Interview

研究者をサポートするための業務効率ツールと、レンタルラボ構想 ――株式会社Inner Resource 松本剛弥

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社Inner Resource

人事や財務経理、ビジネス現場における業務効率化のSaaSサービスが近年増加し、企業の現場では一昔前の「エクセルや手書きの紙資料で管理」が無くなりつつある。一方で、大学や研究機関などの現場では未だに紙・エクセルでの情報管理が多く、研究者自身が煩雑な事務作業に追われ、肝心の研究活動に打ち込めていない。

研究施設の購買など、管理業務を効率化する「ラボナビ」を提供するインナーリソース社は、研究業界のトータルサポートを目指し、まずはラボナビの普及に取り組みつつ、次の展開として「優良なバイオベンチャー創出の基盤となる全国レンタルラボ構想」を描いている。同社代表松本さんに研究現場の実情と、レンタルラボ構想についてお聞きしました。


■研究現場の無駄をなくす「ラボナビ」


――インナーリソース社の事業について教えてください。

インナーリソースは研究業界を盛り上げることを目指し、「研究業界の無駄をなくす」「イノベーションを起こす活動の支援」「広く一般に研究の楽しさ・おもしろさを広げる仕組み」の3つを事業の柱としています。

いまは1つめの「研究業界の無駄を無くす」ために、研究業界の購買に特化したSaaS「ラボナビ」をベータ版で運用しつつ、次の展開に向けた準備を進めている段階です。

研究業界における購買環境はいまだに無駄が多く、現状ノートやメモ帳、Excelで管理されています。このアナログな管理体制が不正を生む一因となっており、環境改善のため東大などでは独自の試薬購買システムが導入され、無駄削減に一定の効果が出ていると考えます。

しかし大半の研究施設では、いまだにアナログな方法で管理しているため、多くの無駄があります。

研究に打ち込みたいのに煩雑な作業、無駄が多い。ラボナビはこの業務改善・効率化に取り組む研究者のためのSaaS

――現在のラボナビの利用状況は?

現時点で18施設、約80の研究室で導入頂いています。

ラボナビの特色は2つ。
「ラボ単位で使用できる」点と、「とにかく使いやすさにこだわったUI」です。

購買時に管理部門を通さずにやりとりが出来る一方で、研究機関全体の管理側からは「各ラボの状況は把握したい」という要望があるので、設定1つでラボ内のみに留める情報と、外部に共有する情報を分けることもできます。

実際の購買フロー(見積、発注、購買・予算管理など)を全てカバーするのはもちろん、研究者・管理担当者の要望である、「使いやすい操作性」を徹底的に追求し開発をすすめています。

――かなり機能も充実しているようですが、ラボナビのどの辺りが「まだベータ版段階」なのでしょうか?

まずインターフェース全体をより使いやすいように改良していく必要があります。
現在でも欲しい情報を入力し、業者を選んで依頼するだけなので、従来と比較し大きく負担を減らせていますが、広く購買業務の徹底効率化という目的を実現させるためには、今以上の使いやすさが求められます。

例えばスマホ対応。
大半の研究室は研究する場所と事務作業の場所が離れているので、いちいちパソコンのある場所に移動して見積り依頼や発注作業を行います。この非効率さを改善するために「スマートフォンで写真やスクリーンショットを撮影し見積もり依頼や発注ができる」という機能も試しています。

従来の発注システムとは違い、研究者への徹底したヒアリングを行い、必要な機能を驚くほど使いやすく利用できるよう開発しています。今後は、ユーザーのさらなる効率化を実現する新しい機能が続々と追加されます。

5月中旬に正式リリース予定ですので、煩雑な購買業務または現在の発注システムの使いにくさでお困りの研究施設、研究室はぜひラボナビをご利用いただきたいです。圧倒的に使いやすく、業務の時短、購買コストカットを実感していただけると思います。

――現場の研究者がやりたいこと、に応えている段階ということですね。

はい、他にも「見積もりだけ欲しい」「発注システムだけ欲しい」「見積もり無しで発注したい」と、使うシチュエーションに応じて細かい要望があります。

最初は「見積もりしてから発注」のみでサービスリリースしましたが「見積もり不要、消耗品を1年単位で発注したい」という要望があり、ニーズに応えられるよう、ひたすら改良を加えている状況です。


■変化し始めた国と研究の現場


――従来は手書きで管理していた状況なので、いきなり新しい仕組みを導入することについて、セキュリティ面の不安や、従来の申請・購買ルールを適用できるか?と懸念する人はいますか?

