2017.09.21 THU 株式会社Xenoma CEO 網盛一郎 「全身にセンサーを纏う。スマートアパレルの世界展開と未来像」
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,株式会社Xenoma |
カメラなしでユーザーの動きを認識するスマートアパレル「e-skin」が今年の夏、海外大手クラウドファンディング「Kickstarter」に挑戦した。東京大学・染谷研究室からのスピンオフベンチャーとして創業した株式会社Xenomaは、既にアメリカや中国などから大きな反響を得ている。
大手メーカー経験と東大発技術の融合、大田区オフィスでコア技術を磨き、今後本格的な世界展開を視野に入れているCEOの網盛さんにお話を伺いました。
■Kickstarterで予想外のニーズを得たが、技術の認知・成熟度が足りないことも再認識。
―今回Kickstarterのプロジェクトを開始したことで今までと違った反応はありましたか?
どういった業界や活用方法で関心があるか、自分たちで仮説を立てて営業するのとは違う形で多くのフィードバックが得られたのは良かったです。
e-skin自体はただのデバイスで、今はゲームを付けていますが本来どういったサービスで活用するかは意図的に幅広い可能性を残しており、その点でも「これは自分たちで気づきにくいな」という領域で反応がありました。
一方、技術面では従来の「モーションキャプチャー技術」とは違うもの、というのが明確に伝わったと思います。
意図的にそうしたのですが、逆にモーションキャプチャーに関心があった人には「どう使っていいかわからない」という印象を持たれたと思います。
e-skinの説明時に「モーションキャプチャー」という表現を一切使用しておらず、従来のモーションキャプチャー、ボーンモデル(人体骨格の3D表現)等とは違いファイル形式も提供していません。
僕らが用いるモーションディスクリプション・モーション認知技術が、モーションキャプチャー技術と比べ成熟してないことがよくわかりました。
―英語圏最大級のクラウドファンディングならではの、国境を超えた反応はどうでしょうか。
英語圏では無いですが、なぜか今回明らかに「ロシア」で話題になりました。
単純に、これまでロシアでe-skinが知られていなくて、この技術自体にニュース性があったのだと思います、ロシア語のリリースも情報も出していないし、全く想定外でした。
過去にも、中国、タイ、スペイン、アルゼンチン同様の事がありました。
インターネットの面白い所ですよね、情報を拾ってくれれば直接的に営業しなくても、コンテンツ力によって普及する。それは今回再認識しました。
―個人向け販売を開始したことで、法人とは違うニーズはありましたか?
元々個人向け販売においては、入力系のプログラマーにどれくらい響くかを見ていました。
人体のモーション入力、手袋型だと物足りないVRの開発者ですね。
面白かったのは刀の「袈裟斬り」です。
刀を斜め上から斜め下に動かす、あの動きは従来の仕組みだとうまくデータ取得が出来ないそうです。
こういうニーズを1つ1つ把握するのは難しいので、販売開始によって予想外のニーズや反響を得られました。
ただ、ゲーム・VR関連からの反響は多くなく、まだ少し様子見という状況です。
実際に法人向け含め予想以上の反響があったのは「トップアスリート向けのスポーツメーカー」と「リハビリ業界」ですね。
トップアスリートの動きをモーションキャプチャーする際に、全身にセンサーを貼っていますよね。
あれはかなりプレイヤー側の競技性を損なってしまうそうです。
1秒・1ミリの世界を突き詰める研究において、競技性が損なわれるのは大問題ですし、カメラが設置できる場所でしか計測できないのも、種目によってはプレイヤーに大きく影響します。
屋外でも屋内でも、本来の競技環境で計測でき、プレイヤーの動きも損なわない。
僕たちのe-skinの製品特性を凄く理解頂いた上で、活用してくれています。
■アパレル上のデバイス技術がXenomaの強み、ソフトウェアはオープン戦略。
―デバイスに関する技術は独自の強みがあり、一方ソフトウェアやサービス部分はSDKの配布とかなり汎用的・オープンな戦略に感じたのですが。
それは「守備範囲が広くなって全部戦いにならないよう」にする為です。
僕ら自身が各分野での具体的な製品を作ると、競合が参入してきたら全部同時に戦うことになり、リソースが掛かり過ぎるため創業時から意図的に避けていますね。
一方でソフトウェア面ではSDKを開発者の方々に使ってもらえるよう色々とコストを掛けています。
技術面では服+「デバイス」がe-skinのコアバリューですが、
ビジネスモデルとしては服+「データ」という要素があります。
SDKを持っていて、現時点では個人情報保護法の観点から動かしていませんが、既に技術的にはクラウド上に取得データを上げられるようにしています。今後個人情報における問題点をクリアしていき、取得データを利活用する事業戦略で考えています。
ただKickstarterで学んだのは、「もっとSDKを利用するサービス開発者、デベロッパーに歩み寄らねば」という点です、各業界や企業の案件を丁寧にヒアリングしながら進める必要性も感じています。
―企業側のちょっとしたカスタマイズ要望や疑問に対しても柔軟に。
そうですね。
SDKは徹底的にオープン、その一方で細かいニーズにフィットさせるべき状況があるならそこも個別で対応していくというのを考えています。
僕らの技術は服の上に伸縮性の回路が作れて、搭載するセンサーの種類も増えてきています。
センサー同士を統合したシステムをアパレル上に創れるというのが特色ですので、それを理解いただき、欲しいと思うところに丁寧に提供するのをやっていきたいです。
―その展開の中で、ゲームやVR業界へのPRも意識的に強化する?
