日本におけるイノベーション創出を加速させることを目的とし、2017年6月に設立されたOPEN INNOVATION コンソーシアム。
その2回目となるミートアップイベント「OPEN INNOVATIONコンソーシアム MeetUp Vol.2」が12月8日、東京・大手町で開催され、大手企業の経営企画・新規事業開発担当者を中心に多くの参加者が集まり活況を呈しました。
当日は、コンソーシアムを運営するCreww株式会社、株式会社ビザスク、リンカーズ株式会社、アスタミューゼ株式会社、パーソルキャリア株式会社、Aniwo株式会社の6社による会社紹介のあと、大手企業3社による事例紹介とパネルディスカッションが行われました。
その模様をレポートします。
オープンイノベーション実施企業として、富士通株式会社の塩谷愛氏、TIS株式会社の天野善仁氏、NTN株式会社の沖芳郎氏が登壇し、自社の取り組みについてプレゼンテーションを行いました。
富士通株式会社 マーケティング戦略本部 戦略企画統括部 ビジネス開発部 塩谷 愛氏
日本全国、海外も含めて飛び回る日々ですが、まずいつもお伝えしているのは「友だちになってください」ということです。
「富士通アクセラレータプログラム」の運営に関しては、すべて自社で開発しており、すでに5期目を迎えました。
オープンイノベーションの対義語としてクローズドイノベーションという言葉がありますが、富士通はこれまでクローズドイノベーションの会社でした。富士通研究所というところで基礎研究を5-10年行って、さらに5-10年かけて世の中に出していく、ということをやっていました。自分たちがすべて作って、売って、利益を出すということです。
しかし最近では、自分たちが研究している間に似たような商品が世の中に出てしまう、
特にスタートアップが商品・サービスを素早く出してしまったり、いままで5-10年売れていた商品が、下手をすると半年で売れなくなるといった問題が起こるようになってきました。その中でクローズドの時代が終わったのではないかと思い、オープンイノベーションという言葉を掲げるようになりました。
富士通グループの強みとして、国内に約17万社のお客様と、そこにサービスを届けるための仕組みを持っている、ということがあります。世の中のスタートアップと組みながら、我々の持つリソースとマッチングして新規事業を生み出すのが「富士通アクセラレータプログラム」と位置付けています。
募集・応募のフェーズから、ピッチコンテスト、マッチングまで、協業検討期間3ヵ月の間、週1回ペースでMTGを行っています。これまでの実績でいうと、4回のピッチに60社が登壇し、そのうち30社と協業検討、20社とプレスリリースを出したり共同開発を行なったりという成果を上げています。
心がけていることとしては、期限を決めるということと、事業部門・担当領域のトップがコミットする、ということがあります。やはり3ヵ月間の間に結果を出すということを決めておかないと、次の打ち合わせは3週間後とか、2週間後とかいったことになってしまいがちです。そうならないように、明確なゴール設定をすることが重要です。
また、週1回のMTGに関しては、CXOや本部長、役員クラスの方に出てもらうようにしています。
次にオープンイノベーションに向いている人材についてですが、夢の無い人はダメです。協業によって何を実現したいかが明確でない人や、実績にこだわる人、リスクばかり指摘する人にはこのプログラムには関わらないようにしてもらっています。
夢を語ろう、ということをよく言っていますが、スタートアップは夢に向かって一緒に歩んでくれる仲間です。新規事業には当然リスクがつきもので、それをどれだけ富士通がかぶることができるのか、ということが重要です。
あいまいな人もダメです。スタートアップがダメなのか、社内の調整がだめだったのか、決断を早くしてフィードバックしていくことが大事だと思います。
TIS株式会社 インキュベーションセンター 天野善仁氏
私の所属するインキュベーションセンターは、2015年4月に設置され、2016年4月から本格始動しています。
