第2回 量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI最新萌芽技術のプレイヤー
<目次>
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量子コンピュータ分野の技術動向
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量子アニーリングマシンとは
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世界の量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI技術研究開発動向とこれから
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量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI技術の各分野ごと研究開発動向
(1)量子ビット集積化・システム技術
(2)量子コンピュータクラウド・サービス技術
(3)量子コンピュータ製造技術
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出願済み特許に見る各国の技術動向
量子コンピュータ分野の技術動向
量子力学特有の「量子の重ね合わせ」と呼ばれる現象によって、1 ビットの中に「1」と「0」が同時に存在する量子ビット (qubit:quantum bit、キュビット)を利用した量子コンピュータ (quantum computer)は、データサイエンスの進歩が著しく近年実用的な成果を上げている中で、計算機科学のさらなる大きな飛躍の可能性を秘めており、Google、IBM、Intel、Rigetti Computingの4社が、集積度・量子コヒーレンス性能について開発競争を繰り広げています。さらには、中国科学技術大学、Alibaba、の中国勢や、IT最大企業のMicrosoftも資本力を持って開発に参入し競争が一層激化しています。D-Waveが超伝導量子アニーリングマシンを2011年に商用機として発表したことを発端に開発が加速し、現在では2048量子ビットまで集積度が向上しています。さらには、上記の企業群により海外や日本でも超伝導量子アニーリングマシンのハードウェアの開発が進められ、最近では、2017年にIBMから汎用量子コンピュータシステム(IBM Q)用の16 量子ビットのプロセッサ開発を発表したのちに、世界初の商用量子コンピュータ(IBM Q System One)のクラウド公開を発表(2019年1月)、また、Googleは世界最高速のスーパーコンピュータよりも格段に速い計算を量子コンピュータで可能とする「量子超越性」を世界で初めて実証したと発表しており(2019年10月)今年度は新型コロナウィルスの影響で出遅れがあるものの、確実に量子コンピュータ関連への開発投資が増大するものと考えられます。
量子アニーリングマシンとは
量子アニーリングマシンは正確には量子コンピュータではないものの、量子コンピューピューティング技術を利用して、“巡回セールスマン問題”に代表される、組合せ最適化問題の高速計算を可能とするハードウェアであり、古典コンピュータより高速に処理できることが状況証拠的に確認されつつあり、さまざまな最適化問題に対する活用方法が模索されている状況にあり、海外ではこの活用に向けた研究への投資が増大してきています。
一方、量子コンピュータへの期待が過熱している状況ですが、現状の量子コンピュータでは、デバイスの外部からのノイズにより100%正確に動作することは非常に困難で、一定の確率で計算にエラーを含みます。これにより、意味のある計算を量子コンピュータで行うためには、エラー訂正が必要となりますが、現状の技術ではこのエラー訂正を組み込んだコンピューティングは非常に困難であり、中期的にはNoisy Intermediate-Scale Quantum Computer(NISQ)すなわち、ノイズがありスケールしない中規模量子コンピュータを活用する方向であり、このエラー訂正が可能なるのは10年以上かかるとされています。従って、短期的にはこの量子アニーリングマシンやNISQを活用して、量子コンピューティングのアルゴリズムやコードの開発および、ノイズ問題がありつつも有用な結果を生み出せる領域への展開が模索されます。同時に、中長期的にノイズ訂正を可能とする量子コンピュータについてのハード・ソフト面の開発が進行するものと考えられています。
世界の量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI技術研究開発動向とこれから
解決すべき課題は多いものの、Googleから、既にある種の特化した計算領域では従来コンピュータをはるかに凌駕する、量子超越が報告されており、上記の複雑な論理計算ができない量子アニーリングマシンや、NISQを用いてある種の特化した目的の計算領域でも、有用な応用領域を確立するための研究開発が目下アメリカ、英国、中国、オーストラリアなどで広がりつつあり、特にソフトウェアやアルゴリズムの開発はアーキテクチャの開発と合わせて重点的に研究費の投資がなされています。
