Interview

エコノミー&エコロジー。ライメックス(LIMEX)は環境問題への貢献と大きな市場を狙う可能性を秘めています。 -株式会社TBMインタビュー

text by : 編集部
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日本は「資源に乏しい国」と言われる。しかしその日本において石灰石は自給率100%、埋蔵量約240億トンもある。
この石灰石を独自技術で活用し、従来のストーンペーパーとは異なる製造方法で生み出した新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発・製造するTBM社は、「エコノミー&エコロジー」の精神で環境に配慮しながら大きな市場を狙っている。同社の誕生から未来のビジョンまで、経営企画室の坂井マネージャーにお話伺いました。


■改善できないなら自社で創る。たどり着いた「耐水性と強度」


―そもそも、「石灰石で紙をつくる事業」のきっかけは?

代表の山崎が、石灰石を主成分とした紙「ストーンペーパー」を製造している台湾メーカーを知人に紹介されたことから始まります。
石灰石は、世界各地でほぼ無尽蔵に存在し、経済性にも優れていること、生産時に大量の木材や水を必要とする通常の紙に比べ環境性に優れていることに惹かれ、台湾からストーンペーパーの輸入代理権を取得し、販売を始めました。

 

―最初は自社生産では無いんですね。

そうです。日本国内でストーンペーパーの輸入販売を始めたところ、お客様から様々な課題を頂きました。
日本の印刷技術は世界的にレベルが高く、印刷用紙についても高い品質が求められます。当時輸入していたストーンペーパーは、通常の紙と比べて重く、厚さや品質を均一に保つことが難しく、コストも割高、という問題を抱えていました。

台湾のメーカーへ改善を求めてもなかなか対応されないという状況が続く中、山崎は弊社の角(元日本製紙 専務取締役、現TBM取締役会長)との出会いに背中を押され、「国内で自社開発をしよう」という決断に至りました。

 

―とはいえ、ゼロから自社生産するのは大変ですよね

もちろんです。角は製紙メーカーに在籍していたため、当然紙の生産過程が環境にどのような影響を及ぼすのかを誰よりも痛感していました。その角の多角的なアドバイスや手厚い協力を得て、従来のストーンペーパーとは異なる製造技術を独自に確立し、厚さの均一化・重量の軽量化に成功、全く新しい紙やプラスチックの代替製品をつくる新素材を日本国内で生み出すことに成功しました。

 

―それが「LIMEX(ライメックス)」の誕生
ライメックスという名前は、「ライムストーン(石灰石)」と無限の可能性を表す「X」の組み合わせです。石灰石は世界中にほぼ無尽蔵に存在し、日本国内でも鉱物資源の中で唯一自給率100%の鉱石です。そのため、原材料の調達にも不安はありません。

従来のストーンペーパーとは異なる製造方法から生まれた新素材ライメックスは、環境性にも経済性にも優れ、「エコロジーでエコノミー」を両立する新たなビジネスモデルを実現できると考えています。

 

―環境面に良く、資源面でも不安が無いのはわかったのですが、具体的に通常の紙と比べての利点は?

分かりやすい特徴として「耐水性」と「強度」が挙げられます。
通常の紙は濡れると強度が落ちてぼろぼろになりますが、ライメックスからつくられる紙代替製品は耐水性が高いので浴室や水回り、屋外利用も可能です。そして、原材料が石なので、経年変化にも強く半永久的にリサイクルが可能です。

今後、研究開発を進めていくことで従来の紙の生産よりもコストを下げることも可能であると考えていますし、高効率でのリサイクルが可能なので、長期的にみれば相当なコストダウンにもなると考えています。

 


■エコノミー&エコロジーによる真のサステナブル。狙うのは170兆円を超える市場


―海外、特に中東との取り組みを発表されたり、世界43カ国で国際特許も出願・取得しています。かなり海外展開が積極的だと感じたのですが

ご存知の通り、中東諸国では石油採掘が重要な産業です。しかし、シェールガスの普及等により石油依存体質に対する危機感が増大しており、サウジアラビアが2030年を目処に「脱石油産業」の確立を目指す経済改革計画を発表するなど、中東全体が石油に頼らない新たな産業構造を模索しています。

 

中東諸国では紙の生産に欠かせない水と木が非常に少なく、自国内で紙を生産することができません。一方ライメックスであれば、国内資源を活用する事で紙代替の製品を生産でき、輸送コストの低減や国内雇用の促進に伴う産業の活性化も期待されます。そういった背景もあり、サウジアラビア国家産業クラスター開発計画庁・日揮株式会社様に声を掛けて頂き、サウジアラビアへの事業展開に向けた協議がスタートしました。

 

―特許は?中東以外でも取得されていますよね

TBMは国内での経験を活かした海外での製造販売、工場建設を進めていきます。海外のパートナー企業との技術ライセンス交渉等を行うにあたって、国際的な特許を出願しTBMの技術をしっかりと権利化していることが重要だと考えています。

工場を建設してから他社に模倣されたのでは意味も無いですし、国によっては最初に「その技術はちゃんと権利取得しているか?」と確認されることもありますから。国際出願を進めているのは、TBMの今後の海外展開を見据えた布石です。

 

―ライメックスが狙う市場というのはどこなんでしょう?

