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「Maker Faire Tokyo 2018」イベントレポート Vol.1

text by : 編集部
photo   : 編集部

2018年8月4日、5日の2日間、オライリー・ジャパンが主催する「Maker Faire Tokyo 2018」(以下、MFT2018)が東京ビッグサイト(西1・2ホール)で開催されました。MFT2018は約600組のMakerによる展示と、プレゼンテーション、ワークショップ、ハンズオン、ライブパフォーマンスで構成される、日本最大級のMakerムーブメントの祭典です。

企業、大学、有志団体など属性は違えども「ものづくりを愛する人たち」がMFT2018に参戦。メイン会場にはユニークな展示ブースの数々が軒を連ねました。イノベーションの種となるMakerやエンジニアが一同に集まり、活き活きと自らの作品を主体的に発表しているMFT2018——。

アスタビジョン編集部が、展示ブースレポートと、初日注目のプレゼンテーションであるPASONA CAREER主催「MakersからはじまるInnovation」のレポートを2回にわたりお届けします。

 


MFTに集う大学発のMakerたち


超小型PC「Raspberry Pi」や各種VR、さらには3Dプリンタ等々——。誰でも新しいテクノロジーを自由に使えるようになった昨今、民間の大手企業のみならず、スタートアップや個人の“Maker”が急増しています。

MFTはそうしたユニークなものを作り出すMakerの展示、デモンストレーションが行われる場。テクノロジー系DIY工作専門雑誌「Make」による活動を発祥とする一連のムーブメントは世界中に波及し、日本だけではなく、ローマ、パリ、デトロイト、オスロ、深圳でもMaker Faireが開催されています。

さて、メインステージで最初に編集部を出迎えてくれたのは「キッズ&エデュケーションゾーン」でした。この日は夏休みが始まったばかりということもあり、多くの家族連れで賑わいを見せていました。

筑波大学大学院の学生3名による「COLOR BLUSTER」のブースでは、身のまわりにある「色」が的になる、新感覚のシューティングゲームを体験しました。

赤、青、緑、黄の4色のモノに狙いを定めてトリガーを引き、的に命中するとLEDが点灯。命中すれば銃から「Shoot green one」などの音声アナウンスも流れます。身のまわりにあるさまざまな色が的になることから遊ぶ場所も問わず……。幅広い年齢層が楽しむことのできる、新しい遊びの体験でした。

続いては、電気通信大学野嶋研究室が出展する「SmartHair Interface」(光駆動型柔軟触覚インターフェース)。海洋生物が持つ触手のような動きをする毛状素材は、その1つひとつがセンサ一体型の小型軽量アクチュエータです。

写真は人の手の動きを検知し、手をかざしたところだけ毛状素材が動き出すというインターフェース。研究室に在籍する学生各々は、これら毛状インターフェースの活用方法を日々考え、さまざまなプロダクトを開発しているそうです。ほかにも光と動きで着用者の身体情報を表現する服などが展示されていました。

 


Makerムーブメントの波に乗る社会人起業家。海外からの参戦も



COLOR BLUSTERSmartHair Interfaceなど、学生Makerによる活動で盛り上がりを見せている一方で、社会人が企業の枠を超えて参戦しているケースも見受けられます。
「クラフト&デザインゾーン」に出展する「shoe-craft-terminal」は、遠隔地からでもスマホで写真を撮るだけで完全オーダーメイドの靴を作れる、という新サービスでした。

通常、オーダーメイド靴はわざわざ店舗を訪問し採寸しなければいけませんが、このサービスでは「場所」の制約から開放されます。スマホやデジカメで複数の角度から自分の足を撮影すると、それらの画像データから3Dの足型データを作成。

さらに3Dプリンタでその人の足を再現したモールド(型)が作られ、あとはそのモールドをもとに靴職人がオーダーメイドの靴を制作するのみ……。メンバーは皆、ふだんは別々に活動をしており、なかには企業に勤務する社会人や博士号を目指す大学生も。まだβ版ですが、先ごろこのサービスを展開していくための会社を興したばかりだそうで「ゆくゆくは本格的なサービス展開を考えている」と話していました。

 


大手企業の参戦。本業の枠を越えた活動も


大手企業からの参戦も見受けられました。「FABコミュニティ&デジタルファブリケーションゾーン」には「大田区看工連携プロジェクト」なるチームが出展していました。同チームは、富士通と大田区産業振興協会がタッグを組み、医療・看護の現場にある課題を、大田区のものづくり企業の技術知で解決する共創プロジェクトを展開します。

その活動から生まれたプロダクトの1つが「誤嚥防止用噛むストロー」。病院のベッドで寝た状態のままでも「噛む」ことで水分補給ができる優れものです。その発展的なプロダクトとしてチームは「例えば登山のときなどに、口に装着しながらペットボトルの水を補給できるように」と、一般向けの「噛むストロー」も開発しました。

また「スポンサーゾーン」には、MFT2018の協賛スポンサーが出展していました。2017年にAgIC株式会社から社名を変えた「エレファンテック株式会社」は「P-Flex™」なるフレキシブル基板を製造・販売をしている、東京大学発のスタートアップ企業です。

インクジェット印刷と無電解銅メッキにより製造される「P-Flex™」は製造にかかるコストを安価に抑えることができます。MFTではその実用例が紹介されました。株式会社マクニカのブースでは、5種類の体験型ワークショップを開催。

