Interview

「鮮度が命」の水産業だから、流通プラットフォームを再構築する価値が大きい- foodison代表 山本徹

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社フーディソン

農林水産省が2017年3月に発表した漁業就業者数、日本全国の漁業者は約16万人。
経営環境の悪化、高齢化を背景に10年前と比べ25%も減った計算となった。
株式会社フーディソンの代表山本さんは、かつて株式会社エス・エム・エスで取締役を務め介護・医療分野で培った「情報の非対称性を解消する」仕組みを活かし、水産業に変革を起こそうとしている。水産業界の課題や流通プラットフォームが持つ可能性についてお聞きしました。


■魚はまさに鮮度が命、情報だけでなく物流・商流の最適化も必要


-foodisonでは「魚ポチ」や「sakana bacca」などのサービスを展開していますが、これらのサービスを提供する背景を教えてください。

水産品のプラットフォームを再構築し、少ない人数で良い品質の魚が手に入れられるサービスを目指しています。現在は魚を仕入れて売る部分に特化し、飲食店向けの仕入れサービス「魚ポチ」や「sakana bacca」などはオンライン・店舗それぞれを駆使したサービスを展開しています。

僕は以前医療関連で「情報の非対称性を解決する」事業に取り組んだ経験があります。
実は鮮魚流通も医療と似ている構造があり、「提供側」には豊富な情報があるのにサービスを受ける側、医療で言えば患者さん、鮮魚で言えば飲食店や消費者側に届く頃には情報が欠落してしまっているというギャップがありました。
ここを解決することでプラットフォームの再構築の価値が出ると考えました。

-実際に事業を始めて医療と鮮魚で異なる、難しい点はありましたか

最初からわかっていたのですが、「鮮度が命」のものを扱う難しさです。
魚は1分1秒鮮度が落ちていき、数時間経てば腐ってしまう、まさに鮮度が命と言える業界です。

そうなると、情報の非対称性を解消するのは入り口でしかなく、
情報の非対称性を解消した結果、物流や商流まで最適化しなければプラットフォームとしての価値が出ません。

仕入れ・流通の情報を一括管理することで問題を解消し、その結果「鮮度の良い状態で」買い手に届かなければいけない、これは水産業特有のものだと思います。

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オンライン上でのECだけではなく「sakana bacca」は中目黒・都立大学など都内に数店舗も展開する。
また鮮魚の販売だけでなく、サイト上では魚ポチを利用している店舗の紹介なども行っている。

 


■こだわった食材を出したいと思う店ほど負担が増えてしまう現状


―foodisonが取り組んでいる「鮮魚流通の現状の課題」について教えて頂けますか

当たり前ですが魚って「市場にいかないと買えない」ですよね。
僕がfoodisonを始めたときに困ったのが、築地市場に来たはいいけどどこに行けば買えるかも誰にそれを聞いたらいいかもわからない。

その場で現金を出せば売ってくれますけど「売り掛けにしてください」って初対面で言っても当然無理です。そして市場側も「新しく仕入れたい店舗さんはこういう手順で」と解説して売る努力をしているわけでもない。

もちろん「築地市場に出回らない魚」も多数あり、その中には鮮度の良いものもあります。
飲食店の中にはスーパーで購入したり、別々の市場から頑張って個々に仕入れている方もいますが請求も納品も別々で支払期限も違う。その結果業務コストがかさみ個人店舗では負担が大きい。

―確かに大手チェーンでバイヤーがいるならともかく、少ない人数でこだわった品質の魚を出そうとすると大変ですね。

そこにプラットフォーム化することの価値があると考えています。
僕らのサービスを使ってくれているのは「個人経営で良い鮮魚を仕入れたい」店舗が多く、現時点で約8,500店舗に登録頂いています。

仕入れる飲食店側の理想は、あらゆる港や市場とパイプをもち常に鮮度の良い魚を仕入れたい。
しかし実際には天候次第で港・市場ごとの水揚げ量も日々変わり、どこの市場へ出向いたらいいかも変わります。こだわろうとすればするほど業務負担が増えますから、良い鮮魚を効率よく仕入れられるというのは大きなメリットです。

今後プラットフォーム化して活用できれば、あらゆる港で水揚げされる魚の相場や値動きも可視化できると考えていますので、例えば現状安い価格で取引されている店舗ニーズの高い魚種などが広く買われるようになり、適正な値段に変動するということも出来ると思います。

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日本国内だけでも多くの漁港・魚市場があり、天候などにより日々の漁獲高も変動する。
個人経営の店舗であらゆる市場から良い鮮魚を常に買い付けるのは難しく、foodisonのプラットフォーム価値がここにあると言える

 


■ビジネス目線だけではいけない「食の安全」と「安定供給の役割」


―IT技術を活用した水産業のプラットフォームというのは独特のポジションだと思います、水産業者以外の企業や政府・自治体などともお話する機会があるのではないでしょうか

はい、最近は民間企業に留まらず政府、農林水産省の方とお話しすることもあります。
するとビジネス目線だけではない「食の安全」や「流通における安定供給」など、大事な要素に気づかされます。

