Interview

hugnoteが繋げる、「保育士と親子」の理想的な未来 --株式会社hugmo 湯浅重数

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社hugmo

「保育園落ちた、日本死ねって言葉が話題になったのを覚えています?僕もあの時、子どもに通わせる保育園に8箇所連続で落ちていて」――
自身の経験を元に、ソフトバンクグループ新規事業提案制度で子育てクラウドサービス「hugmo(ハグモー)」を事業化した湯浅さんに、hugmoが取り組む保育士・親の悩み、待機児童や保育士不足などの社会課題、その先の未来についてお聞きしました。


■保育現場と、親の大変さを網羅的に解決する「hugmo」 


――最初に「hugnote(ハグノート)」を知り、保育現場と親を繋ぐ連絡帳サービスだと思っていたのですが、実際は連絡帳以外にもサービスを展開しているんですよね。

はい、連絡帳の「hugnote」が中心ですが、写真プリントやバスの位置情報サービスなど保育現場で求められるものを1つのプラットフォーム上で提供する形になっています。

保育士さんと親御さんの従来の連絡手段といえば「紙の連絡帳」でしたが、まずこれをスマホ経由のコミュニケーションにする。
LINEなどのチャットサービスでは、保育士さんにとって休日も深夜も連絡が届いてしまうため、紙の連絡帳の利点は残した専用のアプリを提供し、そこで写真プリントなど各サービスも利用可能としています。

――保育がテーマで、保育現場や親がしたいこと・しなきゃいけないことの一元化と効率化

そうですね。
保育士不足はかなり深刻な状況で、仕事もハードで、しかも小さな子どもの命を預かっていますから事故やケガなどを起こしてはいけないという精神的な負担もあります。
親側も共働き家庭が多く、保育園との連絡で色々と必要な手間が増えると大変です。

そこで保育士側・親側両方の負担を減らすためのサービスを追求しています。

複数のコンテンツを展開するハグモーの中心に位置する「hugnote」毎日欠かさず行われる保護者と保育者の連絡をデジタル化している。

――負担を減らす、の具体的な内容は

まず紙の連絡帳に書くという作業を無くしたほか、園児の体調などの管理も「hugmo」でできるようにしています。また、保育士の勤怠管理など事務作業を行える専用システムと連携もできるようにしており、保育現場の負担軽減に取り組んでいます。

――IT化が遅れている

「hugmo」はまずITで置き換えできる部分を展開しています。
例えば園での写真購入であればスマホ上から任意の写真を購入できるようにしたり、クラス全体の親御さんへ周知したい情報と、個別の親御さんに連絡したいことをわけて送信出来たり。

個別のサービスはあるのですが「保育園で必要なもの」をワンストップで提供できているものがこれまではありませんでした。ここをちゃんと見直せば保育士と親御さんとのコミュニケーションをもっと円滑にできると考えています。

園で過ごす姿を写真で納め、それを月別に管理し、プリントサービスまで行う「hugphoto(ハグフォト)」

■親は「保育園で過ごす日常の姿」を知りたがっている。


――サービスの利用動向から「これが当事者のニーズだ」と認識することはありますか?

「今日の活動報告」の注目度ですね。
これは“今日は保育園でこんなことをしました、その時の様子はこんな感じ”と写真と共に見られる場所なのですが、ここの閲覧率・タップ率が常に90%以上です。

結局親御さんは特別な行事ではない「子どものなんでもない日常の様子」が知りたかったんだなと。それを見て安心できるんだと思います。

例えば、少し擦り傷があっても、「ああ、今日は元気にすべり台で遊んだのか。だからちょっと膝を擦りむいていたのか」と。

――子どもが家で「今日はこんなことをしたよ」と話さないとなかなか知れないことですね。

そうですね。

「hugnote」にアップされた写真は、自動的に「hugphoto」に連携されて、これらの写真はスマホでタップして選択すればプリントしたものを購入できます。

よく遠足の後に写真が貼りだされて、「何番と何番を購入」と紙に書いて提出していましたよね?
あのプロセスを楽にしたんです。こういうコミュニケーションも楽になるなと。

プリントサービスやブックレット等、「わが子を形あるものに残す」サービスも提供している。

――他にサービスへの要望があれば教えてください。

「形あるものに残したい」というニーズがありますね。
これに対応するため、「日々の連絡帳を製本化してブックレットにする」サービスも行なっています。

大事にとっておけば、保育園時代の連絡帳も記念になりますよね。

――連絡帳以外でいま話されたブックレットや写真購入など、各サービスを展開していますが、この「ラインナップの拡充」はどういった経緯で増やしているのでしょうか?

利用者のニーズもありますが、一番優先するのは「保育園側で導入する際の負担が無いこと」です。

どれだけ便利なサービスでも、現場が導入する際の費用も含めた負担があると、ジャッジしづらいですよね。ですから、保育園が「国から補助金を受けられる」点を重視しています。

未リリースのサービスもいくつか構築済みのものがあるのですが、あくまで「現場が導入したい・導入しやすい」タイミングを図りながら展開しています。

取材時点で約1,400施設に導入され、登録ユーザーは5.5万人。今後はサービスを保育業界全体に展開する構想がある

■保育のICT化で現状を良くするための「仮説」を立て、挑戦する


――直近で力を入れている機能は?

