Interview

「失敗から得た大きな学び」を活かし、数千億円の新規事業を大企業と共に創る ― BCG Digital Ventures 山敷守

text by : 編集部
photo   : 編集部,BCG Digital Ventures

世界有数の経営コンサルティングファーム ボストン コンサルティング グループ、その関連組織で世界9か所に拠点を構える「BCG Digital Ventures」(以下BCGDV)は昨年東京・恵比寿に日本拠点をオープンした。
かつて新規事業の起ち上げから撤退までをDeNAで経験し、今は撤退した経験を糧として更にスケールの大きい新規事業に挑む山敷さんも、BCGDVメンバーの1人。
大企業の潜在能力をデジタル領域で開花させる挑戦、失敗から学ぶということ、をお聞きしました。

BCG Digital ventures
山敷守 Lead Product Manager
東京大学在学中、学生向けSNSを立ち上げ、デジタルサ-ビスの世界に飛び込む。
卒業後は、革新性を強みとする大手Webサ-ビス企業に入社。スマ-トフォン上のメッセ-ジング事業など、ゼロベ-スから複数の事業の立ち上げを担い、プロジェクトの責任者を務める。その後、BCGデジタルベンチャ-ズの日本拠点の立ち上げフェ-ズから、リ-ド・プロダクトマネジャ-として参画

■数千億円を見据えた新規事業、ジョイントベンチャー設立やメンバーの移籍も行う


-BCGとつくと「大手コンサルティング企業」のイメ-ジが強くなりますが、BCGDV流の新規事業創造とはどういったものでしょうか?

一番の特色は、コミットメントする範囲の広さです。
BCGDVではゼロからアイデアを創り、開発・運用まで全てお手伝いするのはもちろん、その先ではBCGDV自体がその事業エンティティの設立まで行います。出資を行いジョイントベンチャー化したり、その設立された企業にBCGDVのメンバ-が転職し、長期に渡って事業へ関わることもあります。

 

-山敷さんは前職DeNAでも新規事業を担当されていました。BCGDVで感じた違いや面白さはありますか?

違う点を挙げるなら、大手企業の目線で新規事業を立ち上げる点だと思います。
・顧客企業が保有する様々な「アセット」を使う。
・既存事業とのシナジ-を出す。
・最初から大企業の新規事業としてインパクトが十分にある売上規模を視野に入れる。
ここはいままで経験したものとの違いでもあり、BCGDVで仕事をする最大の面白さかもしれません。

また、BCGDVでプロジェクトを開始する際は、顧客企業側から社長や取締役など「その場で意思決定できる人」に参加してもらうことを必須としています。
これも大きな特色の1つと言えると思います。

 

-一桁、二桁大きな売上を見据えて新規事業を立ち上げるにあたって、プロジェクト開始時点でどのような工夫をされているのでしょうか。

BCGDVでは、アイデアのポートフォリオを最初の時点で綿密に練り組むことを重視しています。
事業展開には色々なケースがあり、最初は赤字が出続けるもの、早期に結果検証がしやすいもの、先行投資の仕方次第で変わってくるものなど、多くの事業案でポートフォリオを作り、その組み合わせで進めることが多いです。

このポートフォリオを作る段階だけで4ヶ月掛けることもあり、BCGDV側だけでも10人前後のチ-ムを組成します、それくらい重要なプロセスです。

中には、顧客企業の既存ビジネスや市場を破壊しうるような事業案も含まれます。
その企業の主要事業を脅かす可能性がある一方、その企業自身が取り組むことで自社の収益となる、こうしたケ-スに対応するためにも、顧客企業側から意思決定権限を持つ方に参加してもらう必要があるんです。

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会議などで最もコミュニケーションを円滑にする形と言われている六角形を斜めに55度ずらしたBCGDVのロゴ。
この55度は「マッチを擦るのに最適な角度」と言われ、企業の潜在力に火をつける(イグナイト)という意味も込めている。

 


■IT・デジタル領域の専門家ではない大企業とのプロジェクト。求められる「経験を抽象化するスキル」


-近年オ-プンイノベーションが話題となり「大企業×ベンチャー」の協業やそのためのマッチングなどもあります。大手企業がベンチャー企業ではなくBCGDVと共に取り組む点の違いは?

