Interview

投資の世界に「エンターテイメント」を生み出す ー FOLIO CEO 甲斐真一郎

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社FOLIO

創業から僅か1年半弱で、日本では約10年ぶりのインターネット証券業(※)への参入、そしてサービス開始前としては大規模な総額21億円の資金調達。株式会社FOLIO(フォリオ)が提供する「テーマでえらぶ、あたらしい投資」は、投資・資産運用をエンターテイメント化する可能性を持つ。
高い技術力と、現状の投資における課題を掛け合わせたサービスの未来について、CEOの甲斐さんに伺いました。

※国内株を取り扱う独立系オンライン証券として


■日本には個人投資家が増えないといけないのに、プラットフォームが無い。


―FOLIOの「企業ではなくテーマへの投資」という事業モデルに至った背景を教えてください。

前職のバークレイズ証券では金利オプショントレーディングの業務に従事していたのですが、当時ヘッジファンドも顧客としていたので、海外の動向にも常にアンテナを張っていました。

その頃海外では「fintech(フィンテック)」が盛り上がり始め、まだ日本では一部の方しか知らなかった概念でした、ただ詳しく調べるほど「これこそいまの日本に必要な概念、仕組みではないか」と思ったのが始まりです。

僕は、日本には個人投資家が増えないといけないと思っています。
高齢化が進み年金問題は深刻化し、また低金利が長期化しています。個人が資産運用を覚えていかなければ国全体が弱くなってしまう。

それなのに「みんなが使えるプラットフォーム」があるようには思えません。

 

―確かにオンライン証券は増えましたが「みんなが使うプラットフォーム」という状況では無い気がします。

そうなんですよ。
やはり「みんな」に使ってもらうためには、長期投資・分散投資といった理論的な正しさや、デイトレーダー向けの高速売買システムだけでは足りないのではないかと考えています。

もっと、「ワクワク」できる感覚を与えられる証券プラットフォームでなければならない。
そう思います。
投資をしたことがない人が、投資をするというのは大きな態度変容です。それを後押しするためには理論的な正しさに加えて、気持ちに語り掛ける「ワクワク感」がとても大切だと考えています。

 

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ウェブサイトはシンプルな構成ながらも特徴や使い方、手数料など必要な情報を一通り揃えており、現在はβ版として先行登録を受け付けている。

 


■ニッチでも熱量高く支持する人がいる、彼らを動かす「テーマ別投資」


―そこで「テーマ別の投資」がどのように機能するのでしょうか?

大事なのは、投資ってお金のリスク・リターンだけではないということ。
「自分の愛着のあるもの、応援したいものに投資したい」
ここから始まる投資があってもいいじゃないですか。

京都出身だから、阪神ファンだから、とあるアニメ作品や声優さんが大好き、という人の中にはグッズやサービスに沢山お金を使う人もいいますし、投資に興味が無いわけでもない。

でも個別銘柄に興味は無い、アニメ関連銘柄がわからないので投資をしない。
FOLIOの「投資テーマ」はドローンやIoTのように市場・産業的なものを提供しつつ、ニッチだけど一部の人たちが熱量高く「好き」と言うものにも対応させています。

弊社の実施した調査では「投資はしたことないが興味ある」という人は国内に2~3,000万人おり、この人たちのわくわく感、好奇心、愛着、応援したいという感覚的なモチベーションを動かすために僕らは「テーマ別」という形をとっています。

 

―好きなもののためなら「長期投資がなぜ良いか」のノウハウも喜んで覚える、という事ですね。

そうです、最初に興味を持つことが出来て初めて長期投資の大事さが心底理解できる。
ですからこの「テーマへの投資」というのはエンターテイメントなんです。

当然金融商品ですから、使ってもらう上で安心感も大事です。
僕らは今年金融庁の厳しい基準をクリアして第一種金融商品取引業の資格を取得しました
こうした点もサービス内でしっかり訴求しようと思っています。

 

―β版の受付が始まっていますが、登録した方の反応で印象的だったことはありますか?

