Interview

「才能をつくる」重視の教育で、楽しみながら挑戦する人を増やす。 ――RISU Japan株式会社 今木智隆

text by : 編集部
photo   : 編集部,RISU Japan株式会社

「未来の算数学習」をテーマに、タブレット自習や無学年制での教育サービスを提供するRISU Japan。STEM教育とも違う、「才能」を育てることを目的としたRISU算数は、その学習法の新規性により2017年特許として認められた。

産業革命以降長く続いた「大量生産の時代」における集団教育から、「新しいモノを生み出す時代」に向けた、新しい教育システムへ。単なるタブレット学習サービスでは無い、保護者と子供の関係性にまで着目したサービスについて、代表の今木さんにお話を伺いました。


■RISUは教育ではなく「才能」の会社、学校の枠組みに収まらない才能に光を当てる


――RISUでは算数やプログラミング、ロボットなどを扱っているので「STEM教育」を重視していると思ったのですが。

少し違います。RISUが目指すのは「才能を育てて開花させること」です。
その結果面白い人が世の中に沢山出てくるお手伝いをしている、と考えています。
STEM教育を否定するわけではなく、あまり興味がないんです。

学校の枠組みに収まらない才能に光を当てるため、柔軟なアプローチを突き詰めています。
問題が全部解けて次に進みたい子はどんどん進められるし、わからなくて躓いた子や長期入院などで学習が遅れた子もあとから追いつくことができる、無学年制としているのもこの点を重視しているからです。

――RISU流の「才能」を育て開花させるのに重要なポイントはなんでしょうか?

2つあるのですが、まず1つ目が「基礎」です。
RISU算数を提供する背景にも繋がりますが、算数は多くの才能のベースになります。
野球でもサッカーでも、スポーツ全般において最低限の筋肉や脚力など運動神経がベースになりますよね、同様に算数は多くの才能のベースとなります。

算数の基礎スキルを活かして、早い段階からロボットやレーザー光線に興味を持ち、自発的に学ぶほうがより現実社会でのアウトプットに近づくと考えています。

そして、算数って子供が一番苦手だと答える科目なんです、しかし先生側に同じような調査をしてみると「教えるのが得意な科目は算数です」と答える人が多く、ここにギャップがある。
この現状を解決しつつ、最終的に高専(高等専門学校)とか作れたらいいな、と考えています。

――なぜ高専?

才能で大事なこと2つ目の「専門分野」に繋がります。
実社会でも、勉強の成績が良かったことと優秀な人物かどうかってあまり相関が無いですよね。
むしろ、何かに熱中して専門分野を持っている人のほうが強い。

僕自身の人生を振り返っても、大学院時代に高専から編入してきた子が一番成果を出していたり、東京で働き始めてからも東大の工学専攻で大学院出た人より高専出身の人が格段優秀なのを目の当たりにしました。

熱中して専門分野に取り組む環境として、高専はとてもいい仕組みだなと思っているんです。

RISU算数は多くの才能の基礎として動画でのフォローやラインナップが充実。
2017年11月には、算数の学習法としての新規性が認められ、特許化された。

■本人が理解できているなら無駄な授業はしない。RISU流の学習法とは?


――RISUの算数学習手法は11月に新規性が認められて特許化されました。大きな特徴はどのあたりなのでしょうか?

まず「本人がつまずくまで教えない」という点が挙げられます。
RISUは問題につまずく頻度や点数によって答えの解説が変わります、しかし問題が解けているうちは一切授業内容や解説をほとんど配信しません。

通常の授業だと、まず解き方を教えてからテストで問題を解きますよね?
RISUの場合これが真逆で、まず問題を解く。解けるなら授業は本当に最低限で済ませてどんどん次に進む。解けないなら解説をしてあげる。

――解けるということは原理を理解できているから授業はいらないだろう、と。

そうです。
センスのある子って1桁の足し算が出来るようになったら、教わらなくても「位の概念」を理解して、2桁の足し算を解けるので、その子に何時間も2桁の足し算を授業で教えるのは無駄な時間です。逆に問題が解けずにいる子に、必要な解説を送る方が大事です。

あと、子供のモチベーションをサポートする手法ですね。
子供のつまずき具合や好調具合を把握し、親側に「お母さん、いまお子さんがこういう状況に達したので、絶好の褒めるチャンスです」と通知する。

