Interview

企業向けの睡眠改善プログラムを通じて「誰でも睡眠のプロになれる世界」を実現 ―ニューロスペース 小林孝徳

text by : 編集部
photo   : 編集部,株式会社ニューロスペース

自分自身の睡眠障害経験をきっかけに、睡眠をテーマに起業した株式会社ニューロスペースの小林さん。眠りは技術(スキル)」であり、上達するもの。という考えに基づいた睡眠改善プログラムを多くの企業へ提供すると共に、AIやIoT技術を活⽤した「睡眠解析プラットフォームβ版」の基盤作りにも取り組んでいる。
質のいい睡眠を得るための技術とは?世界中の人が自分に合った睡眠をとる世界について、小林さんに伺いました。

⼩林孝徳 株式会社ニューロスペース、代表取締役社長
受験生から社会人時代まで自身の睡眠障害の経験をきっかけに、この社会問題を解決すべく、2013年12月株式会社ニューロスペースを設立。
睡眠の悩みを根本的に解決すべく、大学や医療機関と連携し 『法人向け睡眠改善プログラム』を開発。大企業を中心に30社の導入まで一人で営業をこなし、企業で働く多くの従業員の睡眠改善を実現。更に、学校現場でも『睡眠教育』の普及に取り組み、生きる上で大切な知恵である睡眠を教育で学べるよう多くの機関と連携をし進めている。

■正しい知識と習慣化で、睡眠の技術を習得できる


-企業に提供する睡眠改善プログラムとはどういうものですか?

まず「睡眠のメカニズム」がどういうものか、基礎知識を提供しています。
寝る前の行動や、周囲の環境、体の体温分布など、睡眠の質を向上させるためにやったほうがいいこと、逆に避けた方がいいことなどです。

睡眠改善プログラムとして提供する際は、当然企業によって働く方の生活リズムや睡眠時間はバラバラですので、企業毎に最適化したソリューションを提供し、実際に社員の方々に実践してもらっています。

-薬を処方したり、寝具に関するものではない。

はい、まずはモノや薬に頼らないことを重視しています。
自分自身で習得し、日ごろからいい睡眠をとるためのセルフケアをどう実践するか?

世の中で睡眠改善に関する市場は “睡眠薬”や“寝具”が中心ですが、
睡眠薬には依存性や副作用もあり、それを理解している医師であれば「なるべく処方したくない」が本音ですし、寝具では質のいい睡眠が得られると謳った高級なものがたくさんあり、効果があるかどうか微妙なものもたくさんあります。

ニューロスペースとしては「基礎ができていなければ、高級な布団で寝ても睡眠は改善されない」と考えています。
手足の冷え切った状態、電気をつけたまま、夜遅い時間に食事を摂ってしまう、ストレス解消のため大量のお酒を飲む、この状態で寝具だけ良くしても意味がありません。

-健康やスポーツにおいて「基礎体力や体幹が大事」と言われるのに似ていますか?基礎が無いと速く走れないしプレーも安定しないといった。

まさにその通りです。
睡眠の“技術”と呼んでいる理由は、「トレーニングすれば大抵の人ができること」だということ。

自転車に乗るとか、英語を話せるようになるとか、バットでボールを打つとか。
どれも生まれつき持った能力でなく、正しい知識と反復練習で上達させられますよね、しかも習得後は万全の体調でなくても自分なりの工夫ができる。睡眠も同様だとお伝えしています。

例えば、今後実証実験を行う吉野家さんの場合、24時間営業で不規則な勤務体系が前提となります。時には短時間しか眠れない日もありますが、その短時間の中で睡眠の質をどう高めるか?を習得するようなものです。

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睡眠解析プラットフォームにおける実証実験第一弾の吉野家をはじめ、
Sansan、ANA、パナソニック、JTなど多くの企業へ睡眠改善プログラムの提供を行っている。

 


■質のいい睡眠とは?「共通する要素」と「勘違いされていること」


ー最終的には自分の睡眠の特性を理解して、それに合わせた睡眠改善を自分で出来るようにするということですか。

そうです。自分の特性を理解すればまず「自分の最適な睡眠時間」がわかるかもしれない。
自分に最適な睡眠時間が6時間半だとわかれば、8時間寝る必要が無いこともわかる。

“共通化する部分”と“個体差”の話です。
人間だれしも共通しているのは、先ほどお話したような
・寝る前の深部体温(体の内側の温度)を一定のレベルまで下げること
・手足が冷えた状態ではないこと
・寝る前の食事や過度な飲酒
・強い光を浴びてしまう
などですが、他の要素では個人差も出てきます。

ー睡眠における個人差とは?