そこは「ちょうど変革期」だな、と感じています。
近年某大手ECサイトも研究機器の購買に進出していて、研究の現場でも「ネット経由で発注して管理する」が当たり前になりつつあるんです。

同時に、国側の動きもあります。
日本国内だけで研究の購買費は年間約4兆5千億円使われています。

国も研究費として予算をつけているので、当然無駄は減らしていきたい。むしろアナログに管理せず、管理負担を減らすようにと大学・研究機関側に指導している状況です。

――国からいきなり「こうしなさい」って指導されても、研究の現場は大変そうですよねえ。

それは感じますね。実際の対応状況は研究施設・研究室ごとにかなり差があります。
ラボナビは現在主に大学の研究施設やバイオベンチャー、中小の研究施設で利用頂いていますが、「やっとこれで紙に書かずに済む」「エクセル管理から解放される」と喜ばれます。

「変えなさい」と言われても・・・と思っていた人たちにとって、ラボナビがいいソリューションになっているなと感じます。

ビジネス・職場向けの業務効率化SaaSは増えてきたが、研究業界の実情やニーズにマッチしたものは無かった。
相見積もりの必要性や、消耗品の発注など、研究現場の実情に合わせた配慮が多く搭載されている。

――直近で「ラボナビ」以外に、冒頭で話されていた「無駄をなくす」「活動の支援」に動いているものはありますか?

正式な発表は7月になると思うのですが「日本全国に、研究サポートが充実したレンタルラボを創る」構想で動いています。現在無駄になっているリソースを有効活用し、よりよいバイオベンチャーが生まれやすくなる環境を整えます。

詳しくはまだお話出来ませんが、ポスドク問題、科学立国衰退の問題、基礎研究から産業化への問題、大学の運営問題など、様々な課題解決に繋がりますのでご期待ください。

――発表前なので、話せる範囲で教えてください。

はい、まず冒頭にお話しした「研究業界を盛り上げる3つの柱」ですが、当然購買の仕組みをSaaSでスムーズ化した「ラボナビ」だけで実現できるとは考えていません。

そこで具体的に何を提供してサポートするのか?
・研究環境(研究機器、試薬など消耗品)
・場所
・資金
・人
・企業等との連携
が必要だと考えています。

現在の「ラボナビ」は購買を通じた1つめの「研究環境」の提供と位置付けており、2つめの「場所」という点で、いまお話した「日本全国に、研究サポートが充実したレンタルラボを創る」に取り組みます。

※レンタルラボの詳細については後日公開のインタビュー後編で詳しくご紹介します※

インタビュー時に見せて頂いたスライドより抜粋。
研究業界サポートのために提供するものとして、既に「レンタルラボ」が明記されていた。

■「わからない」や「絶望」がなくなる世界


――松本さんは研究者出身では無いですが、なぜ「研究の世界を盛り上げよう」という事業を立ち上げたのでしょうか?

世の中から「わからない」を無くすことはできないのか?と考えたところからスタートしました。

6年前、家族が難病指定を受けました。
その時の担当医の話は「原因不明」。解決策も分からないというもの。それがきっかけで色々と調べたのですが、世の中には原因不明なことがたくさんある。

研究者は、いわば原因を究明し、解決策を模索するスペシャリストたちです。
自分の経験も踏まえ、「研究者を徹底的に支援し、世の中からわからないを無くしたい」と思いました。

――元々は商社勤務だったそうですが、その「研究者支援」を起業という形で挑戦したのはなぜですか?

一言で言えば「自由だから」です。どこかの企業に所属したまま活動するよりも、独立したほうが自分のやるべきことに取り組めると考えました。

あと、商社時代の経験が活きたと思います。
当時から、東京大学や東京医科歯科大学の先生の声を聞く機会が多く、その本音に向き合った結果、自然といま提供しているサービスや構想のイメージが湧きました。

消耗品や試薬などは繰り返し発注するので、それとレンタルラボという「発注したものを使う場所・環境」を組み合わせる事業構想など、実は商社時代の経験や考え方が現在のインナーリソースに活きていると感じます。

――インナーリソースとしてのビジョンが実現したあと、の社会の姿を教えてください。

繰り返しになってしまうのですが「わからない」の無い世界です。

原因が分からない、解決策がないと宣言されたとき、人は絶望を感じます。
この「わからないから絶望する」が無い世界、それを私は創ります。

同じ投資家に出資頂いているjiksak bioengneeringの川田さんも、以前記事で紹介されていましたよね?

※参考記事:
元ポスドク、1人起業、世界初の「神経工場」で難病ALSへ挑戦 ––Jiksak bioengneering 川田治良

川田さんもALSという原因不明の難病に取り組んでいます。
世界中に彼のような優秀な人が、「わからない」を究明して無くそうとしています。
インナーリソースの仕事は、そういう人たちを増やし、支援し、成功させることです。

その先にあるのはよりよい未来と、多くの笑顔。
これを全力で創っていきます。


松本剛弥(まつもとたかや) 株式会社Inner Resource 代表取締役
1986年生まれ。外資系金融機関勤務時に家族が難病にかかり、原因不明・解決策不明と宣告を受ける。研究者を広く支援することで医療発展を最大化させたいと医療研究専門商社に転職。業界独自の課題・問題点に直面し、根本的な解決を図るため研究者支援事業「株式会社Inner Resource」を起ち上げ。「研究者がより研究に没頭できる環境つくり」をモットーに、研究雑務効率化サービス【ラボナビ】をβ版としてリリース。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)

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