Interview

「空の道」でドローンが安全に飛べる社会を作る——株式会社ゼンリン 田内滋

text by : 編集部
photo   : 編集部

空の産業革命を起こすと言われているドローン。その活用は空撮にとどまらず、物流業界に大きな変革をもたらすことが期待されています。国の「空の産業革命に向けたロードマップ」(小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会)では2020年代には有人地帯でのドローンの目視外飛行を目標としており、現在はそれに向けたさまざま安全対策や、制度作りのための実証実験が各地で行われている段階です。

こうした中で存在感を示しているのが、老舗の地図会社であるゼンリンです。同社では、2015年からドローンが安全に飛行するための「空の道」を作るプロジェクトをスタート。なぜ、陸の地図を提供してきたゼンリンが空の地図を作り始めたのでしょうか。同社のドローン事業立ち上げに携わったドローン推進課の田内滋氏に話を聞きました。


自由な空の空間に、秩序ある道を作る



ゼンリンが手がける「空の道」とは、ひと言で言えば、ドローンが安全に飛行し、確実に目的地まで到着するための飛行ルートやルールを定める事業です。

ドローン市場が拡大し、ドローンが物流の担い手になる日はそう遠くはないはず。しかし、数多くのドローンが自律して空を飛び交うようになったとき、空に秩序がなければ衝突や墜落などの事故につながりかねません。これを回避して安全なドローン飛行を可能にするために、ゼンリンでは地上の自動車や人が通る道と同じようにドローンが飛行可能な道を定め、空の地図を作ろうとしているのです。

なぜ、地図会社のゼンリンがドローン事業を手がけることになったのでしょうか。ドローン事業の立ち上げに携わった田内氏は当時についてこう語ります。

「ゼンリンでドローン事業の話が出たのは、まだ世の中にドローンがそれほど浸透していない2015年です。当時私は経営企画の業務に携わっていたのですが、その中でドローンの可能性を探るという仕事をしていました。ゼンリンのデータベースがドローンに役立つのではないかという考えが会社にあったのです。

同じ頃、国の機関へ出向していた社員が『ドローンにもカーナビのようなルートがあれば面白いのでは』と考え、事業化を模索していました。この2つの取り組みが重なって、ドローン事業の構想を考え始めたんです」

わずか2名でスタートしたドローンプロジェクト。あるときその取り組みが執行役員の目に留まり、「面白そうだから国のプロジェクトに応募してみてはどうか?」と声を掛けてもらったそう。そして、2016年7月に経済産業省とIoT推進ラボが主催する「第2回先進的IoTプロジェクト選考会議 IoT Lab Selection」で準グランプリを獲得。これを機に本格的に事業を推進するために、2016年9月にドローン事業推進課が発足しました。


人が見る地図から、機械が認識する地図へ


ゼンリンはもともと地図の出版事業からスタートした会社です。その後データベース化を進め、事業を拡大してきました。そんなゼンリンにとって、「空の道」事業は新たなターニングポイントになりうる可能性を秘めた事業です。

「ゼンリンは1980年代にいち早く紙の地図をデータ化し、これまでGoogleマップやカーナビをはじめ、さまざまなサービスに地図データを提供してきました。紙、PC、スマホ、カーナビと、デバイスは変わってきましたが、今までの地図は基本的にすべて人間が見るためのものでした。

しかし、これからの時代は機械が読むための地図が必要になってきます。自動車の自動運転やドローンの自律飛行はカメラやセンサーで周囲の状況を確認し判断して動きますが、カメラやセンサーだけでは暗闇の中や真っ白な雪の中など常に変化する状況では状況を正しく把握できない可能性があります。したがって、機械自身が今いる位置を把握するとともに、この先のルート情報を事前に知っておくためにも、地図情報の価値は高いのではないかと考えています。機械が読むための地図を作るということは、ゼンリンの地図作りの歴史の中でも大きな転換点になるだろうと思っています」