まず、よく勘違いされている「レム睡眠・ノンレム睡眠」の話です。
一般的にノンレム睡眠は深い、レム睡眠は浅い睡眠。よって「ノンレム睡眠が長いといい睡眠が取れた」や「3:7の割合で寝ているといい状態」という知識が世の中に出回っていますが、違います。

正しくは個人差のある領域なので、ノンレム睡眠の長さや比率だけでは判断できません。

他にも、先ほどのシフト制勤務や深夜まで働く業界の方、海外とのやりとりで早朝や深夜に仕事をする方がいますよね。
でも長年勤めれば全員慣れるわけでは無く、個人差がありますから適性の無い方は心身ともにダメージを受けてしまう。

一度に長い睡眠が取れなかいとか、日によって就寝・起床時間が違うと聞くと「健康に良くない、質のいい睡眠が取れていない」と思われがちですが、実際は個人差があって比較的平気な方は長年その仕事を続けられます。

ニューロスペースは個々の最適な睡眠を尊重しようという考えが根底にあるので、
まずは計測のためのデバイス開発に取り組んだり、自社ウェブサイトに社員の適切な睡眠時間を公表しています。

-睡眠改善プログラムの提供を通じて、他に多くの人が「睡眠について知らないこと」は何か感じますか?

生活習慣が睡眠の質に影響する点ですね。
「ちゃんと寝たのに疲れが取れない」という意見をよく聞きます。
睡眠時間が長ければいいはずという考えなのでしょうが、普段の生活習慣が睡眠の質を下げてしまっているケースです。

それと、年齢を重ねたことによる変化について勘違いする方もいます。
「年を取ったから、最近寝ても疲れが取れなくて」というもの、

確かに加齢による影響はありますが、年齢=睡眠の質ではありません。
睡眠中は疲労回復のためにホルモン分泌が行われ、就寝前に浴びた光の量で分泌量にも影響があります。

年齢を重ねて運動の習慣が無くなり代謝が悪くなる、自律神経への悪影響など、年をとったから睡眠の質が変わるのではなく「睡眠の質を下げやすい生活習慣に、年齢を重ねると陥りやすい」ということです。

ニューロスペース社のメンバーはそれぞれ自分自身の理想的な睡眠時間を把握しサイト上に公開している。

ニューロスペース社のメンバーはそれぞれ自分自身の理想的な睡眠時間を把握しサイト上に公開している。


■睡眠は医療よりも、その手前に出来ることがあるはず。


-この睡眠改善プログラムを将来医療の現場で使えるように許認可を得るといった展開は考えていますか?

考えていません。理由は
「睡眠は医療より前に出来ることがたくさんある」と考えているからです。

現在、睡眠障害と診断される方の多くは症状が酷くなってから病院へ行くケースが多いです。
しかし、その状態になる前に必ず何かしらの兆候が出ているはずです。

それは日々の睡眠データから取得できるはずですし、それを元に通知してあげれば自主的な改善が出来るはず、医療が必要となる「手前」の段階でなければ、睡眠における課題は解決に向かわないと考えています。

-既に多くの企業へ睡眠改善プログラムを提供していますが、今後「こういった業界へ導入していきたい」と意欲的なのはどこでしょうか?

