Interview

国内メンズコスメNO.1ブランドと、その実現を担う天然由来成分の技術研究・商品開発力-BULK HOMME 野口卓也さん&サティス製薬 山崎智士さんインタビュー

text by : 編集部
photo   : 編集部.BULK HOMME,サティス製薬

数回の起業と挫折を繰り返した男が「次は外せない」と狙いを定めたのは、全く知見の無い“メンズコスメ”。
発売から約4年、男性誌の読者投票NO.1の支持を受けるブランド「BULK HOMME(バルクオム)」が誕生する。その裏には商品開発を担い、評価技術は世界一と自負するサティス製薬との協力体制があった。

世界的ブランドを創るべく邁進するバルクオムの代表:野口さんと、アジアナンバーワンの製造会社を目指すサティス製薬:山崎社長に話を伺いました。


■1社だけ取引を断られた。あきらめられずツイッターで連絡


―まずバルクオム創業の話ですが、未経験の「メンズコスメ」を選んだ理由は?

バルクオム・野口さん(以下、野口)
僕はビジネスモデルを考える時に、アイデアを思いついた順に総当たりで精査をするんです。それでいくつかプランが残って、業界調査を進めたところメンズコスメはどうやら成長産業だと。しかも成功すれば海外展開できそうだと思える割りに、当時「これ」というブランドもありませんでした。

これはお客さんのマインドシェアが空いているぞと。それと過去に失敗した経験から「次は絶対成功させる!」という想いですね。

 

―商品開発されるサティス製薬さんとの出会いは?

野口:男性向けにアプローチしたいんです!とOEM会社を10社以上問い合わせしたのですが、サティス製薬さんだけ唯一「いま製造ラインがフル稼働してるので請けられません」と断られたんです。
それで逆に「何だこの会社!?」と調べたら、山崎社長が数年前に取材された記事を読んで「意地でもこの人と仕事したい!」と思いました。それでツイッターアカウントを見つけたのでいきなり声を掛けたのが最初です。

 

―野口さんからいきなりツイッターで声をかけられて、どう思ったんですか?

サティス製薬・山崎さん(以下、山崎)
振り返ると、ポイントが2つあったなと。
1つは、ツイッターで連絡が来たので、彼の過去の発言を遡って読んでみて「やりたいことがはっきりしてる、メリハリの効いた人だ」と好感を持った点。

もう1つは、実はその時たまたま体調を崩して1週間入院してたんです。ちょっと気持ちが弱ってたというか人恋しいタイミングだった気がします(笑)

野口:入院してたんですか、初めて知りました。(笑)

 

―でも実際、会社の製造ラインは一杯だったんですよね。

山崎:野口さんが言う通り当時製造ラインは一杯だったんですが、後日会った時の印象で「この人いいな、好きになれるな、一緒にビジネスやりたいな」と感じまして、それで色々調整してプロジェクトがスタートすることになりました。

野口:僕らとしてはサティス製薬さんは自社での技術開発力と商品企画力があって、注文が殺到して急成長してるイメージだったので、とにかくそのノウハウを自社製品に活かしたいと考えていました。

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天然素材を用いた商品開発に強みのあるサティス製薬のノウハウはBULK HOMMEにも活かされている。肌に有害な可能性のある成分を使用せず、収穫後4ヶ⽉腐らないと⾔われている奇跡のリンゴ「ウトビラー・スパトラウバー」を中⼼に、様々な美容成分を共通成分として配合している。(画像提供:BULK HOMME)

 


■「野口さんは商品開発に大事な3つのポイントを持っていた」


―それで実際にバルクオムの開発がスタートするわけですが

野口:僕は「こういうターゲット」と細かく決めていなくて、とにかく男性の肌を綺麗にしたいという話をしました。その枠組みの中で「こういうのはどうか」と提案してもらっていて、僕には1つ1つの成分について詳しくないですから、開発してくれた方に個々の成分についてどういう効能があるか?を丁寧に説明頂いてました。

山崎:僕らはOEMの会社ですから、自社の想いを直接マーケットには届けられない。
だから相手方の企業が僕らの想いを継承してくれるかがとても重要なんですよ。

 


―その辺り、バルクオムのプロジェクトは良かった?