一番は、自社事業とのシナジーを考慮しながら新規事業を進められる点では無いでしょうか。
以前ベンチャー投資を担当されている大企業の方から「自社事業への活用、シナジーの出し方が難しい」と相談されたことがあります。

当然、ベンチャー企業側も事業計画やリソースの事情があり、大手企業と組んだとしても全ての要求は聞けません。大企業側も、既存事業との兼ね合いから急激にベンチャー企業を取りくもうとすれば社内に大きな影響がでます。

BCGDVは、デザイン、開発、企画、法務などデジタル領域の新規事業に必要なすべて役割が社内メンバ-として在籍していますので、企業側も既存事業への活用を考えつつデジタル領域の新規事業に長けた人たちとプロジェクトが進められる。この点がメリットだと言って頂けることは多いです。

 

-ただ、これまであまり社内でIT・デジタル領域の活用をしていなかった企業の場合、IT・デジタル領域に対する過剰な期待や懸念がありそうですが実際はどうですか。

リスクへの心配は良く聞きますね。
特にレピュテーションリスクにまで発展するような事態への懸念です。
ここはBCGDVとしてもしっかり説明し、ご納得頂く必要がありますので、プロジェクトのスタート時点から、どういったケースが起こり得るか、その時必要となる対策について一通りお話しさせて頂いています。

リスク説明もそうですが、デジタル・ITにあまり知見を持たない大企業側とのコミュニケ-ションが多いからこそBCGDVのメンバーとして求められるスキルがあると思います。
大半のプロジェクトが、大企業の既存事業とデジタル・ITを融合させた新規事業に取り組むため、デジタル・ITでしか活きないノウハウや、知見の無い人に説明できないのでは意味がありません。

重要なのは、デジタル・IT領域の経験をある程度抽象化できるか?です。
例えばメディア運営経験があり、何をすればCPIいくらで何人のユ-ザ-獲得が出来るという知識を持っていたとして、この定量的な知識よりも「なぜこの手法だとこの人数をこのコストで獲得できるのか?」の理由そのものを理解していないと、ウェブ広告がわからない方に説明はできない。

動画広告が出てきたばかりで単価が安く競合も不在、だから安く獲得できた。数値変動要因はこことここ、と背景を理解できれば「じゃあオフライン施策でも同じ図式で何が出来るか?」という思考が働く。
過去の経験や結果を抽象化し、モデル化して別の場所で「このパターンに当てはめられる」と発想する能力が求められると思います。

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ロゴの「六角形」は会議室の机、照明、床や壁などオフィス内のあらゆるデザインにも採用されている。

 


■事業の失敗経験が現在に繋がる。失敗の直前は大きくて濃い「本気の学びを得られる」


-いまお話頂いたような「過去の経験や結果」で現在山敷さん自身が活かせているものはありますか?

DeNA時代に担当した「comm」の新規事業立ち上げの経験が大きく活きています。
例えばリソースの話ですが、当時全社的にスマートフォンという新しいプラットフォームへの移行期にあったとは言え、全社的に見れば新規事業ですので、社内で十分なリソースは確保できませんでした。

これはBCGDVの手掛ける新規事業立ち上げも似ています。
企業規模が大きくても、新規事業に最初から多くのリソ-スは投入しないので、担当者には工夫が求められます。自分の経験に基づいて、どうリソースを確保し進めるかのアイデアを練れますし、ある程度プロジェクトが進行した後に起こる規模の変化、関わる人数の変化に対しても、commの経験が活きています。

 

-commはその後事業撤退しました、最終的には失敗した事業と言えます。そうした「失敗経験」があるからこそ、いま活きているものがあれば教えてください。

いま思うのは、失敗経験、厳密に言うと、失敗しまいともがいた経験から大きな学びを得たという事です。

事業がうまく立ち上がらない・伸びない時、何も手を打たなければジリジリと死んでいくだけ。
すると「ここからどうにか浮上のきっかけを掴むぞ!」と短期間で思いつく限りの、リスクの大小も一切問わず、本当にいろんな手段を本気で撃ちまくりました。やらなければダメになるのですから。

いま振り返ってもあれだけ短期間に思考し続け、手を打ち続けた時期は無いと思います。
その後、好調な事業を担当した際にもどこか手を緩めていることはないか、と先回りすることができましたし、この「失敗する直前」は、とても学びが濃くて大きいと思います。

実は事業撤退した後、「何が悪かったのか」を検証・反省するため自分用のまとめを作ったのですが、
最終的にスライド8ペ-ジに渡って文字がびっしりと書かれた状態になりました。

「施策を打った後検証が大事」と言いますが、自分の施策をこれほど濃く振り返った事はありません。この機会を得られたことが、いまに繋がっていると思います。

 