事例としてご紹介するのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)が手がけるアクセラレータプログラム『LEAP OVER』で、TIS株式会社はパートナーとして参画しています。
プログラムの強化分野として「LIFE」「WORK」「Community/Local」という3つのカテゴリがあり、このなかでTISは、「LIFE」と「Community/Local」の2領域における社会課題の解決に参画しています。
フローとしては、ビジネスアイデアからMVP、モックアップを作り、最後にデモデーを迎えるという流れになっています。
我々にとってこのプログラムの魅力とは、スタートアップ側だけではなく、事業会社側のマインドセットのサポートをしてくれるということと、三菱UFJネットワーク力です。オープンイノベーションの流れ自体は10年ほど前からありますが、たとえば自治体とか、すぐに動いてくれる相手がいるかどうかということは重要です。そういった意味で、三菱UFJとしての総合力を持っているというのは大きいと思います。
このプログラムは11月から始まっていますが、ILS(イノベーションリーダーズサミット)というイベントでマッチングした会社の中からこのプログラムに寄せていく、といったこともしています。
また、社内で「デザインスプリント」という社内のセミクローズドイベントから、「アイデアスプリント」というアイデアに特化したイベントを開催しており、その中からも1社選定しています。
他にも我々が運営するコワーキングスペースに集まっている会社の中からも1社選定し、合計16社を選定、実際にプログラム開始しているのが11社になります。
プログラムには、三菱UFJのファシリテーターが15名程度、各スタートアップの担当者、TISの事業部から、技術および企画のメンバーが7名参加しています。
TISが提供しているものとしては、顧客基盤を活用して行う実証実験や業務のナレッジに加え、資金面でのバックアップといったものがあり、プログラム中に何社かに資金を提供しています。また、自社のコワーキングスペースやクラウドサービスの提供、人材(エンジニア)の出向制度も行っています。
NTN株式会社 新商品戦略本部 商品化戦略部 部長 沖芳郎氏
NTNは軸受(ベアリング)メーカーで、来年3月に100周年を迎えます。本社は大阪にあり、軸受および等速ジョイントの開発,製造,販売を行っています。グローバルで従業員約2万3000人、売上高は約7000億円程度で、33ヵ国227拠点のグローバルネットワークを持っています。
主要製品は自動車関連が約70%で、ハブ軸受、等速ジョイント、ボールベアリングにおいて高市場シェアを持っています。
2015からの3年間は、次の100年に向かって中期事業計画「NTN100」を進めており、今年が最終年にあたります。当社は基盤技術、基盤製品の軸があり、この軸で如何に他社優位性を築くか、領域を広げていくか、を考えています。併せて、基盤技術を活かした4つの新たな事業領域での広がりにも挑んでいます。
4つの新たな事業領域とは、「エネルギー事業」、「EV事業」や「ロボット関連事業」、そして軸受のセンサー化や振動のモニタリングによって得られるビッグデータを活用したサービスを提供する「サービス・ソリューション事業」です。これらについて自前技術だけではスピーディに製品実現をすることはできません。産学連携も積極的に実施していく方針です。
2016年度に「エネルギー事業」と「EV事業」は商品化のメドが立ち、事業部にすることができました。「エネルギー事業」では、ベンチャー企業から特殊な羽根専用実施権を得て、数KWの風力発電の装置を開発しました。静音かつ高効率性でコミュニティにて使える発電装置です。2016年から販売を開始しています。
また、基盤技術の強化、さらに最先端技術の取込みをひとつの目的として大阪大学内に「NTN次世代協働研究所」を設立させていただいています。
3社による事例紹介に続いて、Creww水野氏の司会進行によりパネルディスカッションが行われました。(※敬称略)
水野:
新規事業という軸で考えたときに、クローズドイノベーション中心の日本企業の中で、オープンイノベーションに取り組もうと思ったきっかけは何でしょうか?