だから子供向け学習教材というより、周囲も巻き込んだモチベーション総合支援システムですね。

――モチベーション支援って難しい印象があります。手を抜かずに「もっと学びたい」という欲求をどう喚起しているのか。

RISUでは、問題を解くとポイントが貯まって学習グッズや双眼鏡といったものに交換できます。
これだけだとあまり大したことありません。

ただ、RISUのポイントで交換するモノの1位は「スペシャル問題を解く鍵」なんです。
ある一定のレベルまで解いた人しか出題されないもの。
算数に限りません、例えば暗号を解く問題だったり。

――暗号を解く、ってゲーム性ありますね。脳トレというか

近いですね、例えば「とある規則性でカードが並んでいます。さて29番目のカードの模様は?」とか。実はこれを解くプロセスに、フィボナッチ関数のような算数的要素を入れています。

でも「さあ、フィボナッチ関数を学びましょう」から始めると、なんだかつまらなさそう。
それを「2、3、5、8、じゃあ次は何だろう?」だと、面白いなぞなぞになる。
そして「ここまで解けた君に」というのは子供の自尊心もくすぐられる。

好奇心を刺激して自発的に「面白い!」となる原体験、その対象が通常触れる事のないフィボナッチ関数というのは将来の価値観を変えます。

――そこで先ほどの「いいタイミングで親が褒める」となったらいい組み合わせですね。

はい、やっぱり解けて自尊心がくすぐられた時に親が褒めてくれたら嬉しいし、その後も続けて興味をもつきっかけになりますよね。
RISUの仕組みにおいては、「親がちゃんと見てくれている感覚」の提供がとても大事です。

既存の学校教育に収まらない才能支援として、「学びのバトン」という取り組みを進めている。
長期入院、過疎地、経済的理由などで勉強が遅れる子に無償でRISUの仕組みを提供。
無償提供されたタブレットは、リカバリーが完了後にまた別の子へと無償で渡っていく

■大人に褒めてもらった、見てくれているんだ、の感覚が学習スピードを向上させる


――親がちゃんと見てくれていることが大事、というのは統計的な傾向もあるのでしょうか?

あります。
RISUの仕組みだと、親のメールアドレスを何個でも登録できるのですが、登録アドレスが増えるほど子供の学習スピードが上がるというデータがあります。
例えば登録アドレスが父親と母親の2つになった時点で、学習スピードが1.2〜1.5倍になる。

テストで良い点がとれたとき、家族みんなに「凄いね!」って褒められるのと、母親だけが褒めてくれたという体験はかなり違いますよね。

だからRISUを使って頂くとき、親御さんには「データで立証されているので、なるべく多くの方のアドレスを登録してほしい」とお願いしています。両親だけでなく、祖父母、親戚のおじさんにいたるまで。

――少しわかる気がします。なぜ親戚のおじさんも?と驚くけど、ちょっと嬉しいというか。

多分、びっくりするけど悪い気がしないんです。
親戚のおじさんに「勉強凄いらしいな!」って褒められたら、その場では恥ずかしくてモジモジするかもしれないけど、少し時間が経つと悪い気はしない。それが次へのモチベーションになる。

RISUは学習データを取得していますが、それは「問題をどう解くか」の分析ではなく、「子供と親の関係性と、学習リズムの組み合わせで、その子にとっての最適な学習方法」を分析しています。

他にも、同じ時間勉強するなら朝が良いとか、データで立証されている内容は逐一親御さんに共有しています。それだけで20%くらい成績が上がる。こういうデータって誰も科学的に分析して活用してこなかった。

――「周囲も巻き込んだモチベーション総合支援システム」と言っていた意味が理解できました。

そうなんです、突き詰めていくと当然「タブレット自習だけでは担えない」ものも見えてきます。
そこで、最近はRISU塾という、一般的な塾よりもカジュアルな雰囲気で、RISU算数と+αで読書をする場所の提供も開始し、日本国内で10校程度、アメリカでも10校程度展開し始めています。

なぜ「読書」かというと、文章を読む力・文脈を理解する力が通信型では提供しづらいからです。
文章を読み、文脈を理解する力は算数の応用問題を解く際にも必要となり、あらゆるシーンにおいて必要とされる能力です。

今後はこのRISU算数+読書スタイルの塾をどんどん増やしていきたいと考えています。

タブレット自習の手法を突き詰めたからこそ見えてきた「読書」から得られる読解力、文脈の理解力のためにRISU塾ではマンガや書籍など教材に限らない読書が可能

■RISUで暗号問題を楽しく解いた原体験の延長線上で、楽しみながら世界を変える挑戦する才能が現れてほしい


――RISU塾をアメリカで10校展開していると言われましたが、具体的にどの地域へ展開しているのでしょうか?