1つ、凄く面白いものがあります。
サービスを発表した後、ツイッターで「FOLIO、俺の好きな〇〇〇もテーマとして作ってくれないかな」って呟く人がいました。

ちょっとした事に見えて、実は金融サービスとして凄いことです。
双方向のコミュニケーションから新たな何かが生まれることを期待しています。

 

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取材時に見せて頂いたログイン後の画面。先進的市場と「コスプレ」「ガールズトレンド」など多様な切り口が用意されている点、ショッピングサイトのようなわかりやすさなどから、「個人で投資する人を増やしたい」という考えがサービスとして体現されている印象を受けた。

 


■「日本の課題を根底から解決するために証券会社をつくろう」


―FOLIOは創業から短期間で総額21億円という大型調達を行い、初期から優秀なエンジニアを仲間に出来ていると感じます。どのように準備されたのでしょうか?

冒頭お話した通り、2015年前半に起業を意識し、そこからリサーチや優秀なエンジニア集めに動いていたのですが、同時期に資金調達のための動きも開始しました。

現在の「テーマで投資」の事業モデルにたどり着いて創業するのが2015年12月ですが、それまではエンジニア6名と色々な議論とプロトタイプ作成を重ね、「現在の金融の課題を解決できる」ものを定義していきました。

 

―チームが大事なのは理解できました、ですがどのように口説いたのかが気になります。

初期に声をかけたのは広野というデザイナー(現CDO)で、彼は非常に優秀ですから大抵のITサービスは自分で作れてしまいます。しかしこの時僕が伝えたのは「証券会社を作って金融を変えよう」です。

これに衝撃を受けたようです、あまりに規模が大きく実現できるのかどうかもわからない。
大抵のITサービスなら作れると考える男が「自分で作れるのかわからないもの」に誘われた。
そこでスイッチが入ったようです。

そこからは、「優秀なエンジニアのまわりには優秀なエンジニアがいる」と考え、ひたすら口説きに行きました。大学で優秀だと評判の人、IPA未踏クリエイター、彼らがいる場所にまずは飛び込んで事業説明をする、大半の人が興味を持てなくてもその中から1人、2人でも反応して会社に入社したら強力な戦力になりますから。

 

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取材を通じて感じたのは、規格外のことに取り組むリスクテイク思考とそれに打ち込むため同時並行するリスクヘッジ思考。甲斐さん自身の「トレーダー経験」がFOLIOの事業展開に活かされている点。

 

 


■規制産業に参入する仕組みを「一度作った」という、社内の大きな自信


―お話を聞くと、金融知識の有無はFOLIOのメンバーとしてあまり重視していなそうですね。

その通りですね、採用する際に気にしたことが無いです。
知識が本当に必要なら、本気で取り組めば数か月で会得できます。

それと、僕らが提供するサービスは金融知識の無い投資未経験の方に向いています。
サービスをユーザー目線で見るために、むしろ金融に詳しくない事が利点になることすらあります。

 

―FOLIOが投資の概念を変え、すそ野が広がっていくために日本の金融業界が変わらなければいけない点はどこだと思いますか?

例えば、顧客の本人確認プロセスです。
数多くの議論が残されており、軽々には判断できませんが、手続きがオンラインで完結しない、書類を本人限定受け取り郵便でなければいけないなど、お客さんにとって非常に手間が多いプロセスとなっています。もちろん理由があるのですが。
顧客を守りながら新しい金融の仕組みを育てる、というスタンスへの変化が必要になってくると考えています。

 

―甲斐さんは前職が金融ですが、金融業界の知人などはFOLIOにどのような反応をしていますか?

「頑張っているな!」「応援するよ!」というポジティブなものが多いですね
既に社内にも、ビジネスアイデアに賛同してくれた僕の前職の同僚や金融業界から転身した人が増えてきています。

 

―今後のFOLIOがサービスとして展開するビジョンについて教えてください。

証券会社としてスタートし、銀行、クレジットカード、ローン、レンディング、仮想通貨や暗号通貨含め「金融全体」にすそ野を広げ、金融エコシステムを創ることを目指しています。

うちのメンバーは、創業から短期間で証券会社として必要なバックエンドシステムを構築し、金融庁の厳しい基準をクリアし、証券業登録を完了しました。この金融機関の仕組みとして必要なものを「一度作った」という自信が社内にあります。

たぶん僕がいま「今度は銀行を創ろう」といっても、誰も驚かないと思います。
未知のもの、規制などへのアレルギーはありません。

技術力で日本の金融を変える。
FOLIOの全員がその矜持を胸に、今後とも精進して参ります。

 


プロフィール
株式会社FOLIO
甲斐真一郎 CEO
京都大学法学部卒。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。
金利トレーディング部において日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。
2010年、バークレイズ証券同部署に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年11月にバークレイズ証券を退職し、12月より現職。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)