山崎:はい、僕は「品質設計」「適正な原価」「ズレを修正する地道さ」の3つが大事だと思っていて。

野口さんは「ターゲットは決めてない」と言いましたが、ライフスタイルをどうデザインしたいかのイメージを持っていて、僕らはその野口さんの思いを「どう皮膚をデザインすると実現できるのか」へ置き換え「品質設計」に落とし込んだ。話し合いを通じてそこをすり合わせました。

あと、志も設計も大事ですが、実際のオリエンになると「原価はいくらに抑えてくれ」とそれまで言ってた事と乖離しがちです。だから設計したものを実現するための「適正な原価」を掛けるという経営感覚が大事ですが、野口さんはそれを持っていた気がします。

「ズレを修正する」の話は、設計や原価を高度にきちんとやっても、発売してから多くのユーザーが得る「使用時の体感」や「皮膚の変化」は、最初は設計通りに行かないというのが”ズレ”です。そのズレを放置せず、狙いに合わせて品質のPDCAを回し続けることが「ズレを修正する」です。地道に改善できるかが大事です。

 

―地道な領域の仕事ですよね

山崎:そう、地道なんです。羊羹を400年作り続けている有名メーカーは、400年前から品質を何も変えないのではなく、400年かけて品質とユーザーのズレを埋めていっている。だから生き残っているんです。野口さんは過去に商品開発経験が無いはずなのに、感覚なのか天性なのかその視点を持っていてくれた。

 

―野口さん、この話聞いてどうですか?

野口:山崎社長のいう「ズレ」が何なのかしっかり理解できてるかわかりませんが、本当に微妙な、化粧水のちょっとしたトロみ、柔らかさ・堅さとかはお任せしたほうがいいなと考えていました。

あと当時はっきりと記憶に残っているのが、契約書を交わすときに山崎社長が「僕らサティス製薬は、受発注の関係ではなくアライアンスの関係を求めている」と言われまして。それ聞いて「うおおー!かっこいい!いい会社だ!」って思ったんです。(笑)

商品開発してもらうだけに留まらず、原価の考え方や在庫の持ち方、色々と教わった記憶がありますね。

 

―山崎さんが、野口さんのメンターのような。

野口:ええ、だから契約書交わす際に言われた「アライアンスの関係を求めている」ってその通りだなと思いました。
在庫も原価もわからない僕らが発注側だからって「納期いつまでに、何個製造よろしく!」の関係じゃうまくいかないですから。

 

バルクオム初期のブログで、「基礎化粧品における9割は保湿、残り1割が美容。僕らはそこを突きつめた」と言ってます。これも商品開発の話ですか?

野口:いやどちらかというと、市場原則というか価格差の話ですね。
例えば1万円のワインと10万円のワイン、味は違うけど10倍変わるわけではない。「価格」と「品質」は完全な正比例ではない。

だからコンビニで買える男性用スキンケア製品があって、それの10倍違う原価で商品を突き詰めても恐らく「保湿できればいいや」と9割はコンビニ製品を選ぶだろう。でも残りの1割は「これじゃないと手に入らないんだ」という価値を感じてほしい、そこに届けるぞという話ですね。

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埼玉県吉川市にあるサティス製薬の製造工場は、植物性由来の癖のある原料も扱える独自の設備、医薬品製造工場クラスのクリーンルーム完備など、品質と安全性にこだわった作りになっている。(画像:サティス製薬ウェブサイトより抜粋)

 


■野口「ブランドを成立させたいと思っていた」山崎「信念強く根を張ってるなと思いました」


―先ほど引用したブログで、野口さんはサティス製薬さんを「世界一」と評してます。山崎さん自身が「世界一だ」と自負できるものは?

