2018.03.13 TUE 安心・安全な出産を世界中の母親に提供する、遠隔診療システム ――メロディ・インターナショナル株式会社 尾形優子
text by : | 編集部 |
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photo : | 編集部,メロディ・インターナショナル株式会社 |
離島・へき地、高齢出産が増加する大都市、十分な医師と設備が不足する海外。
世界中の妊婦が安心して出産するための母子健康管理プラットフォームを展開するメロディ・インターナショナル株式会社は、既に奄美大島や小豆島、東京、タイやアフリカで母子と産婦人科医を結ぶ遠隔医療システムを展開しつつある。
安心・安全な出産を、全ての母親に提供する未来について、同社CEO尾形さんにお聞きしました。
■40分間装着し、母親と胎児の状態を遠隔地にデータ送信
――まずはメロディ・インターナショナル社で準備中の母子健康管理プラットフォームについて教えてください。
「Melody i」という母子健康管理プラットフォームで、計測用のデバイスと、そのデータを遠隔地でもリアルタイムで閲覧できるサービスです。
現在は半年後のサービス開始に向けて、いくつかの医療機関で試験的に導入し産婦人科の先生方に試して頂いている段階でして、サービス開始後は、医療機関を通じて妊婦さんに提供していく予定です。
――仕組みとしては、計測用デバイスとモニタリング画面、クラウドシステムのセット
はい、まずモニタリング画面をお見せしますが、計測中の胎児の心拍数、母親のお腹の張りを計測した陣痛計測ができます。
モニター画面は上下に分かれており、一目で母親・胎児それぞれの状態を把握できます。
計測用デバイスを装着した状態で40分、最低でも20分計測してもらいます。
この計測自体は産婦人科では珍しくなく、何十年も前から活用されています。
――40分間装着すると、妊婦さん自身と胎児の状態を遠隔地の医療機関にデータ送信できる、と。
はい、40分というのは胎児が寝たり起きたりする周期をひととおり計測するのに必要な時間です。
酸素不足になっていないか?胎内で何かに絡まっていないか?などを見るために必要な時間です。
――使い方は
計測用デバイスも、使い方さえ教われば妊婦さん自身で装着出来るようにしています。
突起部分をベルト穴に通して固定し、反対側の面をお腹にあててもらう。
従来の計測機器と比べて小型で、無線で接続している点が特徴です。
医療現場でも「見たことがない新しい機器」は導入しづらいので、そこは従来のモノとあえて差をつけていません。
■奄美大島、小豆島、東京。場所によって異なる産婦人科・妊婦の課題
――現在いくつかの医療機関でトライアル中とのことですが、どの地域で実施しているのですか?
現在は奄美大島、香川県の小豆島、そして東京で試しています。
奄美大島と小豆島は「離島や僻地における妊婦のサポート」、
東京は「都会における高齢出産のリスク」を想定しています。
――離島や僻地における、妊婦をサポートする上での課題とは?
入院施設の少なさと、対応コストです。
病床が足りず、本来であれば長期間入院してほしい妊婦さんでも、入退院を繰り返すことがあります。
もし経過観察で一度退院して自宅に戻っても、このMelody iが使えれば、自宅でのモニタリングができるので、かなり評判が良いです。
産婦人科医にとっては「緊急対応件数が減る」点がメリットです。
離島や僻地だと、緊急事態に妊婦さんが自衛隊のヘリで救急搬送されることも珍しくありません。
搬送中にヘリの中で破水を起こすこともあり、産婦人科医はその状態で運ばれてきた妊婦さんへの適切な対応を迫られています。
たとえば、自宅で計測したデータを医師が確認し、気になる兆候があれば「3日以内に一度来院してくださいね」などとあらかじめ連絡することで、産婦人科医も予期せぬ対応が減り、その結果母子のリスクも減らせます。
――交通機関も都会ほど便利じゃないし、医療機関も近くに無いケースが多そうですね
はい、奄美大島の場合島自体も広く人口も約6万8千人で、産婦人科医のいる病院は導入当時は1軒だけでした。妊婦さんも、バスで1~2時間かけて定期健診に来る方も珍しくなく、体に負担をかけたくない妊婦さんにとってこれはとても辛い。
しかも、奄美大島の医療施設で対処できないケースの場合、鹿児島本島に搬送されることもあります。そのような場合も早めに対応できていれば、「一刻一秒を争う状況」になってから搬送するという事態を減らすことができます。
搬送中でも装着したデバイスを通じて妊婦と胎児の状態を計測し、搬送後に適切な対処ができる可能性が上がります。
――東京でのトライアルは全く違った状況・メリットがあるということですか
はい、東京の場合は「高齢出産」を想定しています。
高齢出産自体、統計的にも色々なリスクが高い状態にあります。
医療施設自体は多いですが、小さな診療施設の場合いざという時に連携している病院へ迅速に妊婦さんを搬送できるかが大事になります。
妊婦さん自身も、自分が高齢出産であることを理解しているのでとても不安だと思います。
