Interview

この健康食品メーカーがスタートアップである理由。健康のインフラを目指す完全食「BASE PASTA」――ベースフード株式会社 橋本舜

text by : 編集部
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人工知能やブロックチェーン、ロボットなど、圧倒的にテクノロジー分野が多いスタートアップ企業の事業領域。その中にあって食品の開発・販売という異色の事業領域で2017年2月の販売開始から順調に成長を遂げ、同年10月に1億円の資金調達を果たしたスタートアップ企業があります。

橋本舜氏が代表を務めるベースフードは、「完全食」をテーマに、栄養価が豊富なパスタ麺及び加工食品を開発し、ユーザーに直接販売をするD2Cというビジネスモデルを展開する企業。

数多ある中小企業の健康食品メーカーとの違いはどこにあるのか? なぜ彼らは中小企業のスモールビジネスではなくスタートアップだと言えるのか? その答えは代表の橋本氏が語る言葉のスケールとスタンス、戦略性の中にありました。


「健康を当たり前」にすることで少子高齢化にアプローチ


――ベースフードを創業したきっかけは?

「『健康を当たり前』にすることをミッションとして、1食で1日に必要な栄養素の3分の1を摂ることができる生パスタ『BASE PASTA』を提供しています。『健康を当たり前』にしたいと思った理由が2つあり、ひとつは日々の生活の中で十分な栄養を摂るのが難しいという問題意識からです。自炊をした方が良いのか、自炊するとして一体何を食べれば良いのか。そもそも忙しいと自炊もできなかったりと、栄養って難しいなと、ずっと思っていました。

また仕事をするからには社会課題に取り組みたいとも考えていました。日本の少子高齢化は私たちが小学生の頃から言われていますが、根本的な解決には至ってません。社会保障にしても、支える人が減り続け、支えられる人が増え続ける、というような世の中は、やはりなんとかしなければなりません。そこで、食を改善することでかんたんに健康を維持できるようにすれば、健康寿命が長くなることにつながるのではと考えました。

『健康を食で』というアプローチはこれまでにもありました。スーパーフードなどの健康食材が流行することもありますが、結局流行で終わってしまったり、若い一部の女性の中だけのものだったりします。

私たちは健康を“当たり前”にするのがミッションなので、提供するプロダクトは北海道から沖縄まで、そして老若男女に50年、100年と食べていただけるものでなくてはなりません。でもまったく新しいものをすべての人に食べてもらうというのは非常にハードルが高いわけです。

そこで、すでにみんなが食べているものの栄養バランスが良くなれば良いという結論に至りました。つまり主食をイノベーションしようという発想です」


健康食品会社は健康を当たり前にしない


――DeNA時代にテクノロジー領域に取り組んでいたにも関わらず、食品という新たな分野での挑戦でした。

「創業する前から考えていたことも、やってみてわかったこともあります。創業時から確信があったのは、『健康食品会社は健康を当たり前にはしないだろう』ということです。

私がDeNA時代に自動運転タクシー事業を担当していたときに感じたのですが、自動運転タクシーはもちろん運転をしない人を対象にしたサービスです。では今自動車メーカーで働いている人がどうかというと、運転が好きな人たちですよね。運転をしない人はそもそも入社しないし、やはり運転が好きな人には運転がいらない社会は描きにくい。でもGoogleのような運転領域におけるアウトサイダーにはそんなことは関係ありません。

では健康食品会社はどうかというと、健康的な活動に労力をかけるのが好きな人が集まっているわけです。体を動かすべき、食べすぎないべきなど、「べき」という話がとても多いし、好き。健康な人をさらに健康にするのは既存の健康食品会社にもできるかもしれない。でも健康に興味がない人も対象とするとなったら、それはアウトサイダーである私たちだからこそできることなのだと考えています。

