Interview

便利、安全、安価なベビーシッターサービスで、待機児童・病児保育を解決する ―― キッズライン 藤井聖子

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社キッズライン

日本国内で約2万6千人と言われ、年々増加する待機児童(※平成29年厚生労働省調べ)
そして病気や体調に不安があり預けられない病児保育。少子化が進む中で子育てに関する負担の話題は多い。3度の出産をしながら、自らの育児経験から生まれた理想を実現するため、代表の経沢さんが立ち上げたキッズラインは「安く、安全で便利なベビーシッターサービス」。
トレンダーズ時代から経沢さんを知り、ビジョンに共感し創業時から関わる同社マーケティングマネージャーの藤井さんに、キッズラインと子育てにまつわる社会課題について伺いました。

藤井聖子 株式会社キッズライン マーケティングマネージャー
二児の母、トレンダーズを経てキッズラインの立ち上げ時から参画。
自らも家庭(育児)と仕事の両立に試行錯誤しながら、「子供を産んでも自分の人生も楽しみたい!」という女性の力に、少しでも自分がなれたらという熱い思いを持ち、キッズラインに携わる。

■事前に研修を受けたベビーシッターを、スマホ経由で素早く利用できる


――まずはキッズラインのサービスの特色を教えてください。

従来からある派遣型ベビーシッターサービスは、登録してから実際に保育をしてもらうまで2週間〜1か月かかるところもあり、手続きも煩雑で、利用までのハードルが高い印象をお持ちの方も多かったと思います。

キッズラインはとにかく利便性を追求し、スマホからベビーシッターを選び、朝登録したら当日でもサービスを受けられるようにしています。

キッズライン上ではベビーシッターさんのプロフィールやこれまで利用した方のレビューなど選定時の参考情報を充実させるとともに、シッターさんは全員スタッフが面談し、実地研修を経て合格した人だけを登録するようにしています。

――午前中申し込んでその日のうちに、みたいな使い方をする人もいますか

はい、病児保育してくれる施設を探すのも大変ですので、子供が少し具合悪そうだけどどうしても午後からは仕事に出なければ、という状況でキッズラインを利用し「昼の何時から夜まで見ていて欲しい」という依頼も多いですね。

共働きのご家庭で利用頂くケースも多い一方で、専業主婦の方もご利用されています。
子供の年齢が小さいほど子供とお母さんの距離が近くなり、慣れない育児で悩んだりイライラすることがありますが、そういう時に旦那さん以外にサポートしてくれる「保育士」「幼稚園教諭」の資格をお持ちの方や、「育児経験者」で気軽に相談できる相手がいるのはとても助かりますから。

シッターさん側も、自由に料金設定ができるので保育資格やスキルを明記したうえで「私はお母さんの役に立ちたいので、なるべく安い価格で」という方もいれば「海外でベビーシッティング経験があり、資格も持っているので英語対応可能です!」と料金に付加価値をつける方もいらっしゃいます。

――普段からCtoCマッチングサービスを活用している方などにはとても良さそうですね。

たしかにそうですが、物品の売買とは「お子様の命や教育にも関わる点」が大きく違うと思います。

過去にはCtoCスキルマッチング型サービスでベビーシッターを探し、事故になるような悲しいケースもありました。これはサービス提供側がベビーシッターとしての適性や資格、本人確認を怠ったことが原因のようです。

利用する側は当然そういった懸念を抱きます、ですから先ほどご説明した面談や研修、本人確認書類の提出など、スマホでかんたんに完結させつつ「いかに安心してご利用いただけるか」の部分を重要視しています。

シッターさん側も、利用した親からレビューを毎回書かれるので、良い意味で緊張感を持って仕事に臨んで頂いているな、と感じています。


■自分のスキルを活かし、感謝されるベビーシッター側の「やりがいの変化」


――実際利用している方から寄せられる声で印象的だったことはありますか?

