「DMM英会話」や「DMM.make」など多様なサービスを展開しつつ、「艦これ」や「刀剣乱舞」などゲームの分野でもヒット作を輩出するDMM、今や日本有数のIT企業となった同社にはその技術面を支える「DMM.comラボ」がある。CTOの城倉さんにDMMの強みや今後の展開を伺いつつ、六本木一丁目に移転した新オフィスも案内頂きました。
■DMM.comラボには500名を超えるエンジニアがいる
―DMM.comラボのCTOはどういう位置づけなんでしょうか?
どちらかといえばマネジメント中心ですね。会長の亀山や社長の片桐とエンジニアを繋ぐ役割といいますか。
経営方針に従ってDMMのテクノロジーやエンジニアリングはどうあるべきか?それに必要な組織体制をどうするか?そういう仕事がメインです。
―「ラボ」というネーミングですが、メインの事業とは切り離した研究・開発を主に?
いや、名称に「ラボ」とはついていますけど研究所というわけではなく、DMMグループにおける開発と運営の会社という立ち位置です。
よく大手企業で「〇〇システムズ」とか「〇〇ソリューションズ」とついている会社がありますが、ああいったものに近いと思います。
現在DMM.comラボ全体で開発エンジニアは500名くらいいまして、DMM.comのサービスとアプリ開発 部隊が約300名、ゲーム事業は別で別れていて200名くらいですね。
事業会社のDMM.comと会社は別ですが、実際は机並べて共同で仕事していますから、社員にしてみると企画・営業部と開発部程度の感覚です。
―ここ数年「艦これ」「刀剣乱舞」などヒットゲームを輩出したり、社長にpixivの片桐さんが就任したり、大きな変化が起きてる印象を受けます。
実際それはありますね。DMMは昔から色々な事業に投資して事業が伸びたらその利益をまた次の事業に、という投資のスパイラルが強みですが、最初に動画、その次にFXときて、ゲームはわりと後発で5年前くらいからスタートしました。このゲーム事業が会社の柱の1つになったのは大きいです。その後「英会話」とかさらに事業の多角化が進んだと思います。
―片桐さんはpixivを作られた方でインターネット、特にCGMサービスの文化を持つ方ですよね。
言われる通り社長の交代も大きな変化だと思います。実は事業の多角化が進んだと言いつつここ数年は「VRシアター」とか「英会話」とか純粋なネットサービスではないものが続いてました。
亀山も「もっとインターネット的なサービスを立ち上げたい」と思っていたので、これからその文化を形成していくフェーズだと思います。
■大きい組織でも新しいフレームワークを意欲的に導入しないと、勝負できなくなる。
―開発部隊だけで500人規模の会社は国内でも多くありません。DMM.comラボの特色はありますか?
新規事業を立ち上げる際に必要となる、会員や課金などのプラットフォームをかなり整備していると思います。
レコメンドの仕組みやデータ解析基盤も自社で構築していて、例えばApache Sparkなどは出始めの頃からかなり活用しています。そういったノウハウが厚いというのは特色と言えるんじゃないでしょうか。
―Apache Sparkを初期から導入、という話ですが、そういった新しいフレームワークを大規模組織で導入する場合、既存システムとの兼ね合いでスピーディに動けない事もあると思います。
そこは柔軟に出来るよう工夫しています。最初はR&D的に小さく始めてみて、適用できる事業を探して導入して、というのを少しずつ展開していった結果です。
「CTO室」というR&D的な動きを推進するチームがありまして、データ解析基盤もそこで開発して、実用的になった段階で「ビッグデータ部」というチームとして独立しました。
―全社的に新しいものを導入する文化の形成って大変そうですが
そうですね、大前提としてサービスを止めてはいけませんから「安全性が最重要」ではあります。
一方で、数年前までは単一なPHPベースの仕組みをメンテナンス繰り返しながら使っていた時期がありました。
使うフレームワークを1つに統一して保守コストを下げる、という考え方もありますけど、新規事業をどんどん展開する会社の場合エンジニアの創造的な思考が止まる可能性もあります。「慣れているので早く作れるからこのシステムを使おう」とか。
そのやり方も一理ありますが、世の中のテクノロジーはどんどん動いていくので、数年先を見据えてキャッチアップしないと競合と勝負できなくなります。
そこで社内の仕組みを変えていく過程で、言語や技術について「これ」という標準化をせず自由なルールにしました。いまはチームごとにGO、Rails、Scalaなど自由に選択しています。
■最新の技術をマッシュアップして、世界に通用するサービスにする。
―少し会社全体の話に移ります。国外への事業展開について聞きたいのですが。
去年くらいからグローバル展開については積極的で、英会話サービスはもう10カ国以上展開しています、他にもゲームタイトルを海外展開したり、DMMアフリカという事業部もできました。
一方で全ての事業を日本発でやるというのは難しい事だと感じています。
―それはなぜ?
国内市場は縮小していくとはいえ、今の日本はまだ安定した国なので、海外でビジネスを行う必要性を感じづらい環境です。エンジニアに関して言うと、海外エンジニアとの交流や、カンファレンスへの参加などの機会を提供して、「グローバル視点で働く」ことの面白さや、英語の必要性などの動機づけが必要だと考えています。
―世界的な競合と戦う上での戦略はありますか
GoogleやMicrosoftとか、そういった企業に「要素技術」で勝つのは、正直大変だと思います。
恐らく、そういった要素技術を使ったAPIが今後沢山出てきて、僕らはそれをマッシュアップして世界に通用するサービスを考えていくポジションかなと。
―APIを創る側ではなく、世界で一番活用する側だと。
事業の根幹になる技術は内部で持つべきですが、専門性を持ったプレイヤーのAPIを活用してサービス開発に集中したほうがスピード感が出て、DMMの強みを活かせると思っています。
ディープラーニングなど、トレンドの技術は押さえていかないといけないので、社内でもR&Dをやっていますが、どちらかといえば「どう活用しようか?」の目線が強いです。
―例えば技術力を持った会社をM&Aする、という方法もありますよね?
