2017.07.24 MON アぺルザ 代表取締役 石原誠 ― 目指すのは「生産材購買のグローバル・プラットフォーム」。世界で戦う日本の製造業を支援したい
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,株式会社アペルザ |
ドイツから起こった「インダストリー4.0」の流れは、世界中の製造業の現場やビジネスの在り方を変えつつある。製造業が強いと言われる日本でもこの変化をどう活かすか、生き残るかという話題が尽きない。
創業わずか1年で急速に実績を伸ばし、forbesの「世界を変える注目ベンチャー」に選ばれた株式会社アペルザ。元ソニーの出井氏など名だたるメンバーから支援を受け、まさにインダストリー4.0時代の製造業における情報流通のあり方や購買の仕組みを根底から変えようとしている。
■現場で見てきた課題、「インダストリー4.0」が起こした40年振りの変化
―まずアペルザのサービスを始めた背景からお聞きしたいのですが。
私は新卒でキーエンスに入社し、製造業の現場をたくさん見てきました。また、社内ベンチャーでイプロスという製造業向けのWebサービスの立ち上げにも関わり、インターネット業界でのビジネス経験も積んできたというのが私のバックグラウンドです。これまでの経験の中で、製造業の業界内に存在する根深い課題をずっと感じていました。
製造業という市場は、たくさんの人が関わり、マーケットサイズも大きく、歴史も長いのですが、その反面で非常に閉鎖的なところがあります。一方インターネット業界はというと、オープンであるのが当たり前。歴史は浅いのですが、優秀な人たちがどんどん流れ込み、業界の新陳代謝も激しい。その分、業界全体の発展スピードには目を見張るものがあります。
昨今、製造業に元気がありません。思い入れの強い業界ということもあるのですが、製造業に活気を取り戻したいというのが素直に思うところです。
そのためには、優秀な「よそ者」を引き込む必要があると考えました。偶然な出会いも含めて、スタートには十分すぎる仲間を見つけることもでき、アペルザを立ち上げたという流れです。
―歴史の古い業界に新しい仕組みを導入しようとすると大変だと思いますが、製造業もそうなのでは?
まさにその通りです。それなりに歴史のある業界ですので市場構造がしっかりと出来上がっていて、その結び目は簡単にはゆるみません。製造業の場合、参入プレイヤーの数も種類も多い分、解きほぐすのは至難を極めますね。わかっているつもりでしたが、苦労の連続です。
―どうやって利用社を増やしていったんですか
実は、あまり業界のルールとか空気を読まずに、最初からいきなり大手企業に営業しました。シャワー効果を狙ったわけです。すると、当然理解のない方にも会うことになります。ただ面白いのが、会社単位で全員の意見がまとまってるわけではないという点です。
BtoBの市場って「何社に導入してもらう」と社数で語られがちですが、当然担当者1人1人で意見は異なります。初期はとにかく、相手方の社内で賛同してくれるいわば「同志」を探して回りました。結構骨の折れる正攻法ですが、急がば回れですね。いま思えば最短の到達ルートだったと思いますし、これは今も継続してます。
―最近は「インダストリー4.0」など製造業の中でも企業や人の考え方に変化が出てきたのかなと思いますが。実感ありますか
あります。はっきりと変わり始めたと感じています。
70年代にFA、いゆわるファクトリーオートメーションが普及し工場の中をガラッと変えましたが、その後は実質40年間大きな変化は無かったと思います。
しかし近年「クラウド」や「ネット」という通信が入ってきたことで、「家庭にネット回線が引かれた」ような変化がおきています。それまで使ったことのないような部品や装置を使わざるをえないという状況になりつつあります。
―使う・使わないではなく「使わざるをえない」
極論ですが、ある意味ずっと同じものを使っていればよかった時代だったと思います。それが「インダストリー4.0」の影響もあって、特に経営陣から現場に意識付けが行われて、見たことも使ったことのないものを探す、選定するという大きな変化が起きているのだと思います。
■制御機器、半導体、電子部品…アペルザのサービスが変え始める製造業の現場
―価格サイトのAperza(アペルザ)についてですが、現時点で利用してるのはどういうジャンルの方なんでしょう?