山崎:何をもって世界一と定義するかによりますが、自信という事で言わせてもらうと「評価技術」です。化粧品に限らず、皮膚に対してアプローチしたモノ(製品やサービス)が実際どの程度影響を与えたのか?他との有意差はどのくらいか?使用を続けたときの未来はどうなるのか?
などを”見える化”するのが評価技術で、その分野では世界一だと自負しています。なにせ膨大な皮膚データを持っていますから。

 

―化粧品における評価技術の重要性を教えてください

山崎:化粧品の商品価値を左右する大きな要素に『心地よさ』や『なんか好き』という感覚的なものが重視される業界の特性があると思っています。
確かに感覚的なものも大事ですが、実は口コミデータをずっと分析してみると最終的に残るニーズは「皮膚の老化を止めたい」といった本質的な機能面なんです。

 

―どういうデータが浮き彫りになるんですか?

山崎:以前関わったプロジェクトで低原価で作った製品と、倍の原価を掛けた製品をABテストしたら「違いがわからない」とほぼ100%の人が回答したんです。するとブランドマネージャーは「じゃあ、安い原価の処方でいいか」となってしまう。

でもその後テストを継続し100日経過したあたりで80%くらいの人が、倍の原価を掛けた製品について「こっちの製品を使いたい。」と答えたんです。長く使うことで、自分の皮膚に起きる機能的な違いを実感したという。

野口:それ面白いですね。

 

―先ほど言われていた有意差、未来予想。

山崎:これは結局、「すぐに機能が実感できない」という話なんです。
医薬品なら咳が止まるとか熱が下がるという「機能性」ですぐに体験できますが、化粧品はそこが難しい。時間が掛かる。

 


―結果的にいま、男性誌でNO.1に選ばれたりしていますが、発売当初は価格も決して安くないですし、周囲から色んな意見があったと思うんですが

野口:まー思いつく限りの意見は全部誰かしらに言われましたね(笑)
例えばコンビニに置くような数百円の製品ラインナップも、別のビジネスとして興味なくは無いです。ただそれを本気でやるなら10万個の大量ロットとかになって流通を持ってないととか、参入障壁は高いなと思ってました。

僕はバルクオムを「ブランドビジネス」と捉えていて、ブランドが成立すれば価格競争が起きないと考えていました。価格競争がなければ適正な原価を掛けて良いいものを開発し、適切なマーケティングコストと顧客サービスを維持できる。そういう循環のイメージを持っていました。

価格についても「2000円じゃなくて1980円にしたほうが売れる」とかありましたけど、そういう媚びた考えは意味無いなと思っていて、わかりやすい価格つけて「買ってください」という事より如何にお客さんに「売ってください」と言われるか?を考えていました。

 

―発売開始から、現在までを振り返って「あそこはターニングポイントだ」と言えるのは?

野口:うーん、2回あったと思います。
1つはカリスマ美容師の木村直人さんに色んな美容師さんを紹介してもらえて、「スキンケアを美容院で展開するのはアリかもしれない、この商品自体もいいね」と言って頂いた。
こうして美容への感度が高い人たちへのアプローチが出来たことで、ヘアサロンでの展開が始まったのは大きな変化でした。

もう1つ、凄く地道な営業努力で取り扱い店舗を増やしていく中で、製造ロットが1000本から3000本に変わったんです。地味な話ですがこれによってボリュームディスカウントが効くようになり、営業活動がだいぶやりやすくなりました。

 

―山崎さんから見ててどうでした?バルクオムは販売だけでなく美容師さんとかイベントの協賛など多面的な展開をされてましたが。

山崎:「売りに走らない」という信念の強さを感じました。
正直野口さんのキャリアや友人関係を考えれば、モノを売ること自体は難しくないと思うんです。

でも、売ろう売ろうと上に伸ばすだけでなく、ブランドとして強くまっすぐ進むため「根を張る」活動に注力してるなと。いまは売上も伸びてるしブランドも成長してる、まさに最初の2、3年に歯を食いしばって根を張った分が効いてるんだと思いますよ。