原材料面では【地球の活用】【材料イノベーション】【天然素材・生物材料工学】に分類されると思います。技術面では、無機フィラー分散系の複合材料なので【天然物化学・高分子合成】に該当するのではないでしょうか。
市場面は、非常に広いですが「紙」と「プラスチック」が使われている産業すべてが応用分野として該当すると考えています。

 

―そういえばプラスチックもつくれるんですよね。

はい。紙製品市場は世界で約70兆円と言われ、プラスチック製品は100兆円を超えると言われています。その市場規模の大きさから、将来的にライメックスで紙とプラスチックの代替が進むことによる環境・資源へのインパクトもとてつもなく大きいと考えています。

弊社は「エコノミー&エコロジー」という表現を使っていますが、真のサステナブル(持続可能)な製品とは、単に環境への配慮をするだけではなく、市場にも大きなインパクトを与えられる製品のことだと考えています。

 

インタビュー内にも出てくるライメックスを用いて作られた名刺(左)とプラスティック(右)。触り心地に違和感はなく、むしろ名刺は「上質な紙を使っているな」と感じるような指触り。
ライメックスを用いて作られた名刺(左)とプラスチック(右)。触り心地に違和感はなく、むしろ名刺は「上質な紙を使っているな」と感じるような指触り。

■社内のメンバーが化学反応を起こす、その根底にある「クレド」


―少し坂井さん個人や社員の方のお話を伺ってもいいですか?

私個人は、大学院で炭酸カルシウムや石灰石に関する研究も行っていました。
「有機無機複合材料」を扱う化学系の研究室でして、有機高分子の作用により炭酸カルシウム等の無機結晶の結晶成長を制御するといった、ライメックスに関連するような内容にずっと取り組んでいました。

 

―じゃあTBMを最初に知った時驚いたのでは。

まさにその通りです。学生時代に研究していた内容にも近く、「この領域にこれほどスケールが大きい事業があるのか」と。
前職で知財を扱うコンサルティングを行っていたのですが、自社の技術をいかに守り、いかに発展させていくかが重要なベンチャー企業においては、その経験も十分に活かせると感じました。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチに「connecting the dots.」というのがありますよね。自分の人生で置いてきた点をいつか繋ぐ時が来る、という。私がTBMを知ったのは30歳のときでしたが、こんなに早くそのタイミングが来たのか、という感覚でした。

 

―他の方はどうですか?社員が70名いて、坂井さんほど「ど真ん中の研究していました」、じゃない方もいるのでは

はい、当然社員は前職の経歴がバラバラで、入社してから紙・プラスチックに関する知識を学んだ者もいます。

社内には、「今までにない笑顔が、人と人をつなぐ世界をつくる。」という弊社のミッションに準ずる行動指針を示した「CREDO(クレド)」があります。異なる分野から飛び込んできた社員の中には、TBMに来社した際に見たこのクレドに惹かれた、という者もいますね。

この1年でメンバーの数も一気に増えました。入社1年未満の者も多く、それぞれの文化を持ったまま入社してきたメンバーが、今まさに社内で化学反応を起こしている感じですね。

 

―メンバー間のコミュニケーションにも活きていると

そうですね、例えば技術者と営業って難しいシチュエーションもあると思うんです。
営業がどうしても対応してほしいお願い事が、技術者から見て「難しいな」と否定的になりがちであったり。
そういう時に、否定せずに一旦受け止めて「こういう可能性ならありそうだ」と考えてみる、能動的にどう解決できるかを考えてみる。クレドの実践が、そういった発展的な議論を促進しています。

 

―今日は銀座のオフィスに伺ってますが、拠点は他にもあるので遠隔でのやりとりもありますよね

はい、現在、宮城県の白石工場には約30名の社員がおり、どうしても距離が離れていることによる課題は生じます。なので、まずは日々の課題を溜めずに言い合うとか、両方の拠点にモニターを置いて社内のトピックをリアルタイムで共有できるようにするなど、温度差・情報格差が生じないような仕組みを考え、実践しています。

 

―中で働いててこういう人はTBMに合うだろうなと思う人は?