親御様からは、「よいシッターさんに出会えて感謝しています」という声が大変多く寄せられます。そしてシッターさん側からは「凄くやりがいを感じる」と言われることが多いです。

これまで「保育するのが当たり前」ではないですけど、自分の仕事が感謝されている実感の無かった方が、キッズラインで仕事をしてみて「今日は本当にありがとうございました」と親御さんから言っていただくと、やりがいを感じ、さらにやる気が出るという話をよく聞きます。
ここはプラットフォームならではの良い循環が生まれているなと思います。

もちろんシッターさん自身の保育スキルの高さによるものだと思いますが、育児に限らないスキルを発揮できることもやりがいを感じる要因としてあると思います。

英語やピアノを教えられるとか、工作が得意とか。親から見てベビーシッターというより身近な「先生」が来てくれて「今日もありがとうございます」と自然に言える、対等な関係性が出来ているのかなと。

料理が得意なシッターさんが保育の訪問のついでにお料理を作って親御様に感謝されたり、育児の枠を超えて「自分のスキルを感謝される」機会を提供できているのかなと感じます。

――キッズラインの今後の展開で特に注力が必要だと感じている事を教えてください。

何よりもまずシッターさんの数を増やすことです。

サービスを利用する親御さんは、「依頼したい」と思ったときに、必ず手配できる。そして料金やシッターさんのスキルなどで選択肢があれば、さらにメリットを感じると思います。

またシッターさんの人数が増えることで、自宅に近いシッターさんとマッチングできる確率は高くなります。依頼主(親)が都内に住んでいて、シッターさんが埼玉の場合、現状はシッターさん自身が了承して親側が交通費を負担するならマッチングが成立しますが、やはり近くにシッターさんがいれば利便性は高いですし、シッターさん側としても家の近くで仕事ができるのはメリットが大きいですよね。

――母数を増やして、提供エリアを拡大・網羅する。

はい、既にシッターさんの需要が多いエリアに増やしていくとともに、都市部に限らずエリアも拡大する必要があります。「育児に本当に困っていて、1人で頑張っていて精神的にも肉体的にも助けを求めている」親御様は全国にいらっしゃいますから。

例えば、現状36都道府県でシッターさんの登録があり、北海道では現在5人のシッターさんが活躍してくださっていますが、エリア全体を網羅できる人数にはまだまだシッターさんが必要です。今後もシッターさんの採用に力を入れて頑張ります。

キッズラインは個人利用だけでなく、福利厚生の一環として「法人利用」プランも用意している
企業側は育児しながら働ける環境を提供して社員に活躍してほしい、母親側も仕事から長期離脱することへの不安などから保育園ではない選択肢を望む声が多いとの事。

■サービスを通じて再認識する社会問題「待機児童」の現状と取り組み


――子育ての話題は病児保育や待機児童など、国・自治体としても関心が強い社会問題との結びつきが強いですが、実際にそういった問題を感じることも多いですか?

1番問題意識を強く感じているのは「待機児童問題」ですね。

保育施設が増えても待機児童の数は増加していますし、今年「東京都がベビーシッター補助を月額最大28万円まで、予算50億円を計上する」というニュースもあり、やはり保育園だけでカバーできない解決への糸口として、ベビーシッターの存在意義が増していると思います。

私たちとしても、待機児童の状況を広くアピールするため昨年から「不承諾通知の買取りキャンペーン」を実施しています。

保育園に落ちた時に届く不承諾通知を、届いた時の”気持ち”と共にキッズラインに送って頂くと1万円分のキッズラインポイントで買い取るというもので、その1万円で今後利用するシッターさんを見つけて頂いたり、リフレッシュに活用頂いたりと、とにかく前向きな気持ちになってほしいと考えています。

この通知が届くと本当にやり切れないというか、シングルマザーの方であれば「私みたいな状況の人が入れないなら、いったい誰が入るの!」と悲痛な声が続々と届きますし、「これだけの人が困っている」という現状や本音を可視化することは、意味があると考えています。

――自治体と一緒に取り組んだ事例もありますよね

はい、品川区ではより産後の母親の負担を軽減するための取り組みとして産後ドゥーラによるサポート利用の補助金制度を導入したり、渋谷区や千代田区でも病児保育の際にベビーシッターを使うと1時間当たり1000円の補助が出ます。調布市ではベビーシッター利用に補助が出ますし、東京以外では福岡市とも提携し、産後サポート事業を展開しています。

