Interview

LGBT向けの就労サービスを通じて、ダイバーシティからインクルージョンの実現へ ―JobRainbow 星賢人

text by : 編集部
photo   : 編集部,JobRainbow

レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)。
セクシュアルマイノリティの総称として定義されている「LGBT」、自治体の取り組みなども進む中、いまだに偏見・迫害も根強い。どうすればLGBTの方も快適な社会が作れるのか?

中学生時代に自身がゲイだと気づき、自分の体験も踏まえ「同じ悩みを持つ人のセーフティネットを作りたい」とLGBT向けサービスを展開するJobRainbow代表の星さんにお話を伺いました。


■日本国内の13人に1人。「佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さん」を合わせた数よりも多い


――現在展開されているLGBT向け事業について教えてください。

LGBTフレンドリーな会社の情報を当事者に届くような場づくり、サービスを作ろうと思いました。
現在はJobRainbowという企業の口コミ情報サイト、求人サイトのichoose、そして企業向けの研修コンサルティングやリアルな場で知り合えるキャリアイベントなどを開催しています。

起業した理由は、自分自身が小さい頃から“何かをやりたい”という漠然とした起業志向もあったのですが、NPOなどの活動に参加した時の課題意識として「ビジネスモデルが成立しなければ助成金や寄付金に依存する。それではサスティナブルな課題解決やLGBT支援ができない」と考えた結果です。

――現在、サービスはどれくらいの方に利用されているのですか?

1か月のアクティブユーザーが約4万人です。
現在、日本国内で求職活動をしているLGBTの方は毎年約67万人いると言われていますので、まだまだサービスの利用者数を増やさなければと考えています。

LGBTの方であればJobRainbowのサービスを毎月利用していて当たり前、という状態までサービスを成長させようと計画を進めています。

――LGBTの方向けだからこそ、と工夫している部分は。

まず、僕らのサービス自体がLGBTの人に安心して使ってもらえるものでなければいけない。
そのためサービス利用時の匿名性や、情報を登録する際の「男女」以外のセクシュアリティー申告ができるよう、細部に渡ってユーザー最優先を心がけています。

サイトに掲載する情報も、LGBTの方が入社後に困るような職場の情報を掲載しています。
例えばお手洗いや更衣室について。
こうした情報を可視化するのは、やはり同じ目線を持った私たちしかできないので、その点ではユーザーさんにも価値を感じて頂いています。

――確かに、面接時にLGBTの本人が面接官に同じ質問するのはハードル高いですよね

はい、日本国内では13人に1人。約7.6%の方がLGBTと言われています。
これは日本で多く見る苗字「佐藤さん、田中さん、鈴木さん、高橋さん」の方を合算した数よりも多い。

要は、自分から正直に言えないだけで意外と身近にいる。
学校の同じクラスや職場、親戚の中にもいると考えた方が自然な割合です。

恐らく大半の人が考えるよりも規模が大きい。こうした方々に、聞きづらいけど知りたい情報をしっかり届け、快適な就労環境を提供できるように努めています。

LGBT就活生の40%が利用するJobRainbow、LGBTの方が聞きたい社内制度や社内文化・社外貢献などについて
きめ細かい情報が収録されている。

■LGBTへの取り組みを差別化するだけで、採用に大きなメリットがある。


――企業側からのニーズ、要望などはどういったものが多いですか?

LGBT向けかどうかというより、純粋に人材サービスとしてお声がけ頂くことが多いです。
特に大手ではない中小・ベンチャー企業は人材採用に課題が多い。
優秀な人を採用したい、採用がうまくいっていない、と。

僕らが実施した意識調査では、「LGBTフレンドリーな取り組みをし、メッセージを発信している会社で働きたいですか?」という質問に、約90%の方が「働きたい」と答えています。
日本国内の13人に1人、の中の約90%。ということは15、6人に1人。

LGBTへの取り組みを差別化するだけで、15人に1人が競合企業よりも自分たちの会社を選んでくれる。これは現状採用がうまくいっていない会社にとって大きなメリットです。
「御社の業界だと、まだこうした取り組みをしている競合がいません」というと、凄く前向きに検討頂けることが多いです。

――大手だと、少しニーズに変化があるのでしょうか。

もちろん人材採用のニーズもありますが、企業ブランディングや社員の理解向上によるリスクヘッジを目的とした研修や社内改革支援のお話が多いです。

例えば社内のセクハラ、社外に対して無意識的に差別用語を使っていないか?などです。
大手企業で、LGBTの方に配慮した福利厚生を提供しそれを社外にも発信しているのに、実際の社内では「ゲイ」はいいけど、「ホモ」や「オカマ」は差別的な表現になることを知らず、日常的に社内で使っている、など。

LGBTも含めた多様な人材を獲得し辞めない文化を創ることで、革新的なものを生みだす職場環境を作りたいというお話をよく頂きますね。

――採用施策というより、社内文化のお話ですね。

採用は、どこに露出するかより「その会社がどんな強みと文化を持っているか」が重要だなと。

最も活用頂いている企業に「学生向けのフリースペースを運営し、居場所づくり」をしている方々がいるのですが、「居場所作り」というメッセージにLGBTもリンクさせていてユーザーさんからの評判もいいです。

――企業側との取り組みで、逆に事業のヒントを得ることもありますか

最近は「社内にLGBTに関する相談窓口を作りたい」という要望が多く、僕らがその窓口役になることがあります。

すると、社内に勤めるLGBTの方から直接連絡が来て、実際に社内で起きていることや悩みを聞くことができます。その1つ1つが新しいサービスに繋がるようなヒントになっていると思います。

採用マッチングだけでは本当に企業内で活躍するLGBTの人を増やせない。
企業内研修や、社内改革のための支援まで取り組んでいる。

■LGBT当事者と会社だけでなく、「アライ(理解者)」の存在が大事。


――企業側から「社内文化を変えたい」と相談を受け、まずどの辺りからアプローチすることが多いですか?