弊社はビジネスのテーマが環境問題の解決、永続的な社会の創造というものですから、そこへの深い想いがある事は大事ですね。この「想い」が先ほどの能動的に動くためのエンジンになる気がします。

あと、一般的にベンチャー企業ではどこでも当てはまると思いますが、社内の環境が整っていないのは当たり前なので、それに対してネガティブになるのではなく、自分で環境を作っていこうとか、顧客開拓しようとか、社内に無いもの作ろう!みたいな積極的な気質が大事です。

TBM社のCREDO(クレド)は、オフィスのエントランスにビジョン・ミッションと共に掲げられている。
TBM社のCREDO(クレド)は、オフィスのエントランスにビジョン・ミッションと共に掲げられている。

 


■将来「ゴミ箱の種類が1つ増える」社会を巻き込んだ変革を


―今後、直近の目標とかはあるのでしょうか?

事業でいうと、数年後の多賀城工場の完成に向けて動いています。
その後は、海外に積極的に展開していくことになるでしょうね。

弊社のようなビジネスをやっているベンチャー企業はあまりなく、「one and only」な立場ですし、事業の規模感が利益に直結する業界なので、利益を上げるためには短期間で事業を拡大させる必要があります。そのためには、他のベンチャー企業以上に、自分たちのスピード感が大事になるため「1年で10年分、10年で50年分の成長をする。」というTBMの価値観を掲げています。

国内にベンチマークしている企業はいないものの、世界中の大手メーカーが競合とも言えるので、それらと戦っていくのであれば、本当に1年で10年分成長しよう!と、そういう意気込みでいます。

 

―敵も市場も大きいぞ、と

そうです、だからいろいろな方に弊社を知って頂き、熱い気持ちで仲間になって頂きたいと思っています。
海外ビジネスの経験がある方や、ゼロから自分でパートナーを探してビジネスを立ち上げられる方、プラントや工場の立ち上げ経験がある方などはぜひお話させて頂きたいですね。

職種にもよりますが、化学や材料の経験はあれば望ましいですけど入ってから学んで頂ければいい。それよりも「進める力」「推進力」が何より必要だと感じています。

 

―最後に、ちょっと気が早いですけど2020年よりもさらに先、2030年や2050年のイメージを聞かせてください。

そうですね・・・
2030年なんて言うと、社長に「何言っているんだもっと早くだ」と檄を飛ばされるかもしれませんが(笑)
個人的には「ゴミ箱が一個増える」ことを目指しています。

 

―ゴミ箱が一個増える?

はい。
燃えるゴミ、燃えないゴミ、カン、ビン、ペットボトル、そして「ライメックス」。

私たちの素材は、リサイクルで何度でも使える点も大きな特徴です。
再生紙ではリサイクルする時に毎回新しいパルプを添加していたり、リサイクルできる回数にも限りがあります。ライメックスの場合、「再生回数」や「リサイクル時に掛かるコスト」で優位性があると考えています。

もちろん、現時点では回収するためのプロセスについて、リサイクル業者様等と話し合って仕組みづくりをする必要があります。ただ、ライメックスが世の中に広く流通すれば「回収したほうがいいよね。紙と一緒に捨てちゃうんじゃなくて、ゴミ箱を一つ増やそうよ。」となる。
ペットボトルは世の中の人が当たり前に知っていて、その分別ルールも受け入れてます。それくらい「社会にとっての常識」を作っていく事を目指しています。

 

世の中の常識を作りあげていくためには、TBM単独の行動ではなく、多くの事業者様を巻き込んでいく必要があります。そのためにも、私たちはまず売る努力・広める努力をする必要がある。
国や自治体が自然と「あの最近よく見るライメックスは、リサイクルしたほうがいいから分別ルールを整備していこう」と言う社会的なムーブメントを生み出していきたいと考えています。

 


坂井 宏成 株式会社TBM 経営企画室 マネージャー
2009年東京大学卒業、2011年同大学院修士課程修了。新卒で株式会社三菱総合研究所に入社し、2016年より現職。
経営コンサルタントとして情報通信産業のクライアントを中心にマーケティングや営業戦略立案等、多岐にわたるプロジェクトに参画。また、特許や商標等の知的財産の分析に基づくメーカーの知財戦略・研究開発戦略立案、金融機関の知財担保融資支援等を実施。
日本の優れた技術で世界を変えることを目指しTBMへ。経営企画室において、研究開発戦略策定、知財管理、生産管理等の業務に従事するとともに、新工場の立上げにも関与。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)