Interview

市民共助を促進する119番通報アプリで、新しい救急救命を実現する - Coaido株式会社 玄正慎

text by : 編集部
photo   : 編集部,Coaido株式会社

日本国内の心臓突然死、1日200人。AEDが現場に届かないケース、93%。
通報件数の増加で年々遅れる救急車の到着時間、その状況で適切な応急手当の重要性は高い。
新しい救急救命に取り組むCoaido社は、救命インフラの実証実験を東京・池袋で開始した。医療の知識どころか、救命の知識もAEDがどこにあるかも知らなかった代表の玄正さんはなぜ「救命処置」の問題に取り組むのか?お話を伺いました。

玄正慎 Coaido株式会社 代表取締役 CEO
1981年福井県生まれ。ヨコハマ経済新聞記者、ビジネス誌ライター、不動産会社勤務を経て、2009年よりフリーランスでiPhoneアプリの企画開発を開始。2013年8月に参加したハッカソンで心停止者救命支援アプリ「AED SOS」を発案、アプリの開発運営法人としてCoaido株式会社を創業。ITで突然死を減らせる社会の実現を目指している。

■電車の中で偶然見かけた急病人と、ハッカソンの「20秒で問題解決」というテーマ


―Coaidoの「倒れた人がいた時に周囲に呼びかける」救急サービスを作ったきっかけを教えてください。

以前、フリーランスでiPhoneアプリの開発をしていたのですが、スーパーハッカソン2013 in Summerというハッカソンイベントへの参加がきっかけでした。

「20秒で問題解決する製品をつくる」というお題で、初日のアイデア出しでは「痴漢の撃退アプリがいいかも」と話していたのですが、偶然その日の帰りに電車の中で具合が悪くなり座り込んでしまう人がいて、その人を近くにいた人が「ここに座りなさい」と助けたんです。

そこで「痴漢撃退も大事だが、急病人を助けるほうがより切実ではないか」と気づき、ハッカソンで作るプロダクトのアイデアを切り替えました。
検索をして色々と調べたところ「突然の心停止」は救急車到着までに適切な処置が出来ないとほぼ助からないと知りました。

今はその場に正しい処置を知っている人がいるかどうかは偶然に任されている。
それならばアプリを使って、周囲にいる救命の知識のある人に助けを呼ぶことができたら心停止した患者の救命率が上がる。

特に東京のような人口密度が高く、スマホ所持率もAED設置施設も多い場所なら、救命知識を持つ人がすぐに駆け付けたりAEDを届けられるのでは?と考えました。

―玄正さん自身、元々医療の専門家ではなかったそうですが、このサービスで起業したのはなぜですか?

「自分ならこのサービスを使うし、社会的価値も大きい」と考えたからです。
僕自身、当時は正しい心臓マッサージのやり方もAEDがどこに設置されているかも知らなかった。

だからそうした一般人の感覚として、救命知識のある人に助けてもらえるアプリがあれば緊急時に使うだろうと思いました。それにもし自分が救命の知識を持っていてアプリで助けを求められたら、その場に助けに行くだろうと思えました。この時点で「このサービスは成立する」と思えたんです。

しかも「人の命を救う」って物凄い価値がありますよね。
起業時点では収益化まで考えられていなかったのですが、世の中に必要とされ大きな価値をもつものは、いつか収益化も出来るはず。ならばまずは前に進もう。という感じでした。

 


■池袋での実証実験、11月からはアプリの一般登録受付も開始


―現在池袋駅周辺で実証実験を行っていますが、仕組みについて教えてください。

倒れた方を発見した際、Coaido119のアプリを使って周囲へSOS通知を発信することができます。
池袋ではそれだけでなく、「AEDエリアコール」も同時にかかります。

これは、AEDが設置されているオフィスやビルには、その設置事業所の「固定電話」があります。
AEDエリアコールは、その固定電話の電話番号や位置情報を登録させて頂き、アプリでSOSを発信した際にその位置情報に近いAED設置施設の固定電話へと一斉に電話をかけて緊急事態の発生を迅速に伝える仕組みです。

それらを119番通報をしながら同時にできるようにしています。
救急救命で大事なのは迅速に救急車を呼ぶこと。救急車の到着までに周囲の人の協力を集めて適切な処置をして、良い状態で救急隊に引き継げるサービスとして設計しています。

―「救急車到着まで」にフォーカスしているということですね

はい、救急車の到着時間は年々遅れており、到着まで全国平均で8.6分、東京では10.8分かかります。(※総務省調べ)

これは軽症での通報件数が増え、消防署では救急車が出っ放しの状態が慢性的に続いているためです。到着が遅れる状況において、「到着前に適切な処置をする」ことの重要性が増しています。

ここで大事なのは「救急救命において周囲へ知らせることの重要さ」です。
自分は適切な処置ができないから、と救急車の到着をただ待っているだけでは、心停止の場合わずか数分で手遅れになってしまいます。そこで周囲の救命知識のある方に迅速に情報を届けることにこだわっています。

―池袋を実証実験エリアにした理由は?