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日本国内で着実に売上を伸ばすBULK HOMMEは、日焼け止めやボディトリートメントなど製品ラインナップを拡充させながら次の展開として海外も見据えている。今年5月には台湾での販売も開始した。(画像:BULK HOMME公式ツイッターより抜粋)

 


■野口「サプリメントはいずれやりたい」山崎「その話、面白い論文があるんですよ」


―最後に「未来」の話を伺いたいのですが、まず「アジアナンバーワンを目指す」というサティス製薬のビジョンについて、このフレーズに込めた意味を山崎さんに。

山崎:最終的には「世界」を獲りたいと思ってるんですよ。
でも僕らが自負している評価技術、皮膚のタンパクや酵素などが個々人でどうなっているか?といった保有しているビッグデータも、カテゴライズすると「日本人の肌データ」がメインなんです。

この肌データと、自負している評価技術で貢献できるのは、肌質の近い「アジア」です。なので照準を定めてる先として「アジアナンバーワン」と言ってます。

 

―以前、遺伝子研究の方が近いことを言ってました。民族・人種のデータの違いがあると

山崎:肌もありますね。メラニン発生のきっかけやモチベーション、やはり日本人と他の人種・民族の違いがあります。

野口:文化背景的にも、東アジアは台湾とか東南アジアはスキンケア文化がありますけど、欧米は「メイク」や「香り」が主流で、スキンケアアイテムはそんなに売れてない。

 

―野口さんは未来についてどうですか?例えば異分野展開、食品や飲料をやりたいとか

野口:サプリメントはいずれやりたいと考えています。やはりインナービューティというのがあると思うので、綺麗にするための方法として。

山崎:ああ、それは正しいと思います。僕らも20年化粧品技術と向き合ってるからこそ、「化粧品にできることの限界」もわかっていて。食品やサービスよりの展開も考えています。

実は食品と兼用できる機能性素材の開発というのを進める中で、「セラミドを植物から作る研究」を行ったのですが、経口摂取だけでもイマイチ、塗るだけでもイマイチ、両方同時にアプローチすると効果てきめんという結果がでていて。

野口:そんな性質あるんですね、凄い興味深いです。

 

―野口さんのいう「サプリメント」は「食品」という括りでは違和感あるんですか?

野口:間違いなくサプリメントは吸収効率がいいだろうなって思うんです。食品だと不要な成分も摂取しそうですしちょっとイマイチなのかなあと。

山崎:ほんとその通りで、あと論文も出てるんですが意外と「プロセスも大事」なんですよ。
必要な栄養素を宇宙食のように直接摂取、というのは合理的なんですが、実は結果的にいい成果が得られるのは「咀嚼という行為が必要」という説で。

野口:ああ、なるほど感覚的にわかりますそれ。

山崎:咀嚼をする行為と、体内に栄養素が張り巡らされることに、相関が出てるんですよね。諸説あってまだ解明されてないですが咀嚼してるうちに意識が高まるんですかね。

野口:その話、ちょっとインタビュー終わった後に詳しく教えてください(笑)

 


野口 卓也 BULK HOMME 代表
1989年2月東京生まれ。大学を中退し、ITや飲食店など4社を創業。
2013年よりメンズコスメブランドBULK HOMMEを立ち上げ、国内外で急成長している。

山崎 智士 株式会社サティス製薬 代表取締役
1972年 東京生まれ。
27歳でサティス製薬を創業し、『ヒトと地球をもっと綺麗に、ずっと綺麗に』を
グループミッションに掲げるサティス製薬グループ7社の代表。
今も現役の開発マンで、商品開発はもちろん事業開発やブランド開発まで多岐にわたり自ら現場で作業する。
「化粧品の可能性をナメんな」が口ぐせ。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)