすると目に見えて会社が変わっていくので、買い取られた企業はみんな良かったと思っていると思います。あるグループ企業はすぐに売上が倍に、利益が倍以上になったくらいですから。
「垂直統合」を実現するための技術に立脚した複合事業構成モデル概念図
世界トップクラスの製品実現のため、技術陣も再編
先ほど「日本は海洋産業後進国である」と申し上げましたが、メーカー機能を持つソニックを買収した時は、正直言って技術的にはかなり低いレベルでしたね。それから開発の技術陣を総入れ替えに近い形で再編しました。ソニックで扱っている超音波技術は気象、海象、水産、工業と様々な分野に渡りますが、一つ一つ特性が異なりますし、技術資源も異なります。何より家電製品のような定型規格がなく、その都度その都度のオーダーメイド製品なので求められる技術要求がとても高い世界です。尚且つ先方の要望を聞いているだけではだめで、ROIを理解できるようなビジネスセンスも必要です。地道に実力のある技術者を招き入れて、その人たちが「今までにないものを創ろう」と情熱をもって2~3年かけて超音波の特性なんかも解ってきて、それで世界トップクラスの製品がようやくでき始めてきたところですね。
ソニックの製品のひとつ「小型ドップラーソーダKPA-300」。地上から上空の風向風速を分析できる。
航空機の着陸の際の風況確認や局地気象観測などの活用が期待される。
業界内の異端児として、世界の海洋産業にインパクトを与えたい。
近い将来、我々が出て行かないといけないのはアジア市場だと考えています。グループ企業全てがアジア市場に出ないといけないと思いますね。海洋国である東南アジア諸国などは、海の流れを測ることが海運上非常に大切なことなのですが、まだ測り切れているとは言えない状況です。当社は国内でほぼ独占的に国交省の主要な港に潮流を測る機器を収めていますが、東南アジア諸国にとってはまだ高価なものです。そうした国々に安い機器を投入することで市場は伸びていくのではないかと思っています。アジアの次は中東、それからアフリカにも進出していきたいですね。
当社の垂直統合型モデルは国内の業界では異端児と呼ばれています。当社の成功を見て、ライバル会社が三社連合を組んでビジネスモデルを真似る動きもあったりしたのですが、上手く行きませんでした。「上手くいったときのモデルは誰でも分かる。上手くいかなかった時のケースも当然考えなくてはいけない。その時に三社でどうやって責任とるんだ。」と思っていたのですが、案の定そうなりました。なので、国内の業界ではライバル企業はまだ出て来ていません。私は業界内にインパクトを与えたいっていうよりは、世界の市場にインパクトを与えたいって思ってます。だから、業界内は異端児でいいやって思っています(笑)
左から波の高さと流れの速さを測る「海象計」、潮位(水位)を測る「デジタル式フース型検潮器」、波の高さを測る「超音波波高計」。数々の優れた製品をアジア諸国でも手の出る価格で拡販していくことが構想されている。