Interview

ココナッツオイルに含まれるラウリン酸と、親子の繋がりが融合する、食の未来 ――ブラウンシュガーファースト 荻野みどり

text by : 編集部
photo   : 編集部,ブラウンシュガーファースト

「自分の子供に安全に食べられる食材」をきっかけにファーマーズマーケットでのクッキー販売、ココナッツオイルの個人輸入を経て創業されたブラウンシュガーファースト
有機ココナッツオイルやアップルソースなど、オーガニック食材を個人向け・業務用・OEMと展開する同社代表荻野さんに、食の安全、オーガニック、そして栄養における親子の繋がりについてお聞きしました。


■「わが子に食べさせたい」と「実際に生産現場へ足を運ぶ」、商材選定基準


――ブラウンシュガーファーストで扱う商材の選定基準を教えてください。

理念として「わが子に食べさせたいかどうか?」をベースにしています。
私自身が娘に食べさせたいかどうか?要素としてはオーガニックであること、添加物をなるべく使っていない、万が一添加物を使用する場合にも、その安全性をきちんと確認・判断して使用することなどを基準にしています。

オーガニックの基準として「有機JAS認証」がよく知られていますが、ブラウンシュガーファーストの選定基準は有機JASの認証取得を必須としていません。

生産者の方が、環境に配慮した作り方をしているか?できるだけ農薬を使っていないか?などを確認できれば、認証を得ていなくても販売することにしています。

――有機JAS認証の有無で判断しないのはなぜですか?

当然、有機JAS認証のココナッツオイルには素晴らしい品質のものが多いです。
一方で、有機JASの認証取得が農家側の負担となる場合もあります。

私たちの手間だけで考えれば「有機JAS認証を基準として商材を扱います」のほうが楽です。
しかし「食材を扱いたいので認証を取得して頂けないですか?」とお願いしたら、農家側に負担を強いることになります。

有機JASはしっかりとした1つの基準ですが、それが全てではない。
現段階で認証取得していない食材の中にも素晴らしいものはあり、現場ではこだわった生産を突き詰める農家さんはいます。「生産者のあり方」が大事だと考えました。

ならば、私たちが生産現場に足を運び、「私たちのお客様に提供して大丈夫なもの」と確認できれば、まずは取り扱い、商品開発やその後の有機JAS認証取得まで一緒にやっていきましょう!という二人三脚スタンスでありたいと思っています。

例えば当社のクッキーは有機JAS認証の食材を原材料として使用していますが、クッキー自体に有機JASは取得していません。製造施設の負担が大きくなるためです。

――現在はどういったルートで消費者に届けているのですか?

大手食品卸会社さんなど通常の食品流通サプライチェーンに乗せてスーパー、コンビニ、百貨店に置いていただいています。
自社サイトもありますが、売り上げ全体の数%程度です。

女性の購入者比率が高く、その中でも子育て世代とその上の50代あたりの方々がメインです。
人生の中で2回、食と健康についての関心が高まるタイミングがあるのですが、

1)妊娠・出産のタイミング、わたし自身これに該当します。
2)自分や家族が病気になったタイミング。
ちょっと自分の体・健康面が変わってきたな、と感じ始めて油や砂糖の質を見直す時に、私たちのブランドに興味を持ってもらうケースが多いなと感じます。

お菓子を販売していた頃、バター不足に悩まされたこともココナッツオイルなどに出合うきっかけの一つ。
商品化のGOサインは「子ども」。子供がおいしく食べて「もっと欲しい!」が基準だという。

■2つの意味を持つ「食の安全」


――オーガニック食材は購入後の保存状態なども大事だと思いますが

はい、酸化防腐剤などを使っていませんから開封後にカビが生えることもありますし、水の付いたスプーンで油に触れれば酸化が進み、唾液が付着すれば雑菌も繁殖します。

少し食べるまでに間が空きそうだな、という場合は小分けにして冷凍することをおススメしています。
正直「カビが生えたじゃないか!」とクレームを頂いた事もあるのですが、これは「食の安全」において2つの考え方があるからだと感じています。

昭和の時代から続く「食の安全」といえば、腐っていない、健康を害さないものを安定的に供給することでした。その結果安全な食品を誰もが食べられるようになった。

――一般の流通で、体に危険な食材が販売されることは無いですからね。

ただ、最近「食の安全」というと、オーガニックや無添加・ナチュラルフードという話題が多いですよね。実はここで矛盾が生じます、無添加であれば自然と腐る。

どこでも安定したものを供給するために添加物や防腐剤が普及し、その食材に慣れた方は自然とオーガニック食材にもそれを求めているのです。

この事実をしっかり理解頂きつつ食材を楽しんでもらうには?をいつも考えています。
同時に、生産現場に足を運んで選定するわたしたちにもそのリテラシーは求められます。

社内には品質管理部という機能を社長直結のポジションとしており、営業とは切り離しています。
目先の売上を追うだけでなく、会社として責任あるジャッジをするために必要な要素だと思います。

――オーガニックや無添加食材への関心が高い世の中ですが、何か感じることはありますか?