日本では、イジングモデル用いて量子アニーリングを最初に提案した西森教授の東京工業大学や、東京大学でのイジングモデルや量子情報の理論研究や、NTTとの共同研究で進められる大阪大学での光量子もつれを用いたイジングマシンの構築などの研究が盛んに進められており、日本も世界的に強い技術を保有します。一方で、応用面での活用方法や、モデリング・計算ツールなどの応用開発に近い研究への投資が少なく、日本の大学においても応用研究への投資が重要な状況です。
世界の量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AIに関連する研究投資(グラント)は、2009年以降の積算値で順調に伸びており、量子コンピュータアーキテクチャの研究開発や、デバイスの形成技術に多くが投資されています。一方、量子アニーリングマシンやNISQがD-Wave、IBMなどにより実証・提供されて以降、特に、NASA、大学宇宙研究会(USRA)やGoogleが共同で512 q-ビットのD-Wave Twoを使用した量子人工知能研究所設立を発表した2013年あたりから、急激にクラウドシステムやソフトウェアに関する投資が増えており、最近では、IBMは世界初商用量子コンピュータ(IBM Q System One)や、D-waveのクラウド公開を発表や、「D-WAVE 2000Q」にアクセスできるクラウドサービス「Leap」の発表が相次いでおり、このクラウド活用やソフトウェア領域における投資は今後さらに加速すると考えられます。特に、クラウドコンピューティングの公開がなされている現状では、量子コンピュータ関連技術の研究開発において、アルゴリズムや特定のアプリケーションに特化したソフトなどの開発が重要になってきていることを示しています。今後、後発の企業でも積極的な研究開発投資により他者と差別化できる技術の開発を進める流れが始まっています。なかでも、GoogleやMicrosoftなどのソフトウェア・プラットフォーム企業が強い米国では、この領域における開発に長けており、日本においてもハードウェアだけでなくソフトウェアに長けた企業の積極的な参入と産学の協業がより増えることが重要です。
技術領域別グラント額(推計)の年推移
技術領域別世界研究費推計ランキング:US$ 8.0Mil
量子コンピュータの開発はノイズ耐性への対応がキー
研究資金(グラント)において、量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI全体では、ノイズ耐性の高い量子コンピュータおよび、その多ビット化・集積化を目指した基礎研究および、旧来の半導体を用いた超電導回路の形成などデバイスを実現できるスケーラブルなデバイス製造関連が大規模な設備を必要とする研究のため、多くの研究費を投入して英国、米国、中国の三つ巴の研究開発競争の状況にあります。特に、量子コンピュータは誤り訂正と、現状のNISQ、量子アニーリングマシンの活用方を並行で開発し、かつ人材育成や産業活用についてコミュニティ形成を含めて進める目的で大規模な研究センター、研究ハブの設置が英国・豪州を中心に進めており個別研究費の上位はこのような研究に対しての投資です。
一方、日本の研究費についての科研費上位は、量子コンピュータの種々の原理による高エラー耐性化やそれを目指した新しい量子生成手法および材料技術、基盤理論の研究が中心と言えます。
このノイズ耐性の高い量子コンピュータは、ハード面の開発と旧来のコンピュータとの連携を用いたソフト面から緩和する方法が開発の中心であり、前者のハード面での開発は非常に長期的かつ大規模な研究費が必要な重厚長大な研究となることが予想されています。一方で、短期中期的にはエラーが起きることをいかに訂正しつつ、現行の実用レベルの技術でコンピューティングを正確に進めるかという研究が進められており、速度・規模・スケーリングにおいて劣るものの、量子コンピューティングの応用面においては最も研究投資が進む領域となっています。
量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI全体のグラント資金流入額機関 世界上位5テーマ(グローバル)
量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI全体のグラント資金流入額機関 日本国内上位5テーマ
量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI技術の各分野ごと研究開発動向
量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI領域を主要な3領域に分けて、エラー訂正を含めた(1)量子ビット集積化・システム技術、ソフトウェアを含めた(2)量子コンピュータクラウド・サービス技術、(3)量子コンピュータ製造技術についてのグローバルでの投資額上位の研究課題を示しています。既に、上記の研究センター・研究ハブの設置の中には、網羅的にこれらの課題を包括しているものが多く、上位としてリストアップされているものについては課題の内容は割愛しているが、これらから各領域ごとの規模の大きな研究領域が把握できます。