技術力のある開発チームを買収するケースもありますが、もう少しサービスレイヤーの会社が多くなると思います。
今年ピックアップ、nana musicという会社がジョインしました。彼らはサービスを創る上で少人数のエンジニアが中心的な役割を果たすベンチャー企業的な文化。DMMもベンチャー企業と自負しつつも、どうしても組織が大きくなりつつあるので、彼らから学ぶ点は多いです。
―スマートホームや医療など、世界のIT大手はインターネット以外の事業にも触手を伸ばす流れにあります。こうした動きはDMMとしてあり得ますか?
今後、全然あり得ると思います。
例えばベトナムでドローンで農薬散布するプロジェクトを試験的にやっていたり、「.make事業」秋葉原の拠点にIoT系のスタートアップが集結して、あの場所自体がものづくりのプラットフォーム化しています。
そこから何かしらのデバイスが出たり、既存事業の保有するビッグデータと組み合わせてマッシュアップしたり、元々事業領域のこだわり無く、収益を生んで新しいものに投じるという仕組み自体が強みの会社ですから、社内のリソースを結合させてネットサービスではない新事業が生まれるというのは、何かしら確実にやると思います。
―DMMの社内で、新しいアイデアを事業としてGOサイン出すかどうか?の基準は。
まずは収益ですね、短期的にちゃんと収益化できるものか。
もう一つのパターンは、先ほどの秋葉原にある.make事業とか、収益化までが長くても先行投資になるもの。まだ市場形成されてないけど、長い時間かけて5年後10年後に我々が市場の中心に辿りつけるもの。この2つのどちらかな、と思います。
―最後に。DMMのエンジニアとして成長する人に見受けられる傾向ってありますか?
変化に対する柔軟な対応力じゃないですかね。
事業をやる場合、状況が変われば180度の方向転換が必要になることもありますし、技術も新しいものが沢山生まれる。それに対応して「その先」に進む。この能力は大事だと思います。
―ありがとうございました。
■移転したばかりのDMM新オフィス紹介
せっかく来て頂いたので、ちょっと社内をご案内します
―ありがとうございます、会議室に通された時点で凄く驚いたんですが
これ、プロジェクションマッピングのジャングルで、動物が会議室まで案内してくれるんですよ。
で、触ると鳴き声が聞こえてきたり。
―歩いてる動物と止まってる動物がいますね。
ドアの前に動物が止まってるのは、その会議室が「使用中」ということです。
で、こちらがエントランスです。
この滝もプロジェクションマッピングで触ると水の流れが変わるんです。
―エントランスに会社案内のパンフレットも置いてますね
あ、いえこれはオフィスに生えてる植物や歩いてる動物を紹介する冊子です(笑)
―ほんとだ、会社やサービス紹介じゃなくて、動物の解説文が掲載されている・・・
AからZまで会議室に名前がついていて、さっき取材で使った部屋はフラミンゴ(F)です。
で、この先はまたテイストが少し変わるのですが、木目調の床で比較的ちょっとしたイベントも出来るスペースです。
着席で300人以上収容できます、スタンディングなら600人くらい入るんじゃないですかね
ここでエンジニア向けの勉強会を開催したり、サービスによっては記者会見を行ったりもしているんです。
(※フロア移動。執務スペースへ)
―よくみると机が全部繋がってるんですね。
そうですね、全長で1㎞以上あって。ずーっと奥の方まで繋がっています。
繋がっていることであえて遠回りをしなくてはならないこともあるのですが、それによって普段とは違うコミュニケーションが生まれるように!という考えのもと作られたそうなんです。エリアによって机の色も異なっているんですよ。
―先ほどのフロアと比べるとシンプルになりましたね。
はい、こちらは比較的一般的なオフィスといった感じが強いのですが、エンジニアがより多いフロアになるので開発者が過ごしやすいようになっています。
―座席だけでなくフリースペース?もあるんですね
はい!窓際の緑の部分は集中できる用に左右が壁になっている席があったり、自由にMTGができるフリースペースがあったりと開発しやすいフロアになっています。
―本棚の雰囲気が開発っぽいですね。技術書がたくさん。
学びの場を増やしていけるように、と書籍の充足を進めているところです。
新刊入荷の通知を流すとすぐに人が来るみたいで、もっと活性化させたいと思っているところです。
社外のイベントに登壇したり、新規サービス立ち上げたりしてる開発メンバーにも話をしてもらうように声を掛けたので、そろそろ会議室に移動しましょう
―よろしくお願いします
(※7月3日公開予定のインタビュー後編へ続きます。)
プロフィール
城倉 和孝 株式会社DMM.comラボ取締役兼CTO。
バンド活動に没頭した10代・20代を経て未経験で独立系SIerに入社。企業システム受託開発やパッケージビジネスの立ち上げ、プロジェクトマネジャー、ジョイントベンチャーでの取締役CTOなどを経験し、2011年にDMM.comラボ入社。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)