Column

(後編)映画『トゥモローランド』が描き出す未来予想図

text by : 川口伸明
photo   : (C) 2015 Disney Enterprise,inc. All Rights Reserved.

ウォルト・ディズニーが遺した「最大の謎にして最高のプロジェクト」を題材とした映画『トゥモローランド』。未来都市の実現可能性を検証した 前編 に引き続き、astavision「成長市場」コンテンツを監修するアスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長の川口伸明(薬学博士)が「最大の謎」とは何だったのかを読み解く。

 

(注)作品の結末について言及した部分があります。

 


 

4.本当の謎(映画本編の若干のネタばれと筆者の飛躍的解釈)

そもそも最大の謎、最高のプロジェクトとは何だったのか?

実は映画の中でもはっきり語られることは無い。しいて言えば、夢を諦めずに挑戦する意志を持ち続ける人が集まって明るい未来を創る、本当の未来を創るのは夢を追う人々で、ディズニーはそれをインスパイアする装置だった…ということになるのだろうが、それは本質ではない気がしてならない。また、あまりにも肩透かしな気がする。

ケイシーがフランク・ウォーカー(ジョージ・クルーニー)を訪ねたとき、世界各地の天変地異の映像を背景に、人類があと58日で滅亡するという衝撃的な暗い未来を聞かされる。なぜ58日なのか?

環境異変や核戦争、パンデミックの場合、じわじわと滅んでいくラグタイムがあるので、58日とピンポイントで限定することは難しい。ある瞬間、全てが終わるとすると、思い浮かぶ可能性は二つ。『アルマゲドン』に描かれた小惑星衝突か、『ノウイング』で明かされた太陽スーパーフレアかだ。いずれも現実的な脅威である。だからこそ、異次元に科学技術の粋を極めた理想郷を建造し、人類を保存する必要があったのではないか。つまり、ノアの方舟プロジェクト。これは『インターステラー』にも通じる。ぶれない意志を持ち続けるというテーゼも共通する。

 ディズニーは米国ロードショー後に“The Origins of Plus Ultra”というショートアニメを公開。原始時代から原子力時代までの人類の歴史を辿った上で、新しい世界を創るプロジェクトが始まったことを示している。さらに、ニコラ・テスラのテスラ・コイルと世界システムの設計図らしきものも秘密暗号を入れると見られるサイトも。あまりにも壮大すぎるテーマだけに、本作だけでは完結しきれず、まだ秘密の開示は始まったばかりという感を禁じ得ない。

 

 

2015年5月、京都大学はすばる望遠鏡を用いた分光分析で、巨大黒点を生じた太陽型恒星ではスーパーフレアが起こりうることを明らかにした。人類滅亡には至らなくとも、大災害に見舞われる可能性は大きい。(参考:人類はスーパーフレアを生き延びられるのか )

近年の太陽活動の異常やそれに呼応するかのごとく急激に進む気候変動、相次ぐ巨大地震に火山活動などに鑑み、逃れることのできない自然の異変に備える必然性が高まっている。それを暗い未来として諦めるのでなく、むしろ夢の実現と捉え、様々なナレッジを持つ意志ある人々が結集することで、解決の道を拓いていける時代に入ったことは疑いない。そして、ディズニーはそこに何らかのコミットをする、そういうメッセージではないだろうか。

 ディズニーはエンターテインメントにとどまらず、3Dや仮想現実・拡張現実、ロボティクスをはじめとする様々な先進技術の開発者であり、毎年、それらの分野で多くの国際特許を出願している。

さらに、優秀なスタートアップベンチャーを募っての支援プログラム“Disney Accelerator”において、ディズニーの知財やコンテンツ、最高のメンターネットワークを提供し、それぞれの成長を加速しつつ、新たな発想や才能を発掘する事業を進めている。

こうした中から、テーマパークのアトラクションの中だけでなく、リアルワールドの中で明るい未来を創るための未踏領域への研究開発や事業創出、人材育成などの実事業が結実していけば、第一級の伝説的ストーリーが生まれるだろう。

それこそがまさに、ディズニーの目論んでいたトゥモローランドではないだろうか。

ハリウッドの伝説的なデザイナー、シド・ミードによるコンセプトアート

 

映画『トゥモローランド』(ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン配給)は6月6日(土)全国公開。
(C) 2015 Disney Enterprise,inc. All Rights Reserved.

  • 映画『トゥモローランド』公式サイト
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