私たちの商品は『おいしい』『かんたん』『からだにいい』の3つをコンセプトに掲げていますが、体に良いけどおいしくないとか、体に良いけど面倒というものは広がっていかない。おいしいから食べたら、結果的に体に良かったということが、これまで健康食品がリーチしていない層にリーチするために最も必要です」


D2C×サブスクリプションモデルでキャズムを超える


ベースフードが提供する「BASE PASTA」は2017年の2月にネット直販(D2C)での販売を開始し、2018年7月現在では月に2万から3万食を売り上げているといいます。そのうちの約半分が定期購入、つまりサブスクリプションモデルでの売上なのだとか。

――サブスクリプションモデルを選んでいるのはなぜでしょうか。

「月に1度だけ栄養バランスの良いものを食べてもあまり意味がないわけで、やはり健康に寄与するためには習慣的に食べてもらわなくてはなりません。これが定期購入のサブスクリプションモデルを選択している理由の9割です。残りの1割に関していえばマーケティング上の戦略があります。

私はスタートアップ企業は中小企業で終わってはいけないと思っています。大企業になることでより多くの人を助けることができる。D2C×サブスクリプションモデルはユーザー獲得当たりのLTV(ライフタイムバリュー)が高く、商品開発や広告宣伝に費用がかけやすい。また右肩上がりの成長曲線を描きやすい。

スタートアップ企業は未来のキャッシュフローを投資家に示すことで投資を受けることができます。サブスクリプションモデルで将来の売上を明確に示すことができるというのは非常に重要なことです」

――昨年に資金調達をしていますが、今どの分野に投資を強めているのでしょうか。

「昨年調達した1億円という金額はCMなど大規模なマーケティングには不十分な金額です。現状では商品開発や米国への進出などに使っています。

私たちの商品開発とは、いままでの主食より『おいしく』『かんたん』に『体にいい』ものをつくることです。まずおいしいというのはとても重要で、『BASE PASTA』も2ヵ月に1度程度の頻度でバージョンアップしています。どうしたらおいしくなるかをリサーチして、そのために工場設備も整える。

また投資を受けた段階では商品には麺しかありませんでしたが、即席カップ麺やトマトソースもラインナップに追加し、より『かんたん』に、料理ができない人や、外出先など料理のできない環境でも食べられるように、開発を進めています」

――米国への進出についてお聞かせください。

「実は今年の2月から2名のスタッフが米国に滞在し、準備を進めていました。シリコンバレーの工場との契約も済み、原料の調達ルートも確保できたので、今夏には米国でテストマーケティングを兼ねてクラウドファンディングを実施する予定です。

まずは西海岸のベイエリアを中心にサンフランシスコ、シアトル、ロサンゼルス等のエリアでの展開を目指しています」


人々の健康を支えるインフラ企業に


――今後の展望についてお聞かせください。

「私たちのミッションは国民全員を健康にすることですから、多くの人がいつのまにかベースフードの商品を食べていたという世界をつくりたいと考えています。なにもパスタばかりを食べてくださいと言うつもりはありません。

例えば朝起きたらベースブレッドをトースト。昼はベースフードが卸している麺を提供するラーメン屋で、夜はベースライスで自炊してもらう。そのためにパスタだけじゃなくパンやライス、ナンなどさまざまな主食を開発していきたいし、レストランに卸したり、お惣菜として発売したり、さまざまな方法で生活者に届けていきたいです。

つまるところ私たちのミッションは「健康を当たり前」にすることなので、水道、電気、ガス、健康というように、将来的にはインフラになることを目指しています。健康って本来そうあるべきじゃないですか。

水道は引っ越したら必ず連絡をして、蛇口をひねればいくらでも水が出て、自動的に料金が引かれていく。当たり前のように社会システムに組み込まれていますよね。私たちもそうなりたくて、良いプロダクトをつくるだけでなく、ディストリビューションや決済などあらゆる面でインフラとして社会に浸透していくことを目指していきたいです。

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