2018.05.14 MON 技術者を起業家に育てるAIテクノロジードリブンなコミュニティ ――株式会社ディープコア
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,株式会社ディープコア |
AIの発展にブレイクスルーをもたらしたと言われる「ディープラーニング」。
今後あらゆる産業に浸透し、社会を大きく変えると見られている注目の技術だ。米国や中国などの海外勢が積極的に研究開発を進める中、日本国内では未だ社会実装における黎明期段階にある。
ディープコアはAI、特にディープラーニング分野の若手起業家を育成し、その社会実装を目指す新しいインキュベーター。今夏、若手AI技術者・研究者のためのコワーキングスペース&コミュニティ「KERNEL」を本郷にオープンし、企業や研究機関などと新しいエコシステムを構築しようとしている。若手技術者たちを支援する理由、その先に描く未来像についてお聞きしました。
■技術で破壊的イノベーションを起こす若手起業家を育成したい
――このタイミングで「AI特化のインキュベーション」を始めた背景について教えてください。
松井:ディープラーニングは、今後さまざまな領域に大きなインパクトをもたらすと期待されている技術ですが、米国などと比べると日本での社会実装はまだ進んでいません。
海外では、このような最先端分野の技術者が起業し、社会にイノベーションをもたらす例がありますが、日本は起業家の数が少ない上、技術者が起業するケースは、さらに稀です。諸外国が積極的にAIの研究開発や投資、人材育成を進める中、このままでは日本からイノベーションが生まれなくなってしまうのではないかと危惧しています。
ディープコアは、技術の可能性を信じ、「技術で社会を変えたい」という思いを持つ若手AI技術者・研究者などを起業家として育成して、破壊的イノベーションを生み出すことを目指しています。
永田:具体的には、「コミュニティ」「実証実験」「スタートアップ支援」の3本柱でインキュベーションを進めます。若手AI技術者や研究者が集まるコミュニティ「KERNEL」を作り、企業等との共同実証実験、ファンドを通じたスタートアップ支援を行っていきます。
また、外部のAIスタートアップにも投資し、成長をサポートします。これらの企業の成長により、新たなファンドを設立し、さらに多くのAIスタートアップを支援する好循環を生み出したいと考えています。
――若手AI技術者をサポートするにあたって重要なことはなんでしょうか?
永田:あくまで主役は「技術者」ですので、彼らが研究開発に集中して取り組める環境が大前提です。その上で、集中しやすい単なる「作業場」ではなく、専門領域の違う技術者たちが交流して新しいアイディアを生み出す、活発なコミュニケーションが起こるような雰囲気作りも必要だと考えています。
渡邊:例えばシリコンバレーではある程度年齢を重ねるとコーディングをしなくなり、マネジメント職に移行します。その結果、最先端技術に強い若手人材がバリバリとコードを書き、権限移譲されて新しいサービスを生み出す好循環があります。同様に日本でも若手の優秀な技術者・研究者が、社会実装に取り組む環境を構築していきたいと考えています。
――「環境」という点では、「KERNEL」では、計算資源(GPU)を提供するという点が大きな特色だと感じました。
渡邊:ディープラーニングを用いた研究開発をする上で、GPUは不可欠です。ディープコアはNVIDIAと提携しているので、メンバーは、NVIDIAから計算資源や技術サポートなどのバックアップを受けられます。これはAI技術者にとって大きな価値があると思います。
またコミュニティ内で生じる「人の繋がり」も重要だと考えています。
技術者は、あまり領域を超えた横の繋がりを作る機会が多くありません。
普段所属するコミュニティがあっても、その中で活動する方が多いです。「KERNEL」は、なるべく色々な領域の方が集い、交流する場所にしたいと考えています。
普段自分が出会わないような領域で活動する、高い能力や志を持った人と自然に触れ合い、お互いの技術や研究内容を情報交換しあうことで、課題を解決する時の糧になる場所をイメージしています。
メンターからのサポート、定期的なイベント、最新論文の輪読会なども予定しています。KERNELが、AIの最先端情報や人材のハブのような存在になればよいですね。
――メンバーは24時間施設使用できる、と書いてあったのもいい意味で気になりました。
渡邊:本郷って、夜遅く開いている施設やお店が少ないんですよね。
KERNELは24時間利用できて、食事も提供する予定です。夜遅い時間に活動したい技術者は、いつでも利用できて食事もあり、人と交流できる。
現在は大学の施設や研究室でしか夜遅くまで作業できない方もいると思うので、ぜひ積極的に活用してほしいと思います。
■企業が抱える問いに、共に挑戦する。
――ディープコアは、企業などとも実証実験をしていくということですが、これはどういったものですか?