「会社側」と「LGBTの当事者」だけでなく「アライ(ALLY)」を増やそうというお話をします。
アライは「理解者」という意味で、自分自身はLGBTではないけど理解し支援すると表明している人。

それを可視化するためにステッカーを渡して見えるところに貼り、会社全体としてLGBTへの理解がある人を増やしていくような活動もしています。

LGBTの方が見れば「この人は理解者だ」とわかる、少なくともLGBTにネガティブイメージや差別意識が無いと安心できる。

JTの役員の方々は、レインボーカラーの旗を自席につけているそうです。
するとその会社の上層部に文化が浸透していると感じ、中で働くLGBTの方はわざわざカミングアウトしない状態でも安心して働ける。

――文化として受け入れることが自然なら、カミングアウト自体が要らない

はい、本当に自然な状態であれば要らないですよね。
入社する時わざわざ「僕は女性が好きです」と申告しないじゃないですか。

ただ、会社の中だけでなく、社会全体を変えていくためには教育や政治の部分も変えていかなければいけません。
そのためには企業やNPOが一致団結して必要性を根気強く訴えていくのはすごく重要だと思います。

――もはや1企業でどうこう、の規模感ではない。

はい、先日港区で同性パートナーシップの嘆願書が採択されましたが、最後まで根強く反対した議員もいました。国を左右する権限を持っている人たちにもっと届けるよう、アウェアネス(意識・気づき)を高めるのは非常に重要だと思います。

そのためにも各業界の「大手企業」がどんどん参入してほしいなと考えています。
JobRainbowのような取り組みをリクルートさんやマイナビさんがやればインパクトも大きい、ブライダル業界の最大手がLGBT向けのプランを展開したり、大手医療機関がLGBTフレンドリーな医療ケアを開始したり。

そういう民間サービスを「当たり前」にするために、どこかで各業界のトッププレイヤーの参画が必要だと思います。サービスが当たり前になれば、社会的な意識も変わってくるのではないかと。

アライである事を表明するステッカー。
星さんのPCにも貼られていた。これ1つでLGBTの方の安心感が異なる。

■存在を認めて受け入れるだけでなく「その人らしく活躍してもらう」インクルージョン


――会社のウェブサイトに「ダイバーシティからインクルージョンへ」というメッセージがあります。最後にこの言葉に込めたものをお聞きしたいのですが。

LGBTに限らず男女格差、障がい者や外国人への差別なども同様だと思う話ですが。
まずはダイバーシティ(多様性)、次にインクルージョン(包摂性)が大事だという話をよく図解化しています。

大きく3段階のプロセスがあります。
普段使っている図で説明しますね。


まず図の一番左、社会全体の中に「ふつう」とされるマジョリティー側があり、そこから何かしらの「ちがい」を持った障がい者やLGBTに「別のものとしての名前」が付けられ、社会から分断された存在(Separation)になります。


次の段階は真ん中、大きな集団の中に分断されていた人たちが入ってきて受け入れる。
図の中では「Integration」としていますが、ここがダイバーシティと言われるものだと思います。

障がい者雇用は最近法定雇用率の2%などでこの段階にある会社が増えてきたと感じます。

でも、この段階ではまだ「中に入った」だけです。
10人のチームで、女性が自分だけだったら、その女性は男性社会に馴染むために自分を合わせなければいけない、その人の強みが無くなってしまう。
この状態はダイバーシティだけどインクルージョンではないと思います

最後の段階が右、「インクルージョン(Inclution)」です。
LGBTや障がいを持つ方が分断されず、中に入っただけの段階でもなく、それぞれの持ち場で個人として強みを発揮して活躍している。
「ちがい」があるからこそそれを活かせる。この状態を「インクルージョンな環境」と言っています。

――存在を認めて受け入れているだけじゃ、図における真ん中の段階じゃないかと。

はい、活かせてない。
人材採用って、「いい人採用出来た」で終わりませんよね。
入社後に活躍してほしい、一人一人が活躍できなければ意味がないのでその点僕らの人材ビジネスに繋がると思います。

2020年に東京オリンピックがありますけど、オリンピックはオリンピック憲章と調達コードの中で「性的指向や性自認に関わる差別の禁止」を取引を行う企業に求めています。そういう影響からか企業側は対外的に差別の禁止に向けた取り組みも活発だなと感じます。

でもオリンピックの一過性ブームじゃ意味が無い。そうならないためにJobRainbowとして価値あるサービスを提供し、しっかりとした対価を頂き、1人でも多くの不安を抱えたLGBTと企業の出会いを促進していきたいと思います。

自社にマッチする人を採用して、社内で活躍するLGBTの方がいたら、もうその会社はLGBTへの取り組みをやめることはないと思います。

そういう企業をどんどん増やせるよう、しっかりとサービスを展開していこうと考えています。