いや、決めつけ過ぎず自然な広がりを見ていくつもりです。
現時点では、価格帯がVRやゲームと少し相性が良くないとも思います。
コンシューマー向けVRやゲームの場合、e-skin一着5~6万円ですから、
ゲーム機本体買える値段とほぼ同等、「試しに触ってみよう」と思わせ辛いのかなと。
VR機器自体は普及している最中ですが、コンシューマー向けVRの開発者へと広げるには、この価格的要因をどうするか状況を見ている感じです。
■手袋型を作ったら売れるかも、そういう普通のこと考える人はXenomaに向いていないかもしれない。
―アパレル業界を始め、大手企業とお話する中でもどかしい事などはありますか?
ちゃんと把握する前に「これ自分たちで作れる」って思う人が多いみたいです。
技術サーベイして頂ければ、作るのは難しいと理解頂けるはずなのですが。
e-skinに関心を持ち、ヒアリングに来て頂き、その場で担当者の方と「コラボしましょう」と盛り上がっても、
社内に持ち帰った後、大手であるほどその先が進まない。
ネット上の情報や、展示会で見た情報から判断しているようです。
意思決定に至るほどの納得感を与えられていないという点で、僕たちの情報提供が足りないという点もあると思います。
今年に入ってからは特に企業とのコラボレーションを積極的に進めようと活動しています。
実際に、大手企業と話をする機会は増えていますね。
―社外とのコラボレーションの結果、シャツ以外の製品が出る可能性もありえますか
可能性はありますし、過去にやったことがあるか無いかでいうと、あります。
ただ靴下とか手袋とか、シャツより面積が小さいですよね。
e-skinで上半身に14個のセンサーを付けていますが、手袋でやろうとしたら面積が足りないし、高集積化が必要になります。
今後高集積には取り組みますが、現時点ではまだ届かないなという感覚です。
―Xenomaの社員は大手メーカー出身の方が増えている、と以前記事で見たことがあります。
確かに多いですね、いま社員20名程度で同業含めたメーカーからの中途採用が多いです。
入社してもらう時は「変わった人」を選んでいます。
教科書通りの、普通の思考を持っている方はあまり採用していないですね。
理由は、Xenomaの目指すものが既存の延長線上に無いからです。
世の中に対して普通のやり方で普及するものではないし、開発する時も普通に進めたら普通のものが出来ちゃいますから。
この「普通ではダメ」は事業展開の時も重要な要素です。
なぜかというと、市場には常に誘惑がありますから。
「手袋型を作ったらVR市場に参入できるな」とか、
「光らせることが出来たらエンタメ業界でニーズがあるらしい」とか。
普通に相談が来て、短期的なら儲かりそうな誘惑。
ここで「いや僕らは将来、全身をセンサーで覆ってデータ取得するんだ」と考えなければいけない。
普通に収益になりそうな思考を捨て、儲かるかどうかわかりづらい事に取り組む。
普通の考え方の人が入ってきても、不安でやっていられないと思います。
市場の先見性だけでなく、思考が「この人普通の大企業タイプじゃない」って人を採用していますね。
■経験者だからこそ理解する、大手企業の強みと難しさ
―網盛さん自身大手メーカー出身ですが、その経験上大手メーカー側の魅力や可能性は何だと思いますか。
挙げたらキリが無いですよ。
新規事業1つやろうとした時に、大手であればあるほど社内に「揃っている」
僕は以前富士フイルムにいましたが、社内に有機合成して薬を創る化学専門人材も、デジカメや通信機器を創る人もいる。
これが社内で共存している環境なかなかありませんよ。
だから自社に関連する新規事業って本当は出来るはずです。
ベンチャーは真逆。新しくやりたい事を実現するリソースが基本社内には無い。
ソフトウェア会社を探し、エレクトロニクス設計できる人を探して、と考えたら「元々社内に全部ある」って無敵の強さですよ。
―でも実際に社内横断的プロジェクトを推進するのは難しい、網盛さんは以前富士フイルムでその立場を経験しています。
