Interview

目指すは「見る聴く楽しむ」のプラットフォーマー。エンターテイメントを創造する。 ——株式会社IPG 西王地 清訓

text by : 嶋崎真太郎
photo   : 嶋崎真太郎

第二次産業革命以降、ラジオやテレビをはじめとする視聴コンテンツは多くの人々に愛され、普及してきました。インターネットがインフラ化し、ソーシャルネットワークの時代になったいま、「テレビ離れ」は日常のように聞く言葉になり、新たな視聴コンテンツが台頭しはじめています。

全国の放送局から番組情報を取り寄せ、膨大なデータからテレビ番組のGガイドを提供している、株式会社IPG。時代の変化と共に歩んできた彼らは、いまの時代をどのように見ているのでしょうか。開発部長の西王地さんに、これからの視聴コンテンツや、IPGが目指す未来についてお話をうかがいました。


20年に渡り、全国各地のテレビ番組を各家庭に届けてきたIPG。


アナログ放送の時代から、各放送局様より番組情報をいただき、テレビの番組表サービスを提供してきました。テクノロジーが進化するにつれ、徐々に動画配信も形を変えてきていますが、それらの情報をリアルタイムに収集、編制することができるのは、20年続けてきた歴史と、各放送局様からの信頼と情報収集力があるからだと自負しています。

インターネットを使い動画を視聴することが当たり前の時代に、コンテンツ情報を配信する仕組みを持っているのは我々の強みでもあるので、放送局様とは視聴ユーザーへの価値提供の観点においてパートナーともいえる取り組みを実施してきております。

全国には放送局が100局以上あります。局によっては、番組表や配信サービスを独自に行なっている所もありますが、私たちはそれらを統合できている事で、より視聴ユーザー様への価値提供を可能にしています。例えば、局ごとに番組を探すのではなく、好きなタレントや俳優、女優さん別に番組を探すことも可能です。ラジオ番組の情報も収集しているので、視聴コンテンツの検索において、独自の価値提供ができています。

いまテレビが日本に5,000万台ほど流通しています。1億数千万人の人口なので、ほぼ、各家庭に一台。それ以上ですね。広告業界がGoogle広告でPRをしたり、駅などにあるデジタルサイネージを活用したPRをしたりするのと同じで、私たちは番組表を通した番組の宣伝なども行なっております。

全国各地の放送局から膨大な番組データを収集しているIPG。

視聴コンテンツはなくならない。最適化を繰り返している過渡期。


いま、あらゆるコンテンツがテクノロジーによって最適化されている過渡期だと感じています。昔は電話と手紙でしか連絡が取れなかったのが、電子メールができるようになったり、TwitterやFacebookのようなSNS、LINEのようなコミュニケーションアプリが出ると、ユーザー側にどれを使ってコミュニケーションを取るかの選択肢が与えられます。

電話離れしているや、手紙を書かなくなったなど、「離れ」しているように思いますが、コミュニケーションの量そのものは、当時よりいまの方が圧倒的に増えていると思います。それは、個々にコミュニケーションの方法が選べるからですよね。新聞も一緒で、昔は購読しないと情報が得られませんでした。いまは、スマホでニュースがレコメンドされる時代。

「テレビ離れ」と時代の変化感があるようにメディアでは報じられていますが、他では最適化が進んでいたのが事実です。テレビが後発組になった理由として、動画というのが理由に挙げられます。テキストを最適化変換するのには、少し前のインターネット環境でもできましたが、ファイルサイズの大きい動画はなかなか移行されなかった。データ通信環境が整備されてきている状況になり始めて、可視化されてきた変化でもあります。


NetflixやAmazonは競合ではなく、新しいプレイヤー。


テレビの番組表を作る仕事をしていると、採用の面接時などで「NetflixやAmazonは競合になりますか?」という質問をいただきます。この答えは「競合ではない」です。私たちは、視聴コンテンツをユーザーに届けるプラットフォーマーなので、放送局とは異なります。むしろ、Netflix様やAmazon様のような新しいプレイヤーからも、コンテンツデータをいただきたいくらい。

冒頭にもお話しましたが、各コンテンツの視聴チャネルが時代と共に多様化してきているので、私たちの価値提供モデルでいくと、あらゆるコンテンツデータがあると、もっと高い価値を届けることができます。それは既存の放送局様にも、新しい視聴コンテンツを提供している企業様にも、その価値をお返しすることができると思っています。

視聴コンテンツのGoogleみたいなプレイヤーになることが、私たちの目指す所で、伝わりやすいニュアンスかもしれません。Googleはトップページに検索窓しかなくて、検索してはページを移り、また検索してはページを移る。Gガイドも同じで、番組表をずっと見てる人はいないと思います。早く見たい番組コンテンツに移動してもらいたいんです。

視聴ユーザーが見たい番組、聴きたい番組に、いかに時間ロスなく移動できるか。そしてその情報量は充実しているのか。なかなか見つからず、番組表に戻ってこられると、それは私たちにとっては改善しなければならない点だと感じています。なので、私たちの競合がどこという発想ではなく、Googleのような検索や発見性をどう作るかが大事で。一番の競合は、自社なのかもしれません。