例えばビジネス目線だけで考えた場合、収益性が悪い・見込めない部分は切り捨てることもありますが、獲れた鮮魚をしっかり安定供給するための市場は、全ての判断が収益・利益目線だけではなくなります。

そして鮮魚流通は最終的に「消費者の口に、時には生のまま入るもの」を扱っています。
安心・安全であることが大前提、人の命にも関わることですからビジネス目線の収益効率だけではいけない。

こうした知見を得ることで大きな卸売市場が国や地方自治体によって運営されている意味も理解できますし、そういった点も踏まえて「鮮魚流通のプラットフォームはどうあるべきか?」と検討要素に盛り込むことが出来ると考えています。


―いまお話頂いたものは日本国内ですが、海外での展開やニーズはどうでしょうか

実際に10月から「魚ポチ」のサービスをタイ国内向けに提供し、中小事業者向けに鮮魚をまとめて空輸し始めました。

タイでは美味しい日本食のブランドが十分浸透している一方、実際に日本品質の鮮魚を食べられる場所は少ない。安いコストで食材が手に入らず「日本食」と言いながら実際には全然違う魚を使ったり調理法も独自の、いわば日本食「流」なものばかりです。

―同じような状況にありそうな東南アジアの中でも「タイ」でサービスを始めたのはなぜですか?

「日本人の居住人数」と「信頼できる提携先」ですね。
日本人の居住人数が多く、日本食や日本の食材の良さがある程度認知されている。

そして、海外事業を成功させるために、現地で地元の信頼を得ている提携先も大事です。
日本国内での展開ですら容易ではない事業です、言語も違い知見もない土地で成功させるには、マーケット規模だけでなく信頼できるパートナーが欠かせません。タイでは信頼できる提携先と繋がったことで10月からの展開に至ったという背景があります。

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今年10月からタイでは「uopochi thailand」がスタートし、安心・安全で新鮮な日本の水産物を輸出する。
PRの一環としてバンコクで開催された商談会にも出展した(画像引用:arayz.com

 


■あらゆる食材に展開するからこそ、最も難しい「水産業」から取り組む


-foodisonのウェブサイト上では「2023年までに水産流通のプラットフォーム化を実現」としています、そこを見据えて今後必要な要素はなんだと思いますか

プラットフォームを実現させるために、どこを「コア部分」として自社で作り、他に必要な要素を外部と連携するか?が大事だと思います。

ソフトウェア、いわゆる情報流通や情報提供、サービス部分の新しいものはfoodisonが作っていくと思いますが、一方で既存の港湾施設や市場、集荷場などハードウェア部分はうまく連携していく必要があると思いますし、物流業務を効率化する技術を持っている会社などには興味があります。

サービスが便利でも、鮮魚を新鮮な状態で、安全に、いまよりも手間が少なく効率的に流通させなければいけません。それを実現させるためには多くの強みを持つ企業や団体との連携が大事だと考えています。

-foodisonは「世界の食をもっと楽しく」を掲げており、このコピーでは水産業に限った表現をしていません。それでもまずは水産業に特化しているのはなぜですか?

元々は1人の漁師と出会い、漁師の苦しさや自分の子供にすら仕事を継がせたくないという話を聞いて水産業に興味を持ったところからスタートしていますが、いまは水産業が最も難しいからこそ、その領域でしっかりと売り手と買い手を繋げるプラットフォームを最初に成立させることが大事だと思っています。

水揚げしてから数時間であっという間に鮮度が落ち、腐ってしまう食材。その領域でこそ流通プラットフォームを実現する意義も大きく、他の食材へ展開する際にも応用が利くと思います。

とはいえ、実際取り組むと誘惑が多いんです。
8,500店舗もの飲食店と繋がっていれば、紙やコップなどの消耗品、それに肉や野菜も一緒に頼めたら嬉しいという声もありますし、それもある種の「顧客の声」ですから。
正直肉を一緒に送った方が物流効率も上がるしfoodisonのビジネス的にもいいのでは?と考えたこともあります。

でも片手間で肉や野菜をやっても意味が無いんです。
「肉を買う時もfoodisonを使うよね」と選ばれるくらいの存在になってはじめて、foodisonのプラットフォームで魚と一緒に肉を提供する価値が出る。

単に「魚も肉も買えます」では普通のスーパーと変わりません。
最も効率が良く、良いものが良い状態で手に入ることの出来るプラットフォームで何を扱うか?そこは間違えないようにしなきゃなと日々考えています。

 


山本徹 foodison 代表
1978年生まれ。北海道大学工学部卒業後、2001年4月大手不動産デベロッパーに入社、
2002年10月合資会社エス・エム・エス入社後、組織変更に伴い、株式会社エス・エム・エスの
取締役に就任。創業からマザーズ上場まで経験。2013年4月、株式会社フーディソンを設立し、
代表取締役に就任。水産業界に新たなプラットフォームを構築するべく事業運営中。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)