Column

(前編)映画『トゥモローランド』が描き出す未来予想図

text by : 川口伸明
photo   : (C) 2015 Disney Enterprise,inc. All Rights Reserved.

Disney's TOMORROWLAND

Frank (George Clooney)

Ph: Film Frame

©Disney 2015

ウォルト・ディズニーが遺した「最大の謎にして最高のプロジェクト」を題材とした映画『トゥモローランド』。天才たちが進歩的なテクノロジーを使って構築した未来都市の実現可能性を、astavision「成長市場」コンテンツを監修するアスタミューゼ株式会社 テクノロジーインテリジェンス部長の川口伸明(薬学博士)が検証・解説する。

 


 

明るい未来と暗い未来があるとしたら、通常想い描くのは明るい未来だ。しかし、暗い未来が目前に迫っていることを知ってしまったとき、運命と諦めてしまう人は多い。もし、諦めずに未来を変えようとする人がいなければ、暗い未来が現実化してしまう。

 

1.魔法のピンバッジ(トレーラー等から推測可能な程度のネタバレあり)

主人公ケイシー・ニュートン(ブリット・ロバートソン)は、自分の荷物に紛れ込んだ小さなピンバッジを発見。手に取ると突然、周囲の景色が広大な麦畑のような世界に変わり、一人その中に立ち尽くす自分に驚愕し、叫び声をあげる。すると元の世界に。その後、父が同じバッジを手に取っても何も起こらなかった。でももう一度、走る車の中で自分で触ると、車に座った姿勢のまま、麦畑の上を猛スピードで滑っていく。

 

この魔法のバッジのメカニズムはどうなっているのだろうか?

 

主人公ケイシーがピンバッジを手に取ると突然、周囲の景色が麦畑に…

主人公ケイシーがピンバッジを手に取ると突然、周囲の景色が麦畑に…

 

父親には作用しなかったことから、タッチしたときに生体認証を行って、ケイシーだけに選択的に幻影を見せたと考えられる。景色は一変するが、身体は明らかに元の場所にいるわけだから、ワープしたわけではない。おそらく、脳の視覚領域に信号を送り、仮想世界の映像を見せたのだろう。現状、体外から電気信号を脳に送り、視覚制御する方法は知られていないが、米国の医療機器会社Second Sight社の人工眼“Argus II”という、小型カメラがとらえた映像情報を眼球の奥に埋め込んだ電極(インプラント型人工網膜)に無線送信し、失われた視力の一部を回復するデバイスはすでに存在する。。米国食品医薬品局(FDA)は2013年2月に“Argus II”を医療機器として承認している。将来的には、インプラントでなく、ウェアラブル型の脳制御デバイスも登場する可能性があり、ケイシーの見た世界を我々も体験できる日が来るかも知れない。

 

Second Sight社の人工眼"Argus II" ©2014 SECOND SIGHT. ALL RIGHTS RESERVED

Second Sight社の人工眼”Argus II” ©2014 SECOND SIGHT. ALL RIGHTS RESERVED

 

2.知能機械(映画本編の若干のネタばれと筆者の飛躍的解釈)

ケイシーの荷物にバッジを紛れ込ませた愛らしい少女アテナ(ラフィー・キャシディ)は、高い戦闘能力を持った”AA:Audio-Animatronics ”(音と動きを同調させる電子的制御システム)だった。現実のディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」や「カリブの海賊」などで見られる様々なロボットもAAだが、アテナには高度な判断能力があり、情緒もある。映画の終盤、アテナの極めて人間的な側面が明らかになるが、このことは、人工知能の進化の過程で、心を持った人工物が出現することの暗示ともとれる。実際、理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士や、米国テスラモーターズ社を率いるイーロン・マスク氏らは、人工知能の開発に深刻な懸念があることを表明している。ホーキング博士に至っては「人類の終焉をもたらす可能性がある」とまで述べている。ロボットや人工知能の機構に様々な制約を設ける動きはあるものの、生物学的進化から逸脱した飛躍的進化の可能性についても考察の余地はありそうだ。高度なセンシングシステムや全てのモノを繋ぐIoE によって、その進化は加速されるかもしれない。生命倫理と同様、技術や文明の進化を制御する規範を定めるべき時代といえるだろう。

 

少女アテナの正体はAA(Audio-Animatronics)だった。

少女アテナの正体はAA(Audio-Animatronics)だった。

 

3.異次元世界(映画本編の若干のネタばれと筆者の飛躍的解釈)

昨年話題となった映画『インターステラー』では、地球に替わる人類の棲み家となる星を探すため、ワームホールを通って遠い宇宙に旅立つ人類の挑戦が描かれ、ワームホールの中の宇宙の映像が科学的に非常にリアルと高い評価を得ている。『トゥモローランド』ではなぜか、エッフェル塔からロケットで宇宙に出て、そこから地球に向かってスティープダイブ(急降下)を行い、異次元に突入する。目的地は遠い宇宙ではなく、地球とほぼ同じ世界線上にあるパラレルワールド。現状、ハーバード大学のリサ・ランドール教授による膜宇宙論に基づく余剰次元の存在は、ジュネーブの地下に埋設された一周27キロの世界最大の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)でも証明されていない。ランドール教授の予言するマイクロブラックホールの生成に必要なエネルギーを得るに十分な加速ができていないため未確認だが、重力の生成に必須のヒッグス粒子(Higgs boson )は同施設で発見され、2013年のノーベル物理学賞に輝いた。地球へのダイブで得られるほどの粒子衝突エネルギーが得られれば、異次元への扉が開くのかも知れない。

 

本コラム後編では、映画の中だけでは完結しない、隠されたメッセージを読み解いていく。

 

 

映画『トゥモローランド』(ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン配給)は6月6日(土)全国公開。
(C) 2015 Disney Enterprise,inc. All Rights Reserved.

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