2016.01.20 WED 「インフラ監視システム」市場とは?
text by : | 編集部 |
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photo : | shutterstock |
astavisionが企業・特許情報のビッグデータ分析により、今後成長が見込まれる市場を分類した「2025年の成長市場」。近日公開予定の「インフラ監視システム」市場コンテンツについて、その一部をプレビューする。
2012年12月、山梨県大月市笹子町の中央自動車道上り線笹子トンネルで、天井のコンクリート板が138メートルにわたってV字型に折り重なるように崩落し、走行中の車両複数が巻き込まれて火災を誘発、多くの死傷者が出るという痛ましい事故が発生した。トンネルを管理する中日本高速道路(NEXCO中日本)の発表では、事故原因は天井板の老朽化、特にコンクリートとボルト結合部の接着剤の経年劣化が主原因とされた。
笹子トンネルは1年に一度の定期点検、5年に一度の詳細点検を実施しており、事故の直前の2012年9月には詳細点検を実施していたが、異常は検出されていなかった。しかし、事故後の検査では、天井と鋼板をつなぐ吊り金具のアンカーボルトの脱落や、吊り金具と鋼板をつなぐボルトの脱落など多くの不具合が発見された。NEXCO中日本の点検マニュアルでは、詳細点検においては、個々の構造物の状況を細部にわたって近接目視・打音等により行うと定義されているにもかかわらず、目視のみの点検で済ませていたことがわかり、その杜撰さが指摘された。
こうした事故の教訓により、トンネルや道路などの社会インフラの経年劣化はもちろん、事故や災害に起因する異常や不具合などの日常的な監視の重要性が強く認識されている。トンネルや道路の他にも、鉄道、橋梁、港湾、堤防、ダム、発電所、コンビナートなどの大規模構造物に加え、上下水道、電気、ガスなどのライフライン、学校や体育館、公民館などの公共施設、高層ビルや集合住宅、そして、光ファイバなどの情報通信網など、監視対象は膨大である。人による定期的な目視や打音による異常診断では、細心の注意をするにしても見落としがなくなる保証はなく、また、設備の隅々までを完ぺきに検査することは事実上困難だ。
そこで、人により診断を補い、かつ、日時を問わず、常時監視をするスマートモニタリングが注目されている。監視対象には、カメラや超音波センサ、レーザセンサ、加速度センサなど、様々なセンサと通信網を張り巡らせ、インテリジェント化を施し、各センサからの情報を、IoT/M2M により一元管理する。膨大な量の情報の分析には、ベイジアンネットワークやニューラルネットワーク、ディープラーニングなどの機械学習を組み入れると効果的である。
いずれかのセンサが異常値を示せば、そのセンサの示す値の経時変化から異常発生の時刻を特定し、その地点の他のセンサからも普段と異なる挙動は見られないかを確認、さらに近隣のセンサに異常値が見られないかの確認を行った上で、個々の情報間の相関関係や因果関係を分析し、異常の原因を推定、即刻対策を講じる。異常の状況によっては直ちに計測ロボット(ドローンを含む)や人を現地に派遣し、詳細な検査を行う。異常のパターンや発生頻度と原因、因果関係、対応策の紐づけを積み重ねること(ナレッジベース化)で、事故防止や異常の拡大の抑止に大きな効果を持つだろう。
2013年、旭硝子・オムロン・東京大学は、トンネル天井、橋、線路などに取り付け、長期間にわたり電源なしで揺れを検知して監視できるセンサーを開発した。センサーは3センチメートルの立方体で、揺れを監視し、異常を検知する。組み込んだエレクトレット振動発電機は、電荷を帯びた2センチメートル四方の「エレクトレット」が揺れると、つないだ電線に交流電気を発生させ発電する仕組み。
NECは、アナログ回線やPHS、FOMA、CATV、ADSLなど各種ネットワークに対応し、センサや計測機器などからの信号を監視・記録し、通知したり、遠隔操作で制御したりできる遠隔監視システム(コルソスCSDX)を販売している。
日立製作所は、M2M技術によりインフラの状態を監視する「状態監視サービス」と、そこから得られたデータを分析し、劣化の度合いや異常の兆候を予測する「予兆診断サービス」の2種類から成るSaaS型の「施設モニタリングサービス」を2013年から発売している。インフラに設置したセンサーからの情報をRFIDリーダーなどで受信し、クラウドに送信する。車両で巡回点検する際、自動的にスマートフォンやタブレット端末に状態データを収集することもできる。これにより、道路の法面(のりめん)の土砂崩れの監視や、トンネル内の換気用ファンの異常兆候の検出などが可能となる。
2014年には、セイコーエプソンの水晶加工技術を生かした高精度のセンサ(振動計、傾斜計)を用いた施設モニタリングの実証試験が、総務省の「ICT街づくり推進事業」の一環として、長野県塩尻市で始まった。10W太陽光パネルと無線データ通信インターフェイス内蔵の太陽電池で常時駆動するセンシングシステムだ。
一方、東京大学と横河電機が進める光ファイバを用いた「ブリルアン光相関領域反射計測法による振動・ひずみ・温度分布センサの開発」が、科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)のシーズ育成タイプに採択された。本センサをインフラ面に貼りつけると、ひずみや振動の分布計測により、約500メートルの範囲まで、構造物のたわみやひび割れなどを一本の光ファイバで同時に把握できるという。
2015年7月、三菱電機は、走行車両から3次元計測により社会インフラの状況変化(差分検出)をする三菱インフラモニタリングシステム(MMSD)を発表した。高精細カメラや高精度レーザ、3Dレーザスキャナ、GPSアンテナ、IMU(慣性計測システム)などを搭載した車両によるトンネル覆工面の変状(ひび割れ、うき、はく離、はく落、変形、漏水など)解析や、路面の変状(ひび割れ、わだち掘れ等)の解析を提案する。同社は水中レーザスキャナによる3次元解析や、クローラロボットも開発している。
また、フジクラは、色素増感太陽電池を利用した電池レスの920MHz帯無線環境センサネットワークシステムを開発中。電力自給式の無線センシングネットワークが広がりを見せつつある。
近日公開予定の「インフラ監視システム」市場コンテンツでは、この市場のグローバル市場規模、用途展開、活躍できる職種などを紹介する。
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