測定をこまめにできて、データを医療機関に診てもらう事で安心して周産期を過ごせます。
都会の場合、医療機関が混んでいるので、待合室にいる間にMelody iで先に計測だけ済ませれば、待っている時間を有効活用して、診察時間も短縮できますし、その点も都会ならではのメリットだと思います。
■■高齢出産、切迫早産、海外の出産リスク。
――高齢出産におけるリスクをどう減らすか?は重要なテーマですよね。
はい、わたしたちは高齢出産リスク軽減のために「とにかくこまめな計測が大事」と考えます。
メロディ社の顧問には、かつて40年ほど前に胎児の状態を計測する分娩監視装置の原理を発明された原先生・竹内先生が参画しているのですが、お2方とも「胎児モニタリングの頻度・回数を増やすことでリスクを下げられる」と考えています。
日本国内では「妊婦健診は平均14回」という状況で、これは海外に比べると高水準です。
しかし、妊婦さん毎に見た場合、それぞれの状態に合わせて、より柔軟な健診回数が求められます。
――計測周期が一律である必要はないと
本来であれば、高齢出産や切迫早産の方はこまめに計測すべきです。
もし自宅でMelody iを使用できれば、病院に行く回数はそのままに、こまめな計測ができると思います。
なにより、妊婦さん自身が不安です。「ちょっといつもと違う気がする、体調がすぐれない。」
そういう時に計測して「母体も胎児も問題無いですよ」と言われたらどれだけ安心できるか。
Melody iは問題を検知する装置ではなく、「何も問題ありませんよ」ということを妊婦さんにお伝えする装置でありたいなと考えています。
――現在、タイや南アフリカなど海外展開もされていますが、海外でのニーズはまた違いますか
正直日本の周産期医療はとても恵まれています。
母親と赤ちゃんの死亡率は世界で一番低く、世界トップレベルの水準です。
例えば東南アジアですと医師の数自体は徐々に増えているのですが、実際には妊婦や赤ちゃんの死亡率が日本と比べ物にならないくらい高いのが実情です。
先ほど日本の妊婦健診が平均14回といいましたが、東南アジアは平均4~5回です。
病院側の設備が整っていないことも多く、医師も不足し必要な計測設備は足りていない。
そこでMelody iを使い、医師のいない診療所などで計測したデータを産婦人科医が見て把握する仕組みづくりを東南アジアで展開しています。JICAさんの支援を頂き、現地では大学病院や省庁と提携しています。
――あと、貧富の差による「受けられる医療」の差が大きいイメージがあるのですが
それもたしかにあります。
私立病院なら世界的な医療機関が進出しているのですが、無料・安価な医療を受けられる公立病院との医療格差は大きいと思います。
日本国内だと、病院によりますが産婦人科医はひとりで年間約300人の出産を担当します。
海外の公立病院の場合、産婦人科医1人当たり年間約6,000人担当している地域もあります。20倍です。しかも設備も整わないため妊婦の死亡率は日本の数百倍以上の地域も多くあります。
■遠隔医療と病診連携ネットワークの先進地、香川県
――メロディ社の拠点は香川県にありますが、このビジネスを展開する上での利点はありますか?
実は、香川県は遠隔医療におけるかなり先進的な地域です。
海外から保健・医療関係者が来日して遠隔医療を視察する場合は、必ず香川県が視察ルートになっています。
わたしたちも香川大学と共同研究を進めていますし、地域としても周産期に限らず病院間を結ぶ病診連携ネットワークが実稼働している、日本で数少ない地域です。
恐らく、面積が小さいけど離島や山間部もあって医療面では課題が多いという香川県の特性もあり、連携する際の合意形成がしやすかったのかなと思います。
――実稼働していて、遠隔医療に理解ある場所でできるのはいいですね。
本当に、「遠隔医療に本気で取り組みたい」って人がいたら香川県をお勧めしますね。
産官学連携もしっかりしていて、もはや遠隔医療自体が香川県の地域資源だと考えられていると思います。他の地域から来るとしても大歓迎されると思いますよ。
ロケーションもいいですよ、瀬戸内海は穏やかで美しいので、仕事で少し煮詰まっても海を見ていたら心が洗われて悩みも消えますし(笑)
先ほどタイや南アフリカの話題が出ましたけど、近年のLCCブームで香川から海外へのアクセスも良くなりました。上海、香港、台北など、海外への直行便も豊富で、東京に行くより気軽にいける場所も多い。先日も南アフリカへの視察に香港経由で行ってきたところです。
――遠隔医療が進んでいる香川で研究を進めて、日本国内だけでなく海外の妊婦さん・産婦人科にもサービスを広める
はい、私たちのサービスは医療機関に提供するものですから研究は欠かせません。
ただ、実現したいのは妊婦さんが「病院が遠く離れていて不安」という状況の解消です。
Melody iがあれば妊婦さんは遠く離れた病院や医師を近くに感じることが出来ますし、それによって産婦人科医の方々にもメリットが大きくなる。
今はとにかくその実現を一日も早くしたいですね。
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