中には自治体側や私たちからではなく、利用している親御さんが「キッズラインというサービスを対象事業者にしてほしい!」と自治体側に要望を出して連携が実現したケースもあります。

――やはり当事者の方からの要望が原動力になる

そうなのですが、この問題の難しいところは当事者じゃないと大変さがわからないことと「保育園に入れたらその問題の当事者じゃなくなるところ」です。

保育園に入れない、入れるかどうかわからない間は「どうにかしてほしい」と思えますが、例えば保育園に受かったり子供が大きくなると「自分ごと化された話題」ではなくなってしまう。

保育園の集団保育という仕組みは素晴らしいものですし、入れたらとても良いことですが、一方で入れなかった場合に仕事や夢を「諦めるしかない」という選択肢しかないのも悲しいですよね。育児や保育にはいろんな選択肢があるという形でキッズラインがもっと知られる存在にならなければ、と感じています。

インタビュー中に出てきた「不承諾通知買取りキャンペーン」はinstagram上のハッシュタグとして一覧で見ることができる。

■キッズラインのサービスが、保育の枠を超えて子育て全体の文化を変える


――藤井さん自身、代表の経沢さんを近くで見て、キッズライン事業への想いを感じる立場にあると思いますが

わたしは経沢とトレンダーズの頃から一緒に仕事をしていますが「女性が活躍する、彩り豊かな人生を歩めるサポート」というテーマは、当時から一貫している信念だと感じます。

最初にキッズラインの事業構想を聞いた時も、わたし自身が母親でもあるので「女性が活躍するために必要な事業だ」とすごくやりがいを感じるポイントが詰まっていると感じました。

経沢自身、自分がベビーシッター探す時に30人くらい面接して「こんな大変なことを全ての女性にさせるの?」と感じたそうですし、女性の社会進出が増えてキャリアを諦めない女性が増えていく中で「ベビーシッターサービス」をもっと身近にするならこの状況ではだめだと。

だからこそ「どれだけ母親目線で使いやすいか?」へのこだわりは凄く強いです。

――経沢さん自身が一番近くで一番シビアにキッズラインを見ているような

はい、それと同時に利用者からの意見をキャッチアップするのも早いです。
「そうだよね。ここ使いにくいからこうしたほうがいいよね」と、どれだけお客さんが利用しやすくて安心できるかを常に意識しています。

――キッズラインのサービスが世の中の当たり前になって、いまより「ベビーシッターの文化」が浸透したら世の中がどうなるか?のイメージとかありますか?

保育の枠を超えて子育て全体に良い影響があり、母親も自分の時間や人生を満喫できるイメージを持っています。

キッズラインを利用している方の中にも、いい意味で子供に刺激を与える目的で、あえて毎回別のシッターさんを呼ぶ方もいるんです。
親と違う大人と交流することで世界が拡がり、社交的になったり。

――子供って、親以外の大人をみて学んだり憧れたりする部分ありますからね。

うちの子供もですが、大きくなってくると身近な存在が「憧れ」の対象にもなるんですよね。
シッターさんが明るくて、手先が器用で工作が得意だと「すごい!自分もやりたい!自分もこうなりたい」と子供が興味を抱いたり。

シッターさんが若ければ、お兄さん・お姉さんが出来た気分で慕ってくれて、場合によっては親から伝えるよりもよく言う事を聞くようになったりします。(笑)

自然と「保育」の枠を超えるのだと思います。
私たちが「ベビーシッターサービスを多くの人に利用してもらおう」と展開した結果、バラエティ豊富なシッターさんが登録してくださって、自然と保育以外の部分で関係性や価値が生まれる。

ユーザーさんがこちらの想像を超える活用の仕方を見つけて、むしろ私たちがそれを学んでいます。プラットフォームサービスの醍醐味かもしれません。


藤井聖子 株式会社キッズライン マーケティングマネージャー
二児の母、トレンダーズを経てキッズラインの立ち上げ時から参画。
自らも家庭(育児)と仕事の両立に試行錯誤しながら、「子供を産んでも自分の人生も楽しみたい!」という女性の力に、少しでも自分がなれたらという熱い思いを持ち、キッズラインに携わる。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)