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メガネはもっと進化できる。アイウエアブランド「JINS」がイノベーションを起こせた理由――株式会社ジンズ 井上一鷹

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集中力を可視化するメガネ型ウエアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」。これによってメガネを見るためのアイテムから自分を知るためのアイテムへと進化させ、新しい市場を牽引しているのが株式会社ジンズです。最近では「JINS MEME」で集めたデータをもとに、「世界一集中できる場」を目指すワークスペースの運営も手がけています。

メガネの小売業であるジンズはなぜ次々と新しいイノベーションを起こすことができたのでしょうか。「JINS MEME」の開発に携わる井上一鷹さんにお話を伺いました。


新しい市場をつくるために、メガネに付加価値をつける


イノベーションの壁にぶつかる企業は少なくないですが、ジンズにとっては、イノベーションはごく日常のことで、それはメガネという商品を扱っているからこそ、なのかもしれません。

「そもそもメガネって730年もの間、ほとんど変わっていないんです。これだけ長い間イノベーションが起こっていないものは傘とメガネくらい。長い間変化してこなかったメガネに新たな付加価値をつけて、人々の生活を豊かにしていけるかが我々の役目なんです。いかにイノベーションを起こしていくかという考えは、常に商品開発の根幹にあります」と話すのは、「JINS MEME」の開発担当の井上一鷹さん。

メガネは1度に1つしか身につけられないため、これまでの視力矯正用メガネだけではどうしても市場規模は限られています。しかも、競合企業が多くいる中でシェアを100%にすることはほぼ不可能。そのため、ジンズが成長していくためには、メガネをかける新しいシーンを創出し、これまでにない市場を切り拓いていくことが必要不可欠だったのです。

そこでジンズが着目したのが、“機能性アイウエア”という新ジャンルでした。2011年から発売されているブルーライトを軽減するメガネ「JINS SCREEN(旧 JINS PC)」は、“パソコン作業のときに眼を守るメガネ“として定着。このほかにもジンズでは、メガネの新しい可能性を求めてさまざまな専門家のもとに相談にいったそうです。その中で開発がスタートしたものの1つが、目に見えない集中力を図るメガネ「JINS MEME」だったといいます。

「東北大学 加齢医学研究所の川島隆太教授のもとに『頭がよくなるメガネをつくれませんか?』と相談に行ったのですが、そのときに言われたメガネの一番の強みは『メガネはパンツの次に着けている時間が長いアイテム』ということでした。パンツは毎日変えるけれど、メガネは毎日一緒。つまり、その人に一番寄り添ったアイテムであり、しかも大事な情報がたくさん眠っている頭に装着するアイテムです。それこそがメガネというデバイスの価値であるという話を聞きました。そこから、日常のさまざまなデータを測定できるメガネをつくろうと、川島教授の協力を得ながらJINS MEMEの開発がはじまりました」

「目は口ほどに物を言う」という言葉があるように、脳の出先器官である眼の動きからは、脳の活動量、心の状態などさまざまな情報を読み取ることができます。こうした情報を捉えるために、メガネに加速度センサーと角速度センサー、視線移動やまばたきの計測が可能な3点式眼電位センサーを搭載。これによって世界ではじめて、どんな姿勢で、どのように視線を動かしていて、どのくらいまばたきをしているかを計測できるメガネが誕生しました。


「なんとなく」を可視化して、予防や改善につなげる


川島教授が認知症の研究をしていることもあり、当初は認知症を早期に発見するためのメガネをつくろうとしていたそうですが、開発を進めるうちにオフィスワークやフィットネス、車の運転などさまざまな領域で脳の活動量を計測する技術が活用できることが明らかになりました。最終的に「JINS MEME」として商品化する際には、体や心、脳の状態を計測して、パフォーマンスを上げるためのメガネとして打ち出すことに。現在ではメガネ本体と合わせて、集中力を計測するアプリ、ランニング中の体の動きを測定するアプリ、ドライバーの眠気を測定するアプリも展開しています。