ECです。例えば運動着とか「親が準備しないといけないもの、購入しないといけないもの」って多いですよね。

最近は“園指定の用品を売る街の商店”も少なくなって、スーパーに置いてあったりしますが品切れをしていることもあります。親御さんが必死であちこちの店を探すくらいなら、「hugmo」の中で購入できた方が楽ですよね。

僕らだけでなく、関連企業とも連携してスムーズに届けられるよう拡充していく予定です。
その次の段階では2020年度からの小学校プログラミング教育必須化を見据えて、教育領域を展開予定です。

――ECは便利そうですね、サイズの違いだけで買うモノは決まっていますし。

はい、スマホ上で購入できるだけでなく、今後はあるものが必要なシーズンになってきたらプッシュ通知で予め告知できるようにする予定です。

「来月遠足だから、〇〇が必要だよ」とか。
これまでは、保育園側からプリントを渡したりして、親御さんにお知らせしていました。
ものによってはお店になかなか売っていなくてコミュニティの中で情報交換したり、こういうやりとり1つも親にとっては負担ですから。

hugmoでは保育関連用品の開発・販売事業者向けにEC機能「hugselection(ハグセレクション)」の利用を呼び掛けている。
通常の流通網よりも、明確にニーズがある場所に置くことで、保護者側の利便性も増す。

-基本的な質問ですが、なぜこれほど保育園・幼稚園の現場がアナログなままなのか?と思いました。

色々な要因があるとおもいますが、「それぞれ管轄が違う」のもあると思います。
幼稚園は文科省、保育園は厚労省、認定施設は内閣府、と異なります。2~3歳の時点で教育の管轄が変わること自体、違和感があります。

現在はこの中の「認定保育、事業所内保育」が増えており、hugmoもこの部分を中心に展開し始めています。

――待機児童や保育士不足など、社会問題として取り上げられる話題も多いと思うのですが。

各省庁の方とは勉強会や意見交換でお会いしていますが、ICT化推進にはポジティブです。
厚労省や経産省が垣根を超えてタッグを組み、「家庭や教育現場でどう子どもと向き合う時間を増やすか?」という議論が活発です。

全てをデジタル化することが正解かどうかはわからないけど、現状を良くするための「仮説」ではあるので、まずはhugmoがそこをどんどんトライしている段階です。

全国に7万以上ある子ども向け施設、しかし幼稚園・保育園・認定施設それぞれが
この図の通り「縦割りで別れてしまっている」状態

■「保育園落ちた日本死ね」の時、私も8か所落ちていました。


――hugmoはソフトバンクグループの新規事業としてスタートしましたが、新規事業として「保育ビジネス」を企画したのはなぜですか?

数年前、「保育園落ちた、日本死ね」というフレーズが話題になりましたよね。
ちょうどあの頃、私も子どもを通わせる保育園に8箇所連続で落ちたんです。

保育園に落ちたからといって、妻と私のどちらかが仕事を辞めるとか休職とかっておかしいなと。
妻も仕事をしていましたし、キャリアを積み、社会で活躍したい人は多いはず。

それで、色々と調べたら「共働き世帯は七百世帯以上」「育児ノイローゼ経験者は約50%」というデータをみて、これは事業になるのでは、と。

新規事業提案のプレゼンでは「ICTのタッチポイント」の話をしました。
ソフトバンクはICTの会社であり、hugmoは人生におけるインターネットの入り口になります、と。

現代社会でインターネットはもう当たり前、その場合「入り口はどこか?」という事が重要。
「それは保育施設です。人生におけるインターネットのファーストタッチをソフトバンクグループで」と。

――その保育ビジネス、hugmoの未来像があれば教えてください。

「5年でどう決着させるか」を凄く意識しています。
先ほどお話したとおり、国を挙げて取り組んでいる問題ですが、そういった国策って大体5年で決着している気がするんです。

例えばブロードバンド。
2000年頃にADSLが普及し始めて、5年以内に決着がついた。

だからhugmoの取り組みも、こうした「新しいものが当たり前になるか」を5年で決着させないとその先が絶対苦しいでしょうし、うまくいかなければ保育士や親御さんの手間や負担を救えない。

保育士や親御さんが、本当に子どもに向き合う時間を増やすには、まず負担や忙しさの原因になっているものを無くす必要があるので、hugmoがそれを実現していきたいです。


湯浅重数(ゆあさしげかず) 株式会社hugmo 代表取締役社長
2003年ソフトバンクBB株式会社(現ソフトバンク株式会社)入社。技術本部アクセス技術部長の後、 IT統括 ITサービス開発本部 アプリケーション&コンテンツサービス統括部 統括部長などを歴任。ソフトバンクグループの新規事業提案制度に応募してhugmoを事業化、2016年11月株式会社hugmo設立。2016年より現職。二児の父。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)