Interview

5G社会を支える縁の下。創業80年の老舗企業がつなげる未来 ーー双信電機株式会社 水谷靖彦

text by : 編集部
photo   : 編集部

今後の社会を変えて、さまざまな新しい技術が成立する前提となっている5Gの世界。日本に先駆けて米国や韓国ではすでに5Gサービスがスタートしています。
5Gの世界では個人や法人のあらゆるデバイスが接続される状況になりますが、そのつながっている状態を支えるには大量の基地局が必要です。その基地局に必要不可欠な電子部品を開発している双信電機情報通信事業本部の水谷さんにお話を伺いました。


5G社会の実現に向けて


双信電機では基地局のアンテナで受けたあらゆる電波から、必要な電波だけを取り出すための積層誘導体フィルタ※という電子部品を開発・製造しています。現在、5G環境が先行している米国や韓国などでは実際に使われ始めています。
(※「フィルター」は双信電機の製品名に合わせて「フィルタ」と表記しています。)

5Gの世界はこれまでとは全く異なった社会になります。これまで2Gから4Gまでは、通信速度が高速になるというだけでしたが、5Gでは高速大容量通信になるだけではなく、超低遅延と多数同時接続という点で、これまでの進化とは圧倒的に異なってきます。

0.001秒という超低遅延により利用者がタイムラグを意識することなく、リアルタイムに遠隔でロボットを制御するなど、自動運転や遠隔医療にも用いられるようになるでしょう。

また多数同時接続についても大きく変化し、1平方キロメートルあたり100万デバイスが接続可能となります。これによって産業全体が大きく変わります。交通のインフラにセンサーを多数取り付けて安全を確保したり、農地の温度・湿度の管理を行ったり、人が常に確認する必要があった作業を代替することができる点で、これからの労働人口が減少していく社会に貢献できるはずです。

中でもインパクトを与えるのは自動車産業だと思っています。まずは車車間通信など特定の条件下での実用化が進み、その後、徐々にさまざまな予知・予測などの技術が進むものと思います。最終的に自動運転が実用化するためには、突発的に起こったことを確実に対処する必要があり、そのための情報取得などに5Gが必要不可欠なのです。


5G社会を支える小さな部品になるまで


5G社会を実現するためにはインフラの整備が必要です。5Gの電波は現行の4Gに比べて電波の飛ぶ距離が短いため、通信環境を整備するために膨大な基地局が必要となり、基地局が増えれば積層誘電体フィルタなどの製品の需要も増えます。

当社の積層誘電体フィルタは、1991年に大手セラミックメーカーの日本ガイシと業務提携し、同社の優れたセラミック材料と当社独自の技術を組み合わせて開発しました。1995年にPHS端末と基地局で初めて採用され、当時高いシェアを誇りました。その後、携帯電話や無線LAN、Bluetoothなど、時代や市場の変化とともに技術を磨き、現在の5G向けの製品につながっています。

昨年創業80周年を迎え、私たちの製品は長い歴史の中でお客様の信頼に支えられて、宇宙、防衛、鉄道といった特殊な業界で使用されてきました。私たちは、製品を小さくしながら、性能を上げることを昔から得意としており、製品の高信頼性や耐久性などが評価され、人工衛星などにも当社のコンデンサやフィルタ製品が採用されています。常にお客様のニーズをとらえた高機能・高品質な製品を提供し続けることで今日に至っています。


私たちにしかできないニーズへの応え方


私たちは大手メーカーのように大量に安価で製品を提供することより、ユニークで付加価値の高い製品を作り出すことが得意です。そのためにはいつもさまざまなプレイヤーからいち早く情報収集を行う必要があります。得意分野を活かすために重要なのは、デバイスの規格が決まる前に私たちから特徴ある製品を提案することであり、基地局メーカーから情報を収集するだけでは遅いのです。

通信規格を決定する規格団体や市場動向、通信システムに欠かせない他のデバイスメーカーの情報収集を行い、その情報を元に製品開発に着手します。これにより、市場に対して先手を打って製品を提案することができるのです。

そして一番重要なことはお客様と議論を重ねながら、集約的に答えをきちんと提案することで、製品のデファクトを取れるようにすることです。当社は市場と製品を絞って勝負することに強みがあります。だからこそスピードで負けないために、開発者もさまざまな企業から情報収集し、仕様の打合せ、評価、初期ロット製作まで幅広く担当することで、モノづくりに携わっているやりがいを感じながら業務に取り組んでいます。

それでもお客様のニーズに応えていくことは簡単なことではありません。デジタル社会を支えるアナログ製品は経験でしか得られない構造設計が一番の肝の部分です。その課題をクリアするアイデアは一人ではなかなか出せません。だからこそ開発チームは年齢や経験、考え方の違う人を集め、常にみんなの力を引き出し合うことで歩みを進めています。また、外部機関とも協力して、製品の精度を上げるための検証も行っています。


5G以降の2030年を見据えて


来年の東京オリンピックでは5Gが体験できる環境が整い、5G通信の実質的な立ち上げは2021年から2022年頃になると思います。2020年代は自動運転の普及に伴い、さまざまな需要に合わせてより一層技術を磨くことで製品を提供していけると思っています。

日本ガイシグループ全体としても、5Gに関連する基礎研究などの取り組みに力を入れています。当社も材料を自前で持っている強みを活かして、セラミックスを使った製品群でこれから先の10年はしっかり貢献していきたいと考えています。

さらにその先の2030年代は、20年代の製品群の延長だけでは生き残るのは難しいでしょう。基礎開発を着実に進めて、フィルタや通信だけではない、当社にしか作れない新しい製品を生み出して、会社が100周年を迎えることができるように努力していきたいと思います。