永田:ディープラーニングは、あらゆる既存産業を根底から塗り替えるといわれています。AIを活用したいと考える企業と、最先端のディープラーニング技術を持つKERNELメンバーを結びつけて共同実証実験を行い、実社会でのディープラーニングの活用を進めます。
松井:企業様は日ごろから、それぞれ自社の課題解決に取り組んでおられます。昨今、多くの企業様から「ディープラーニングを中心とした新しいアプローチに興味がある」という声を頂きますが、それは、これまでと異なるアプローチで、今まで解決できなかった課題をブレイクできる可能性を期待されているからだと理解しています。
一方、実際に新しい技術やアプローチで課題解決を図る場合、「その技術で実現の可能性があるもの」「現時点で実現しているレベル」等の前提情報がないと、検討を進めるのも難しい、という声もよくいただきます。
私たちは、初期の段階で必ずこのような現状について企業様に説明し、その上で、企業様の課題にどのようなアプローチが有効かディスカッションする機会を設けています。これらを通じて、社会実装につながるテーマを少しでも増やすお手伝いしたいと考えています。
また、企業様のニーズをKERNELメンバーにフィードバック・マッチングしたり、KERNELメンバーが持つ仮説を企業様と一緒に深める機会を設けるなど、様々なプロセスで両者をつなげます。企業と技術者、双方にとってWin-Winとなるような形にしたいと考えています。
一一「例えばこんな領域・産業の方と」という、取り組む企業のイメージはありますか?
永田:歴史のある産業、例えば職人の熟練技のような「人間がやらなければ出来ない」イメージが根強い産業との相性が良いのではないかと思います。
例えば非常に細かいチェックが要求される不良品の検査、長年の経験や勘で判断するような仕事は、特徴量を抽出するというディープラーニングの特性を生かせると思います。Alpha Goの「囲碁でAIが人間に勝った」というのも、人間の直観による判断を超えたという点で象徴的な出来事だと思います。
渡邊: 技術領域の例で言えばデータセンシング技術、ロボティクスなどの領域などが挙げられると思います、ディープラーニングはあらゆる産業に係わってきますが、その中でも関連性の深い周辺領域の方とはぜひ色々と取り組みたいと考えています。
■技術者が憧れの対象となる未来に
――そろそろ最初のコミュニティメンバーが決まった頃かな、と思うのですがどういった顔ぶれになりそうですか?
永田:基本的には「AI ×〇〇」という、AIのコアスキルを持ちつつ、+αで何か特定の分野に関心がある人が多いですね、例えばロボットや脳科学など。
他にも起業経験があるメンバーもいますし、コーディングを全くしないけど、特定の業界に非常に高い知見を持つメンバーもいて、バラエティーに富んでいます。
総じて、素晴らしく優秀な方たちが来てくれたと感じています。
20代前半にして独学でディープラーニングとブロックチェーン技術を習得した方など「こんな人が世の中にいるのか・・・」と感じたこともあります。
――優秀な人材が集まった背景はどうお考えですか?
松井:ディープラーニングに特化して、GPUも揃ったコミュニティを持つインキュベーションプログラムがまだまだ国内に少なく、このような点に期待を頂けたのではないかと考えています。
渡邊さん:純粋に技術者にとって欲しい環境が「KERNEL」にあるから、というのは大きいと思います。特にNVIDIAのGPUや24時間使用可能な施設といった点ですね。
エンジニアの方にとって「理想的な開発環境」というのはとても大きい要素ですから。
――海外との提携や展開などは考えていますか?
永田:複数の海外の有力インキュベーターから提携や連携の申し出も頂いています。
コミュニティのメンバーにとってのメリットを第一に考えて提携のあり方を模索しています。
メンバーが国境を越えて挑戦できるチャンスを作れるのであれば、非常にエキサイティングな機会だと捉えています。日本から国際的なスタートアップが生まれてほしいですね。
――気の早い話ですが「ディープコアを通じて世界をこう変えたい」というイメージがあれば教えてください。
松井:新しいテクノロジーで「いま出来ないことが、当たり前に出来る世界」ですね。
これまでの仕事で、AIによる顧客の課題解決や実装に取り組んだ経験がありますが、「現状ソリューションのみでは顧客課題解決が難しい」局面に、幾度となく遭遇したりしました。
将来的には、あらゆる技術を使いこなして、やりたいことが実現できる、そのような世界を目指したいと考えています。
――永田さんはいかがでしょう?
永田:「技術者」が憧れの対象になる世界ですね。
GoogleやAmazonなど時価総額ランキングで新しく上位に入って来る企業は「世の中にインパクトを与えるテクノロジー」に根差していると感じていました。
「技術を突き詰めて、磨くことが社会や経済を大きく前進させる」ということに多くの人が気づけば、それに挑戦する技術者の社会的地位が高くなり、憧れの存在になるのではないかと思います。
――では、最後は渡邊さんに。
渡邊:「技術ドリブンのプロダクトを創る志をもった若者が増える」イメージを持っています。
以前スタートアップへのシード投資の仕事をしながら「投資家自身が理系で、技術にわくわくする人が少ない」と感じていました。
「人類や世界を前進させるために何が必要か?」を技術ドリブンで考えて挑戦する人たちを支援し、必要な環境や社会実装の経験を得る場さえあれば、自然とそれに取り組みたいと考える若者も増えると考えています。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)
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