過去に地方都市で実証実験した中で「人口密度の高さ」が重要という気づきに基づいています。
そこで日本で最も人口密度の高い豊島区、その中でも多くの人が行き交う池袋駅周辺エリアを選びました。

実証実験で豊島区との密な連携が出来た背景として、豊島区議会議員の池田先生との出会いがあります。池田先生自身が以前商店街で心停止になった方を心臓マッサージして救命された経験があり、Coaido119の意義をすぐにご理解頂けたことが大きかったです。

まだ池袋での実験は開始したばかりで、最初の3ヶ月は該当地域の方々にCoaido119の仕組みを説明する活動をしていたのですが、11月からはCoaido119アプリの一般公開を開始しており、今後は利用者を増やす活動を考えています。

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12月から2月は気温も低く、「ヒートショック」と呼ばれる急激な温度変化に伴う血圧変動による血管負担からの
心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などが起きやすい季節。

 


■多くの人が知らない「心臓マッサージ」と「AED」の役割


-「倒れた方がいた時の正しい処置」について教えて頂けますか?

多くの人が「心臓マッサージ」と「AEDによる電気ショック(除細動)」の役割分担を勘違いしています。心臓マッサージは延命措置、AEDは最終的に電気ショックで心臓を正常な動きに近づける。

AEDは心臓の電気的な動きから電気ショックの可否を判断しており、作動条件としては心臓が痙攣している状態であることが必要です。つまり、心臓マッサージを絶え間なく続けていないと通電できません。

そもそも「心停止で人が亡くなる」メカニズムですが、
心停止で倒れた直後、多くの場合、心臓は完全には止まっておらず「心室細動」というぶるぶる震えた状態です。

この「心臓が混乱し正常に動かなくなった状態」を放置すると心臓が完全に止まってしまいます。脳・心臓・脊髄は常に酸素と養分が必要で、心臓の異常により血流が途絶えてしまい酸素と養分が届かないと簡単に壊死してしまい一度壊れると再生ができません。

この状況を防ぐために心臓マッサージが必要となります。

-では心臓マッサージせずにAEDを取りに行き、その後電気ショックを与えるのは間違い?

はい、よほど素早くAEDを持ってこない限り心臓の痙攣状態が続かず、電気ショックが作動するところまで持っていくことができません。

AEDって電気ショックで「心臓を動かす」機械だと思っている人が多いですが全く逆です。
AEDは電気ショックを与えて「心臓を止める」もの。

混乱して細かく震えている心臓に大きな電流を「バン!」と流すと、一旦心臓が止まる。
すると心臓は元の正しいリズムで動き出す性質があります。その間のポンプ機能を助けるために電気ショックの実施後は約2分心臓マッサージをするとことが推奨されています。

・心停止(心臓からの血流がなくなる。脈がない。心筋は痙攣。)

・心臓マッサージ(30%の血流で心臓や脳を保護、心臓の痙攣(心室細動)を持続。)

・AEDでショックを与える(心臓の筋肉全体を電気刺激で同時に動かし、リセットする。)

・正しく動き出した直後の心臓を心臓マッサージでサポート

だから、心臓マッサージせずにAEDを取りに行って10分放置していたら意味がありません。
1番重要なのは心臓マッサージを継続して「良い状態を保つ」ことと、その状態でAEDを使うこと。

CoaidoではSOS発信とAEDエリアコールで周囲へのAEDの要請をすることで、「その場にAEDを届けてもらう仕組み」により現場にいる人は心臓マッサージに専念できるようにすることを重視しています。

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アプリでは地下空間やビルなどでのGPSのズレも修正可能であり、
「ビルの〇階の〇〇号室」など現場に辿り着くための補足情報を送信できる機能を実装。

 


■突然の心停止発生の7割は「自宅」、近隣住民と助け合う仕組み


-AEDも心臓マッサージも、正しい知識を知っている方が少ない気がします。

はい、ただ正しい知識を全員が持つのは理想的ですけど実際は簡単ではありません。
そこをCoaido119で「正しい知識を持つ人を現場に呼ぶ」ことと「AEDが現場に運ばれること」に貢献すればいいと考えています。

しかも、心臓マッサージができる人が1人いるだけでは十分ではありません。
プロの救急隊員ですら、精度を保つため2分ごとに心臓マッサージ役を交代します。119番通報する方、心臓マッサージの実施と交代要員、AEDを現場に運ぶ、知識の有無に限らず倒れた方への正しい処置には多くの人の協力が必要なんです。

-もし心停止した場所が部屋の中なら、目撃者自体も少なくなりますね。

むしろ急な心停止によって倒れるケースの7割は自宅で発生します。
この場合最初の発見者、そして適切な処置を担うのは家族や同居人です。しかし身近な人が突然倒れると気が動転して冷静な対応が難しいという問題も出て来ます。