当然ですが、Eコマース化が進んでいる領域と相関がありますね。具体的には半導体や電子部品などです。アペルザは製造業版の価格.comなので、Eコマースのプレイヤーが多い製品ジャンルほど、情報が充実します。半導体や電子部品に関して言えば、古くから通信販売が確立していて、その流れを組んでEコマースでも参入プレイヤー数が多く、購買側であるユーザーのECリテラシーも醸成されているのでしょう。
―カタログポータルのCluez(クルーズ)の方はいかがですか?
Cluez(クルーズ)の出展企業数は現在4,800社を超えたところです。国内で中小企業まで含めると生産財のメーカー8万社あると言われているので、もっともっと増やしていきたいところです。
購買サイドの利用企業は、大手・中小、業界もとくに偏りなく利用して頂いてますね。
―海外メーカーの利用状況はどうですか?展示会に行くとアジアの企業が売り込みに来ているのもよく見かけます。
現状でも使って頂いていますし、日本のメーカー以上に積極的だなと感じます。仰られた展示会を見ていてもそうですが、海外のメーカーの方が、マーケティングが戦略的です。成果を見据えてプランをしっかりと描き、投資するというスタンスです。
1つ1つの広告やツールでは無くて、大きな予算の中で役割分担を設計していて、うちのプラットフォームでこういうことを展開しつつ、他ではこういうマーケティングを仕込み、更に自社ウェブサイトでは・・という全体設計の中でアペルザのサービスを利用している感じです。
■国内と海外、メーカーのプロモーションや調査の違いが見えてくる。
―海外メーカーと国内メーカーとの傾向の違いを聞いてみたいのですが。
海外のメーカーさんの場合、グローバル視点で設計されている印象を受けます。つまり、マーケットにフィットさせるという感じではなく、「1つの製品を全世界で売りたい」という傾向ですね。そこが最も大きいと言える、国内メーカーとの違いだなと思います。
我々もプラットフォーマーとして、たくさんの企業のマーケティングに携わる機会がありますので、そこから得られる知見も多いです。まだ実験段階ですが、導入して頂いてる企業向けにアペルザの活用セミナーを少しずつ始めているので、そういった場で我々が得た知見を出展企業様にどんどん提供していきたいと考えています。
―プラットフォームを提供していると、確かにデータが俯瞰で見れる立場ですよね。製造業に関する売買データなどを見て発見する事とかありますか?
特定の業界での傾向みたいな話では無いのですが、ある有名メーカーさんからご相談を頂き、その企業の製品に関する購買データや在庫量を調査したことがあります。データを集計してお見せしたのですが、その時に彼らが「こんな状況だったのか、こんなデータは見たことが無かった」と言っていたのは印象的でした。
従来の流通では卸会社、二次流通、販売代理店などと商流が複雑化してますから、買い手が「どの代理店から買っているか?」という情報を得るのが難しかったとのことです。うちのデータは買い手に届くまでのルートが全部可視化されるので「こうなってたのか」と。
正直意外だったんですよ。誰でも知ってるような一流メーカーさんですから、それくらいのデータは把握してるのではないかと思ってましたし、同時にやはり従来の流通プロセスにはいろいろと問題があるなと感じました。
■出井さんに気付かされた「製造業の延長線上だけで思考しない」という視点
―先日、元ソニーの出井さん、楽天の島田さん、メルカリの小泉さんが顧問に就任した発表がありましたが、普段どういった話をしているんですか?