-DeNA時代に責任者として新規事業を立ち上げる立場にあり、いまはBCGDVで顧客企業のサポート側、とスタンスを少し変えたのかな?と思ったのですが。

実は、自分のスタンス変えた意識はありません。
冒頭で話した通り、BCGDVの場合はプロジェクトを始めるときからジョイントベンチャー設立、新会社への転籍の可能性を念頭に取り組みます。アイデアづくりの段階ではコンサルティング寄りの仕事の進め方をする場面もありますが、事業主体者として取り組んでいますし、実際に転籍をして主体者になることもあります。

BCGとはついていますが、BCGDVが提供しているのはコンサルティングでは無く、インキュベーションが近い。
私自身も「主体者として新規事業を立ち上げる」というスタンスは持ち続けています。

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■新規事業、起業の経験を武器に「次はもっと大きなビジネス」と考える人はBCGDVに合っている。


-山敷さん以外のメンバー、会社全体についてお聞きします、在籍メンバーの特色はありますか?

先ほどの「デジタルの新規事業に必要な役割が社内メンバーとして在籍」、この部分です。

企画やディレクションを担うメンバ-だけでなく、例えばデザイナーやエンジニアもおり、得意な領域もそれぞれ異なり、幅広いです。それぞれキャリアも現在の役割も全く異なりますが、この異なる領域の専門家が社内にいる点が特徴だと思います。

また、デザイナー、エンジニアも含め事業の立ち上げ経験、ベンチャービジネスの経験者も多いです。
例えば過去一度起業している人、事業売却して次はもっと大きな事業を考えている人、こういう方は過去に培ったスキルも、「次はもっと大きなビジネスを」という野心や志向も、BCGDVが取り組む大きなスケールの新規事業と相性がよいと思います。

たまに「大企業と一緒に新規事業を立ち上げ」というのを、制約条件・ネガティブ要因として捉える方もいますが、「大企業のアセットをフル活用して大きなビジネスを作る」という思考に繋がる人はBCGDVにあっていると思います。

 

-社内に新規事業立ち上げ経験者が多いことでのやりやすさもありそうですね。

「このままだとダメ」「これならイケる」の感覚が近いのはメリットだと思います。
新規事業創出には「このフェーズに陥ったら良くない」「ここにハマるといいシグナル」というものがあり、それをアイデア出しの時点から感覚を持ったメンバー同士でコミュニケ-ションすると円滑さにもつながり、事業の先を見据えた議論ができると思います。

その一方でBCGDV社内で、「T型人材」という話をします。
新規事業立ち上げ経験や、デザインファーム経験、エンジニアリング、それぞれの専門スキルを深めるだけでなく、それ以外の分野においても一定の理解とスキルを兼ね備える人を指す用語で、BCGDVは全員このT型人材を目指しています。

例えばベンチャーも新規事業立ち上げも未経験の大企業出身の方であれば、「大企業の論理」を理解しているという経験が、顧客企業とBCGDVの間を橋渡しする重要なバランサーとして機能すると思います。

最初に聞かれた通り「大手コンサル企業」「新規事業立案」のイメージが強いですが、外部から思われている以上にBCGDVが欲しいタイプの職種・スキルの幅は広いと思います。

 

-BCGDVの考える未来像について最後に伺いたいです。

まず私個人として、BCGDVというを選んだ理由は「今後はデジタルとリアルがもっと組み合わさったものが使われ、増えてくる」と考えたからです。

デジタル・IT領域のみで完結する産業は、アメリカが先行し今後もしばらく強い状態が続くと思います。
ただ、「デジタルとリアルを組み合わせた領域」には未開拓なものが多い。
10年後20年後に、この領域から世界で愛される日本企業発のサービス・製品を生み出したいと考えています。

まだまだ日本には物凄い潜在能力を秘めながら既存事業とデジタルを融合させられずにいる企業が多いと思います。BCGDVがその「触媒」となって、企業の力を引き出す役割を担いたい。

各業界のリーディングカンパニーと共に大きな新規事業を作り出し、最初から世界を視野に入れた実績を創ることが求められますので、企業側に足りないあらゆるものをBCGDVが提供していきたいと考えています。

 


プロフィ-ル
BCG Digital ventures
山敷守 Lead Product Manager
東京大学在学中、学生向けSNSを立ち上げ、デジタルサ-ビスの世界に飛び込む。
卒業後は、革新性を強みとする大手Webサ-ビス企業に入社。スマ-トフォン上のメッセ-ジング事業など、ゼロベ-スから複数の事業の立ち上げを担い、プロジェクトの責任者を務める。その後、BCGデジタルベンチャ-ズの日本拠点の立ち上げフェ-ズから、リ-ド・プロダクトマネジャ-として参画

インタビュ-:波多野智也(アスタミュ-ゼ株式会社)