かつてインターネットやカーナビが普及する前から地図のデータ化に取り組んでいたゼンリン。ドローンが本格的に産業化する前にいち早く機械向けの地図を作ろうとする背景には、老舗地図会社ならではのイノベーションスピリットが垣間見えます。


電線や川がドローンの道になる


ゼンリンでは現在、ドローンが安全飛行するために必要な情報を大きく4つにわけて検討しているといいます。1つめは河川や植生などの地形情報。2つめは建物や鉄塔などの情報。3つめが飛行禁止エリアの情報。そして4つめが人や車、気象条件などの動的な情報です。

「地形や建物の情報はゼンリンのデータベースにありますが、人や車、建設中の建物のクレーン、気象情報など状況によって変化する動的な情報をどうやって認識させるかが課題です。何がドローンの障害物になるのか、どこならドローンが安全に飛べるのかという定義を作っているというのが今のステータスです」

ドローンの飛行ルートとしてゼンリンが注目しているものの一つが送電網です。現在、東京電力と業務提携して「ドローンハイウェイ」のプロジェクトが進行中。これは送電網に沿ってドローンを飛ばすことで、高速道路のように目的地まで一直線に飛べるのではという考えからスタートしました。

「送電線はこれまでドローンを飛ばす際の障害物になりうるものでした。しかし、我々地図会社からすると、送電網というのは道に見えるんですね。送電網を『人が住んでいるところまで必ず続いているネットワーク』と捉えてみたらどうだろうか、と。送電線の上空を上手く活用すれば障害物はないですし、ドローンを安全に飛ばせる道になるのではと考えたんです」

2018年7月には東京電力ベンチャーズ、楽天と共同で「ドローンハイウェイ」による物流の実証実験が実施されました。東京電力グループが保有する送電設備のインフラデータとゼンリンの「空の3次元地図」をかけあわせてドローンの飛行ルートを策定。ドローンが片道約3kmを自律飛行して地域住民にお弁当を届けるという実験でした。

また、電線のほかにドローンの道となりうるのが河川です。現在、長野県伊那市では河川上空を幹線道路にしたドローン物流システムを構築する「INAドローンアクア・スカイウェイ事業」の実験が行われています。これは伊那市を流れる天竜川や三峰川の上空をドローンの長距離幹線航路として、市街地と山間地域を結ぶサプライチェーンの形成を目指すというプロジェクトです。


(出典:ゼンリン 7月12日ニュースリリース)

「河川の上空にどうやってドローンを安全飛行させるか、現在は現地調査して方法を模索しているところです。また、河川には橋が架かっていますから、橋の上を通る人や車をどうやって避けるのかという課題もあります。動的な情報をどのように判断するか、例えば橋の下ならドローンが飛べるのではないか、など、さまざまな方法を検討しています。

このプロジェクトは実証フェーズではなく実用フェーズの検証なので、3年後には実用化しないといけません。このプロジェクトが失敗したら日本のドローン物流の未来が終わってしまうかもしれないという気持ちで取り組んでいます」

将来的には伊那市でドローン物流のモデルを確立し、全国各地に横展開していきたいと語る田内氏。「安全面とビジネスモデルの開発と、両軸からのアプローチを今後も続けていく」と言います。


空の産業革命には「地図」が不可欠


ドローンがもたらすといわれる空の産業革命。ドローンの産業利用を促進するためには、まずは安全を担保することが重要です。そのためには、自由な空を無秩序に飛び回るのではなく、飛行ルールを作っていかなければなりません。

「地図には『ここは道があるから人が通れる』『ここは階段だから車は通れない』といったさまざまな規制の概念がインプットされています。『空の3次元地図』もその延長線にあるものです。空にも安全に通れる道と通ってはいけない道があれば安全にドローンが飛行できるはずというのは、地図会社としては当然の発想です。その点が世の中から見たら斬新だったのかもしれません。でも、実際に『空の3次元地図』を作れるのは我々だけです。地図会社だからこそできる社会貢献を今後も目指していきます」

道なき空に道を作り、地図でドローンの産業利用を支えていくために。ゼンリンの挑戦はこれからも続いていきます。

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