「よく『残業や会議を減らして生産性を上げよう』と言われますが、実際に生産性がどれだけ上がっているかというデータを取っているケースは多くありません。『残業や会議を減らせば生産性が上がりそう』と、なんとなく思われていただけなんです。それが『JINS MEME』をかけることで、いつ、どのくらいの時間集中していたかの測定ができます。生産性が低い状態のときに何をしていたかが可視化されれば、生産性を上げるために具体的に改善すべきことがわかりますよね。

また、認知症や、近年患者数が増加しているロコモティブシンドロームに対しても、脳や体がどのような状態のときに発症しやすいかといったデータを取ることができます。『JINS MEME』で生活習慣病に対する予防医療の後押しをしていけたらいいなと考えています」

脳や体の状態を計測できるとはいえ、『JINS MEME』はあくまでメガネ。動作の邪魔をすることなく、日常的にかけやすいデザインと、使いやすさを実現することが求められます。しかし、ジンズにはメーカー機能がないため、ハードやソフトの開発は外部のパートナーに依頼しなければなりません。

「デザイン、ハードウェアやソフトウェア、アプリの開発など、『JINS MEME』を開発するために必要な機能を内製できないため、その都度、どうしたらいいかを模索しながら開発を進めてきました。なかでもいちばん困ったのは、営業の部分。たとえば、居眠り運転防止のためと、運送会社にメガネ屋が突然訪れて『眠気を計測するメガネを使ってください』と売り込んだところで、まったく相手にはされないのは明らかです。実際に『JINS MEME』を使ってくれる可能性がある企業と、どのようにつながりをつくっていくかはとても苦労しました」

実際に『JINS MEME』を使った新しいビジネスを展開していくためには、オフィス、フィットネス、ドライブの各分野で一定数のシェアを獲得している企業と組むことが必要だと考えた井上さん。「『JINE MEME』を使ってこんなことをしたらおもしろいのでは?」とひらめいたことをさまざまな企業に提案に行き、「一緒にやってみたい」「『JINE MEME』と組んだら自社にもメリットがありそうだと」と興味を持ってもらった企業と、ともに新たなビジネスを作っています。


「集中」を科学して、新しいビジネスを展開


「『JINS MEME』はただ使ってもらうだけではなく、計測したデータをもとに生活習慣や働き方を変えてもらわなければ意味がありません」と井上さん。

『JINS MEME』によってこれまで具体的に語られることがなかった「集中力」の正体が明らかになったことで、そのデータを活用した新しいビジネスが生まれるケースもあります。その1つが、2017年12月にオープンした「世界一集中できる場」を目指す会員制ワークスペース「Think Lab(シンク・ラボ)」です。


同スペースの特徴は、『JINS MEME』で得たデータの分析結果に基づいて、集中するために必要な環境、仕掛けが随所に盛り込まれていること。たとえば、寺社仏閣の構造を参考に空間づくりをしたり、集中力を高めるために緑視率を上げたり、ハイレゾの自然音が流れていたり、集中しやすい姿勢をサポートする椅子が導入されていたりと、さまざまな集中できる環境が整っています。最近では、自社のオフィス内に「Think Lab」をつくってほしいという要望も増え、すでに数社で展開されているほか、集中を研究するラボも開設。他社とは差別化した商品を開発するためにメガネの付加価値を追求してきた結果、オフィス事業という新しい事業にもつながったのです。

商品としての『JINS MEME』は「まだまだ改善が必要」と話す井上さん。よりかけやすく、より意識をすることなく使えるようにしていくことがジンズの役割だといいます。

「すごく長期的には、すべてのメガネに当たり前のように『JINS MEME』の機能が搭載されていて、日常の中でとくに意識することなく脳や体の状態を計測できるようになることが目標です。小売業だからこそ見えてくるお客様視点を大切にしながら、今後もさまざまな展開をしていきたいと考えています」

イノベーションを起こすためには、「今あるものをもっと良くしよう」「こんなものがあったらもっと便利になるのでは」と考え続けることが大事。「JINS MEME」がこれからメガネという概念をどう変えていくのか楽しみです。

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