「バランスが大切ですよ」というのは理解頂きたいです。

メディアで話題になると、それ一辺倒で売れますよね。「ココナッツオイルがいい」「米油がいいらしい」と特定期間にその食材が売り切れる。

当たり前ですが「ひたすら摂取し続けていい食材」は現時点で存在しません。
ココナッツオイルを過剰摂取すれば太る事もあるし、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸をバランスよく食べた方がいい、オリーブオイルも菜種油もココナッツオイルにもそれぞれの良さがある。

「良い、と言われる理由・背景、正しい摂取方法に興味を持ってもらうには」を凄く考えます。
ココナッツオイルも「代謝の仕方が普通の油と違うので痩せやすい」と言われますが、いままでの食事に足すだけなら太ります。

足すだけではなく、「置き換えをしましょう」という話をよくしていますね、「炒めものの油をこっちに変えてみましょう」とか。

テレビなどで白砂糖の代替食材としてココナッツシュガーやアップルソースが話題になることもあるらしい。
「煮豚など、料理時に砂糖の代用で使うとより体にやさしくなるんですよね(荻野さん談)

■免疫力を高めると言われているラウリン酸と、近年における免疫力の変化


――荻野さんがオーガニックの中でも特にココナッツオイルに惚れ込んだ理由は?

「ラウリン酸」について知ったことが大きいです。

ラウリン酸は、母乳にも含まれる免疫を高めると言われている成分です。
しかし母乳内のラウリン酸含有率には個体差があるようで、近年は「母乳を与えているのに免疫力が弱い」と母乳内のラウリン酸含有率が減少している可能性も示唆されています。

ココナッツオイルにはラウリン酸が約40~50%含まれており、この食材が普及することで母乳だけで補えない子供の免疫力を改善できるのでは?「お母さんや子供たちに食べて欲しい」と感じる素晴らしい食材だと思いました。

フィリピン等では、乳幼児に一滴食べさせる習慣があるみたいです。
「これは子供の体を強くするの」と、農家の方が日常的に摂取させています。

――ラウリン酸の成分や効能など、いわゆる「研究」の領域で今後アプローチしていく考えはありますか?

興味がないわけではないが、もっと「食ってなんだろう?」の問いを大事にしたいです。
食や栄養の研究は、合理的な機能性を追求しますよね、純度の高い成分を効率よく摂取する、例えば「ラウリン酸の錠剤」とか。

素晴らしい研究だと思いますし、今度が遺伝子や生体情報と結合されて「一人一人に最適化された」ものへと進むのかもしれません。「うちの子に最適な粉ミルク」とか。

その変化もありつつ「食ってそれだけでいいのかな」の問いに興味があります。

――成分や生体というより、体験的・メンタルの部分ですか?

はい、当然食には機能的な側面があります。ラウリン酸による免疫力。
それと同時に「心理面」もあるのではないかと、過去の記憶や育った環境に紐付くとか。

「栄養」自体、複雑性が高い領域なので【五感での認識】があるのでは?と。

例えば白米を食べる。
白米に含まれる栄養を摂取できる錠剤がいつか実現するとしても、「ごはんが炊けてくる香り、噛むと甘みが口の中に拡がる感覚、炊けたお米の香りで不意に小さい頃の実家の様子を思い出す」ことに何か意味がある気がします。

錠剤で機能的に摂取するのも正しい、それを突き詰める研究者の方々がいらっしゃるなら、
わたしは「五感」や「記憶」や「幸福感」がどう作用するか?のアプローチを突き詰めていきたいなと。

食材だけでは正しい使い方や調理法がわからない人もいる。
ウェブサイト内ではオーガニック食材を使用したレシピの紹介なども行っている。

■「実は親子の繋がりが大事だった」という栄養の未来を突き詰めたい。


――食を「記憶」や「幸福感」の面からアプローチしたい、というのは今後の方向性にも近いですか?

ブラウンシュガーファーストの事業戦略の話ではなく、あくまでわたし個人の想いとして「食や健康の世界に“バグ”を起こしたい」と時々考えます。

「完全栄養食」とか「錠剤」でシステマティックになった栄養の世界に「母親の愛情」という複雑的な要素を足してバグを起こす感じです。

――未来で、完全栄養食の錠剤を摂取する時、実は「はい〇〇ちゃん。ちゃんと飲んで」って渡されたほうが効果高い事実が!とか?

そうそう。お母さんと楽しくおしゃべりしながら摂取したほうが体内で・・・みたいな。
母親が最後にひと混ぜするとか、トッピングするとか、最後の創意工夫に実は「親子の繋がり」が大事でした。みたいな。

もう事業戦略でもなんでもないです。(笑)
わたしが「30年後の食の未来」をイメージした時に現代の食文化から30年後に持っていきたいもの。

――会社として今後強化しようと思っている事は?

いまの話と最終的に繋がるのですが、RTE(Ready to Eat)領域を強化するつもりです。
最後のひと手間だけで食べる、という調味料や冷凍食品とか。
子供のお菓子で「ねるねるねるね」ってありますよね、あれもRTEですよね。

特に冷凍食品にはとても興味があります。
漠然と「不健康なイメージ」がありますけど、実は最も保存性の高い手法ですし、いまはオーガニック食材でも存在しますから。

――腐りやすい・劣化するオーガニック食材と相性が良い気はします。

そうなんです。廃棄食糧問題にも影響があるので冷凍技術は注目しています。

不健康なイメージを払しょくするような、「オーガニック冷凍食品」とか「最後の10分のひと手間だけで」という冷凍の料理キット。

今の時代、どうしても母親が炊事含めて家事完璧にこなすのは難しいですよね。
だから「最後のひと手間」だけでオーガニックな食材を最良の状態で摂取出来て、
さらに「それをお母さんがやってあげることが重要」みたいな未来の食卓が実現できれば、と思います。