この点からも冷静に対処できる第三者や、適切な処置ができる人が現場に来ることは重要です。
先ほどお話した通り、東京での119番着信から救急隊到着までの平均時間は「10.8分」ですが、マンション高層階では更に遅くなります。心停止は処置が1分遅れるごとに生存率は7%〜10%下がるので、救急隊到着前に何も出来なければ「ほぼ助からない」といっても過言ではありません。

-オートロックのマンションも多いので、同じマンション内で駆け付けた方が良さそう

その通りです。
「マンションの25階以上で心停止した人の救命率は0%」というカナダの研究もあります。

その一方で高層マンションの上層階には高年収の方が住む傾向にあり、その中には医療関係者がいるかもしれない。「実は知識のある人がすぐ駆けつけられる場所」の可能性もある。

ならば「同じマンションの中にいる人同士」で呼びかけて助け合う仕組みが理想的です。住人同士だけでなく管理人や警備会社の方も含まれます。
これは将来的なビジネスモデルになりうると考えていて、不動産デベロッパーに提案し実現に向けて調整をしたいと考えています。

 


■心停止者を自動で検知し、AED搭載の無人ドローンが現場へ急行する未来


―マンションでの仕組みの話もそうですが、池袋での実証実験以外に準備していることはありますか?

どうすればAEDを救急現場に迅速に運べるか?を考え、「ドローンでAEDを運ぶ仕組み」の実験を、アメリカのSwift Engineering社と一緒に取り組んでいます。

Coaido119アプリで発信されたSOS情報を元に、その場所までAED搭載ドローンが「無人飛行」するものです。

要は「IoTとの連携」です。
心停止は一瞬で意識を失うので、患者本人がCoaido119アプリで自分の緊急事態を発信するのは難しい、しかも血圧変動のあるトイレや入浴中、あるいは睡眠中に発生するケースも多く同居人ですら気づかないことすらあります。

この「発見者がいない心停止」は日本国内での心臓突然死約7万5千人中、4万3千人もいます。
そこで、人の動きやバイタルデータと繋げて異常を検知し、自動でSOSを発信する仕組みをウェアラブルやスマートホーム、センサーネットワークなどで実現したいと考えています。

誰かが見つけて通報、ではなく自動で心肺停止者を検知して周囲へ通知する。
そして周囲にいる救命の知識のある人が現場へ駆けつけると同時に、AED搭載のドローンも現地に向かう。

AEDを届ける仕組みにより、発見者がAEDを取りに行く行為を無くす方が救命率を上げられるはず、これはAEDエリアコールも同様で、現場近くの人が心臓マッサージに専念しAEDは設置場所から届けてもらうほうが理想的であると考えています。

 


■東京の救急救命にとって特別な「2020年東京オリンピック」



―最後に、数年後どのようにCoaidoの仕組みを展開していきたいか教えてください。

「2020年の東京オリンピック・パラリンピック」はCoaidoにとっても、また東京の救急救命にとって重要なタイミングだと考えています。
救急出動件数は増加し続けており、救急車がひっきりなしに出続けるケースが増えています。救急車到着時間は年々遅延しており、既に東京の救急搬送システムは限界に近い中で維持されています。そこにオリンピックが重なると世界中から多くの渡航者が訪れます。

これによりオリンピック期間中は消防・救急の業務負荷が上昇し、東京の都心では「救急搬送システムが破綻する」可能性も指摘されています。さらに、現場に急行する救急車が渋滞や競技のために道路封鎖など交通規制の影響を受けてしまいます。

救急車の到着時間が遅れる可能性があるオリンピック期間中の都内では、市民が心肺蘇生で命を繋ぐという役割がますます重要となります。

だからこそ2020年までに東京に「新しい救命インフラを実装」し、急病人を守れる状況にしたい。
3年後の夏、多くの渡航者が東京を訪れる。
それまでに命を守る新しい救命の仕組みが提供できれば、これも東京流の「おもてなし」になる。

オリンピック期間に間に合わせた救命インフラが、オリンピック終了後もその都市に残り続ける。
多くの企業や自治体がオリンピックへの関心が高いからこそ「こういう課題が2020年にはある」と世の中に提示し、解決に向けたアクションを一緒に取り組んでいきたい。
その重要なカギとして、Coaido119による「新しい救命インフラ」を普及させたいと考えています。

2017年11月1日からiPhoneアプリ「Coaido119」の一般利用が開始しされています。 https://itunes.apple.com/jp/app/coaido119/id1192291275

2017年11月1日からiPhoneアプリ「Coaido119」の一般利用が開始されています。
https://itunes.apple.com/jp/app/coaido119/id1192291275

 


玄正慎 Coaido株式会社 代表取締役 CEO
1981年福井県生まれ。ヨコハマ経済新聞記者、ビジネス誌ライター、不動産会社勤務を経て、2009年よりフリーランスでiPhoneアプリの企画開発を開始。2013年8月に参加したハッカソンで心停止者救命支援アプリ「AED SOS」を発案、アプリの開発運営法人としてCoaido株式会社を創業。ITで突然死を減らせる社会の実現を目指している。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)

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