Interview

最短ルートで社会課題を解決する起業家プラットフォーム——株式会社ボーダレス・ジャパン 高橋亮彦

text by : 編集部
photo   : 編集部,ボーダレスジャパン

貧困、環境問題、差別などの社会課題の解決を目指して事業を展開するソーシャルビジネスが注目を集めています。NPOやボランティア団体との違いは、自ら収益を上げて継続的に事業を行うこと。しかし、収益化がうまくいかず、事業の成長が足踏みしてしまうケースも少なくありません。

ソーシャルビジネスを成功させるのは難しい——そんな状況を変えようとしているのが、社会起業家のプラットフォームを手がける株式会社ボーダレス・ジャパンです。現在21のソーシャルビジネス事業を行っており、それぞれ独立した事業会社として運営するというスタイルで、業績は右肩上がり。2017年度はグループ合計で43億5000万の売上を達成しました。この成長をなしえた背景には何があるのでしょうか。ボーダレス・ジャパンの事業会社の1つであるジョッゴ株式会社の代表を務める髙橋さんに話を聞きました。


起業に必要な人材、資金、ノウハウを共有する


社会課題を解決するスピードを速めるためにはどうしたらいいか——。ボーダレス・ジャパンが出した答えは、社会起業家のプラットフォームを作ることでした。社会起業家の数が多くなればなるほど、解決できる社会課題の数が増え、解決までのスピードも加速していきます。まずは社会起業家の数を増やすために、起業をサポートする体制を作り、バックアップしていく。それがボーダレス・ジャパンのベースにある考え方です。

起業にあたって必要となるのが、資金、人材、ノウハウの3つ。ボーダレス・ジャパンでは新たなソーシャルビジネスを立ち上げるリーダーに対し、3000万円の事業資金を投資します。また、グループ内からチームのメンバーを集めたり、社内の別事業で蓄積した経営やマーケティングなどのノウハウを共有したりすることも可能。これによって起業成功のハードルが下がり、事業の初期段階から目の前にある社会課題に向き合えるようになります。

ボーダレス・ジャパンの一員であり、2017年にグループ企業の1つであるジョッゴの代表に就任した高橋亮彦氏も、「社会起業家のプラットフォームを作る」というボーダレス・ジャパンの考え方に共感をしている1人です。

「ボーダレス・ジャパンでは昨年10個の新規事業が立ち上がりました。1つ1つはスタートアップで、コアで働いているのは1人か2人という状態。リソースも、資金も、ノウハウもない中でゼロから事業を立ち上げるのは難しいですが、ボーダレス・ジャパンではグループ全体で新規事業の活動をサポートすることができます。また、例えば貧困対策といっても地域ごとにアプローチは異なります。身近にある先行事例を参考にしながらビジネスを進めていけることもメリットです」

起業初期のサポートが整っていることに加えて、同じように社会課題の解決を志す仲間が近くにいるというのは心強いところ。こうした関係を、あえて1つのグループ会社内でつくるという点もボーダレス・ジャパンの強みだといいます。

「社会課題を解決するという意識は同じなのに、会社が別だとライバルになってしまってノウハウの共有がしにくくなってしまいます。それはもったいない。結果的に課題解決まで時間がかかってしまいます。

事業を進めていくにあたっては、成功を共有することはもちろんですが、実は失敗を共有することが大事だと思うんです。例えば、ボーダレス・ジャパンでは、各事業がどんな課題を抱えていて、うまくいかない場合はなぜなのかなどをグループ会社内で共有するために、月に一度、各事業の社長が集まってミーティングをしています。できたばかりの小さな会社であっても、困ったときに一緒に対策を考えてくれる仲間がいる。お互いに支え合うという意識をみんな持っています」


「社会課題の解決」をお客さまに押しつけない


社会起業家を育成し、支え合う仕組みが整っていることがボーダレス・ジャパンの成長の理由の1つ。それに加えてもう1つの理由といえるのが、しっかりと利益が出るビジネスモデルを構築しているということです。

「社会課題の解決というのは僕らが目指している目標であって、これをお客さまに押しつけてはいけないと思っています。僕らはあくまでもビジネスとして結果を出さなければいけない。社会課題に向き合っているから認めてもらえるだろうという考えは一切ありません。

課題解決に継続的に向き合っていくためには、継続的に利益を上げていくことが必要です。そのためにも、まずはお客さまに満足してもらうサービスや商品を提供することが大事。お客さまに価値を届けることで、結果的に社会課題の解決につなげていくというのが僕たちのビジネスです」

例えば、高橋氏が代表を務めるジョッゴは、精神的な障がいを抱える人や、バングラディシュで貧困に悩む人を革職人として育成し、そのスキルを活かしてオーダーメイド革小物を作る会社です。しかし、商品を扱うブランドサイトにはこうした情報は大きく掲載されておらず、メインで伝えているのは商品そのものの魅力や使い方の提案です。まずはお客さまに「ほしい」と思ってもらえる商品を作る、という会社としての考え方が表れています。

顧客満足度を高めて利益を出すというのは、どんなビジネスでも共通のこと。しかし、社会貢献、福祉といった文脈になると、どうしても忘れられてしまいがち。社会貢献の大前提としてビジネスとしてきちんと成立させるという原点に立ち返っていることが、ボーダレス・ジャパンの強みといえそうです。


目指すのは1000事業で売上1兆円


2017年度のグループ全体の売上が43億を超えたボーダレス・ジャパン。しかし、「まだまだ少ない」と高橋氏は話します。

「ボーダレス・ジャパン代表の田口がいつも言っているのは、『将来的には1000事業で1兆円の売上を目指す』ということ。1つの事業では売上が10億や100億でも、それが集まれば大きな額になります。これは長期的な目標ではありますが、ようは何がしたいかというと『ソーシャルビジネスってちゃんと儲かるんだ』と思ってもらいたいんです。そして、僕たちのビジネスをマネする人が増えていけばいいと思います。

社会課題の解決することによって利益がきちんと生まれるというビジネスモデルを僕たちがしっかりと立てることが、世の中の社会起業家の母数を増やしていくことにつながります。そうなれば、社会はもっとよくなっていくはずです」

ボーダレス・ジャパンでは社会起業家を目指す人に対して、ソーシャルビジネスの基礎を伝えるボーダレス・アカデミーの運営も実施。これも社会起業家の数を増やす取り組みの1つです。

「例えば、学生のときにNPO活動やボランティア活動をしている人は多いですが、就活を機にほとんどが辞めてしまいますよね。こうした社会貢献に携わりたいという志を持つ人に対して、ビジネスとして成功する方法を伝えることで行動の後押しにもつながるのではと思います」

現在はソーシャルビジネスが「特別なこと」として語られがちですが、高橋氏は「これが普通のビジネスと言われるようになるべき」と話します。

「お客さま、会社、取引先、環境、課題を抱える当事者。どこかに問題を押しつけるのではなく、みんなにとってメリットがある八方良しのビジネスがどんどん生まれてくれば、ソーシャルビジネスという枠組みを設ける必要もなくなるはず。最終的には世の中からソーシャルビジネスという言葉がなくなればいいと思います」

社会貢献活動を特別なこととして切り離すのではなく、普通のビジネスの中にそうした考えが根付く日が来るように。ボーダレス・ジャパンの活動はそのための大きな一助になるはずです。

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