2017.09.26 TUE 大企業のオープンイノベーションの問題点は「誰のためか」を考えると浮かび上がってくる―株式会社NTTデータ BeSTA Fintech Lab 松原 久善さん
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,NTTデータ |
オープンイノベーションの促進および新産業創出のエコシステム構築に取り組む企業に着目し、その事業と目指す世界観をご紹介する「未来を創るオープンイノベーター」特集。
前回の『ビザスク』に続き、3回目の今回は、NTTデータが地方銀行とベンチャー企業をつなぎ、今までにない新しい金融関連サービスを創出することを目的に、2016年10月に設立した『BeSTA Fintech Lab』の株式会社NTTデータ 第二金融事業本部 第二バンキング事業部 部長の松原 久善さんにお話を伺いました。
■地域課題の解決を目的に設立
―『BeSTA FinTech Lab』の成り立ちを教えてください。
NTTデータでは、地方銀行向けに標準バンキングアプリケーションパッケージ「BeSTA」を提供しており、私自身もユーザーの地銀さんとお付き合いがあったのですが、世の中でこれからはFintechだ、といったような動きが出てきている中で、自分たちはどうやって取り組むべきなのか、悩まれている方たちが多かったんですね。ではうちも何か一緒にやれることがないかと考えたときに、最初は単純に、ベンチャー企業を紹介できないだろうかということを思っていました。
一方で、NTTデータではオープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」という取り組みを2013年から続けていまして、Fintechやエネルギーなど、様々な分野でベンチャー企業と共にオープンイノベーションの事業化を実現してきました。
この「豊洲の港から」との連携で、地銀さんがベンチャー企業と共にオープンイノベーションに取り組める常設のラボを作りたい、という思いが実現したのがこの『BeSTA Fintech Lab』です。
―地銀というと、地場産業の支援が使命であるというイメージがありますが、『BeSTA Fintech Lab』は地域性に関係なくマッチングを行っているのでしょうか?
本業のほうでは当然、地銀さんは地域の法人向け融資など、地域でお金を回すということをされているわけですが、このラボでは、それぞれの地域が抱える課題をいかにして解決していくか、ということに主眼を置いています。
―地域の課題ありきの取り組みなんですね。ではその課題はどのような形で集まってくるのでしょうか?
それがそう簡単にはいかなくて、地銀さんから課題というものはなかなか出てこないんですよ。いまは逆の発想で、我々が地域の課題を拾ってきて、こういうサービスや事業を提供していきましょうといったことを地銀さんに提案しています。
具体的には、我々と同様に地域課題の解決や、オープンイノベーションの取り組みをされているような企業/団体とのパートナーシップで課題を集めるといったことを行っています。
社内からも、お取引先企業がこういうことをやりたがっている、といった話を持ってきてもらって、それを地銀さんにどういった形でぶつけていくかということを相談していますね。
いま動いている案件でいうと、最近よく体験型のツアーというものがありますが、銀行がコーディネーターになって、取引先企業の体験ツアーを組み上げるということをやりませんか?という提案をしています。銀行からしてみれば、取引先の支援になったり、取引先企業の商品を体験したお客様の声がフィードバックされますので、それをその企業向けの融資であるとか、事業再生といったことに活用できるのではないか、というプランですね。
■「Fintech」にはこだわらない
―地銀はもともと、中小企業/ベンチャー企業と大手企業との仲介役のような機能を持っていると思いますが、このラボでの取り組みをきっかけとして、地銀自体が地元の企業とベンチャー企業をマッチングする、といったような広がりもあるのでしょうか?
そういう広がりは期待しています。地銀さんの中にも、最近では地域振興部とか地域活性化室といった目的の明確な部署が相当数立ち上がっていて、地域課題解決に向けた様々な取り組みをされています。このラボで生まれた事業がNTTデータの商品になるだけではなく、地銀さん自身の商品になったり、あるいはその地域の企業さんに活用されたりといった可能性は十分にあると思います。
―実際に事業化案件が増えていけば、例えばこの企業群でこういう商流が発生しているとか、ここにこういう資金ニーズがあるといった情報が蓄積していくのではないかと思いますが、それがBeSTAに格納されていくようなイメージでしょうか?
このラボの活動と離れて、地銀向けシステムを提供しているNTTデータの人間として言えば、そういったシステム構想は次の段階として求められていくと思います。ただそれは別にラボ活動としてやっているわけではないですね。
もちろんここはNTTデータのラボではあるのですが、私はNTTデータと地銀さんのラボだと思っていて、地銀さんにはむしろここは自分たちのラボなのだ、と思っていただきたいなと期待しています。
―なるほど、BeSTAありきではなくて、あくまで地銀のためのラボなんですね。では、Fintechという部分でいうと、どのような技術分野に注目されていますか?
たしかにFintechという名前はついていますが、いわゆるFintech企業の技術をそのままストレートにご紹介する、ということに限定しているわけではないんですね。あくまで地域課題の解決のためにはこの企業のこの技術が使えるのではないか、という観点で支援やマッチングを行っています。
ただ、数々のオープンイノベーション支援プログラムやアクセラレータプログラムがひしめく中で、他と差別化し、NTTデータや地銀ネットワークの強みを活かしていくうえで、「Fintech」というラベルは有効なのではないかと思います。
■「誰のための」オープンイノベーションか
―オープンイノベーションの機運の高まりと比例するように、大企業発のオープンイノベーションの有用性を疑問視するような声も上がり始めています。大企業によるオープンイノベーションだからこそのメリットやデメリットはありますか?
やはり大企業が持っているネットワークというものは幅広いので、人のコネクションを短期間で築くことができるというのはNTTデータという会社にいるから出来ることだと思いますね。
一方で、大企業のオープンイノベーションの問題点というのは、「誰のためにやっているのか」という部分を考えたときに浮かび上がってくると思います。自分たちのために事業創出しようとしているのか、そうではないのか、という部分ですね。このラボの場合は「地銀さんのため」ということになります。
たとえばNTTデータが新規ビジネスを生み出しましょうということになると、二桁億円のビジネスの話になってきます。これは大企業なら当然のことなんですね。でも実際は二桁億円のビジネスを生み出すのは容易ではないですし、それを地銀さんに「あなたたちがやってね」というのも難しい。大企業が自分たちのためにオープンイノベーションをやろうという話だと、どうしても規模の部分が障壁になってくることが多いと思います。
我々のラボの場合はそういったパターンではなく、逆にもっと地銀さんであるとか、地銀さんの先にある地域や取引先企業に対して、価値をどう生み出すかというところに目線が向いています。こういうと綺麗ごとでかっこいいのですが、先がわからない中で生み出していかねばならないという難しさはあります。
―では最後に今後の展望をお聞かせください。
地銀さんのためのラボとはいっても、やはりビジネスにならなくては意味が無いので、実績を積み上げていきたいですね。具体的には、今年中に事業化する案件を出したいと思っています。
また、これは私の個人的な思いになりますが、NTTデータの中には金融以外の領域のビジネスがたくさんありますので、いつか「Fintech」の括りが取れて、NTTデータ全体のラボみたいなものになったら面白いのではないかと思っています。
[Profile]
松原 久善
株式会社NTTデータ 第二金融事業本部 第二バンキング事業部
戦略企画担当 BeSTA Fintech Lab 部長
慶応義塾大学商学部を卒業後、富士銀行を経て2007年にNTTデータ入社。
リージョナルバンキングシステム事業本部 部長、第二バンキング事業部 部長を経て2016年にBeSTA Fintech Labを立ち上げた。
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