既に例として挙げていますが、「規則正しく朝起きて、夜寝て、毎日7時間睡眠」が難しい業界ですね。24時間のシフト勤務が前提の職場、時差ボケや深夜に帰宅が前提となるような業界。
飲食や24時間営業の業態、航空業界やコンサルティング企業など。

シフト勤務を長く続けた方が、一般の方に比べ前立腺がんなど疾患リスクが何倍にも増すというデータもありますが、現代社会においてこうした働き方をすぐに改善することは難しい。
こういった業界の方に特化した睡眠の計測や、それを元にしたソリューションの提供はこれからの社会でとても意義が大きいことだと思います。

-睡眠解析プラットフォームの実現に向けて、将来的に連携・協力する業界のイメージはありますか?

健康リスクに対して、何かしらのサービスを提供する企業かなと思います。
例えば保険会社が新しい保険サービスを提供する、質のいい睡眠を実現する寝室空間、その環境を左右するエアコンなどの家電メーカー、部屋全体を提供する企業など。

一人一人の睡眠特性が把握できてくれば、結局企業側も「自分たちのサービスが一番マッチする人」を見つけやすくなると思いますので、効くのかどうかよくわからないモノを喧伝して売るということもなくなると考えています。

10月に発表した睡眠解析プラットフォームの吉野家における実証実験。24時間シフト制や早朝・深夜の仕事、時差ボケなど現代社会において避けられない労働環境における効果は大きいと感じる

10月に発表した睡眠解析プラットフォームの吉野家における実証実験。
24時間シフト制や早朝・深夜の仕事、時差ボケなど現代社会において避けられない労働環境における効果は大きいと感じる


■自分の睡眠特性がわかれば、企業側も本人も「生産性の高い仕事」ができる。


-睡眠解析プラットフォーム実現、その先の作りたい世界について教えてください。

大体3年~5年後に「睡眠データを活用した改善するのが当たり前」の世界にしたいと思っています。

睡眠って生きる上で必ず行う行動ですよね。
毎日約6~7時間。平均寿命80年間、基本的に毎日寝ます。
なのに、睡眠ってまともにデータ化されていません、このデータをニューロスペースのプラットフォーム上に乗せれば、世界でも貴重なデータになると思います。

食事や体のことって、細かいデータ計測が出来ますし、それを踏まえてバランスよく栄養を摂るコツとか、食べる順番、サプリメントも豊富ですよね。

睡眠も同じであるべきだと思います。
睡眠データから最適なアドバイスやソリューション提供が出来れば、本当に自分にあった睡眠が取れ、それにより健康的な生活が送れる。

-ニューロスペースの方々が、ウェブサイト上で睡眠データを公表していますが、あれが当たり前の世界。

そうです。
計測すれば「自分に向いているのかどうか」が判断できますよね。

睡眠パターンから「あなたはこういう特性を持っているから24時間シフト制の仕事は合わないよ」と判断出来れば、雇用する側も無理強いして働かせないですし、会社における配置転換など働き方の最適化に繋がると思います。

睡眠について取り組むと「本当に生まれつき夜型の人なんだな」という特性の方もいます。
その人が、朝9時に必ず出社する仕事をしていたら本人にとっても地獄だし、会社側もその人にパフォーマンスを発揮してもらうような仕事を与えていないことになります。

日本は睡眠に対する重要性の認知や教育リテラシーが低く、それどころか「寝ないで仕事を頑張れ」という価値観が未だに残っているような国です。
ニューロスペースの睡眠改善プラットフォームを実現させ、早く睡眠改善プログラムを受けて頂いた企業の方々のように「明らかに寝つきが良くなった」「朝、起きやすくなった」という感覚を多くの方に提供したいと考えています。


⼩林孝徳 株式会社ニューロスペース、代表取締役社長
受験生から社会人時代まで自身の睡眠障害の経験をきっかけに、この社会問題を解決すべく、2013年12月株式会社ニューロスペースを設立。
睡眠の悩みを根本的に解決すべく、大学や医療機関と連携し 『法人向け睡眠改善プログラム』を開発。大企業を中心に30社の導入まで一人で営業をこなし、企業で働く多くの従業員の睡眠改善を実現。更に、学校現場でも『睡眠教育』の普及に取り組み、生きる上で大切な知恵である睡眠を教育で学べるよう多くの機関と連携をし進めている。

インタビュー:波多野智也(アスタミューゼ株式会社)

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