(1)「量子ビット集積化・システム化」グラント資金流入上位5研究内容(グローバル)
理想的な量子コンピュータ実現に向けた量子基盤技術開発の中心地
量子ビットの集積化においては、従来の半導体デバイス技術を活用した超電導回路の形成が多くみられ、スケーリングの観点からも期待できます。また、量子を生成しいかにノイズ耐性を付与し操るかという量子技術の根幹の領域のため、研究投資は従来から高く一定の水準で推移している状況です。誤り訂正が可能な理想的な量子コンピュータの開発の中心ですが、一方で道のりは長く、引き続き定常的な研究投資が必要な領域でもあります。これまでの量子回路・量子ゲートなどを含めた電子機器関連のプレイヤーが貢献できる領域と考えられます。
(2)「量子コンピュータクラウドサービス」グラント資金流入上位5研究内容(グローバル)
ソフトウェア開発とクラウドの応用に可能性
量子コンピューティングを用いたソフトウェア関連の開発は、近年急激に伸びてきている分野であり、特に英国を中心にアプリケーションとしての活用の研究開発を加速しています。一方で、量子コンピュータのハードと連携した研究開発も必要なため、英国の大学連携研究ハブの中で大規模な投資が行われており、企業のプレイヤーも数多く参画していることが見受けられ、このような企業とアカデミアの共同開発が重要な領域です。日本の企業にもこのようなアカデミアとの連携の拡大による、量子コンピューティングのソフト開発とクラウドを利用した応用に大きな可能性があると考えられます。
(3)「量子コンピュータ製造技術」グラント資金流入上位5研究内容(グローバル)
日本のお家芸「デバイス開発」にも期待
量子コンピュータのビット数増大には集積化とスケーリング可能なアーキテクチャの開発が重要であり、日本が保有するデバイス技術が応用可能な領域です。特に量子コンピュータにおいては現状用いられる超電導量子回路に加え、スケーリングが可能なシリコンデバイスを基本とした構造や、ダイヤモンドなどの次世代の量子材料技術について、集積化に向けた研究がなされており、いずれの領域も日本の材料・デバイス技術がメインプレイヤーになれる可能性を十分に秘めた領域で、積極的な企業からの研究開発投資が期待されます。
出願済み特許に見る各国の技術動向
以下に量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI全体の特許出願動向と、出願数上位の国および機関(グローバル)について示しました。出願人・譲受人の国としては、米国・中国・日本の大手企業も出願は多く、さらにD-Waveのカナダの出願が増えてきています。出願先としては、中国、米国が突出しており、近年出願が増加している中国が2001年からの積算でアメリカを凌駕しています。一方中国での出願は7割以上が中国の国内出願であり、世界全体からの出願対象地域は米国・中国・日本が中心的で、次いで欧州という順番となっています。
日本からの出願は2010年くらいまでは、トップクラスの出願数でしたが、近年は米国・中国・カナダや韓国からの出願が増える一方で、日本の出願数は年々減少傾向にあります。
世界の特許出願状況
世界の特許出願動向
特許件数としては、D-WaveやIBM、Google、Microsoftなどの大手米国企業および、日本もNTTや東芝、NECなどの先行大手企業が上位に位置します。また、研究所や大学からの出願としては、知財譲り受け制度にともないJSTに帰属する特許が世界的に最上位に位置しているため、これらの知財の活用が日本の存在感の確立には重要と考えられます。大学個別としては米国の大学や英国の大学が上位にランクインしています。
「量子コンピュータ全体」特許出願上位
量子コンピュータクラウドサービスの活用で応用面の開発を
量子コンピュータは、D-Wave社の量子アニーリングマシンの実現から、IBMなどの本格参入により一気にNISQとクラウド化まで商用化されました。今後はビット数の増加が順次進む中で、エラー訂正を組み込んだコンピューティングには、長期的な研究投資と時間がかかると見込まれます。従って当面は、この量子アニーリングマシンと、NISQの応用の観点からの開発が、開発競争の主戦場となります。またクラウドで量子コンピュータ自体は既に広く提供されていることからも、新規参入含め重要な応用技術が次々と現れると期待され、ますます目が離せない技術になると見込まれます。このチャンスに日本が元々有する量子技術の強みを生かし、より多くの企業と大学の連携を通じて応用面でさらに突出した技術を生み出すべく、人と技術の交流を基にしたコミュニティを形成する積極的な研究開発投資が必要です。これにより、世界をリードする基礎・応用技術を有する研究開発連合として、先行する米国の有力企業を押しのけて台頭することも期待できるのが「量子コンピュータ・量子アニーリング・量子ソフトウェア・量子AI」領域です。
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次回は、量子センシング・量子センサーの世界の研究開発動向を解説いたします。