塩谷:
先ほどもお話したとおり、気づいたものはすぐに取り入れることができ、新しいものにどんどん取り組んでいかないといけない時代なので、アイデアのレベルでも事業というレベルでも、自前だけでやる時代ではないと思ったのがきっかけです。
天野:
TISとしてというより、インキュベーションセンターとしての仮説ですが、SI事業自体は右肩上がりではあるものの、新しいことやらなければ厳しいのではないかという思いがありました。
しかしそれを内部でやろうと思うと調整コストがかかります。資金の調達にしても人の調達にしてもハードルが高く、社外と進めるほうが早いという背景がありました。
沖:
企業は持続的成長をしなければならないと考えています。そのためのひとつとして、新しい領域を設定しています。そこでの製品実現はスピードアップが必須なため、連携して補填しあう、助けていただくというのが背景と目的です。
水野:
今回、登壇していただいた3社の方々は、実際にオープンイノベーションに取り組まれており、富士通はeiicon、TISはAniwo、NTNはアスタミューゼとの取り組み実績があります。それぞれ、どういった軸でパートナーを選ばれたのか、判断基準をお聞かせください。
沖:
アスタミューゼは、科学的解析をされる、科学的根拠をもって提案していただけるということを判断し、他社とも比較の上、契約しました。
天野:
Aniwoとは1年くらい前、当時国内ではCrewwとご一緒していましたが、海外に関してはAniwoということになりました。その頃はまだインキュベーションセンターのメンバーはまだ4~5名で、国内ですら知名度がなく、もっとアピールしなければという事情がありました。
なぜAniwoなのかというところでいうと、我々もスタートアップに近い形でやっていたので、親和性が高かったというのがあります。また、シリコンバレーにはすでに拠点があったので、まずはイスラエルに行ってみよう、というスタンスもありました。
塩谷:
eiiconと取り組んでいますが、「いまは」eiiconとやっています、というのが正確だと思います(笑)富士通に転職してきて1年半、ずっとインキュベーションをやってきて、Plug and Playなど色々なところとの取り組みがあります。いまはeiiconとの取り組みで良い結果を出しているので、継続して契約しているという状況です。
知見であるとか、外部連携していくにあたって、eiiconだとマッチング精度が高く、もっとはっきり言うと、費用対効果が高いというのが選んだ理由です。
水野:
大手企業が、社内で外部連携しようというとき、社内で上手く推進するのが難しいというのがよくある話だと思います。会社としてコミットしてもらう、コンセンサスを形成することの難しさについてはいかがでしょうか?
塩谷:
社内のトップの意識改革を自分たちのチームで行う、というところから始めました。ここ10年こういった仕事をしていますが、いちばん大事にしているのがマインドセットです。
マインドセットにはグロース・マインドセット(しなやかなマインドセット)とフィクストマインドセット(硬直したマインドセット)の2種類がありますが、プロジェクトの関連メンバーと、どちらのマインドセットでいくのかを議論しています。
天野:
当初、社内的には目立たない形でしたが、CrewwやAniwoと組んで変わったと思います。Crewwと組んだのをきっかけに社長プレゼンなどをするようになり、外部からのフィードバックも得られるようになりました。さらにAniwoとの取り組みも始まって、国内外でベンチャーを集められるというのが認められ、少しずつ輪を広げていったという経緯があります。
沖:
関係部門との調整とともに、技術担当役員に相談して社内の戦略会議にて合議いただいています。
水野:
どうして自前でやらないんだ、といったような声はなかったのでしょうか?
沖:
オープンイノベーション自体は、すべてR&Dの一環だと考えています。
ただし、かかる費用はそれぞれ違うので、精査は必要になってきます。
水野:
なるほど。他のお二方は、社内の反対意見に対してはどのように対処されましたか?
塩谷:
富士通の場合だと、事業部を選択するときのマッチングが重要です。何百もの事業部がある中で、どの事業部が本当にやりたいと思ってくれるのか、ということです。
天野:
トップに認めさせれば潰しにくくなる、というのはあると思います。もしくはお客さまと先に仲良くなっておく、といったやり方で事業部と連携していくようにしています。
水野:
ところで、皆さまは社内ではどのような存在だと思われていますか?
事業部からすると、10年後の事業よりも今月の売り上げ、といったスタンスが多いのではないかと思いますが。
沖:
進捗に対する上層部からの関心は強いですね。
基盤事業と新規事業間の競争と協力の意識が、将来の成果に繋がると考えています。
天野:
人次第で変わってくると思います。最初は新規事業自体がやりたいというモチベーションのある人間が集まって、それからこういったイベントに事業部の人間が参加するという行動レベルでの変化があり、いまは組織としてコミットしています。回数を重ねるほど変わっていくものだと思います。
塩谷:
数百の子会社がある中で、富士通本体だけではなく、子会社から人がジョインしたりといった動きもあります。
水野:
ちょっと聞きづらいのですが、新しいことに挑戦する、ということに携わっている皆さんは、どういったところで評価されていますか?
塩谷:
KPIの設計自体も難しいというか、新規事業をやろうと思ったときに、何をやるかも決まっていないのに、そういう話をすることが間違っているのであって、スタートアップなどに対してコミットしていくことに対して評価してもらうしかないと思います。売上などで評価させないようにしています。
天野:
半年ごとにKPIを変えていますが、いかに連携したか、次がいかに実証実験をしたかというところを見ています。
沖:
個人評価に関しては無くていいと思っています。
事業評価としては、結果が出るのは5年10年先のことです。
その後の質疑応答では参加者から多くの質問が寄せられ、引き続き開催された懇親会でも意見交換が行われるなど、盛況のうちに幕を閉じました。