ええと、3人に同じ相談をするというより、住み分けのようなものがあって、小泉さんは同世代でメルカリやmixiといったネット企業やスタートアップの経験があるので、3人の中では一番やりとりの頻度も多く、直近で必要なことを色々とアドバイスして頂いています。これが島田さんや出井さんとなるに従って、相談する内容が中長期的で先を見据えたものが多くなるという感じですね。
―この3人に会社を支援してもらうというのも、かなり貴重な経験だと思うので、何か話せるレベルのエピソードを聞きたいのですが
ええー…なんでしょうね。
出井さんの、物凄く先を見通す力ですかね。僕らがまだ全然見えていないものを既に見てるなと感じます。
昨今のネット企業のハードウェア領域への進出から、いつまでも製造業というカテゴリーが存続するとは限らないというアドバイスです。今の延長線上で考えがちですが、その延長線上でないところで思考するということの重要性を教えていただきました。とても興味深い視点で、我々も先をみて経営しているつもりでしたが、そのレベルの大局観は見えていなかったと痛感しましたね。
■中国のアリババ、日本のアペルザ。多くのメーカーが世界に出る機会を提供したい。
―いまアペルザ社内は何名くらいいるんですか?
50名強ですね、創業が2016年7月なのでかなり採用のペースは速いと思います。社員の出身業界を見てみると、オンラインのプラットフォームサービスに関わっていた方が多いですね。
―製造業界出身の人はあまり多くない?
積極的に製造業「外」の人を採用していますね。一言でいえば「よそもの」です。
製造業に関わった事がないけど優秀な方が、アペルザの仕事を通じて製造業への大きなメリットを生むというイメージを持っています。
―製造業は、業界未経験だと大変そうなイメージがありますが
確かに製造業は特殊な業界で、参入障壁も高いと思います。でも、我々はネットサービスを提供する会社でして、それが問題になること自体は少ないですね。
恐らく、一括りに「製造業」とする考え方が間違っているのだと思います。自動車、電気、食品、業界それぞれで、必要とされる知識は全然違います。つまり、全てを知っている方というのは非常に少なく、いずれにしてもラーニングが必要なわけです。なので中途半端に知っている方より、学びの速度が早い人の方が圧倒的に活躍できます。
―たしかに。自分が関わった事ない分野ならほぼ未経験ですよね
そうです。なので面接の時も、むしろ素直さとか吸収力、思考の柔軟さを重視しています。
ちょうど我々は、1年かけてサービスの仮説検証が終わり伸ばすフェーズに入りましたし、資金調達もしました。営業面や海外展開を視野に入れて、今後も採用ペースは上げていきます。
―最後に、近い将来アペルザが目指すビジョンを教えて頂けますか
例えば国内に間接材メーカーが8万社あって、うち90%以上が中小企業です。でもその中には大手に引けを取らない技術力のある会社もあります。
そういう会社が、「世界」をフィールドにビジネス出来る場を提供したい。という感じですね。
うちの社員には「中国のアリババがライバルだ」って言うとピンとくるみたいです。
―アリババですか?
アリババって、やはり中国のメーカーがメリットを享受しているプラットフォームだといっても過言ではないと私は思うんです。中国のメーカーにとって自分たちのビジネスを海外展開する上で、凄く援護射撃になっているなと見ています。
アペルザは、その製造業版というイメージです。
我々のプラットフォーム上で活躍する日本の中小企業が増えたら、非常に嬉しいなと思います。そのために、積極的に海外展開も進めます。普通創業1年でそこまでやらないのでしょうけど、僕らはアリババを目指していますから。
中国のアリババ、日本のアペルザですね。
プロフィール
株式会社アペルザ
石原誠 代表取締役社長兼CEO
株式会社キーエンスに在籍中の2001年、社内ベンチャープロジェクト「iPROS(イプロス)」の立ち上げに参画。執行役員として「サービス開発」「メディア運営」「経営企画」を担当。退職後の2014年、教育系(EduTech)スタートアップの株式会社ポリグロッツ、株式会社エデュート(Edut)を相次いで創業。数々のビジネスコンテストで受賞。その後、株式会社クルーズを創業。2016年7月の株式会社FAナビおよびオートメーション新聞株式会社との経営統合を機に、株式会社アペルザの代表取締役社長兼CEOに就任する。
インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)
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