社内で仲間を見つけるまでなら、意外と簡単です。
個人単位で口説く。大手企業の中にいる大抵の人はどこか危機意識を持っています。
新規事業やるべき、このままじゃ将来まずいと思っている人がどの部門にも大抵います。
ただ、本当に分野横断した独立思考性の強い社内ベンチャーチームを創るのは凄く大変です。
危機感を口に出す人もいるし、社内有志が集まりアイデアを出し合うこともある、オープンイノベーション関連の社内イベントを開催する、外部に自社技術をアピールする内覧会をやる、そういう企業は結構います。
それでも各社員の人事権はそれぞれの所属部署に紐づいています。
部署が忙しくなれば「いまこの人を出すわけにはいかないので別の人を出します」ってなる。
知見やルールを創る前段階の、立ち上げ時期にメンバーが変わってしまうと結果的に前進しづらい。
ここを解消出来れば、大手企業にもいろいろな事ができる気がしています。
■身体情報を取得するシャツは、高齢化社会、健康不安の時代に必要
―Xenomaは既にアメリカ支社があります、今後海外拠点を増やす・世界展開を強める予定は?
中国、韓国、シンガポール、欧州など。ディストリビューター契約という意味では、交渉中も含め既に多くの国と話をしていますので、遠くない未来で展開してきます。
中でも、中国については期待値が高いです。
・人口が多い
・先進技術を活用する文化
・富裕層が増加
富裕層の増加は大事な要素で、中国には「健康不安」という課題があります。
既にマスクが凄く売れている、熱中症対策に歩行しながらシャワーを浴びる製品が流行っている。
経済成長と情報技術の発達で、中国の富裕層は自分たちが先進国の中で悪い生活環境にあるのを知ってしまった。
しかも将来的に一人っ子政策の余波で急激な高齢化社会が来るのも知っている。
医療制度対策を国が色々と動いています。
―巨大市場な上に、商機の拡がる要素が多いですね。
そう、僕らの「人の手を介さず身体情報を得るシャツ」は、急激な高齢化社会に必要だと思います。
しかもその高齢者は、既に仕事や日常においてITサービスに慣れています。
現在の高齢者がスマホに慣れていないのとは状況が違いますから。
―Xenomaが今後拡大するにあたって必要なメンバーのイメージは?
企画力と提案力のある、技術を理解した営業ですね。
大手のコンサル会社や広告会社にいるような方。
事業拡大し、アパレルの領域からソフトウェアやエレクトロニクスの分野を強化する。
その時、各業界の方と対話し潜在的なニーズを拾い上げてソリューション提供するためには、コミュニケーション力があって大まかなシステムのイメージまで描ける人が必要になると思います。
―ソフトウェアだと、先ほどのSDKを広くデベロッパーに広げるような方も必要そうですね。
そうですね。技術的なマーケティング・エバンジェリスト的活動は足りていないです。
やはり、多少は自らお手本を見せてあげる人って大事ですよね。
もう少し、SDKを触るデベロッパー自身の目線でコミュニケーションして対話できるようにしていかないと、と考えています。
株式会社Xenoma 代表取締役CEO 網盛一郎
1994年東大院農・農芸化学専攻修士課程修了後、富士フイルム(株)入社。ディスプレイ材料事業立ち上げに従事するなど一貫して新規事業開発に取り組む。2009年にはプロジェクトリーダーとして世界初フルカラー偽造防止ラベル”ForgeGuard”を事業化。2014年4月JST/ERATO「染谷生体調和エレクトロニクス」プロジェクトにインターフェースグループリーダーとして参画、2015年11月にプロジェクトからスピンオフしてXenoma Inc.を設立。2006年米国ブラウン大学院工・材料科学専攻博士課程修了(Ph.D.)。専門は高分子/液晶材料(ソフトマター)・光学設計・科学技術イノベーション論。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)
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