2020 年 10 月の 203 臨時国会の所信表明演説で菅義偉首相(当時)が温暖化ガスの排出量について「2050 年までに全体としてゼロにする」と宣言した。全体としてゼロにするとは温暖化ガスの排出量と吸収量を同じにし、排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」と同じ意味だ。地球規模で気候変動 が進む中で、2015 年 12 月に第 21 回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択された。パリ協定は世界の気温上昇を産業革命前と比べて 2 度未満、できれば 1.5 度以内に抑えることをめざしている。気温上昇を 1.5 度以内に収めるためには、50 年ごろに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする必要があるとされる。菅首相(当時)のカーボンニュートラルの目標提示は、パリ協定の目標実現 のために日本も積極的に協力することを示した。
目次
はじめに
アスタミューゼ社のご紹介
弊社は世界の無形資産・イノベーションを可視化し 社会課題解決と未来創造を実現する、データ・アルゴリズム企業であり、
イノベーション投資の流入に加え、イノベーターの流れを機械的に分析し、データに基づいた成⻑領域を定義している。
本レポートのご紹介
アスタミューゼでは今芽吹きつつある黎明期の技術シーズや今後 10 年から 20 年 のスパンで大きく開花すると期待される初動段階の技術市場に重点を置きつつ、生活文化の中に根 付く技術にも光を当て、総じて未来を創る技術分類の網羅に取り組んできた。
このために、国内第一線の知を結集して全世界の論文・特許、国内外の国際会議やシンポジウム、展示会等の情報並びに独自ネットワークによる口コミ情報を活用し、136 の有望成長市場と、40 の 未来技術を選んだ。主にビジネス視点で策定された有望成長 136 市場を対象にしており、本レポートは、『燃料電池・水素吸蔵材料』の未来推定に特化した内容となっている。
事業会社に向けては、イノベーションに関わる経営課題を中心に戦略構築支援/実行支援を実施しており、
・自社の既存事業の優位性がいつまで続くかわからない
・既存事業の成長が踊り場にきているので、使っている技術 を別で活かせる可能性を探りたい
・既に着手している研究開発を続けるべきどうか、もしくは 自社開発ではない方法があるかを含めて検討したい
といった企業のよくあるお悩みを解決している。
燃料電池・水素吸蔵材料の現状
資源の乏しい日本において、エネルギー供給の安定化と効率化は喫緊の課題であるが、同時に地球温暖化や地域環境保全も重要な問題である。水素は燃焼時に二酸化炭素を排出せず、発電過程でも窒素酸化物や硫黄酸化物など大気汚染物質も排出しないため、クリーンで高効率なエネルギー源として有望視されている。また、多様なエネルギー源から製造可能なため、エネルギーセキュリティの向上にもつながることから、水素エネルギー社会の実現が望まれている。そのための中核技術と位置付けられているのが、燃料電池技術と水素技術である。
燃料電池(Fuel Cell, FC)は、燃料と酸化剤を外部から供給し反応させて電気を取り出すものであり、 酸素との化学反応を用いることから燃料電池と呼ばれている。燃料電池の原理発見は古く、19 世紀 前半には現在の燃料電池の原型が発明されている。その後、20 世紀に入ると、アポロ計画やスペースシャトルに採用され、その後は民間転用されて、現在では家庭用燃料電池の普及や燃料電池自動車 (Fuel Cell Vehicle, FCV)の導入に至っている。
また、もうひとつの中核技術である水素技術は、具体的には製造・輸送・供給・貯蔵に分かれるが、 中でも水素貯蔵技術は、FCV への水素車載のために不可欠であり、そこに使われるのが水素吸蔵材料である。
今後の見通し・将来性や展望
水素吸蔵材料には、水素吸蔵合金と非金属系(軽元素系)水素貯蔵材料がある。水素吸蔵・ 放出の原理は、前者では、粉末状の金属・合金と水素の反応による金属水素化合物(メタルハイドラ イト)生成であるのに対して、後者では、錯イオンとアルカリ金属やアルカリ土類金属によるイオン結晶の形成による。水素の吸蔵量を表す質量水素密度は、前者が 1-3mass%であるのに対して、後者では 4-20mass%と大きく、コンパクト化や軽量化を図ることが可能であるものの、後者の水素吸蔵・ 放出速度は遅く、反応温度が高いなど実用的な基準を満たしていない。このため、軽元素を含む種々のナノ複合材料による高性能水素吸蔵材料の開発が試みられている。
近未来 2030年の市場規模予測
アスタミューゼ社による『燃料電池・水素吸蔵材料』現在の世界市場規模推定と近未来の世界市場規模予測。
2022年には推定307億米ドルだったものが、2030年には727億米ドルになると予測している。
スタートアップ投資動向と投資額
燃料電池・水素吸蔵材料の2010 年から 2019 年の 10 年間における世界のグラントの資金流入額は総額 $1,300M である。
本レポートでは、
・世界のスタートアップ設立社数と被投資額の累計/推移
・グラント採択数と総配分額ランキング
・世界のグラント配分額上位25テーマ
・日本のグラント配分額上位25テーマ
を提供している。
現在の主要企業
本レポートでは、燃料電池・水素吸蔵材料分野において、現時点で保有する技術が総合的に優位な企業を各種特許指標から評価し、ランキング形式でリスト化して提供している。
主なプレイヤーとして、
国外では、
・Hyundai Motor Company
・KIA Corporation
国内では、
・トヨタ自動車株式会社
などが含まれ、そういった
上位企業の保有する特許の中で、特に競争優位性が高い特許の概要と、最高エッジ指数での定量的な評価を記載している。
最新の技術開発具体例
本レポートでは、燃料電池・水素吸蔵材料における最新の技術開発事例を紹介している。
燃料電池・水素吸蔵材料の未来予測・将来性
未来の構成要素
本レポートでは、燃料電池・水素吸蔵材料に関連する・固体高分子形燃料電池 (PEFC)
・りん酸形燃料電池 (PAFC)
・溶融炭酸塩形燃料電池 (MCFC)
・固体酸化物形燃料電池 (SOFC)
・アルカリ電解質形燃料電池 (AFC)
・直接形燃料電池 (DFC)
などの技術要素と、
そういった様々な技術の進化、新しい可能性の発現、企業の把握すべき範囲を記載している。
未来のストーリー想定
本レポートでは、近未来に、船舶や航空機産業の主要なエネルギー源への実証開始、大規模輸送のための基準制定化が進む燃料電池・水素吸蔵材料について、
未来のトレンドとして想定し得るストーリーを記載している。