エリアで言うと、カルフォルニア、シリコンバレー周辺のサンノゼですとか、AppleやGoogleの大きな社屋のあたりです。RISUの根底にある、「無学年制でどんどん先取りできるスタイル」の学習に理解があり、そういった新しい教育の仕組みに対する受容度が高い地域中心です。

それと、場所はアメリカ国内なのですが民族でいえばヒスパニック、インド、中国など移民が中心です。実際、シリコンバレー周辺の人口増加はほとんどこうした移民中心で、構成比でみてもインド33%、中国33%、その他33%くらいの感覚です。

――ということは、サービスの利用者も民族毎に傾向の違いがあるのでしょうか。

同じ地域であっても、ヒスパニック系の学校に行くと教育への関心が薄く、小6くらいの子供が足し算できずに指を折りながらモノを数えている。
そのことを親に指摘しても「農家で農薬撒くだけだから」と一生算数を必要としていない。
一方、中国系の親は子供に対して真剣に「トップを取らせるため」を考えている。

日本国内の全体的に教育水準が整っており、親の考え方にも一定の共通理解がある感じとは全然違います。

米国への展開だけでなく、途上国の教育支援も行っている。
教育水準が低く学校の先生が割り算の出来ないマーシャル諸島の学校へ、RISUの仕組みを無償提供している。
RISUを提供された学校の成績が国全体で最下位から1位に上昇する等、目覚ましい効果を出している。

――シリコンバレー周辺は、Edtech関連のスタートアップが沢山いて、競争が激しい印象があるのですが。

と、思いますよね。
一時期色々出てきたけどもう一巡して、教育スタートアップは良くも悪くも落ち着いてしまった後。という感じですね。

なぜスタートアップがそうなったかというと、「教育」だからです。
北米スタートアップって、シンプル設計のソフトウェアサービスを作り、それを一気に伸ばすというものが主流です。

この手法と教育が相性悪い。
学校の成績、親の意見、子供が他にやりたいこと・関心のあること。と複合的要素が複雑にミックスして成り立っているものを、研ぎ澄ました1つのソフトウェアだけでなかなか上手くはいかない。

しかも教育は「偏差値上昇」「受験合格」など結果が出るまで時間が掛かります。
この長い時間、しっかり子供の成績に責任を持つことがサービス側に求められる、スタートアップの事業スピードを子供に強いることはできないし、それ自体が傲慢な考え方じゃないですか。

――大人の都合に合わせる、教育でやってはいけないことの1つですね。

ソフトウェアサービス「だけ」のスタートアップはそのうちダメになるだろうと考えていたので、海外展開時も特に気にはなりませんでした。
これまでのマーケティングコンサルティングの経験からHCD(人間中心設計)というものを追求していたので、それがいまRISUとして子供や保護者の方を中心に考えてサービスを提供する部分に役に立っている気がします。

――最後に。RISUが世界中に広がって、才能をもつひとが世界中で活躍しはじめたら、世の中どうなると思いますか?

MicrosoftのFuture Visionってご存知ですか?
海に潜ると目の前を泳ぐ魚の情報が出てくる。するとダイビングが楽しくなりますよね。
人工知能や機械、全てのテクノロジーは根本的に人を楽しくするために存在すると思うんです。

 

技術を磨いて問題を解決する、それによって見えてきた新しい問題に挑戦するのを楽しむ。
RISUで暗号問題を楽しく解くことが子供の頃に原体験にあって、いつしかその延長線上に世界を楽しくすることへ楽しみながら挑戦する。そういう世界観が広まればいいなと考えています。


今木智隆 RISU Japan 代表取締役
京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザ行動調査・デジタルマーケティング領域専門特化型コンサルティングファームのビービット入社。金融・消費財・小売流通領域クライアント等にコンサルティングサービスを提供し2012年から同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、元マッキンゼーの加藤エルテス聡志氏と共に、RISU Japan株式会社を設立。代表取締役に就任。

インタビュアー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)