その1つ「光るデコうちわを作ろう」では、エレファンテックのフレキシブル基板や、電子回路に使える銀ナノ粒子インクペンを使い、子どもたちがうちわを電子工作でカスタマイズ。思い思いの光るデコうちわを制作しながら、子どもたちもものづくりを楽しんでいました。

 


未来志向のモビリティ、ロボティクスに集まる期待


ブース展示もここからが後半戦です。ここからは「モビリティゾーン」「サイエンスゾーン」「ロボティクスゾーン」など未来志向のブースが続き、来場者はそのプロダクトの数々に胸を躍らせていました。

編集部も「モビリティゾーン」では未来の乗り物を体験しました。その1つが、自動車メーカーのエンジニアやデザイナーによる部活チーム「@ち~む」でした。

車椅子の両サイドにある車輪部分に電動アシストロボ「HAMster(ハムスター)」を装着することで、HAMsterの自重を利用しながらタイヤに駆動トルクが発生。車椅子を自由に操作できます。「製品化はまだ」とのことですが「車椅子を使われる方も多く来場していて、使い勝手を聞くこともできる」とメンバーの1人。ユーザー調査ができる点も、MTFの大きな特徴の1つです。

未来志向といえばなんといってもロボットテクノロジーではないでしょうか。「ロボティクスゾーン」では、「ぷらぎあ工房」による「モーショントレース5指ロボットハンド」を拝見しました。

これは「自分の腕が伸びて遠くのものが取れたら……」という夢を形にしたロボットで、赤外線ステレオカメラが人の指の動きを読み取り、それと同じ動きを5指ロボットが再現します。
ほかにもヘッドマウントディスプレイ「OculusRift」を使用した遠隔ロボ——「外苑前ダイナミクス」による「Project DALEK & 爆誕イチゴ博士」も注目を集めていました。

 


同じ境遇にいるMakerとのつながりをもたらす


MFTのブース展示もいよいよ終盤へ——。「ミュージカル&サウンドゾーン」では、アーティスト・ミュージシャンとして活動する和田永さんをリーダーとする「エレクトロニコス・ファンタニコス!」(通称・ニコス)が「音楽」で賑わいを創出していました。

写真は、バーコードリーダーを使い、バーコードのパターンや近づけ具合によって異なる音を奏でるというもの。和田さんらは2015年頃から古い電化製品を使い、さまざまな家電楽器の研究開発・製作を展開。ライブや展示活動を行っているそうです。

最後のゾーンは「エレクトロニクスゾーン」。ここには個人Makerによるさまざまなブースが並んでいました。

「ミニ四駆AI」はミニ四駆にモーター制御を搭載し、プログラミングで勝負する新しい競技。大企業同士、あるいは大企業とスタートアップなどの共創をめざすスタートアップスタジオ「QUANTUM」の社員が生み出した活動でした。また「スゴイラボ」の皆さんは「世界中の誰も作ったことがない、でも役に立たないスゴイもの(笑)」の数々を開発。いずれのブースからも、遊びのなかから本気でチャレンジできるテーマを見つけ、それがゆくゆく大きなうねりを巻き起こす——そんなことを予感させてくれました。

今回紹介したように、このMakerムーブメントは、学生、社会人起業家、企業に勤める社会人等々、さまざまな境遇にいるエンジニア、デザイナー、アーティストたちが多種多様な状態で入り交じる空間でした。しかし「社会に役立つような、あるいは、人をあっと驚かせるようなイノベーションを起こしたい」という志は、皆に共通しているのではないでしょうか。

「エレクトロニクスゾーン」に出展していた「ズームス・ラボ」も、個人のMakerとして参戦する1人です。メンバーは神戸在住の元エンジニアで、10年前に起業し、現在は科学技術系の映像制作等のお仕事をしているそうです。ブース展示していた「動く肖像画」は、人の表情を用いた新しい入力インターフェースの実験デモ。画像認識技術で人間の顔の動きを捉え、それをコンピュータの入力に変換しています。

毎年こうしたプロダクトやサービスを開発し、MFTに挑んでいるというズームス・ラボですが「MFTのような場に出展することで、自分のアイデアに対するフィードバックが得られるのと同時に、同じ境遇にいるMakerとのつながりも得られる」と、MFTの魅力を話していたのがとても印象的でした。彼らMakerたちのこれからの活躍に、期待せずにはいられません。

 


PASONA CAREERによるプレゼンテーションも


さて、今回紹介したような展示作品のほか、MFTには会場内に設けられたメインステージ、ライブステージ等でさまざまなプレゼンテーションプログラムも行われていました。なかでも初日で注目のプレゼンテーションが、PASONA CAREER主催による「MakersからはじまるInnovation」です。

正社員の人材紹介を手がける同社は「無料転職サポート」サービスを提供していますが、近頃は「エンジニアの未来をいっしょにつくる」のメッセージを発信。「エンジニア自身が活き活きと働ける環境を主体的に選択できる、そんな社会の実現を目指している」といいます。

次回は、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教の広瀬毅氏、今回のレポートでも紹介したエレファンテックの代表取締役社長 清水信哉氏、マクニカMpression推進部 部長の米内慶太氏を迎えて行われた、同プレゼンテーションプログラムの模様をお伝えします。

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