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「スペースデブリ除去・宇宙環境問題」市場とは?

text by : 編集部
photo   : ASTROSCALE

astavisionが企業・特許情報のビッグデータ分析により、今後成長が見込まれる市場を分類した「2025年の成長市場」。近日公開予定の「スペースデブリ除去・宇宙環境問題」市場コンテンツについて、その一部をプレビューする。


 

2013年12月に日本公開された、サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニー主演のハリウッド映画『ゼロ・グラビティ』(原題:Gravity、アルフォンソ・キュアロン監督、第86回アカデミー賞7部門受賞)。冒頭、スペースシャトルが大爆発を起こし、船外活動中だった二人が地上600㎞の宇宙空間に放り出され、死と向き合う事態に直面する。

シャトルの爆発を引き起こしたのは、高速で宇宙を飛び交う人工物の破片、スペースデブリ(space debris:宇宙ゴミ)だった。

 

 

近年、映画に描かれたようなスペースデブリ衝突事故は現実に起きている。今後ますます増えるスペースデブリによって、人類の宇宙進出はもとより、リモートセンシングやGPS、気象予報などビジネスや日常生活にも大きな影響が出かねないため、様々な対策技術が考案されている中、独自の技術開発や衛星打ち上げを行う日本人設立の世界初・民間スペースデブリ除去ベンチャーASTROSCALE社が登場し、注目を浴びている。

 

■宇宙開発の結果としてのスペースデブリ

ライト兄弟がライトフライヤー号による初の有人動力飛行に成功した1903年12月17日からわずか50年余り後の1957年10月4日、旧ソビエト連邦(CCCP)は世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げ、人類は宇宙時代の幕開けを迎えた。

以来、5000回以上のロケット打ち上げを行い、現在、地球周回軌道上には1000基以上の運用中の人工衛星や観測機器、国際宇宙ステーション(ISS)が航行している。

しかし、それ以上に夥しい数のスペースデブリが宇宙空間を漂っている。故障したり既に任務を終えて運用されていない人工衛星のほか、衝突・爆発などで破損したり散乱したりした人工衛星の残骸、ブースターロケットの残骸、それらの部品・部材、機体から剥がれ落ちた樹脂片や塗料片等々、総重量は3000トンを超えるという。

通常、役目を終えた人工衛星やロケット本体等は、軌道周回速度が落ちるにつれ、徐々に高度を下げ、遂には大気圏に再突入し、大気との衝突で、流星のように燃え尽きる。JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」の最期と同様である。しかし、地上からの高度が高いほど、大気圏突入までに時間がかかり、その間は軌道上に留まる。

2012年時点で、直径10㎝以上のデブリは 2万9千個以上、5㎝以上では 6万個以上、1cm以上は 70万個以上、1mm以上のデブリは 2億個以上、0.1mm以上のデブリは兆レベルと報告された(Dr. Carsten Wiedemann et al. “Space Debris” 2012)。

Norad(北米航空宇宙防衛司令部)では、スペースデブリを含む宇宙空間の人工物をカタログ化し、特に危険なデブリを中心に追跡調査している。カタログは日々更新されており、2015年9月15日時点で、カタログ収録アイテム総数は4万点を超える。その中には大気圏に再突入することで燃え尽きてしまったものも含まれるが、現在、地球周回軌道上に存在するアイテム数は1万7千件に上る。

また、米国スペース・サーベイランス・ネットワーク(Space Surveillance Network:SSN)は、人工衛星や有人宇宙機の航行に危険を及ぼす可能性が高い直径10㎝以上のデブリを監視対象としてカタログ化し、宇宙機の遠隔制御などによる衝突回避策をとっている。

参考:NORAD Catalog – A Collection of Satellite Database  

ちなみに、宇宙に浮遊する微細な天然物(数cm以下の微小な天体)はメテオロイド(meteoroid:流星体、流星物質)と呼ばれる。大気圏に突入すると大気との衝突で発光して流星(meteor)となり、有形のまま地上に落下すると隕石(meteorite)となる。ブルース・ウィリス主演の1988年のハリウッド映画『アルマゲドン』の冒頭では、メテオロイドによるスペースシャトル破壊が描かれている。

 

■ベンチャー企業による挑戦

2013年5月にスペースデブリ除去を目的にシンガポールで設立されたアストロスケール社(ASTROSCALE PTE. LTD.)は、2016年に予定される微小デブリを計測し分布図を作る「IDEA-1」衛星の打ち上げと、2017年のデブリ除去技術実証衛星「ADRAS-1」の打ち上げに向けて、東京理科大学の木村真一教授はじめ、日本の大学や企業等と検討を進めている。 「ADRAS-1」では、独自に開発した 『マザーシップ』と呼ばれる衛星を打ち上げ、除去対象となるスペースデブリに数m付近まで接近させ、『BOY』という衛星の子機を目標のデブリに向けて発射して、独自開発の接着剤により接着させる。接着した『BOY』は、スペースデブリを押して大気圏に突入させ、デブリと一体として燃え尽きるというものだ。

 

2017年に打ち上げ予定の「ADRAS-1」コンセプト(画像提供:ASTROSCALE)
2017年に打ち上げ予定の「ADRAS-1」コンセプト(画像提供:ASTROSCALE)

 

シンガポール本社CEO、日本法人社長ともに日本人であり、研究開発は主に日本で行う。シンガポールは衛星大国の米国、ロシア、中国と中立的な立場であることから、拠点に選んだという。自らのチームを「Space Sweepers(宇宙の掃除人)」と呼ぶ。

(参考)
株式会社アストロスケール 会社概要 – Astroscale
Space Debris ~秒速8kmの先へ~

 

また、小型人工衛星や搭載機器開発を行う九州大学発ベンチャーの有限会社QPS研究所は、2007年度より、宇宙空間に広げた薄膜シートでスペースデブリを検出する微小デブリ計測用センサをIHIと共同開発し、特許5492568特許5671316を取得している。

 

QPS型デブリセンサ
QPS型デブリセンサ(画像提供:QPS研究所)

 


 

近日公開予定の「スペースデブリ除去・宇宙環境問題」市場コンテンツでは、宇宙開発を阻むデブリ衝突の実態、JAXA・ESAらによるスペースデブリ除去技術、この市場のグローバル市場規模などを紹介する。

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