日本には全国各地で1日1,000番組以上の視聴コンテンツが存在している。


音楽DJがいますよね。彼らは膨大な楽曲データから、ユーザーが楽しめる音楽をつないでいく。私たちの仕事は感覚的に近いものがあります。日本の地上波放送だけでも、全国各地域毎に一日1,000番組以上が放送されているのですが、それらを番組表としてユーザーに届けるのは、全国各地の放送局からデータを取り寄せて、組み立てる。これまで、それを手作業でやっていました。放送局、番組、エリア、放映時間、バラバラなものをつないでいく作業は大変。最近はそれを機械学習の技術を活用することで、最適化しています。

最初は全体の3割を機械学習によってつなげて行き、いまでは7割くらいの番組をプログラミングで組み立てることができるようになってきました。新番組が始まったり、単発の特集番組などもあり、残り3割は変わらず手作業です。災害があったり、緊急速報が入ったりすると、急遽番組構成が変わったりするリアルタイムな変化は、プログラミングでの対応は難しく、人の力が必要になります。

集めた放送データを機械学習で番組表にしていく。

未来のテクノロジーがIPGに与える影響。


モビリティ領域では、自動運転の技術開発が日常のように話題になっています。完全自動化までは少し先になると思いますが、それでもこれまでの運転とは異なる価値観が自動車ユーザーに訪れるのは間違いありません。

それは、移動が目的だった自動車で、移動以外の目的も生まれて来るはずだからです。運転をアシストしてくれるのであれば、時間をどう使うか、という「時間活用の機会」が私たちのビジネスに訪れます。そこに視聴コンテンツは必ず入り込める。

いまできるかできないかの話を無視すれば、増え続けているVRのコンテンツ等も整理することができると思っていて、単にテレビやWeb動画だけではない、広義の視聴コンテンツをユーザーに最適に届ける仕組み。そんなプラットフォームを作っていきたいと思っています。

最先端のテクノロジーによって、人々の生活がどんどん多様化していきます。視聴コンテンツの配信チャネルも方法も、それに合わせて多様化していきます。私たちはその変化に対して、楽しみにしているユーザーがストレスなく様々なコンテンツと出会えるお手伝いをするプラットフォーマーなので、どんな影響があるのかを考えるとネガティブなイメージはなく、ワクワクする挑戦が未来で待っていると考えています。


当たり前の生活を、当たり前に過ごせる為のエンターテイメント。


この仕事を通じて強く感じるのは、平和な時代でないとエンターテイメントは広がっていかないということ。極端な例だと、戦争をやっている地域に娯楽施設やテレビ番組などはないです。平和だからこそ、お笑い番組があったり、スポーツの試合がやっていたり、クイズ番組が流れていたりする。人生や気持ちを豊かにしてくれるエンターテイメントを、もっと多くの方に利用してもらいたい。そこに私たちは特化していきたいです。

なので、私たちIPGのエンジニアにはどんどん課題解決のコミュニケーションを社内で取って欲しいと思っています。エンジニアの一般的なイメージって、コミュニケーション取りたがらない、自分のスキルアップやノウハウをアピールしたいという感じがありますが、エンターテイメントを介して、ユーザーとコミュニケーションを取る私たちはそうであってはいけません。

営業チームとも、放送局とも、コミュニケーションを取りながら、課題を解決していく。普通のエンジニアではダメで、「当たり前の生活を、当たり前に過ごせる為のエンターテイメントを届けられる」エンジニアでなくてはいけません。

自分の仕事には必ず前後左右があって、それらの連続性で市場に価値を提供することができています。バリューチェーンを知り、自分がどの位置で価値を創造しているのか。それを知ると知らないでは大きな違いが生まれるので、そんなことを一緒に考え、会話できる仲間とエンターテイメントに特化したサービスを作り続けたいです。

左)コーポレート部人事担当 石野様 右)開発部長 西王地様

地域拠点の開設で、機械にはできない仕事を解決する。


全国各地から集めた番組データ、平均一日1,000番組を番組表として整理していますが、機械学習で約7割、機械にはできないものが約3割存在します。全てを東京都内で行なうことも可能なのですが、地方局と連携し、多様化する視聴コンテンツの整理に迅速な対応を可能とする拠点があってもいいのではないかということで、トライアルで地方拠点展開を行ないました。

静岡県静岡市。最初の一拠点目ということもあり、東京近郊であることと、自治体としても非常に協力していただいたご縁もあり、この場所にIPGの拠点を作りました。ここでは、機械学習ではできない一部分の番組データを整理してもらっています。

地方創生と大きな事をやろうとしてはいませんが、東京で人材を募集してもなかなか集まらなくても地方だと集められるんですよね。仕事の内容も、IPGにしかできない仕事なので、興味を持ってもらいやすいのもありますし、地域にITの仕事を持っていく事も含めて、少しは地域に貢献できているのかなと思ったりします。

二拠点目以降の話は具体的になっていませんが、トライアルしながら機会があれば検討しながら事業を展開していきたいと考えています。

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